【農業経営に求められる戦略視点とは】第3回 戦場(事業環境)の選択① 販路の考え方
販路の選択は、すなわち顧客の選択です。選択次第ではこれまで以上の利益を実現できる可能性を秘めています。本記事では、農業の戦場(事業環境)の選択の1要素として販路(顧客)に注目します。
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目次
どのような販路が候補になるか?
農家の販路(販売チャネル)は、大きく分ければ農協(JA)、卸売市場、小売・製造・外食(契約栽培など)、直売の4つが挙げられます。
販路のうち、小売・製造・外食向けや直売の場合には、農産物を自社加工(6次産業化)することもあるでしょう。
いずれの販路も特徴があり、大まかにでも販路別の特徴を掴むことが、販路を切り口とした市場理解の第一歩です。
販路の選択とは「自社がどこまで担うか?」の選択
各販路の特徴についてみていきましょう。
資料提供:株式会社コーポレイトディレクション
「この販路がよい」というものはありません。後述するように自社の状況と販路の特徴を理解して「選択」をします。
図にあるように、販路の検討はすなわち「自社がどこまでを担うか?」の選択でもあります。
農協(JA)を代表とする組合や集出荷団体は、販売を代行する役割を担っています。農家は、対価として手数料を支払います。生産者である農家が販売機能を担うのは大変なことです。その手間を組合・団体が担っています。
一方、対として挙げている直売を例にとると、手数料などを大きく削減できる潜在性を秘めています。一方で、農家単体として担う部分は大きく、「流通経路を担う人・金・設備などの資源があるか?」「高単価で売り切れるか?」「売り先(顧客)を獲得できるか?」など、経営の巧拙がより求められるといえるでしょう。
農協(JA)の特徴
4ChaN / PIXTA(ピクスタ)
農協(JA)への出荷は、最もリスクを低減できる選択肢の1つです。裏返しとして手数料がかかり、相場が変動することで安定性に欠けます。
農家に代わって、市場で販売代行を担う委託方式と、所有権を農協(JA)や集出荷団体などが持って販売する買取方式があります。
委託方式の場合、農協(JA)に支払う手数料は、売上の8%程度が目安のようです(青果の場合)。そのほかに卸売市場に対する手数料が8%前後かかるようです。
買取形式の場合は、所有権が農協(JA)に移るので、(良くも悪くも)農家は市場での取引を気にする必要はありません。農協(JA)が求める単価と出荷量に応えることが重要となります。
農協(JA)の魅力は、売買の関係に留まらず、経営に関する情報・インフラ・ネットワークなども得られる点にあります。既に農協(JA)とつながっている農家も経営視点でもっと連携できる点はあるかもしれません。
卸売市場の特徴
yukimi / PIXTA(ピクスタ)
ここでいう卸売市場とは、自らが卸売業者として市場に持ち込むことを指します。
農協(JA)・集出荷団体経路と比較すれば、相対的に手数料率は下がり、費用削減になります。(団体に払う分がなくなる。市場に支払う手数料は残る)
一方、販売単価を農協(JA)経由と同等に維持できるかどうかは、最も確認が必要なポイントです。農家の「個」としての強み、具体的には「自らがブランドをもっているか?」「需要がある値崩れしにくい作物か?」などを見極める必要があるでしょう。
小売・製造・外食(契約栽培など)の特徴
企業と直接取引をするため、市場を介する手数料を大幅に削減できます。また、取引相手次第では、自社の野菜のブランド化にもつながります。また契約内容によっては市場相場に影響されず、安定した収入が見込めることも特徴です。
こちらの場合も、農家の「個」としての強み次第です。高品質である、企業にとって魅力的なストーリーがある、希少な品種を安定的に納めることができるなど、「なぜあなたと取引するのか?」の理由を求められます。
もしもあなたが作物の品質にこだわり/独自性を追求している場合、是非積極的に連絡を取ってみてはいかがでしょうか。
買い手である事業者は、その先の消費者のために良い作物を切実に求めています。お互いにWin-Winを築くことが可能です。
主たる販路として検討する際は、取引量に注意が必要です。市場と比べると一企業が買い取る出荷量は限定的になる可能性が高いです。
▼契約農家についてはこちらの記事をご覧ください。
直売の特徴
価格の決定権を握ることが最もできる販路です。一方、最も売れ残りリスクを抱える点に注意しましょう。
業者経由(近隣業者/ネット販売業者)と自社直売に分類されます。
直売は自由度が高いため、どのように向き合うか次第で位置づけが変わります。特に上述のビジネスモデルと比較すると利益率が上がっても販売数量が軌道に乗るまでは収益化が難しく、いかに効率的に顧客を獲得するかが成功に向けた大事なポイントです。
市場に出せない売れ残りを自社近隣で販売というローリスクローリターンもあるかもしれませんし、高単価高収入を狙って自ら販売体制を整備するハイリスクハイリターンもあるかもしれません。
自由度が高い分、経営力が問われる販路といえるでしょう。
▼販路の特徴は下記記事も参考になります。
販路の最適解は? 「あなたにとって」の固有解が大事
プラナ / PIXTA(ピクスタ)・Fast&Slow / PIXTA(ピクスタ)
最適な販路は、各農家の置かれた状況と意思によって異なります。各農家で異なる要素としては
●作物の種類
●めざしている品質(かけている手間)
●人員
●立地
●事業計画・ビジョン
加えて、特に強調したいのは、経営者としての皆様の「意思」です。農業に携わっている理由、作物を届けたい顧客、こだわり、など、経済性を超えた理由が各農家それぞれにあると思います。
「そもそもなぜ農業をやっているのか?」は、販路に限らず、戦場(事業環境)と武器(強み)の選択において重要な要因です。
販路を選択する際の視点は、売上と費用
前述したように、個々の意思や状況を整理した上で、目標とする収益と合致させるべく販路を選択します。その際に必要な視点は、「売上」と「費用」です。
●高く売れるのはどこか?
●たくさん売れるのはどこか?
●コスト・手間がかかるのはどれか?
を問いかけ、調べていきます。
売上は、期待できる「単価」と「出荷量」で分解
大久保翔太 / PIXTA(ピクスタ)
販路によって、同じ作物であっても作物の単価は変わります。これは流通経路の中で間に入る業者の階層の数、高単価でも売ることができるブランドの有無、などによって影響されます。
一方で、単価が高かったとしても、期待できる出荷量が多くなければ、絶対額として売上の大きさは見込めません。反対に、農家側の対応できる出荷量が、先方が求めている出荷量を満たせないこともあり得ます。
当該の販路で期待できる「単価」「出荷量」のそれぞれが、果たして自社の状況や意思に最適かどうかは、皆様それぞれが見極める必要があります
販路選択時における費用は、主に変動費に注目
kura / PIXTA(ピクスタ)
販路の検討において、コストに注目する際は変動費を中心に注目します。変動費とは、作物の生産・販売量に連動して変わる費用を指します。
一方、固定費は、生産・販売量に関係なくかかる費用を指します。固定費は、作物の種類の選択、そして生産規模で大きく変わります。次回以降触れる作物の選択・や生産規模は、固定費をより考慮に入れる必要があります。
販路選択において、注目すべき費用は、「販売手数料の有無・大きさ」「材料・資材コスト」「出荷コスト(梱包・配送)」「対象作物の品質担保・管理の手間」があげられます。
販路選択の際は、一般的/平均的な農家の経営や市場情報も参考に
資料提供:株式会社コーポレイトディレクション
ここまで再三、農家個々の個別解を導く重要性を述べてきました。一方で、ほかの農家や情報を参考にする必要がないかと言えば全くそんなことはありません。
むしろ近い状況や考えを持った農家の経営や市場の統計情報は積極的に参考にすることが重要です。
近隣農家のつながり、各種団体などのつながりの中で積極的に話を聞いてみるとよいでしょう。
また、インターネットを活用すれば様々な統計情報や経営情報を収集できます。慣れていない方はちょっと躊躇してしまいがちですが、是非活用しましょう。
▼下記記事はデータ活用に関して解説しています。
販路選択のさらなる留意点
複数の販路を選択できない場合がある
仕向け先からすれば、複数の販路を持たれることはデメリットなことが多いです。
例えば、状態のよい作物は自社流通させて、状態がまあまあの作物は農協(JA)に出荷されては、農協(JA)は市場において品質で勝負できません。
従って、組合・団体によっては、複数の販路を持つことを禁じていることがあります。販路検討の際に考慮に入れるようにしましょう。
仕向け先からは、利益以上の事業インフラが得られるため、その点も考慮に入れる
にしやひさ / PIXTA(ピクスタ)
販路、つまり仕向け先の顧客からは、売上だけでなく様々なことが得られます。その点も考慮に入れる必要がありますし、意図的に得ていくとよいでしょう。
例えば、農協(JA)や集出荷団体は、規模があるからこそ人的ネットワークや情報を保有しています。経営インフラを提供する機能もあります。
市場持ち込み、企業、直販などは、消費者の声を聞けることが大きなメリットです。消費者の声を活かした作物づくりは、大きな品質向上につながる可能性があります。
tabiphoto / PIXTA(ピクスタ)
まとめ|「市場」と「自社の状況」を見極めて、販路を選ぶ
販路の選択は、「この販路は儲かる」という単純な話ではありません。理由は下記のとおりです。
「単価が高いからといって儲かるわけではない。出荷量や費用によっては、利益を確保できない」
「個々の農家の状況や意思で最適解は変わる」
「販路のつながりは、作物の販売以上の恩恵が得られる可能性がある」
是非「●●に売ると儲かるらしいからうちも出そう」と安易に選ぶことなく、「市場」を見極めて「自社」の状況を考えながら検討するようにしましょう。
▼連載
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芳賀正輝
株式会社コーポレイトディレクション マネージングコンサルタント。 東京工業大学工学部卒。同大学大学院社会理工学研究科修士課程修了。工学修士(経営工学)。外資系化学メーカーBASFコーティングス株式会社、株式会社星野リゾートを経て、現在に至る。