ロボット×農業で何が変わる?スマート農業の最新事例・メリット・課題を解説

人材不足や高齢化の課題が深刻化する中、ロボットなどの先端的技術を活用したスマート農業が注目を集めています。農業でロボットを活用するメリットと課題、ロボットの種類、導入した農家での事例もあわせて紹介します。
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目次
ロボットは農業の何を変える?スマート農業に期待されること

Vivid Cafe / PIXTA(ピクスタ)
日本の農業は高齢化と人手不足が深刻な課題となっています。農家の約6割が70歳以上であり、若い世代の参入も少ないため、労働力の確保が難しい状況です。こうした中、ロボットやAI、IoTなどの先端技術を活用した「スマート農業」が注目されています。
ロボットトラクターや自動運転の運搬車、収穫ロボットなどは、作業の自動化や省力化を実現し、高齢者や未経験者でも効率的に農作業を行える環境を整えます。これにより、熟練者の減少や後継者不足にも対応できるようになり、農業経営の持続性が高まることが期待されています。
ロボット導入が進む背景には、労働力不足への危機感に加え、国や研究機関による技術開発と現場実証の推進があります。農林水産省はスマート農業技術の社会実装を進めており、実証事業ではロボットトラクターの協調作業による作業時間の3割削減や、未熟練者でも熟練者並みの作業が可能になるなどの成果が報告されています。
また、データ活用による生産性向上や品質管理の高度化も進み、農業の新たな担い手の参入障壁を下げる効果も期待されています。このように、ロボットの活用は日本の農業が抱える構造的課題に対する有効な解決策として、今後さらに普及が進む見込みです。
出典:
農林水産省「スマート農業」
農林水産省 近畿農政局「スマート農業」所収「スマート農業導入の経済効果と採算規模(農研機構)」
農業にロボットを導入するメリット

Scharfsinn / PIXTA(ピクスタ)
農業は機械化によって発展してきた歴史があります。農機は日進月歩で技術が進み、広大な農地であっても短時間・少人数で作業を終えられるようになりました。
しかし、依然としてロボットによって自動化・超省力化できる作業を人海戦術で行っている農家もあります。そこで、ロボットやICTの技術の導入によって得られるメリットを事例と共に紹介しましょう。
作業負担を軽減する
ロボットの導入による一番のメリットは作業負担の軽減です。
例えば、除草や作物の収穫・箱詰めなどは、重労働でありながら見極めや力加減が難しく、機械化が進みにくい作業でした。しかし、そのような作業でもロボットによるサポートや代行が可能になりつつあります。
具体的には、通常であれば中腰の体勢で腕を上げたままの作業を強いられる収穫業務や、作物が入っている籠や資材の上げ下ろしなどの動作をサポートし、体の負担を大きく軽減してくれるパワーアシストスーツがあります。このパワーアシストスーツを導入したスイカ農家が、長時間作業による腰痛の軽減や残業時間の減少といった効果があった事例が報告されています。
効率化・省力化を実現する
農業へのロボット導入は作業の効率化・省力化を実現します。
例えば、プロファームコントローラーは、農業用ハウス内の二酸化炭素濃度や温度、湿度、風といった環境条件を制御する装置です。 ミニトマトを溶液栽培する農家がこのプロファームコントローラーを導入した事例では、環境機器の調整やハウスの開閉などにかかる時間を50〜65%程度削減できたと報告されています。
また、スマート農業の代表的な技術でもあるドローンを利用した農薬散布や施肥、播種、受粉などの作業でも、省力化を実現しています。
特にドローンは垂直移動やホバリングが可能で小回りが利くので、これまで機械化を進めにくかった中山間地の狭い農地でも能力を発揮できるのがメリットです。実際に、農薬散布用ドローン2機を導入した農家の防除作業時間が半分以下になった事例があります。
農業にロボットを導入するデメリット・課題
従来の機械化でカバーできなかった作業も効率化や省力化が期待できるスマート農業ですが、先述した技術は開発途上のものも多く、まだまだ課題があります。ここでは農業へのロボット導入のデメリットについて解説します。
コストがかかる
ロボットの導入には初期投資がかかります。
スイカ農家が導入したパワーアシストスーツは1台30万円ですが、農機によっては1,500万円を超えるものもあり、初期投資の負担は大きいでしょう。また、24時間態勢で環境管理を担うロボットであれば、電気代や定期的なメンテナンスなどのランニングコストもかかります。
そのため、導入費用を対象とした補助金制度や、ロボット機器のリースサービスの整備が急務となっています。
使用者を育成する必要がある
先端技術を搭載した農機を使いこなすには、AIのしくみやデータの意味を理解して活用できる人材が必要です。どれほど性能の高いロボットやシステムを導入しても、活用できなければ効率化が進まず、最終的に使用を断念してしまうケースもあります。
そのため、高齢化が著しい農業の現場では、スマート農業を実践できる人材の育成が課題となっています。対策として、農林水産省は全国の農業大学校や農業高校でのスマート農業に関する授業や実習の導入、相談窓口の設置や普及指導員の育成を推進しています。
農業用ロボットのさまざまな種類

Suwin / PIXTA(ピクスタ)
スマート農業で活躍するロボットは、用途や目的によって搭載されている機能が違います。そこで、スマート農業で活躍するロボットを機能や用途別に紹介していきます。
自動運転が可能な農機
自動運転が可能な農機には、あらかじめ設定した作業経路を正確に自動走行できるロボットトラクターがあります。GPSで位置を把握し、誤差数cmという精度で補正しながら走行するので、作業経験が浅い人でも熟練者と同じような作業が可能です。
ほかにも自動運転田植機も活躍しています。やはりGPSを利用して位置を数cmの精度で把握し、設定された作業経路を正確に自動操舵します。作業者は苗補給をするだけで運転に気を使う必要がなく、作業の精度と効率アップが期待できます。
散布などに使えるドローン
これからの農業に欠かせない存在となりつつあるドローンの用途は広く、農薬散布や施肥、播種、受粉などの作業を効率化します。また、ドローンにAIを組み合わせて活用し、作物の状況を撮影・分析するリモートセンシング機能でさまざまな計測や作物の状態の管理を行うことも可能です。日々の情報をビッグデータとして集積・解析し、効率的に施肥や病害虫を予防できる栽培管理技術の開発も進められています。
収穫をしてくれるロボット
収穫は、適した時期の見極めや作物を傷つけない手加減や技術が必要な繊細な作業ですが、人間と同じように収穫できるロボットも活躍しています。
すでにレタスの自動収穫ロボット、センシング機能を使用して熟した果菜や果実の色や形・位置を見極め手作業と同じように収穫するトマト収穫ロボット、完熟したイチゴをセンサーで検知し、ヘタの上の果柄を切り取って果実に触れずに収穫できる自走式いちご収穫ロボットなどが開発されています。
農業用ロボットの活用方法は?導入事例を紹介

cba / PIXTA(ピクスタ)
課題が残るスマート農業ですが、着実に成果を上げています。最後にロボットを実際に導入し、実績を上げている成功事例を紹介します。
事例1:クボタの自動運転農機の活用
北海道北斗市で水稲と軟白ネギなどの栽培を手掛ける従業員7人の家族経営農家では、2018年にクボタ製の「直進キープ機能付田植機」を導入しました。
背景には水稲移植とネギの収穫の時期が重なり作業の手が足りなくなってしまうという課題があり、水稲移植の作業の効率化と従業員の負担軽減が目的でした。
「直進キープ機能」とは、最初の工程で基準線を登録すれば、次工程からはスイッチ1つで基準線に対し平行に自動走行するというもので、誰でも直線的な植え付けが可能になる機能です。
この取り組みの結果、水稲移植作業にかかる人員を7人から5人まで削減し、その分のマンパワーをネギの収穫に回すことで従業員の負担軽減が実現しました。
事例2:マゼックスのドローン散布機の活用
北海道網走郡大空町の水田10.9haで水稲を栽培している個人経営のJT農場では、2017年に、それまで取り組んでいた動力噴霧機によるミネラル資材の葉面散布を、マゼックス製の葉面散布用「ドローン飛助Ⅱ」に切り替えました。
その結果、作業が大幅に省力化され、動力噴霧機に比べて1ha当たり時間ほどの時間短縮を実現しています。
今後も人材不足が深刻化する農業で、救いの一手と期待されているのが先端技術を応用したスマート農業です。いきなり高価なロボットを導入するのは難しい農家の方も、まずは農業に応用できる技術や事例を知ることで、負担軽減や効率化をはかれる実現可能な方法にたどりつけるかもしれません。日々進化するスマート農業にぜひ注目してみてください。
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大曾根三緒
ビジネス、ペット、美術関連など多分野の雑誌で編集者として携わる。 全国の農業協同組合の月刊誌で企画から取材執筆、校正まで携わり、農業経営にかかわるあらゆる記事を扱かった経験から、農業分野に詳しい。2019年からWebライターとして活動。経済、農業、教育分野からDIY、子育て情報など、さまざまなジャンルの記事を毎月10本以上執筆中。編集者として対象読者の異なるジャンルの記事を扱った経験を活かし、硬軟取り混ぜさまざまなタイプの記事を書き分けるのが得意。