“野菜の定期便”やってみるべき? 農家の売上を伸ばす販路拡大アイデア
新鮮な旬の野菜類を直接消費者に届ける「野菜の定期便」に取り組む農家が増えてきました。実際にどのようなサービスなのか、どのようなメリットやデメリットがあるのかについて、具体例を挙げて解説します。実施する際の注意点も紹介するので、取り組んでみてはいかがでしょうか。
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目次
コロナ禍においてインターネットショッピングを利用する方が増えています。その中で注目を集めているのが「野菜の定期便」です。実際にはどのようなサービスなのか、定期便の参考例、農家にとってのメリット・デメリット、取り組む際の注意点を紹介します。
コロナ禍で市場拡大! 注目度が増す「野菜の定期便」とは?
kino_noko / PIXTA(ピクスタ)
「野菜の定期便」とは、定期的に野菜類を消費者に配達するサービスです。実施している団体や農家にもよりますが、週に1回、月に1回のように配達の頻度を選べるようにしています。また、旅行などの諸事情により定期便を受け取れないときは、1回スキップというように柔軟に対応しているサービスも少なくありません。
野菜の定期便では、季節の旬の野菜類をセットにして届けます。基本的に、消費者側が、どの野菜類を受け取るかは選べません。また、届けた野菜類のセットで料理できるように、レシピを入れているサービスもあります。
コロナ禍以降、休日も在宅で調理をする方が増えました。また、店舗に買い物に行くのではなく、インターネットショッピングを利用する方も増えています。このような状況の中、野菜の定期便を利用する方が増えたのです。
なお、野菜の定期便は以下のような形で運営されています。
・企業が複数の農家と提携して、配達部分を企業が担っているケース
・比較的大規模な農業経営体が、自社生産した作物を自ら定期販売するケース
外食需要が減少している今、野菜の定期便は、農家が売り上げを伸ばすために検討したい販売方法といえるでしょう。
「野菜の定期便」を行っている食材配達サービスの例
野菜の定期便サービスにはどのようなものがあるのか、具体例を挙げて解説します。それぞれのサービスの特徴と農家との契約形態などを紹介するので参考にしてください。
らでぃっしゅぼーや (オイシックス・ラ・大地株式会社)
旬の野菜の詰め合わせを毎週配送するサービス「ぱれっと」
出典:株式会社PR TIMES(らでぃっしゅぼーや株式会社(2018年10月 オイシックス・ラ・ダイチ株式会社と統合) ニュースリリース 2018年8月6日)
「らでぃっしゅぼーや」とは、オイシックス・ラ・大地株式会社が運営する宅配サービスです。
らでぃっしゅぼーやは、消費者がカタログからほしいものを注文する「定期お届け」がメインですが、農家が旬の野菜の詰め合わせボックスを届ける「ぱれっと」という野菜の定期便も提供しています。
生産者と会員さまをつなぐおいしい通い箱『ぱれっと』
らでぃっしゅぼーやの大きな特徴は、独自に定めている環境保全型生産基準「RADIX」を満たす生産者のみと契約していることが挙げられます。
契約前はもちろん契約後も、ほ場データ・使用予定農薬・使用予定肥料・作業計画と実施内容などのデータの提出が求められます。
らでぃっしゅぼーやの環境保全型生産基準「RADIX」
RADIX基準「農産品」のページ
食べチョク (株式会社ビビッドガーデン)
「食べチョクコンシェルジュ」が消費者の希望に合わせて、全国のこだわり農家の野菜を選ぶ
出典:株式会社PR TIMES(株式会社ビビッドガーデン ニュースリリース 2021年7月28日)
「食べチョク」とは、株式会社ビビッドガーデンが運営する宅配サービスです。らでぃっしゅぼーやと同じく複数の個人農家と提携しています。また、食と健康に高い関心を持つ消費者をターゲットとしているため、届ける野菜類にもこだわりがあります。
具体的には、農薬・化学肥料の施用量を基準の5割以下に抑えて栽培した野菜類だけを届けるというものです。
食べチョクでは、「食べチョクコンシェルジュ」というしくみを導入して以下を行っています。
・コンシェルジュが、消費者の希望に合わせて、全国のこだわり農家の中から野菜を選ぶ
・コンシェルジュに選ばれた農家は、消費者に野菜類を直送する
食べチョクコンシェルジュの導入により、収穫後に最短24時間以内での配送を実現してきました。
農家にとっては、スピーディな対応が求められる反面、農園の詳細ページで消費者に顔を見せたり、直接やり取りもできるため、着実にファンを増やせるというメリットがあります。
食べチョク
食べチョク 出品者募集のページ
秋川牧園 (株式会社秋川牧園)
直販事業に使う段ボールに「そだてる、つくる、たべる。」というコンセプトを表現
出典:株式会社PR TIMES(株式会社秋川牧園 ニュースリリース 2021年1月1日)
山口県にある「株式会社秋川牧園」では、グループ農場(生産子会社)のほか、生産登録農家から提供を受けた農産物を調整・加工したうえで消費者へ届けています。
生産と加工販売を明確に役割分担しているのが大きな特徴です。生産現場については、生産子会社による直営生産と提携する生産者が担当し、加工や品質管理、技術開発、販売などの役割は秋川牧園が担当しています。
また、消費者への直販だけでなく、生協やスーパーマーケット、ほかの宅配会社などへの卸も事業の大きな柱であることも特徴で、農家にとっては安定した出荷先として期待できるといえるでしょう。
秋川牧園のビジネスモデル
秋川牧園の畜産品については、「飼料用米プロジェクト」として、飼料の国産化を推進しています。耕種農家としては飼料用米の契約農家としての参画も選択肢となります。
ただし、安心・安全については、らでぃっしゅぼーや同様、独自の基準を定めています。化学農薬・化学肥料の使用や使用資材、ハウス栽培の方法などに制約があります。
例)野菜の主な基準
始めるべき? 農家が野菜の定期便販売に取り組むメリット
これから野菜の定期便に取り組むかどうかを検討している方に向け、野菜の定期便を利用する3つのメリットを紹介します。
・売上の予測が立てやすくなり、売上の増加や安定化をめざせる
・規格外の野菜類も販売でき、フードロスの削減につながる
・こだわりの農産物を自由な価格で販売できる
それぞれのメリットについて、詳しく見ていきましょう。
売上の予測が立てやすくなり、収入の安定化が目指せる
Mr.Ekachai Lohacamonchai / PIXTA(ピクスタ)
定額の野菜類販売を決まった周期で行うことで、売り上げ予測が立てやすくなります。さらに売上の増加や安定も図れます。また、卸売業者や小売店など多くの業者を通さずに消費者に販売できるので、利益率が上がることもメリットです。
格外の野菜類も販売でき、フードロスの削減につながる
JAなどの規格に合わずに廃棄するしかなかった野菜類も、野菜の定期便では販売可能です。
例えば、らでぃっしゅぼーやでは、規格外の野菜類を集めた「ふぞろいRadish」の取り組みを実施し、消費者に販売しています。規格外の野菜類を収入に変えられるだけではなく、社会問題にもなっているフードロスの削減にもつながります。
▼規格外野菜の販売についてはこちらの記事もご覧ください。
こだわりの農産物を自由な価格で販売できる
自分でネットショップを開設した場合、あるいは販売や価格を自由に決められるタイプの食材配達サービスと提携した場合は、作物などの値付けを自分で行えるようになります。こだわりをもって栽培した作物を納得できる価格で販売できるだけではなく、利益率の向上もめざせます。
一方でデメリットも。 定期販売の実施前に知っておきたい注意点
野菜の定期便には注意すべき点もあります。これから野菜の定期便に取り組むかどうかを決める前に、定期便販売のデメリットについても理解しておきましょう。
・出荷や配送、在庫管理にかかる負担が増える
・自身でネットショップを運営する場合は、法律やマーケティングの知識が必要
それぞれの注意点について、詳しく解説します。
出荷や配送、在庫管理にかかる負担はどうしても増える
こしあん / PIXTA(ピクスタ)
野菜の定期便を実施して販路を増やす分、出荷や配送の負担が増えます。また、規格外の野菜類を販売する場合は、選別の負担が新たに増えることになります。
野菜の定期便を利用する場合は、システムのルールを遵守する必要があります。例えば、収穫後24時間以内に発送する、注文後一定期間は変更を受け付けるなど、農家にとって負担となるルールもあるので、利用する前に詳しく確認しておきましょう。
自身でネットショップを運営する場合は、法律やマーケティングの知識が必要
自社生産した作物を自らネットで定期販売しようとする場合、特定商取引法などの知識が必要になります。また、集客のためにマーケティングやインターネットショッピングの基礎を学ぶ必要も生じるでしょう。
加工品も合わせて販売する場合は、別途、営業許可が必要になります。学ぶことや許認可の手続きなどに時間がかかり、最初のうちは忙しくなるでしょう。
▼野菜販売に当たっての注意点はこちらの記事をご覧ください。
自身に合った方法で、「野菜の定期便」システムをうまく活用しよう
「野菜の定期便」の販売方法は、出荷に伴う負担などは増えるものの、売上の増加や安定などのメリットが多くあります。販路の拡大による売上増加をめざすのならば、ぜひ検討したい選択肢といえるでしょう。またファンを獲得すれば、販売量や収入の安定化も図れます。
「野菜の定期便」を始める方法は主に2つです。
1.食材配送サービスとの提携
2.自社運用
両方のメリットとデメリットを比較して決定しましょう。また、どちらの方法にするかを決定する際に、自身が持っているスキルやかけられる時間などを考慮するとよいでしょう。
マーケティングやインターネットショッピングの素養がある場合であれば、生産する品目や量、価格決定の自由度が高い「自社運用」も可能です。ただし、広告やプロモーションなどによる顧客開拓の難易度は高く、パッキングなどの資材や調整・梱包作業の人手も自社で調達しなければなりません。特定商取引法などの法律やインターネット販売の手続きも必要です。
食材配送サービスの提携農家になる場合は、自社でマーケティングを担わなくてよいのが大きなメリットですが、価格や出荷量は企業との交渉になります。また、その企業が要求する生産基準を満たす必要があり、その基準を守るための生産技術やほ場環境が求められます。
▼農家直送の成功事例、通販サービスの利用などについてはこちらの記事もご覧ください。
コロナ禍の影響により、自宅での食事にこだわる方やインターネットショッピングを日常的に行う方も増えてきました。定期的に旬の野菜類を消費者に直接届ける「野菜の定期便」のサービスを利用する方も増加しています。「野菜の定期便」は農家にとって販路拡大や利益増につながるサービスといえるでしょう。
ただし、メリットがある反面、デメリットもあります。農協共販などのメインの取引を維持しながら、トライアルしてみてはいかがでしょうか。
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林泉
医学部修士、看護学博士。医療や看護、介護を広く研究・執筆している。医療領域とは切っても切れないお金の問題に関心を持ち、ファイナンシャルプランナー2級とAFPを取得。