【りんごの摘果】果実肥大も叶える省力化技術と、“摘果りんご”の活用事例
りんご栽培において、中心果を残して周りの幼果を摘み取る「摘果」は、大きく味のよい果実を生産するうえで欠かせない作業です。本記事では、りんごの摘果の基礎知識と省力化技術や摘果後の果実の活用例について解説します。
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目次
この記事では、りんごの摘果の目的と効果、「あら摘果」と「仕上げ摘果」のタイミング、「あら摘果」の手順を解説し、あわせて摘果の省力化技術や摘果した果実の活用事例について紹介します。
りんごの“摘果”とは? 目的と、実施によって得られる効果
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摘果とは、果樹栽培における管理方法の1つで、幼果の時期に小さな果実を間引きし、着果した果実の一部をあえて取り除くことによって、1果当たりの葉の枚数を調整し、残された果実の大玉化や高品質化を実現します。
摘果と似た管理方法に「摘花」があります。りんごの場合、開花期に授粉作業と同時期に行われる「摘花」と、果実が結実しはじめたころにさらに果実を摘み取る「摘果」の二段階で、最終的に収穫する果実の数を絞り込んでいきます。
摘果は、満開後25〜60日の間で2回に分けて行うのが一般的です。
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【手順解説】 りんごの摘果に適した時期と作業方法
残した果実に養分を効率的に行き渡らせるには、摘果のタイミングと摘果の程度が重要です。
りんごの摘果を行うタイミング
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前述した通り、りんごの摘果は、開花後2回に分けて行うのが一般的です。1回目の摘果は「あら摘果」と呼ばれ、満開後30日頃が目安で、2回目の摘果である「仕上げ摘果」は、満開後60日頃までが目安です。このタイミングまでに、最終的に収穫する果実数となるように調整しながら摘果を行います。
摘果のタイミングが遅れると、果実の小玉化や低品質化だけでなく、着色や糖度にも悪影響が及ぶ恐れがあります。摘果作業が遅れそうな場合には、農薬による摘果も検討してください。
仕上げ摘果を行ったあとであっても、さび果や肥大不良果、変形果を発見した際には全体を見直し、必要に応じて摘果を実施します。
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あら摘果の具体的なやり方と、めざすべき着果数の目安
りんごは基本的に「1つ成り摘果」を行います。1つ成り摘果の際は、以下3つのポイントを守って実施します。
1.基本は中心果を残して、側果を摘み取る
2.中心果の状態が悪い場合は、側果の中からよい果実を残す
3.枝先から見て最初の年次までの部分(新梢)については、全ての果実を摘み取る
基本的に「中心果」を残し側果を摘み取る方法が一般的ですが、果実の状態に合わせて臨機応変に対応する必要があります。
果実の大きさや品質は、1果当たりの葉の枚数による影響が大きいため、葉の枚数に応じて「結実数」を設定し、摘果の程度が決められます。摘果が不十分であれば糖度や着色が不十分で、かつ小玉サイズになる傾向があり、翌年の結実数にも悪影響を及ぼします。
摘果の程度は、品種や産地によって異なりますが、大玉の場合は4~5花房に1果、中玉の場合は3~4花房に1果を目安としている場合が多いようです。
地域の生産組合やJA、農業試験場などに、目標収量と摘果の程度などの基準を確認してください。
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大玉化もめざせる?! 「摘花剤・摘果剤」による省力化技術
一つひとつの蕾や幼果の状態を見て行う摘果には、かなりのコストがかかります。場合によっては、摘果の前に開花した花を取り除く「摘花」を行うケースもあり、そうなるとさらに時間的な負担が大きくなります。
そこで、「摘花剤」や「摘果剤」を利用することで摘果作業を省力化することができます。さらには果実肥大の促進効果も期待できます。
農研機構の研究でも、「ジョナゴールド」や「つがる」といった品種は、摘花剤が効果的であると報告されています。
ただし、同研究では、生産規模が少なく開花後25日までに問題なく摘果(摘花)が行える農園であれば、摘花剤(摘果剤)による効果は期待できないという記述もあります。生産規模に応じた摘果剤の使用が重要といえるでしょう。
出典:農研機構「果樹研究所 2015年の成果情報」掲載「リンゴの摘花剤散布は果実を肥大させ、摘果剤との併用で摘果作業も省力できる」
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6次産業化も! 参考にしたい、農家の“摘果りんご”活用事例
早期に摘み取ってしまったりんごも、使い方次第では6次産業化を実現できます。食品ロスを減らすことはもちろん、収益増加につながります。ここでは実際の活用例とともに、摘果りんごの活用方法や活用事例を紹介します。
摘果りんごをシードルやジュースの原料に! (もりやま園株式会社)
もりやま園株式会社の「TEKIKAKA(テキカカ)シードル」。摘果時に廃棄されてしまう「摘果果(テキカカ)」を利用したシードルを自社醸造している。
出典:株式会社PR TIMES(もりやま園株式会社 ニュースリリース 2018年2月26日)
青森県でりんごを生産している「もりやま園株式会社」では、摘果したりんごをシードル(りんご酒)やりんごジュースの原料として活用しています。これまでこのような加工品に用いる果実は、「規格外品」であることが一般的でした。
成熟したりんごを使うということは、すなわち出荷できるりんごが減るということです。しかし、出荷予定のない摘果りんごを活用することで、その問題が解消されます。
また、摘果りんごを用いてシードルやジュースを作ることには、経営の安定化といった効果も望めます。りんごの収穫時期は台風のシーズンに重なることが多く、収量が不安定になるケースも考えられます。しかし、摘果りんごであれば安定した数を収穫できるため、収益も安定して得ることができます。
もりやま園株式会社 ホームぺージ
出典:
株式会社PR TIMES「リンゴ農業が変わると、ビジネスが変わる?「もりやま園」の面白試み!(もりやま園株式会社 ニュースリリース 2018年2月26日)」
株式会社PR TIMES「世界初!リンゴの摘果をつかったシードル「TEKIKAKA CIDRE(テキカカ シードル)を2月1日(木)より発売開始!(もりやま園株式会社 ニュースリリース 2017年12月26日)」
摘果りんご活用に向けて、農薬散布のタイミングを変更 (株式会社マツザワ)
長野県で観光土産品の開発や製造を行う「マツザワホールディングス株式会社」の中核企業「株式会社マツザワ」では、摘果りんごを活用したお菓子を提供しています。「りんご乙女」と呼ばれる薄焼きのクッキーは、爽やかな香りと甘酸っぱさが魅力となっています。
マツザワホールディングス株式会社 ホームぺージ
しかし、摘果りんごを加工品として販売するためには、農薬取締法などの問題がありました。同社では地域農家と連携することで、農薬散布のタイミングや種類を変更し、摘果りんごを規格範囲内のサイズに調整することで問題を解決しました。
こうして、原料の50%以上にりんごを用いたりんご乙女が作られるようになりました。
出典:農林水産省 「長野県内における優良事例の紹介 株式会社マツザワ「地元関係者との連携による「摘果りんご」の活用」
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りんご栽培では、最終的に収穫する果実数を、品種や樹勢に応じて摘果して調節することで、品質を向上させることができます。
摘果によって間引きされた「摘果りんご」については、もりやま園株式会社や株式会社マツザワの事例のように、6次産業化につなげることができます。参考にしてみてはいかがでしょうか。
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姫路弥由
ビジネス、金融、不動産、ライフスタイル等、幅広いメディアにライターとして携わる。現在も月20本前後のライティングと、電子書籍の執筆を担当。調理師免許を保有していることから、食材についての関心が高く、農業分野にも執筆の幅を広げて活動しています。