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すぐに導入できるスマート農業「マッスルスーツ Every」が実現する、重労働環境の改善策と費用対効果

すぐに導入できるスマート農業「マッスルスーツ Every」が実現する、重労働環境の改善策と費用対効果
出典 : 株式会社イノフィス

株式会社イノフィスが開発した「マッスルスーツ Every(エブリィ)」は、電力不要で重労働の腰の負担を軽減するアシストスーツです。近年、アシストスーツは農業関係者からも注目されています。マッスルスーツ が実現するスマート農業について、イノフィスの小山さんにお話を伺いました。

作業負担を軽減するアシストスーツ

大企業の製造現場では、人への負担を軽減する作業工程が機械化などにより改善されています。しかし、どうしても機械化が難しい工程では、人手による作業が必要とされているのも事実です。

特に農業の現場は、中腰で長時間作業を行ったり、重量物の上げ下ろしを繰り返したりと、厳しい作業環境が依然多く見受けられます。

農業では、体への負担が大きい中腰姿勢で作業することが多い

体への負担がかかる中腰姿勢での作業
写真提供:株式会社イノフィス

このような重労働による体への負担は、農業以外にも医療、介護、中小の製造業、物流、小売業など多くの業界に見られます。作業負担の問題解決は、労働人口の減少や高齢化とあいまって、喫緊の課題となっていました。

こうした中、注目されているのが、重労働の負担を軽減するアシストスーツの活用です。

アシストスーツ市場は5年間で3倍以上の成長見込み

アシストスーツの市場規模予測(富士経済)

アシストスーツの市場規模予測
出典:株式会社富士経済「2022年版 ワールドワイドロボット関連市場の現状と将来展望」

株式会社富士経済によると、重労働の負担を軽減するアシストスーツの2020年の市場規模は、金額ベースでは43億5,000万円、台数ベースでは1万4,300台でした。

同社は、2025年には、111億5,000万円・4万7,570台と、金額ベースで約2.6倍、台数ベースで約3.3倍の市場拡大を予想しています。

ロボットの力で問題解決に取り組む

急成長を続けるアシストスーツ市場において、2020年実績で65%のシェアを持つトップメーカーがあります。それが、東京理科大学の小林宏教授が創業した株式会社イノフィスです。

東京理科大学小林研究室では、2000年4月から、人工筋肉を使用したウェアラブルロボット「マッスルスーツ」の研究開発に取り組んでいました。

株式会社イノフィス ほかのアシストスーツにはない「空気圧」という技術を使用

ほかのアシストスーツにはない「空気圧」という技術を使用
写真提供:株式会社イノフィス

そして、2013年12月に株式会社イノフィスが設立され、大学発のベンチャー企業としての歩みが始まります。翌年2014年から、イノフィスはマッスルスーツの販売を開始し、それ以降毎年のように新製品を発表してきました。

株式会社イノフィス ホームぺージ

人工筋肉による動力不要のマッスルスーツ

2019年11月に発表したイノフィスの「マッスルスーツ Every」の特徴は、電気などの動力を必要とせず、誰でも簡単に装着ができ、防塵・防水機能があることです。

「マッスルスーツ Every」 リュックサックのように背負って、ベルトを締めるだけで装着可能

リュックサックのように背負って、ベルトを締めるだけで装着可能
写真提供:株式会社イノフィス

マッスルスーツが、電力不要で肉体作業をサポートできるのは「人工筋肉」と呼ばれる空気バネの働きがあるからです。

ゴムチューブにナイロンメッシュを組み合わせた人工筋肉は、内蔵のポンプで注入する空気の量に応じて、使用する人に合わせたアシスト力を発揮します。

農家への導入が進むマッスルスーツ

イノフィスが、マッスルスーツの販売を始めたのは2014年からでした。しかし従来型のマッスルスーツは、農業の現場ではあまり採用されなかったといいます。

最新製品「マッスルスーツ Every」が、農業の現場でも受け入れられたのには、どのような理由があるのでしょうか。

軽量化、低価格化が市場を広げた

従来型のマッスルスーツは、1台50万円以上と高価格であり、重量も5〜6kg前後ありました。そのため、農業の現場ではあまり使われていませんでした。

株式会社イノフィス 営業開発本部 国内営業部 部長 小山寿弥さん(以下役職・敬称略) 私たちはマッスルスーツの主要市場を、介護・医療、農業、物流と考えています。どの業界も慢性的に人手不足で、しかも人力、人の手を必要とするところです。

特に農業は労働従事者の平均年齢が高く、中腰での作業時間が長いのが特徴です。そのため、農業の現場でこそ、マッスルスーツを活用してもらえればとずっと願ってきました。

それが今の製品である「マッスルスーツ Every」になって、軽量化と低価格化が実現できたために、農家さんに買っていただけるようになりました。

最新製品「マッスルスーツ Every」は、本体重量は3.8kgと従来機種より軽量で、メーカー希望小売価格は14万9600円(税込)と、個人農家でも手が届く価格になっています。

中腰姿勢の維持、重量物の上げ下げに威力

マッスルスーツは、腰の動きをサポートすることで、中腰姿勢の維持や重量物の上げ下げが楽になります。

重量物の上げ下げが多い農作業

重量物の上げ下げが多い農作業
写真提供:株式会社イノフィス

小山 例えば農家さんの作業でいうと、定植、間引き、除草、収穫、選果場での仕分け、収穫物や肥料などの農業資材の運搬、倉庫内のコンテナ移動など、さまざまな労働負担を軽減します。

動力がないため、操作の習熟が早く、高齢の方でも2、3日で自分の体の一部として使えるようになります。

マッスルスーツの装着に慣れない最初の感覚は、初めてメガネをかけたときと同じような感覚で、じきにないと不自由に感じるはずです

機械化できない手作業での負担を軽減

小山さんは実際にさまざまな農家を訪れ、どのような作業にマッスルスーツが適合するのかを調べてきました。

小山 マッスルスーツの活用が最も効果的だと感じたのは、白菜農家さんです。白菜は1玉が600g前後と重いため、中腰での作業がとてもつらいと感じました。

特に、収穫した白菜をダンボール箱に詰める際は、白菜を空中でひねったりする熟練の作業が必要となり、なかなか機械化ができません。

このように機械化が難しい重労働こそ、マッスルスーツが真価を発揮する舞台です。収穫物の運搬という点では、収穫期の水稲農家さんからのニーズも高いのです。

熟練の農家の技を支える「マッスルスーツ Every」

熟練の農家の技を支える「マッスルスーツ Every」
写真提供:株式会社イノフィス

マッスルスーツの導入効果を実証プロジェクトで確認

便利といわれる道具は、どのくらい便利なのかが客観的に示されないと、なかなか普及に弾みがつきません。口コミだけでは、市場に浸透するのに時間がかかってしまいます。

そこで、イノフィスは茨城県農業総合センターと常陸大宮市のイチゴ農家「つづく農園」の協力を得て、イチゴ農家におけるマッスルスーツ導入の効果測定を行いました。

作業時間と疲労度が軽減

小山 「令和2年度労働力不足の解消に向けたスマート農業実証プロジェクト」の一環として行われた実証実験では、実証に参加した生産者全員から「作業後および翌日への負担軽減効果を実感することができる」「年間を通じた軽労化効果がある」という評価をいただきました。

茨城県のイチゴ農家におけるアシストスーツ導入の作業時間削減効果

茨城県のイチゴ農家におけるアシストスーツ導入の作業時間削減効果
出典:株式会社イノフィス資料よりminorasu編集部作成

作業時間は、育苗管理で4.4%減、定植で17.2%減、マルチ張りで16.2%減、収穫で18.2%減という結果になりました。

いずれも中腰での作業が中心で、作業後の疲労度と腰痛における負担軽減効果も認められています。

イチゴの土耕栽培の定植作業、収穫作業などにアシストスーツを導入

イチゴの土耕栽培の定植作業、収穫作業などにアシストスーツを導入
写真提供:株式会社イノフィス

導入後2年以内に投資金額を回収可能

農業で使う機材の導入について、最後の決め手になるのはコストパフォーマンスです。どんなに便利な機材でも、費用対効果が悪ければ優先順位は下がります。

マッスルスーツを導入した場合、どのくらいで投資金額を回収できるのでしょうか。

小山 茨城県のスマート農業実証プロジェクトでは、イチゴのほ場10a当たりで「マッスルスーツ Every」を使用すると、年間130時間の作業時間が削減できました。作業者の時給を1,000円とすると、年間13万円が削減できたことになります。

そして、10aで使用した台数は、1.6台でした。1台当たりで計算すると、約8万円の削減効果です。つまり、この実験では、2年以内に「マッスルスーツ Every」の投資金額が回収できることがわかりました。

茨城県のイチゴ農家における「マッスルスーツ Every」導入の費用対効果

茨城県のイチゴ農家における「マッスルスーツ Every」導入の費用対効果
出典:株式会社イノフィス資料よりminorasu編集部作成

イチゴ農家でマッスルスーツの導入が進む理由

「マッスルスーツ Every」は、土耕栽培のイチゴ農家で導入が拡大している

「マッスルスーツ Every」は、土耕栽培のイチゴ農家で導入が拡大している
写真提供:株式会社イノフィス

マッスルスーツは、これまでにシリーズ累計2万台(2021年4月末時点)が市場に出ていますが、「農家で最もマッスルスーツを導入しているのはイチゴ農家さん」と小山さんはいいます。

イチゴ栽培特有の肉体疲労を軽減

小山 具体的な数値はありませんが、イノフィスの製品普及率が一番高いのは、イチゴ農家さんです。その中でもイチゴを土耕栽培されている農家さんに、多くご購入いただいています。

イチゴ農家さんは、全国で3万軒前後ですが、そのうちの約半分が土耕栽培です。イチゴの土耕栽培はクリスマス前くらいからゴールデンウイーク頃までずっと収穫が続きますが、その収穫作業は中腰で行います。

長期間、中腰作業が続くイチゴの収穫作業

長期間、中腰作業が続くイチゴの収穫作業
写真提供:株式会社イノフィス

小山 体への負担が大きい中腰での作業が中心となる土耕栽培のイチゴ農家からは「マッスルスーツを装着すると、作業が非常に楽になる」という高評価をいただいています。

ハウス内では装着への抵抗感が少なくなる

小山さんによると、イチゴ農家へのマッスルスーツ導入が進んでいる背景には、もう1つの理由があるといいます。

それは「ハウス内での作業なので、周囲の目を気にせずマッスルスーツを装着できる」ということです。

小山 初めてマッスルスーツを見た農家さんの反応は「何これ、恥ずかしい」とか「俺はまだ元気だから、こんなのいらない」といった否定的なものが多いように感じています。

特に60代以上の男性は「弱っている自分を見られたくない」という意識が強い傾向があります。

しかし、ハウス内の作業では、周囲の目が気にならないので、導入のハードルが低いのかもしれません。

ハウス内では周囲の目を気にせずに、アシストスーツを着用できる

ハウス内では周囲の目を気にせずに、アシストスーツを着用できる
写真提供:株式会社イノフィス

今後、多くの農家でマッスルスーツの導入が進めば、装着への抵抗感もさらに少なくなるはずです。

農家への更なるマッスルスーツ普及をめざして

徐々に農家への導入が拡大しているマッスルスーツですが、さらなる普及をめざした取り組みについて、小山さんに伺いました。

リースやレンタルなどの導入方法も

「マッスルスーツ Every」は、従来製品に比べると購入しやすい価格で販売されています。また、初期投資がハードルとなっている農家には、リースやレンタルといった選択肢もあります。

小山 販売店さんによっては、販売だけでなくリースやレンタルを行っているところもあります。

販売店さんがわからない場合は、農機メーカーや、家電量販店での取り扱いもあり、またJAさんでもお取り扱いのある場合もあります。JAさんが情報を持っていることもあります。リースやレンタルを検討したい場合は、ぜひお問い合わせください。

補助金の活用も可能

スマート農業に関する補助金であれば、マッスルスーツも対象になっているケースが多いと小山さんは語ります。

小山 農林水産省の「スマート農業技術カタログ」というサイトに私たちのマッスルスーツが掲載されています。お近くの自治体でスマート農業関連の補助金があれば、ぜひ相談してみてください。

参考:農林水産省「スマート農業技術カタログ」

イノフィスが考える「農業の未来」

マッスルスーツの開発・販売を通じて、イノフィスが描く「農業の未来」は、どのようなものなのでしょうか。

身近で実現可能なスマート農業

スマート農業とは、最新技術を活用して、省力化や精密化、高品質生産を実現する新しい農業のことです。

小山 スマート農業では、AIやロボット技術が注目されていますが、マッスルスーツはある意味、スマート農業の大本命といえます。

自動運転トラクターやドローンによる農薬や肥料の散布などは、個人農家が導入するのには、費用の面でまだまだハードルが高いのが事実です。

小山 その点、マッスルスーツは導入しやすいといえます。作物やほ場の環境によって変わりますが、前述のイチゴ農家の場合でいえば、2年以内に初期投資が回収できることがわかりました。

また、高齢者の作業負担を軽減できるため、高齢化や人手不足に悩む農業の現場にとって、すぐに役立つ身近なスマート農業の機材なのです。

マッスルスーツは、個人農家でも実現可能なスマート農業

マッスルスーツは、個人農家でも実現可能なスマート農業
写真提供:株式会社イノフィス

高付加価値の作物ほど、人手による作業が欠かせませんが、人手はコストに直結し、人が辞めてしまうと営農が維持できなくなります。

そこにマッスルスーツを導入すれば、作業能率が上がり、人件費が削減できます。

小山 作業効率が上がれば、その分マンパワーに余裕ができます。

イチゴなどは季節性が高く、価格の変動もあります。マッスルスーツを導入すれば、価格の高い時期を狙って、収穫作業の労働量を増やすことも可能になるでしょう。

イノフィスがめざすのは、夢のようなロボットではなく「人のためのロボット」の創生だといいます。

農業分野でのアシストスーツ導入のメリットは、高齢化していく農家の方の作業負担を軽くし、若い担い手の就農のハードルを低くするだけではありません。

作業の平準化による大規模化や販売単価のアップなど、「儲かる農業」「持続可能な農業」へとつながっていくのではないでしょうか。

▼イノフィスのホームページには、イチゴのほか、ブドウ、ネギ、サツマイモ(甘藷)、白菜、水稲など、農業分野の導入事例が多数掲載されていますので、ぜひご覧ください。

参考:株式会社イノフィス「Muscle Mag ~農業~」

▼パワーアシストスーツの導入については、こちらの記事もご覧ください。

山崎 修

山崎 修

学習院大学理学部化学科卒、平凡社雑誌部勤務を経て独立し、現在は書籍・雑誌編集者、取材ライター。主戦場は書籍のゴーストライティングで常時5、6冊の仕事を抱えており、制作に関与した書籍・雑誌は合計で500冊を超える。ほかにもメルマガの書評連載から講演活動、1人出版社としての活動まで守備範囲は広い。

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