青果市場のしくみをおさらい! 役割や販路にするメリットを知ろう
多くの農家にとって、青果市場は農産物の安定した出荷先として重要な存在となっています。しかし、出荷した農産物がどのように流通し、価格が決まっていくのかは意外と知られていません。そこで本記事では、農産物流通への理解を深めるために、青果市場について多角的に解説します。
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近年、農産物の流通は多様化し、販路の選択肢が広がっています。しかし、自ら販売する場合は販路開拓やマーケティングなども自力で行わなければならず、大きなリスクを伴います。そこで、青果市場のしくみを知ることで流通を理解し、適切な販路を見直すことが大切です。
jampan/PIXTA(ピクスタ)
青果市場の役割
卸売市場とは、全国の生産者や商社などから集められた生鮮食品等を消費者に提供する流通経路の基幹的な拠点です。取引内容によって青果、水産、食肉、花きなどに分けられ、それぞれ異なる組織を持ちます。
そのうちの青果市場では、各地の農家やJA、商社などから出荷された多種多様な野菜や果物を扱い、スーパーや八百屋などの小売業者や加工業者、外食業者などに販売されます。
青果市場という拠点があることで、さまざまな産地、品種、階級(サイズ)、等級(品質)の農産物を1ヵ所にそろえられます。そして、さまざまな需要を持つ小売業者や外食業者などの実需者が集まることで、迅速・効率的で公正な取引が可能になります。
このような流通における卸売市場の主な役割は、大きく4つあるとされています。
1. 多様な青果物を集めて仕分ける「集荷・分荷機能」
2. 取り扱う青果物の価格を公正に決める「価格形成機能」
3. 出荷者への「代金決済機能」
4. 出荷者と購入者双方への「情報受発信機能」
それぞれの機能については、のちほど解説します。
青果市場の現状
出典:農林水産省「平成30年度 食料・農業・農村白書(令和元年5月28日公表)」よりminorasu編集部作成
近年は、市場を通さずに農産物を販売する市場外流通が増えています。販売方法が多様化したことと、農産物のブランド化・6次産業化への取組みが進んだことが背景にあります。
実際に、実需者とをマッチングする商談会、農家個人によるインターネット通販やネット上のマルシェへの出品など、意欲ある農家と実需者、消費者を結ぶ仕組みがに一般的になってきました。
出典:農林水産省「卸売市場情報」のページ「参考資料」の項所収「令和3年度 卸売市場データ週 1~2」よりminorasu編集部作成
こうした状況を背景に、輸入品も含めた青果物の卸売市場経由率の推移は微減を続けており、2019年時点の重量ベースで53.6%と、全体のほぼ半量になっています。全国の市場や卸売業者の数も、横ばい状態にある中央卸売市場の市場数を除き減少しています。
出典:農林水産省「卸売市場情報」のページ「参考資料」の項所収「令和3年度 卸売市場データ週 1~2」「卸売市場をめぐる情勢について(令和4年8月)」よりminorasu編集部作成
出典:農林水産省「卸売市場情報」のページ「参考資料」の項所収「令和3年度 卸売市場データ週 1~2」「卸売市場をめぐる情勢について(令和4年8月)」よりminorasu編集部作成
なお、2022年6月時点で全国の中央卸売市場のうち、青果市場は38都市50市場あります。
中央卸売市場 市場数・都市数
市場数 | 都市数 | |
---|---|---|
合計 | 65 | 40都市 |
青果 | 50 | 38都市 |
水産物 | 34 | 29都市 |
食肉 | 10 | 10都市 |
花き | 14 | 10都市 |
その他 | 5 | 4都市 |
出典:農林水産省「卸売市場情報」のページ「参考資料」の項所収「令和3年度 卸売市場データ週 1~2」よりminorasu編集部作成
とはいえ、国産の青果物に限れば8割近くが卸売市場を経由しています。販路の選択肢が大きく広がった現在でもなお、青果の卸売市場は高い経由率を維持しており、その機能は流通において重要な基盤であることがわかります。
青果市場のしくみ
青果市場は農産物流通の基幹的な施設でありながら、そのしくみや機能については、多くの農家にとってあまり馴染みがないのではないでしょうか。
そこで以下では、農産物が出荷されてから小売店などの実需者に出荷されるまでの流れに沿って、青果市場のしくみについて解説します。
なお、以下の項目の内容は、前出の出典「卸売市場をめぐる情勢について」に基づいています。
集荷・分荷
tiger&lion / PIXTA(ピクスタ)
JAなどの出荷者は、集荷した農産物を品種や階級、等級ごとに選別後、青果市場に出荷します。
出荷者のうちの半分以上が農協系統団体です。ほかには商社や各産地の出荷業者、任意組合などがあり、農家個人が直接出荷することも可能です。
出典:農林水産省「卸売市場情報」のページ「参考資料」の項所収「卸売市場をめぐる情勢について(令和4年8月)」よりminorasu編集部作成
青果市場に集まった野菜や果実などの農産物は、まず卸売業者が仕入れます。その際、卸売業者に委託手数料を支払って販売を委託する場合と、卸売業者が買い取って販売する場合があります。
卸売業者は、仕入れた農産物を買い手の注文の通りに仕分け(分荷)します。
さまざまな産地で生産された多様な農作物を集め、迅速・的確に実需者のもとに届けるために、非常に効率的な方法です。
価格決定
Cybister/PIXTA(ピクスタ)
集荷された農作物は、卸売市場での取引を通して価格を決められます。青果市場で取引できるのは市場開設者に認められた卸売業者や仲卸業者、売買参加者だけであり、信用が確保されています。
取引の方法には「セリ」と「相対」があります。セリとは「競り」「入札」ともいい、売り手に対し購入を希望する複数の買い手が競争しながら価格を決める方法です。一方の相対とは、売り手と買い手が1対1で交渉しながら価格を決める方法です。
従来、青果市場での取引といえばセリのイメージが一般的でしたが、近年は主流がセリから相対へと移行してきているといわれます。
いずれの場合も、毎日の取引結果を公表し、市場内では誰でも商品価格や取引数量がわかるようにすることで、公正で透明性のある価格形成がなされています。
販売・出荷
chigasaki7 / PIXTA(ピクスタ)
卸売業者は、仕入れた農産物をセリや相対を経て仲卸業者や売買参加者などに卸します。仲卸業者は、小売業者や外食業者などの注文を受けて仕入れに来ていることも多いため、注文に沿うように仕入れた農産物を小分けにし、パッキングしてから販売先に配送します。
また仲卸業者は、仕入れた品を青果市場内の店舗で小売店や飲食店から来た買出人に対して販売することもあります。ここまでが、青果物の流通における青果市場の役割です。
農業従事者が青果市場を販路にするメリット
資料提供:株式会社コーポレイトディレクション
市場流通が今でも多くの農家に支持されているのはなぜでしょうか。それを知るために、農家が青果市場を利用する主なメリットを3つ解説します。
「全量引き受け」で在庫リスクが軽減される
市場流通において卸売業者が出荷者から委託集荷をしている場合、受託した農産物の全量を引き取らなければならない「全量引き受け」という原則があります。これは、農家は作物を作りすぎた場合でも、必ず全量出荷できるというしくみです。
その代わりに、このしくみでは農家は価格決定に参加できないため、希望の価格で売れないというデメリットもあります。とはいえ、生産量のコントロールが難しい農産物において、全量引き受けの原則によって在庫を抱え処分するリスクが軽減されることは、大きなメリットでしょう。
コストが抑えられる
瑞鳳 / PIXTA(ピクスタ)
市場流通では、農家は農産物をまとめてJAに出荷するというのが一般的です。JAを通さない場合でも、ほかの任意組合や商社を通して卸売業者に託します。
細かく仕分けしたりパッキングしたりする作業も不要なので、それらの作業にかかる経費や遠方に配送する物流費を抑えられます。コストや作業が軽減されることで、その分、作物の生産に専念できるのも大きなメリットです。
また、前項で触れたとおり、全量を引き受けてもらえるため売上がゼロになることはなく、最低限の利益を確保できます。
商品価値情報の発信が強化される
卸売市場では、日々の卸売数量や価格といった取引結果を公表するだけでなく、需要と供給に関わるさまざまな情報を出荷者と販売先双方に伝達する役割もあります。
具体的には、農家から得た産地や農産物の生産状況を販売先に教えたり、地場特産品の商品特性をアピールして価格を引き上げたりできます。
反対に、小売店から得た売れ筋商品の情報や消費者の反応などを出荷者に伝えることも可能です。しかも卸売業者は複数の取引先を持つので、多くの売り先から幅広い情報が偏りなく得られる点も、市場流通ならではのメリットです。
農業従事者が青果市場を販路にするデメリット
市場流通への理解を深めるには、メリットだけでなくデメリットについても把握しておく必要があります。ここでは、主なデメリットを2点挙げます。
商品の質が差別化されにくい
jampan/PIXTA(ピクスタ)
市場流通では、出荷された農産物は品目ごとに集められ、品種や、階級・等級ごとに分けられることで、ほかの農家との区別が付かなくなります。こだわりをもって手数を惜しまず育てた作物であっても、農家が込めた思いまでは伝わりません。
均質で大量生産をめざして生産している場合には効率的でよいですが、付加価値を持ち、他所と差別化を図りたい場合には市場流通は向きません。ただし、買参権を持った買い手の場合は目利き力をしっかり持っているので、商品としての正当な評価はしてもらえるでしょう。
価格の決定権がない
先にも触れましたが、多くの場合は卸売業者に委託販売をするため、農家に価格の決定権はありません。販売価格は市場に左右され、需給バランスによって決められてしまいます。農作業にかかったコストなどは考慮されません。
そのため、収量が多くても安値を付けられ売上が伸びない場合もあれば、市場に少ない時期には少量でも高値が付くなど、価格が不安定になります。
ただし、市場の動きを読むことで、高値の付く時期を見極めて収穫を合わせ高収益を得るなど、不安定さを活かした経営戦略を立て、デメリットをメリットに変えることも可能です。
▼農業経営における販路の考え方については、以下の記事も参考にしてください。
青果市場は農業従事者を支援している!
農家にとって青果市場が重要であるのと同じように、青果市場にとっても農家は大切な存在です。それゆえ青果市場では、国内青果物の安定的な販売のために、農家を支援するさまざまな活動を行っています。
例えば、小売店頭まで青果物の鮮度を保つために低温売り場を充実させたり、カット野菜や野菜の冷凍などの簡易加工サービスを卸売市場内で行ったりして、実需者のニーズに応え売上を伸ばしています。
また、実需者と農家の間での契約取引を積極的に仲介しています。万一、契約した農家の生産量が足りない場合でも、多くの農作物が集まる卸売市場の強みを活かし、ほかの出荷元から調達することで契約を確実に履行できるため、安心して契約を結ぶことが可能です。
そのほか、1ヵ所に農産物が集中して余剰が出てしまった場合に、全国に広がる市場間ネットワークを活用して他地域との情報交換や商談を行い、販売先を開拓する取り組みや、手数料を廉価に抑えつつ出荷奨励金を交付する取り組みなど、さまざまな面で農家をサポートしています。
オグオグ2 / PIXTA(ピクスタ)
農産物の販路を自由に選択できるようになり、市場外流通が注目されていますが、それでも国産の青果物の8割近くは市場流通を利用しています。
青果市場には、直接販売や実需者との直接契約では得られない多くのメリットや、農家、出荷者と卸売業者、実需者が互いに助け合うしくみもあります。市場外流通と市場流通の両方の特徴をよく押さえ、自分の経営ビジョンに最も適した販路を見つけましょう。
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大曾根三緒
ビジネス、ペット、美術関連など多分野の雑誌で編集者として携わる。 全国の農業協同組合の月刊誌で企画から取材執筆、校正まで携わり、農業経営にかかわるあらゆる記事を扱かった経験から、農業分野に詳しい。2019年からWebライターとして活動。経済、農業、教育分野からDIY、子育て情報など、さまざまなジャンルの記事を毎月10本以上執筆中。編集者として対象読者の異なるジャンルの記事を扱った経験を活かし、硬軟取り混ぜさまざまなタイプの記事を書き分けるのが得意。