CSA(地域支援型農業)とは? 日本での成功事例と導入のポイント
近年「CSA(地域支援型農業)」というキーワードをニュースなどで耳にすることがあるのではないでしょうか。地域住民と支えあいながら安定的な経営をめざせる新手法として注目を浴びています。新たな販路開拓や持続可能な農業経営を考えている方のために、CSAの基礎知識と実践のポイントを紹介します。
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CSAはなぜ今注目されるようになったのでしょうか。背景には農業が抱える課題を克服するCSAならではのメリットがあります。日本国内の事例を見ながらそのメリットを探っていきましょう。
CSA(地域支援型農業)とは?
鎌倉型CSA(地域支援型農業)「ニュー農マルサポーターズクラブ」
出典:株式会社PR TIMES(合同会社LIFE DESIGN VILLAGE ニュースリリース 2021年8月31日)
注目されるCSA
CSA(地域支援型農業)とは、「Community Supported Agriculture」の略称で、農家が消費者である地域住民と支え合いながら営農する新しい農業経営の手法で、近年注目されるようになりました。
消費者は、農家と契約を結び代金前払いで農産物を定期購入します。ポイントは、農家が抱える経営上のリスクを消費者が共有するという点です。
消費者は、天候や病害虫の多発などによる不作によって届く農産物の量が減ることもあることを理解した上で、購入契約するのです。また、消費者が農作業ボランティアなどにも参加する機会を設け、積極的に経営を支援する場合もあります。
CSAは、1980年代後半ごろにアメリカ北東部の農場で始まったのが起源と言われています。その後、グローバル化の進行により小規模農家の経営が困難になり始めたことを背景に欧米中心に定着し、世界的にも注目を集めるようになりました。
アメリカのCSAのFarmers box
Cavan - stock.adobe.com
CSAのメリット
農家にとっては、収量減や卸売価格の変動によって、収入が不安定になるリスクを減らせることがCSAの最大のメリットです。不作などのリスクを織り込んだ前払いのしくみによって、農家は定収を確保できます。
また、あらかじめ契約してもらえるので計画生産がしやすくなることも大きなメリットでしょう。種苗や肥料、そのほかの農業資材を計画的に購入でき、より品質の高い作物の生産をめざせます。
消費者にとっては、地域の「顔の見える農家」から新鮮で安心感のある食材を手に入れられるメリットがあります。
また、農作業体験などを通じて生産者である農家と消費者の交流が促され、地域コミュニティーの活性化や子どもの食育などにつながることも期待できます。
CSAの運営形態
CSAは、農家が単独で立ち上げるだけでなく、様々な形態で運営されています。
後述する「鳴子の米プロジェクト」では、農家だけではなく地元の企業関係者などが参画する地域ぐるみの運営団体を設立しています。
神奈川県大和市の「なないろ畑」では、地域住民の農作業支援がCSAの契機となりました。食の安全への意識が高い地域住民が自主的に地域の農家の収穫作業を手伝い、野菜を持ち帰るようになったことから、自然発生的にCSAのしくみが生まれたのです。
地域のネットワークを活用することでより地域とのつながりが生まれやすく農家単独では難しいCSAの立ち上げをスムーズにするといえるでしょう。
V-MAX / PIXTA(ピクスタ)
なぜ日本ではCSAが定着しないのか
日本国内でCSAを実践している農家は、まだ多くはありません。
その理由としては、農家の前払い制度に対する心理的なハードルと、集客方法への不安が挙げられます。
農研機構 農村工学研究部(旧・農研機構 農村工学研究所)が開催した過去のCSA勉強会では、参加した農家から「不作になるからといって、同じお金を先に頂くことには違和感がある」との声が聞かれました。
また、「消費者とのつながりを作る伝手がない」「消費者グループとのつながりがなければ農家がCSAを立ち上げるのは難しい」などの声も聞かれ、集客方法への不安も農家がCSAに踏み出せない一因となっています。
出典:農研機構 農村工学研究部(旧・農研機構 農村工学研究所)「CSA(地域支援型農業)導入の手引き(平成28年3月)」
日本でCSAを定着させるために必要なこと
アメリカのファーマーズマーケット
wavebreakmedia / PIXTA(ピクスタ)
ヨーロッパやアメリカでCSAが普及している理由の一つに、CSAに関する支援組織の存在が挙げられます。
代表的な団体としては、アメリカ・ニューヨーク市の「Just Food」があります。CSAを導入した農家に対し技術支援や情報提供などを行う団体で、消費者向けにCSA農家や分配所を検索できるプラットフォームを提供し、農家と消費者の橋渡し役も担っています。
「Just Food」のホームページ
国内では、研究者とCSAを導入している農家が発起人となった「CSA研究会」が、CSAの普及を推進しています。
CSA研究の第一人者である三重大学名誉教授 波夛野豪さんを始めとした研究者グループと、CSAを導入している「なないろ畑農場」の代表代表 片柳義春さんが中心になり2014年に「CSA研究会」を立ち上げました。
報告会や勉強会で、実際にCSAを導入している農家による発表などを行い、ノウハウの共有やCSA導入の心理的ハードルを下げることなどに努めています。
こうしたCSA導入のメリットや実践例を伝える普及活動を通じて、各地域に支援組織が生まれていくことが期待されます。
日本国内でのCSA事例
日本国内でのCSAの定着はまだ道半ばと言えますが、実践事例は少しずつ増えています。この章では、規模や運営手法の異なる宮城・茨城・北海道の取り組みを紹介します。
宮城県大崎市「鳴子の米プロジェクト」
masy / PIXTA(ピクスタ)
「鳴子の米プロジェクト」は、鳴子温泉の中山間地域の農業経営が困難になる中、離農者が増え、それが鳴子温泉の景観もおびやかすことに危機感を抱いた有志が集まり2006年に始まりました。
農家だけでなく、観光関係者、食品加工業などの企業、直売所などの関係者などが参加し、2008年には特定非営利活動法人(NPO法人)となって活動しています。
スタート当初は「作り手」である農家が安定した収入を得て農業を持続できるように、「支え手」となる消費者が米一俵を24,000円で団体から購入するしくみを作りました。うち18,000円を農家に分配し、残り6,000円を事務局経費と農業の担い手づくりなど地域農業の発展に資することに使うことにしたのです。
※現在の販売単位・価格はホームページをご確認ください
鳴子の米プロジェクト お米の販売のページ
価格は、一般的な商品より高めですが、情報媒体の発行や交流会開催などを通じ、「作り手」と「支え手」の信頼関係を深め、地域全体の活性化にも貢献しています。
「鳴子の米プロジェクト」の活動詳細はホームページをご覧ください。
「鳴子の米プロジェクト」ホームページ
茨城県つくば市「つくば飯野農園
茨城県つくば市では、夫婦たった2人でCSA農業を始めた事例があります。
つくば飯野農園は、異業種から新規就農した飯野信行さん、恵理さんによる農園です。約60haの農場で年間約100種類の農薬や化学肥料を用いない野菜を露地栽培で生産しています。個人宅配からスタートし、2015年にCSAを導入しました。
販売しているのは、多品目栽培を活かしたバラエティに富んだ野菜セットです。1セット1,333円の価格設定で、毎週コース(半年全15回)、隔週コース(半年全9回)があります。
会員はコース分の費用を前払いし、決まった曜日に農園または分配所へ直接行って好みの野菜を選んで持ち帰ります。
個人宅配時代からの顧客や飯野さん夫婦の人脈も生かし、着実に会員を獲得してきました。
随時会員から農業ボランティアを募り、定期的な情報発信、意見交換会を開催し、会員との信頼関係を深めるとともに、販売方法の改善などにつなげています。
今後は都市型の販売拠点を東京・青山に設ける計画もあり、CSA農業の可能性をさらに広げようとしています。
北海道夕張郡「メノビレッジ長沼」
北海道夕張郡のメノビレッジ長沼は、国内でいち早くCSAに取り組んできた農園です。
農園主でありアメリカ出身のレイモンド・エップさんは、アメリカでCSA農場を運営していました。本国での経験を生かし、1996年からCSAをスタートしました。
農場は18haの水田・畑を有し、約30種の野菜類、小麦、豆類などを栽培するほか、パンなどの加工品も製造・販売しています。
この農園の特徴は「会員は、収穫物と栽培にかかる経費を分かち合う共同経営者」という考え方で、会員が積極的に農園の作業に参加することです。例えば、配送作業では、会員ボランティアも協力して仕分け・箱詰めしています。
販売価格は市場価格よりも高めの設定ですが、会員からは「スーパーで買うよりも安心だし、美味しい」「安心で、おいしく、体にやさしいものを探したら、行き着いた。価格は特に気にならない」などの声があがり、野菜や加工品の品質が高く評価されています。口コミによって会員の輪は広がり、100軒近くにまで拡大しました。
しかし、残念ながら現在は人手不足のためCSAによる販売は休止しています。持続的な運営のために支援者によるサポートを必要としています。
CSAを実践するためのポイント
これからCSAを実践するなら、どんなことに気をつけて準備を始めたらいいのでしょうか。主なポイントを3点まとめました。
hellohello / PIXTA(ピクスタ)
販売時期・分配方法を決める
販売は通年実施する必要はなく、収穫時期の春や秋をメインシーズンとするのがよいでしょう。
分配方法としては、郵送や宅配のほか、会員が引き取りに行くセルフ方式もあります。
セルフ方式の場合は、野菜の配布場所を確保しましょう。農家に十分なスペースがない場合は、会員の自宅や公共施設などを活用する方法もあります。
価格の設定
販売価格は前払いの会費として設定します。収量の見込みから単価を割り出し、一括で請求する会費を検討しましょう。
「鳴子の米プロジェクト」のように、一般的な販売価格にとらわれず、利益を出せる金額を優先することが大切です。
CSAの収益は、メインの収入源として見込むよりは、販路の1つとして考え、従来の販路と組み合わせた販売計画を立ててみましょう。
会員を集める
取引実績がある顧客や知人・友人など、すでに持っている人脈から会員を集めてみましょう。
会員が集まり始めた後も、交流会などの場を設け、会員の間で農家を応援する気持ちを醸成していくことが大切です。結びつきを深めれば、会員の口コミなどで新たな会員を呼び込むことにもつながります。
May_Chanikran - stock.adobe.com
CSAには不安定な農業収入を平準化し「持続可能な農業経営」を実現する可能性が秘められています。
「前払いに抵抗がある」「会員を集められるのか」などためらう要素はあるかもしれませんが、まずは国内外の成功事例を詳しく知ることから始めてみてはいかがでしょうか。
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西岡日花李
大学在学中より東京・多摩地域の特産・伝統文化などを取材し、街のローカルな魅力を発信するテレビ番組制作・記事を執筆。卒業後は大学院でジャーナリズムを学び、神奈川県のミニコミ紙記者として勤務。マスメディアでは取り上げない地域の課題を幅広く取り上げ、経験を積む。現在はフリーライターとして主に農業をテーマにした記事を執筆。農業の様々な話題を通して、地方都市の抱える問題や活性化への手立てを日々考察している。