イノシシ被害を徹底防止!効果的な防護柵と最新技術を紹介
イノシシによる農作物被害が深刻化する中、効果的な対策が求められています。本記事では、イノシシの生態や被害予防の基本的なポイントから、電気柵や捕獲わなといった伝統的な対策、さらにドローンやICTを活用した最新の捕獲方法まで、幅広く解説しています。
- 公開日:
記事をお気に入り登録する
イノシシの被害は、鳥獣被害の中でも大きな割合を占め、日本の農業に深刻な損失を与えています。大事な作物を守るには、イノシシを寄せ付けない環境づくりが必要です。イノシシの生態や習性を理解し、効果的な予防と防除策を実践しましょう。
イノシシ対策の重要性
ろくえもん / PIXTA(ピクスタ)
イノシシの被害には、作物を食べる食害、農地の踏み荒らしや掘り返しなどがあります。そのほかにも、イノシシが農地に侵入することで作物へ獣臭さが移り、出荷できなくなるケースも発生しています。
こうしたイノシシ被害は、農家へ大きな損失をもたらします。農林水産省によると、全国のイノシシによる農作物被害金額(2019年)は、約46億円にも上りました。獣類全体で最も被害額が大きいのはシカで、イノシシはそれに次ぐ2位となります。
出典:農林水産省「全国の野生鳥獣による農作物被害状況(令和元年度)」よりminorasu編集部作成
全国の被害額は減少傾向にありますが、県別で見ると被害が深刻化している地域もあります。中でも新潟県のイノシシの被害額は、平成27年度(2015年年度)は1,142万円でしたが、令和元年度(2019年度)は5,137万円になり、4年間で約5倍に膨らみました。
これまでイノシシが見られなかった地域でも、イノシシ被害は確認されるようになっています。イノシシの生息地は西日本が中心でしたが、近年は東北地方まで北上しています。イノシシ被害の対策は、全国の広い地域で急務となっているといえるでしょう。
出典:
農林水産省ホームページ「鳥獣被害対策コーナー」所収「鳥獣被害の現状と対策(令和3年6月)」
「鳥獣被害対策コーナー > 農作物被害状況」所収「全国の野生鳥獣による農作物被害状況(令和元年度)」
農林水産省北陸農政局ホームぺージ「野生鳥獣による農作物被害状況」所収
「北陸地域の年度別鳥獣種別被害数値一覧表(令和元年度)」
「北陸地域の年度別鳥獣種別被害数値一覧表(平成27年度)」
イノシシの生態・習性と寄せ付けない予防策
イノシシはなぜ農地を荒らしてしまうのでしょうか。
イノシシの生活圏と生態・習性
saltsalmon/ PIXTA(ピクスタ)
イノシシは、人里離れた山間部ではなく、平野部で活動する動物で、イノシシと人間の生活圏はもともと重なっています。
イノシシは雑食性で、ドングリや昆虫、カエルなどをエサにします。中でも大好物は水稲やいも類などの作物だといわれています。
作物を好む一因は、イノシシの消化器官に関係しています。シカなどの複数の胃を持つ反芻動物に対し、イノシシは人間と同じ単胃動物です。
反芻動物は、繰り返し咀嚼し4つの胃袋を使うことで、消化しにくい繊維質の食べ物も栄養源にすることができます。一方、単胃動物のイノシシにその力はないため、消化しやすく食べやすい作物を好んで狙うと考えられています。
また、エサを探し求めるイノシシは、優れたハンターでもあります。嗅覚が鋭く、地中にある食べ物のニオイも嗅ぎ付け、掘り返して獲得します。記憶力や学習能力にも長け、一度覚えたエサ場は忘れません。
イノシシのエサ場を作らないことが大切
写遊 / PIXTA(ピクスタ)
イノシシは、農家の身近に潜み、作物を狙っています。被害を防ぐには、イノシシを常に農地から遠ざけておくことが肝要です。
イノシシを寄せ付けないために大切なのは、イノシシのエサとなるようなものを放置しないことです。余った作物や草刈り後の残さは、必ず処理をしておきましょう。
特に、水稲の刈り取り後は直ちに耕します。刈跡をそのまま放置しておくと、遅れ穂が登熟し、冬場のイノシシの食料になってしまいます。
スイカやメロンなど地這い栽培が一般的なうり類では、立体栽培にすることでイノシシに目をつけられにくくなります。
農地が藪や雑草地に囲まれている場合は、できるだけ手入れをして見通しをよくしておき、イノシシが身をひそめやすい環境を作らないようにしましょう。
イノシシが徘徊している形跡がないか、足跡や不自然な掘り返しなどがないか、定期的にパトロールすることも重要です。
イノシシ被害の対応策は?
イノシシに農地へ侵入され、作物が被害に遭ってしまったら、どんな対応策をとるべきなのでしょうか。
イノシシを追い払う特効薬となる食べ物や忌避剤はなかなかありません。効果的な防護柵や捕獲の準備を整え、被害の拡大を防ぎましょう。
イノシシ被害対策|防護柵の種類と設置のポイント
イノシシの農地への侵入を防ぐには、防護柵の設置が不可欠です。ここでは、効果的な防護柵を作るために押さえておきたいポイントを紹介します。
yoshimi / PIXTA(ピクスタ)
防護柵設置のポイント
防護柵作りに大切なのは、隙間を作らないことです。イノシシは、狭い場所でも容易にくぐり抜ける特技を持っています。柵と地面の間などには、20㎝以上のスペースは作らないよう注意しましょう。
設置場所は、斜面のそばを避けるようにします。イノシシが駆け下りて柵を飛び越える可能性があります。場所を変えられないときは、柵を立てる地面をかさ上げしたりして、柵の高さを確保し、飛び越しを防止しましょう。
設置後は、こまめな点検を行ってください。防護柵は時間の経過とともに劣化し、定期的な補修が必要になる場合もあります。迅速なメンテナンスのために、防護柵をいつでも見回りができるよう、柵内に人が通れる通路を確保しておきましょう。
防護柵の種類
防護柵には、トタン板やワイヤーメッシュの柵、電気柵などがあります。以下の解説を参考にしながら、それぞれの特性を理解し、設置しやすいものや、管理しやすいものを選びましょう。
トタン板やワイヤーメッシュで効果が得られなかった場合は、電気柵を組み合わせてみましょう。それぞれの弱点を補い、さらに防除力がアップします。
個人の農家単位で設置するだけでなく、隣接する農家同士や集落単位で協力して設置するのもいいでしょう。個人で設置するよりも、防除できる範囲が広がり、イノシシの行動も掴みやすくなります。
各地域の自治体では、防護柵設置費用を補助する制度を設けている場合があります。補助の金額は地域によって異なりますので、利用の際は自治体に確認してください。
また、降雪の多い地域では、積雪に対する強度の確認を必ず行ってください。
1)トタン板の柵
Aladdin / PIXTA(ピクスタ)
トタン板の柵は、イノシシから作物を目隠しする効果があります。地面に鉄筋や竹などの支柱を立て、針金などで隙間なく固定して設置しましょう。
トタン板は1枚の大きさが60㎝~80㎝なので高さを確保できず、イノシシに飛び越えられてしまう場合もあります。後述するワイヤーメッシュ製の柵と併用するとよいでしょう。
2)ワイヤーメッシュの柵
tamu1500 / PIXTA(ピクスタ)
ワイヤーメッシュの柵は、トタン板よりも強度と大きさを確保しやすく、イノシシの侵入を物理的に遮断することができます。
目合いは10㎝以下、鉄棒が5mm以上のワイヤーメッシュを用意し、鉄パイプなどの支柱に固定してください。
ワイヤーメッシュの長さは1~2mのものを選び、上部30㎝をほ場の外側に向けて30度ほど折り曲げておきます。これにより、イノシシに威圧感を与えることができます。
作物を目隠しすることはできないため、イノシシは繰り返し侵入をはかろうとします。イノシシに鼻先などで柵を持ち上げられないよう、しっかり強度を確保して設置しましょう。
3)電気柵
yoshimi / PIXTA(ピクスタ)
電気柵は、イノシシに電気ショックを与えて農地が危険な場所だと覚えさせ、侵入を防止する方法です。
電流は電牧器を使って流します。金属製ワイヤーなどを農地の周囲に張り、常時6,000V~8,000Vの電圧が流れるようにします。電気は必ず24時間絶えず流し、イノシシに油断を与えないようにしましょう。
電線は、イノシシの鼻に触れる高さに設置します。鼻先は、イノシシが唯一感電する場所です。地面から20㎝刻みに2段張りにしましょう。
電気柵は、電気を通しにくいアスファルトなどの舗装路からは遠ざけて設置するようにします。イノシシが舗装路に足をついた状態で柵にふれても、十分な感電効果は得られません。舗装路から距離を取れない場合は、通電性のあるトタンなどを地面に敷いておくといいでしょう。
設置後は、漏電防止のため電気柵の周囲の草刈りを定期的に行いましょう。効率的な除草には、農薬が便利です。
電気柵を扱う企業の中には、メンテナンスサービスとして農薬を販売している場合もあります。
株式会社DMM Agri Innovation(DMMアグリイノベーション)は、総合化学会社のBASFと協業し、除草剤であるバスタ液剤の販売を始めています。
バスタ液剤を使用することで、電気柵の寿命延伸が期待できるそうです。農薬の活用は、電気柵の効率的な管理方法として有効と言えるでしょう。
参考:
合同会社DMM.com ニュースリリース 2021年1月19日「【DMM Agri Innovation】総合化学メーカー「BASF」とより効果的な鳥獣被害対策の実現に向け、販売協力を開始」
BASFジャパン株式会社「『電柵まわり』の除草作業の労力軽減に」
イノシシ被害対策|捕獲して頭数を増やさない
狩猟者の高齢化や減少を背景に、農家自身が狩猟免許を取得し、捕獲に乗り出す動きもあります。捕獲による対策は、イノシシの頭数を抑制し、将来的な被害拡大を防止する効果があります。そこで、本章では捕獲に取り組む際に必要な条件や、イノシシの具体的な捕獲方法について解説します。
ysnature / PIXTA(ピクスタ)
捕獲には、狩猟免許の取得や市町村への捕獲許可申請などが必要です。免許の種類は、使用する猟具や捕獲方法によって異なります。以下の捕獲方法の解説を見ながら、必要な免許を確認しましょう。
個人での捕獲が難しいときは、専門家に依頼する方法もあります。自治体によっては、猟友会等に委託する制度を設けている場合もあるので、問い合わせてみましょう。
参考:環境省「捕獲許可制度の概要」
1)銃による捕獲
銃による捕獲には、第一種銃猟免許または第二種銃猟免許が必要です。第一種は、空気銃・装薬銃を使用する場合、第二種は空気銃のみを使用する場合に有効です。
銃を用いた捕獲には、複数人で行う巻き狩猟や、単独で実行する忍び猟などがあります。実践には、一定の経験値や訓練が必要になり、初心者には難易度が高いかもしれません。
2)わなによる捕獲
わなによる捕獲には、わな猟免許が必要です。わなの種類には、箱わな、囲いわな、くくりわななどがあります。効果的な場所にわなを設置できれば、狩猟経験が浅い人でも比較的簡単に捕獲できる方法です。
箱わな
alps / PIXTA(ピクスタ)
箱わなは、箱状のわなにエサを仕掛けて捕獲する方法です。持ち運びできる小型のものを使うのが一般的で、一度に捕まえられる頭数は1~2匹程度です。移動が簡単なので、わなの場所を柔軟に変更することができます。
囲いわな
出典:株式会社PR TIMES(株式会社フォレストシー ニュースリリース 2018年3月23日)
囲いわなは、天井がなく、フェンスや柵で囲われた敷地にエサを仕掛け、イノシシを追い込んで捕まえる方法です。箱わなに比べ構造が広く、一度に複数のイノシシを捕まえることができます。一方で、一度設置すると移動は困難なため、設置場所はよく吟味して選ぶ必要があります。
わなの使用には、原則狩猟免許が必要ですが、囲いわなは一定の条件を満たせば免許がなくても使用できます。農林事業者が事業への被害を防止する目的で、事業地内に囲いわなを設置する場合には、免許はいりません。
くくりわな
maricat / PIXTA(ピクスタ)
くくりわなは、イノシシの足首を挟み込むなどして捕獲する小型のわなです。イノシシの通り道を狙って設置するため、おびき寄せるためのエサは必要ありません。わな1つにつき捕まえられるのは1匹だけですが、小型のため一度に複数の場所に設置することができます。
イノシシに遭遇した時の注意点
イノシシの侵入現場に居合わせてしまったときは、攻撃や威嚇は禁物です。むやみに近づいて刺激を与えると、思わぬ事故につながります。
イノシシはもともと臆病な性格なので、逃げ道があればすぐにその場を立ち去ります。イノシシと至近距離にいる場合は、走らず、背中を見せずにゆっくりとその場を離れましょう。
最新技術を活用したイノシシ被害対策
スマート農業の進展とともに、ドローンやICTを活用した新たなイノシシ対策法が注目を集めています。
最新技術を導入することにより、イノシシの居場所や行動を正確に把握し、効率的な防除や捕獲につなげることができます。イノシシ対策の強化をお考えの方は、以下に挙げる事例をぜひ参考にしてみてください。
ドローンによる追跡調査・追い払い
広島県での実証実験
広島県で行われた実証実験では、ドローンによるイノシシの追跡撮影が実施されました。
実証実験は、2021年2月からイノシシ被害が発生している運動公園で行われています。鳥獣被害対策を手掛ける、株式会社DMM Agri Innovationと株式会社アポロ販売が企画しました。
追跡撮影は、イノシシの行動を予測したマップを元に、赤外線カメラを搭載したドローンを飛ばしてイノシシを追う試みです。実験の結果、2日にわたりイノシシの姿をとらえることに成功したといいます。
この技術を活用すれば、勘だけを頼りにすることなく、より合理的にイノシシの行動を予測することができます。実効的な防除計画も立てやすくなるでしょう。
広島県でのドローンによるイノシシ追跡撮影
出典:株式会社PR TIMES(合同会社DMM.com ニュースリリース 2021年2月5日)
福島県での実証実験
福島県では、ドローンによるイノシシの追い払い実験が成果を上げています。実験は、2018年に東京電力が同県浪江町で実施しました。
実験では、超音波を発出するドローンを、イノシシに接近させた結果、すぐに逃げ出す姿が確認できたといいます。実用化されれば、遠隔で安全にイノシシを追い払える技術として活用できるでしょう。
参考:東京電力ホールディングス株式会社「超音波発信機を搭載したドローンによる新たなイノシシ対策実証試験」
ICTを活用した捕獲作戦
熊本県では、ICTを活用したイノシシの捕獲作戦が注目されています。県内の若手農家が中心となって結成した「くまもと☆農家ハンター」が実践している取り組みで、ICTの活用により年間900頭を駆除することに成功しています。
成功の秘密は、捕獲場所の監視体制にあります。捕獲用の箱わなには、イノシシを自動判別するセンサーカメラが搭載されています。カメラがイノシシを確認すると、直ちにスマホに通知され、迅速に捕獲できる体制を作り上げました。
活動にかかる資金の集め方にも特徴があります。設備費用はクラウドファンディングで賄い、捕獲したイノシシはジビエ肉として加工・販売することで、継続的な運営資金も確保しています。農家の経営手法としても参考にしたい事例です。
「くまもと☆農家ハンター」が導入した「オリワナシステム」
出典:株式会社PR TIMES(株式会社フォレストシー ニュースリリース 2018年6月29日)
イノシシ被害は、農家に大きな損失をもたらすリスクです。イノシシが出現している地域や、自治体から注意の広報が出されている地域では、近隣の農家とも協力して早めの対策を検討しましょう。
イノシシ被害が深刻な場合は、防除方法の見直しや、ドローンなどの最新技術の導入も視野に入れてみてはいかがでしょうか。
※鳥獣害対策についてはこちらの記事もご覧ください。
戦う前に敵を知る。鳥獣害の現状と防除対策のポイント
記事をお気に入り登録する
minorasuをご覧いただきありがとうございます。
簡単なアンケートにご協力ください。(全1問)
あなたの農業に対しての関わり方を教えてください。
ご回答ありがとうございました。
お客様のご回答をminorasuのサービス向上のためにご利用させていただきます。
西岡日花李
大学在学中より東京・多摩地域の特産・伝統文化などを取材し、街のローカルな魅力を発信するテレビ番組制作・記事を執筆。卒業後は大学院でジャーナリズムを学び、神奈川県のミニコミ紙記者として勤務。マスメディアでは取り上げない地域の課題を幅広く取り上げ、経験を積む。現在はフリーライターとして主に農業をテーマにした記事を執筆。農業の様々な話題を通して、地方都市の抱える問題や活性化への手立てを日々考察している。