野菜販売の許可と手続き完全ガイド|道の駅・ネット販売のポイント
野菜販売を始める際の許可や資格は、販売方法や取り扱う農産物によって異なります。本記事では、道の駅やネット販売など、各販路別に必要な手続きや注意点を丁寧に解説。さらに、食品表示法や食品衛生法に基づく手続きも紹介します。
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農家が自ら野菜を販売するには、道の駅、直売所、ネット販売など多様な販売ルートがあります。本記事では、個人農家が野菜を販売する際の販売許可や手続きについて、販売方法別に詳しく解説します。
野菜販売時に必要な許可・資格と届出
野菜販売における販路別メリットとデメリットの一覧
minorasu編集部作成
農家が自ら生産した農産物を加工せずに販売する場合、販売ルートに関わらず出荷と見なされるため、基本的に許可や資格は必要ありません。
ただし、野菜の販売には「食品表示法」と、2021年に改正された「食品衛生法」が適用されるので、これらの決まりを守る必要があります。以下では、それぞれの法に基づき必要とされる手続きについて解説します。
食品表示法に基づく手続き
「食品表示法」は、食品の安全性や機能性に関する表示について定めた法律です。農家が野菜を販売する際には、野菜の名称と原産地を明示することが定められています。
食品表示について、詳しくは消費者庁の以下のサイトを参照してください。
参考:消費者庁「パンフレット|食品表示制度全般」所収「早わかり食品表示ガイド(令和5年(2023年)3月版・事業者向け)」
食品衛生法に基づく手続き
「食品衛生法」は、主に加工食品について衛生管理や農薬の残留基準などを定めた法律です。食品衛生法は2021年6月に改正され、すべての食品等事業者に「HACCP(ハサップ)に沿った衛生管理」が義務付けられることになりました。
HACCPとは、未然に食品事故を防ぐしくみのことです。厚生労働省は以下のように定義しています。
出典 厚生労働省「HACCP(ハサップ)」”食品等事業者自らが食中毒菌汚染や異物混入等の危害要因(ハザード)を把握した上で、原材料の入荷から製品の出荷に至る全工程の中で、それらの危害要因を除去又は低減させるために特に重要な工程を管理し、製品の安全性を確保しようとする衛生管理の手法”
「一般的な衛生管理」及び「HACCPに沿った衛生管理」に関する基準については、以下のサイトを参照してください。
参考:営業規制(営業許可、営業届出)に関する情報|厚生労働省所収「一般的な衛生管理」「HACCPに沿った衛生管理」
また、食品衛生法の改正については、以下のサイトに概要がまとめられています。
参考:厚生労働省「食品衛生法の改正について」
食品衛生法では、販売方法によって必要な許可や資格は異なります。
農家自らが生産した野菜を加工せずに販売する場合
原則として、すべての食品等事業者(食品の製造・加工、調理、販売等を行う事業者)はHACCPに沿った衛生管理の実施が必要ですが、農家自らが生産した野菜をそのまま販売する場合は対象外となります。
仕入れた野菜を販売する場合
他人から仕入れた野菜を販売する場合は「野菜果物販売業」に当てはまり、「営業届出」の提出が必要です。なお、届出の提出には食品衛生責任者の設置が必要になります。
加工して販売する場合
加工方法によっては、営業許可申請または営業届出を提出する必要があります。例えば茹で野菜やカット野菜、千切りなど、消費の利便性のために調理、切断する場合は「営業届出」が必要です。
また、漬物の製造は「漬物製造業」として「営業許可」の申請が必要です。営業許可を取得する場合は、要件(施設基準)を満たしているか検査を受けます。
法改正前から漬物の製造・販売を行っていた場合には、2024年5月末まで販売を継続できますが、それ以降の販売には営業許可が必要です。
なお、営業許可業種も営業届出業種もHACCPに沿った衛生管理の制度化の対象で、食品衛生責任者の設置が必要です。
ただし、自分で栽培した野菜を収穫後に乾燥するなどの加工は、採取業の範囲に含まれることから、HACCPの制度化の対象外です。
これまで手続きが不要だった販売方法でも、法改正により営業許可や営業届出が必要になっている場合があります。販売開始前に管轄保健所などに問い合わるなど、十分に留意してください。
2021年の食品衛生法改正で新たに営業許可・届出が必要となった業種については、以下サイトを参照してください。
参考:東京都保健医療局「食品衛生の窓」内「営業許可・届出の概要」所収「食品関係営業届出の手引(PDF)」
販売所によって必要な手続き
2021年の改正食品衛生法以降、直売所やマルシェ、ネット販売プラットフォームなど、直売の場所を提供している組織によっては、生産履歴記帳などの提出を求められることがあります。申込の前に、必要な手続きを確認してください。
その他注意点
野菜などを販売する場合は、食品衛生法で定められた農薬の残留基準を守る必要があります。
2003年の食品衛生法改正に基づき、残留基準に関して「ポジティブリスト制度」が導入されています。残留基準が定められていないものについても、一定量(0.01ppm)を超える食品の販売などは禁止されています。
参考:
厚生労働省「食品中の残留農薬等」所収「ポジティブリスト制度についてのパンフレット」
残留農薬基準値検索システム
【販売ルート別】農家が野菜類を売る方法
生産農家による野菜の販売方法には、主に次の5つがあります。
- 農協(JA)経由
- 道の駅・直売所
- 個人直売所
- 移動販売車
- インターネット・アプリ
販売方法別に、野菜を販売するために必要な許可・届出、販売ルートとしてのメリット・デメリットなどを解説します。
農協(JA)経由
CHAI/ PIXTA(ピクスタ)
野菜などの最も一般的な販売方法は、一括して農協に出荷することです。農協経由の出荷は、卸売市場への仕向けが大半を占めるため、野菜の価格は需要と供給のバランスによって変動します。
農協(JA)で野菜を販売するメリット・デメリット
農協経由の出荷の大きなメリットは、基本的に全量買い取られることから売れ残るリスクを負わずに済むこと、自分で販路を開拓する必要がないことです。
また、農協への加入には、経営や技術に関する情報を得たりサポートを受けられたりするメリットもあります。
一方、デメリットは、売上が市場価格に大きく左右されることから安定性に欠ける点や手数料がかかる点が挙げられます。出荷するには野菜ごとの出荷規格を満たしている必要があります。
農協(JA)での野菜販売方法と必要な許可
農協への出荷に許可や届出は必要ありません。
農協への出荷はメリットの多い販路ですが、市場価格の不安定性などを理由に農協以外の販路を持つ農家が増える傾向にあります。
道の駅・直売所
yamahide / PIXTA(ピクスタ)
農協以外の販売経路で大きな割合を占めるのが、道の駅や農産物直売所にて行われる直接販売です。
農林水産省の「令和3年度(2021年)6次産業化総合調査結果」によると、2021年時点の全国の農産物直売所は22,680施設にのぼり、年間販売額は1兆円を超える規模まで拡大しています。
出典:農林水産省「令和3年度(2021年)6次産業化総合調査|農産物直売所(農業経営体・農業協同組合等)|販売先別事業体数(複数回答)」
道の駅は、地元の消費者ばかりでなく観光客も取り込めることから、道の駅に併設された直売所は各地で高い集客力を誇ることがあります。
一方で、地元密着型の直売所は農協直営店が主流になっています。そのほか生産者グループや企業が経営する店舗もあります。
道の駅・直売所で野菜を販売するメリット・デメリット
道の駅・直売所での販売のメリットは、農家自ら価格や出荷量を決められる点と、比較的利益率が高い点が挙げられます。各道の駅・直売所ごとに異なりますが、一般的に野菜販売価格の15%前後が直売所への出店手数料となり、残り全部が農家の収入となります。
ただ、直売所は競争が激しい場所であり、野菜の魅力をアピールする工夫や、ほかの農家が販売する野菜と差別化できる特長が必要です。
そのため、直売所に並べるだけではなかなか売れず、売れ残るリスクが高い点がデメリットといえます。多くの場合、売れ残ったものは引き取らなければなりません。
道の駅・直売所での野菜販売方法と必要な許可
道の駅や直売所での販売に許可は不要ですが、店舗によっては生産履歴記帳や、店舗が定める生産基準を遵守する誓約書の提出を求められる場合があります。
個人直売所
CHAI/ PIXTA(ピクスタ)
直売所の中には、自分の農場で収穫した野菜などを販売する個人経営のお店もあります。自分の家やほ場の敷地内に直売所を設けるケースが多く、無人販売も少なくありません。
個人直売所で野菜を販売するメリット・デメリット
実質的に売上のすべてが収入になるという点が大きな魅力です。また、個人直売所では農家の個性をセールスポイントとしてアピールできます。
販売方法に独自の工夫を加えられる自由度の高さもメリットです。品質の高い野菜を売ることでリピーターやファンが増えれば、効率的に売上アップがめざせます。
一方、規模が小さく場所も選べないため、最初は集客に苦労するかもしれません。また、デメリットとしては、無人販売所では窃盗や万引きのリスクがあることです。夜間の店舗管理には監視カメラを設置するなどの盗難対策も検討してください。
▼都市近郊で、スーパーなどへの出荷のほか、季節限定のテント直売所や、ロッカー式の直売書を運営されている方へのインタビュー記事も是非ご覧ください。
個人直売所での野菜販売方法と必要な許可
自ら生産した野菜を未加工で、自分の敷地内で販売する場合は、許可も届出も不要です。ただし、水煮や日干しした野菜など、加工食品に分類されるものを売る場合は、改正食品衛生法に基づき、営業許可または営業届出が必要です。
複数の農家が出荷する直売所では、衛生管理の周知・徹底が義務付けられていますが、個人直売所ではそのような義務はありません。食品衛生法の遵守などは自身でしっかり心がけてください。
移動販売
チュン子 / PIXTA(ピクスタ)
軽トラやキッチンカーなどの車両を利用し、人の多い場所に移動して自ら野菜を売る方法が、移動販売です。店を持たなくても気軽に始められます。
移動販売車で野菜を販売するメリット・デメリット
荷物を積み込める車を所有していれば、初期投資を安く抑えられるのが大きなメリットです。また、イベントなどに合わせ、人の集まる場所に移動して販売できるため、集客しやすい点も魅力です。
ただし、天候や場所によって売上が左右されて安定しないことや、場所が定まらない場合は常連客を得にくいことに注意が必要です。
移動販売車での野菜販売方法と必要な許可
未加工の野菜のみを売る場合は、許可や届出は不要です。ただし、加工食品を扱う場合は営業許可または営業届出が必要です。
また、出店する場所が公道の場合は、市区町村役場で道路使用許可を得なければなりません。イベント会場の場合、運営によっては申請が必要なこともあり、出店料や場所代がかかるケースも少なくありません。
インターネット・アプリ
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新しい野菜販売方法としてシェアを広げているのが、インターネットを使った通信販売です。ネット通信販売のやり方には、大きく2つあります。
1つは、大手の野菜宅配チェーンに、自分が作った野菜を直接卸す方法です。顧客は大都市圏のリピーターが多く、卸売市場への全量出荷のように値崩れするリスクは回避できます。
宅配チェーンでは、質の高い作物を育てている農家にはリピーターが付きます。インターネットを利用する点以外は、大型直売所と似たシステムになっています。
もう1つは、自分で作ったネットショップやモール型のネットショップ、フリマアプリなどを利用する方法です。特にモール型のネットショップやフリマアプリにはお店をサポートするしくみが整っているため、ネット通販を活用して野菜を販売する農家が少なくありません。
インターネット・アプリで野菜を販売するメリット・デメリット
インターネットやアプリによる販売は、個人直売所と同様に栽培方法や作物の特長をアピールができる点や、価格を自由に設定できる点がメリットです。店舗を持つ必要がないので初期投資を抑えられます。
また、うまくアピールすれば、全国にファンやリピーターができる強みもあります。商品も自由に設定できるので、野菜セットとして多種類の野菜を無駄なく組み合わせて販売したり、わけあり野菜を販売したりすることが可能です。
フリマアプリや販売プラットフォームを利用すれば、インターネットの知識や技術がなくても手軽にネット販売できます。
ただし、サイト上で特色を上手にアピールしないと注目されず、なかなか購入に結び付きません。
独自のネットショップを運営する場合は、インターネットの知識が必要です。サイトの作成や維持管理、顧客とのやり取りから発送作業まで行う必要があります。
ネットショップでは、購入者の手元に商品が届くまでが1つの仕事です。野菜の種類によってはクール便を使うなど、鮮度を維持する対策も重要です。
配送状況によってはトラブルが生じる可能性があります。万一の場合に備えて、トラブル時の対応も決めておくことが大切です。
CHAI/ PIXTA(ピクスタ)
インターネット・アプリでの野菜販売方法と必要な許可
ほかの販売ルート同様に、未加工の野菜のみを売る場合は、許可や届出は不要です。ただし、加工食品を扱う場合には、営業許可または営業届出が必要です。
なお、インターネットなどを利用した通信販売では、「特定商取引法」に基づく表示義務が生じます。
特定商取引法は事業者による不適切な勧誘・取引などを防止し、消費者の利益を守ることを目的とした法律です。販売者の氏名、住所、電話番号、販売する農産物の代金、引渡し時期などの情報表示が必要です。
決まった項目について書式通りに表示すればよく、それほど複雑な作業ではありません。
特定商取引法の表示義務や禁止事項などについては以下のサイトを参照してください。
参考:消費者庁ほか「特定商取引法ガイド」
モール型のネットショップや販売プラットフォームを利用する場合は、サイト運営業者が提示する利用規約をよく読み、規則を守ることが必要です。出店には審査が必要な場合や、書類提出や出店者の資格を満たすことが求められる場合もあります。
▼「販路の考え方」については下記の記事も参考にしてください。
販売許可だけじゃない?野菜販売時の注意点や心がけておきたいこと
“有機野菜”などの表示には許可が必要
野菜を販売する際、減農薬などの栽培方法で生産した野菜であれば、それをアピールすることで付加価値の発生が期待できます。ただし、有機野菜や特別栽培の表示には厳格なルールがあります。
「有機」「オーガニック」などと表記する場合は、登録認証機関の検査を経て認証を受け、「有機JASマーク」を貼る必要があります。このマークがないのに有機栽培を思わせる紛らわしい表示をすることは、法律で禁止されています。
また「特別栽培」という表示も、農薬や化学肥料のガイドラインに沿って使用し、栽培された農産物のみに限られます。
詳しくは、農林水産省のサイトを参照してください。
参考:
農林水産省「有機食品の検査認証制度」
農林水産省「特別栽培農産物に係る表示ガイドライン」
農家として独立するなら“開業届”の提出を
新たに農家として独立し、継続的に野菜を販売しようと考えている場合、販売で得た収入は事業所得となるため、開業届を提出する義務が生じます。これはインターネット・アプリでの販売でも同様です。
開業届を提出しなくても罰則はありません。しかし、開業届を提出すると青色申告が可能になるメリットがあります。なにより届出は所得税法で定められている義務ですから、所轄の税務署に開業届を提出してください。
個人ではなく農業法人として起業する場合は、所在地を管轄する法務局での法人登記の手続きも必要です。
▼販路拡大については以下の記事もご参照ください。
農家が生産した野菜を販売する方法にはさまざまなものがあり、比較的簡単に取り組めます。必要な許可や手続きを事前に確認し、正しい手順に沿って、積極的に販路を広げることが大切です。
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大澤秀城
福島県で農産物直売所を立ち上げ、店長として徹底的に品質にこだわった店づくりを行い、多くの優れた農家との交流を通じて、農業の奥深さを学ぶ。 人気店へと成長を遂げ始めたさなかに東日本大震災によって被災。泣く泣く直売所をあきらめ、故郷の茨城県で白菜農家に弟子入りし、畑仕事の厳しさを身をもって体験する。 現在は農業に関する知識と体験を活かしながら、ライターと塾講師という2足のわらじで日々歩みを進めている。