農家直送の「オンラインマルシェ」が販路拡大の鍵。成功事例やおすすめの通販サイトを紹介
農産物の販路を拡大する方法として、農家直送のオンラインマルシェが注目されています。規格や地域にとらわれない柔軟な発想で農産物を販売できるほか、消費者との交流を通じてブランド化を推進できるのも魅力です。この記事では、農家直送のメリット・成功事例や農家直送に有効活用できる通販サイトを紹介します。
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農産物の安心・安全を求める消費者が増えている中、生産者が明らかになっているオンラインマルシェが人気を集めています。食材の活用方法などの情報提供を通じて、農産物の価値を高め、収益を増やす農家も増加傾向にあります。
海産物や雑貨などを取り扱うオンラインマルシェも多くありますが、この記事では農家直送型のオンラインマルシェに絞って市場概況や将来性について解説します。
農家直送のニュースタンダード「オンラインマルシェ」とは?
オンラインマルシェ
オンラインマルシェとは、通販の一種で、インターネットを活用して農家が消費者に農産物を直接販売する場を提供するサービスのことをいいます。
マルシェはフランス語で「市場」という意味で、国内でも農家や個人が市街地などに集まって対面で商品を販売することをマルシェと呼ぶこともあります。
オンラインマルシェでは生産地や生産者の氏名が明らかにされており、商品のこだわりについての説明も充実しているので、新鮮で安心できる農産物を食べたい消費者から人気を集めています。
コロナ禍を受けて、非接触で買い物を楽しみたいと考えるニーズも根強くあります。こうした背景から、オンラインマルシェは農家直送の新しい形として注目されています。
株式会社矢野総合研究所の調査結果によると、2019年の産直農産品の市場規模は2兆9,424億円で、市場規模全体(9兆2,250億円)の約32%です。
また、2015年と比べると産直農産品の市場規模は2倍近くに増えており、オンラインマルシェや直売所が活況を呈していることがわかります。
一方、人口の減少や外食・中食(テイクアウト)の利用が進んでいることから、2024年の産直農産品市場規模は3兆5,489億円前後の見込みと予測しています。手堅い予測といえますが、市場全体における産直農産品の割合は年々高まるものと矢野総合研究所では推測しています。
出典:株式会社矢野経済研究所 プレスリリース 2020年9月28日「生産者と消費者を直接つなぐオンラインマルシェで活気づく『産直ビジネス』」
農業経営における農家直送のメリット
農家がオンラインマルシェなどの産直ビジネスに参入することで、地域や規格にとらわれない農産物の販売が可能になります。
調理方法の提案など消費者とのコミュニケーションを通じて農産物をブランド化し、付加価値と収益を高めるメリットも期待できます。農家にとっても生産のやりがいを感じられるでしょう。
中間マージンが削減でき利益が増える
卸売市場の競り
yukimi / PIXTA(ピクスタ)
農家直送では市場を通さず消費者に農産物を直接販売するため、販売手数料などの中間マージンは発生しません。中間マージンを削減できた分だけ消費者に安く農産物を提供でき、価格競争力も高まります。
卸売価格や店舗の小売価格にとらわれず、農産物の状態に応じて柔軟に価格を設定できるので、利益率の向上も期待できます。通販サイトを活用して農家直送を行う場合は商品価格に応じた販売手数料がかかりますが、中間マージンの額よりは低めの水準です。
全国規模で販路拡大のチャンスがある
農家直送では、オンラインマルシェなどのECサイトを活用して商品を販売するのが一般的です。実店舗とは異なり、全国に向けて農産品に関する情報を発信できるため、販路を拡大するチャンスが生まれます。
近年ではネットショップ作成サービスも充実しており、スマホがあればその日から農家直送をスタートできます。
ただし、ネットスーパーなど、農産物を扱う競合相手も多くいます。わかりやすい言葉で商品を説明したり動画・写真で生産現場を紹介したりするなど、工夫により差別化することが、消費者に選ばれるポイントとなるでしょう。
ネットスーパーは競合
Ushico / PIXTA(ピクスタ)
余剰分野菜や規格外野菜も販売できる
農家が消費者に直接農産物を販売する場合は、市場の出荷基準を参考にしつつ、独自の基準で品質を判断しても問題ありません。そのため、市場に出荷できない規格外野菜や生産調整に伴って余剰となった野菜も販売することができます。
市場出荷と農家直送を組み合わせることで販路の多様化が可能で、収益を増やすチャンスにもつなげられます。また、フードロスを減らせるため、SDGsへの取り組みと関連づけて持続可能な社会づくりに貢献できます。
規格外野菜でも食味は変わらないことを丁寧に説明することで、消費者の納得感・安心感が得られるでしょう。
▼規格外野菜の販売についてはこちらの記事もご覧ください。
ブランド化による付加価値の向上
オンラインマルシェには多くの農家が出店しているため、出品した農産物が消費者に選ばれるには付加価値の向上や差別化が重要です。
オンラインマルシェでは多くの情報を提供できるので、栽培方法へのこだわりや食材の特色、調理方法などを訴求していくことで、消費者からの注目度が高まるでしょう。
ターゲットとなる顧客層や調理シーンを絞り込むのも有効です。消費者とのコミュニケーションを通じて信頼を得ることも、農産物の付加価値の向上につながるからです。
▼農産物のブランド化については、こちらの記事も参考にしてください。
消費者とのコミュニケーションによるモチベーションの向上
農家直送を通じて消費者とコミュニケーションを取れることが、オンラインマルシェならではのメリットです。消費者からの意見や感想は、栽培技術の向上に活かせるだけでなく、加工品を開発するヒントにもつながります。
消費者と長期的なつながりを持つためには、オンラインでの情報発信だけでなく、商品にパンフレットや季節の情報を同封することも効果的です。
また、SNSを活用するとフォロワー同士が交流できます。SNSのコメントが口コミとなって、新規顧客を獲得できる可能性が広がるでしょう。コメントを読んで農業へのモチベーションを高める人も少なくありません。
農家直送の成功事例
Rawpixel / PIXTA(ピクスタ)
SNSを活用したブランディングや加工品を含めた豊富な品揃えによって、農家直送に成功した事例を紹介します。
豊富な品揃えで消費者に多彩な商品を供給「えと菜園」
神奈川県と熊本県に拠点を持つ「株式会社えと菜園」では、自社のオンラインショップで、自然栽培・有機栽培にこだわって生産した米や野菜を販売しています。
自社や提携農家が生産した農産物はもちろん、菓子・ジュース・ベーコンなど、多彩な商品を取り揃えているのが特徴です。商品ごとに生産者情報が明記されており、プロフィールとともに農産物の栽培方法や食材に応じた食べ方も紹介されています。
画像も多く掲載されており、消費者が商品のイメージをつかみやすくなっています。その結果、商品に対する消費者の信頼が高まり、リピーターの獲得にもつながっているのです。
また、就農支援事業も展開しています。就農プログラムを修了した人が、生産した農産物をオンラインショップに出品できるルートも確立しています。
ブランディングに成功しSNSでも話題に「しあわせスイカ農園」
千葉県のしあわせスイカ農園では独自のスイカの品種「甘幸(かんこう)」を開発し、通販限定で販売しています。
季節限定での販売ですが、ホームページで農業への思いやスイカへのこだわりを動画や写真を交えて掲載し、販売開始までに期待感が高まるよう工夫されています。
スイカの栽培時期には、SNSやブログを積極的に活用して生育状況を発信したり、商品の感想も掲載したりしています。こうすることで、農家と消費者が、お互いに顔が見える形で関係づくりが可能です。
その結果、SNSで話題になるなどブランディングに成功し、予約販売では受付から数分で売り切れになるほどの好評ぶりです。
農家直送に有効な通販サイト
農家オリジナルのサイトを作成して農家直送に参入する方法もありますが、既存の通販サイトを活用すると短期間でオンラインマルシェを開設できます。
ここでは、農家直送にメリットをもたらす通販サイトを紹介します。デザイン・機能や手数料などを比較したうえで、使いやすいサイトを検討してみてください。
食べチョク
食べチョク
出典:株式会社PR TIMES(株式会社ビビッドガーデン/食べチョク ニュースリリース 2020年7月10日)
食べチョクは、農産物や畜産品・加工品・花きなどを直接出品できる日本最大規模の産直通販サイトです。
2023年12月の時点で会員数は95万人以上、9,200以上の生産者が出品登録しています。コメント・フォロー機能を設けて、生産者と消費者との信頼関係づくりを重視しているのが特徴です。
最初の出品時には審査が必要ですが、最短で翌営業日に結果が通知されます。それ以降はいつでも出品でき、販売価格も出品者が自由に設定できます。また、出品手数料は商品購入時に消費者が支払った金額の8~18%です。
食べチョクと提携した運送業者を使えば、割安な送料で商品を発送できるので、会員にお得な印象を与えられます。商品の提供後に会員とトラブルが生じた際は、運営側が間に入ってくれるので、安心して農家直送を始められます。
ポケットマルシェ
ポケットマルシェ
出典:株式会社PR TIMES(株式会社雨風太陽 ニュースリリース 2020年3月9日)
ポケットマルシェは、出品から注文確認・購入者への対応までスマホで完結できるオンラインマルシェです。
2022年1月時点での会員数は約46万人、6,400名以上の生産者が出品登録しています。購入者の約9割がサイトのメッセンジャー機能を活用しており、生産者と消費者のコミュニケーションを大切にしているサイトです。
最初に出品する際は、注文者用アカウントを作成したあとに行います。出品者登録を行うと5営業日以内に審査結果が通知され、出品可能となります。出品手数料は売上額の20%、提携する運送業者の自動伝票発行を利用する場合は別途87円の手数料が必要です。
購入後に「ごちそうさま投稿」を送る会員が多いため、コメントに返信することでリピーター獲得のチャンスにつながるでしょう。
ゴヒイキ
ゴヒイキ
出典:株式会社PR TIMES(株式会社Heart Full ニュースリリース 2020年9月9日)
ゴヒイキは、会員の予算や要望に応じて農産物を発送するスタイルの通販サイトです。2021年3月時点での会員数は約3万5千人、800件以上の農家が出品登録しています。
農家登録後は会員からのリクエストを待つしくみですが、農家の紹介文や写真を充実させると会員から指名される確率が高まるでしょう。
会員に届ける農産物は農家側が自由に選べますが、リピートにつなげるためには、調理のしやすさや食べやすさに配慮した対応が大切です。
利用手数料は販売価格の10%ですが、手数料を上乗せすると会員へのポイント還元率が高まり、販売促進につながります。
OWL(産直アウル)
OWL(産直アウル)
出典:株式会社PR TIMES(レッドホースコーポレーション株式会社 ニュースリリース 2022年4月7日)
OWL(産直アウル)は、年間生産額が100万円以上の農家が出品している通販サイトです。
生産者登録の時点で年間生産額が100万円未満でも、3年以内に達成する計画があれば登録できます。個人だけでなく飲食店も会員登録が可能なので、条件が合えば定期的にまとまった量の購入が期待できます。
出品する際は、専用アプリまたはパソコンで商品情報や写真を登録します。販売手数料は売上の10%、OWLが提携する運送会社を利用する場合も手数料は同額です。
会員とのトーク機能もあるので、農産物の特徴を詳しく説明したり、調理方法を提案したりすることで信頼関係をつくれます。それがリピーターの獲得につながるでしょう。
レッドホースコーポレーション株式会社「産直アウル 」生産者登録ページ
オンラインマルシェなどのECサイトを活用することで農産物の販路が全国に広がり、収益を増加させるチャンスが生まれます。農産物を購入した人とコミュニケーションを取ることで、農産物に対する信頼が深まると同時に、付加価値の向上もめざせるでしょう。
規格外野菜や余剰野菜の販路も広がり、フードロスの削減による社会貢献にもつながります。農家直送の将来性は高いので、市場出荷ルートと組み合わせて安定した農業経営をめざしましょう。
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舟根大
医療・福祉業界を中心に「人を大切にする人事・労務サポート」を幅広く提供する社会保険労務士。起業・経営・6次産業化をはじめ、執筆分野は多岐にわたる。座右の銘は「道なき道を切り拓く」。