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桃の剪定方法と作業時期は? 収量が増える「プロのコツ」を大公開

桃の剪定方法と作業時期は? 収量が増える「プロのコツ」を大公開
出典 : anchan / PIXTA(ピクスタ)

桃は冬季剪定が一般的ですが、樹勢によっては秋季剪定も可能です。ただし、過度な剪定は枯死を招くなど、注意すべき点があります。本記事では桃の基本の剪定方法と注意点、また防除効果を高める新しい樹形についてまとめています。

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桃は、枝が繁茂しやすく、樹齢によって樹形を変えていくことから、作業効率を上げて高収量を得るためには整枝・剪定が重要です。本記事では、樹齢ごとの剪定の方法と注意点、秋季剪定や防除の効率化につながる樹形についてまとめています。

多収を実現する第一歩! 桃に剪定が必要な理由

桃の栽培で大切な樹冠の採光と通風

taka / PIXTA(ピクスタ)

桃の栽培で整枝・剪定を行う主な目的は、安定生産・品質向上と作業性の向上です。

主枝・亜主枝・側枝・結果枝をバランスよく整え、樹勢をコントロールすることが安定した収量の確保につながり、樹冠の採光と通風をよくしておくことで品質が揃いやすくなります。

また、整枝・剪定しておくことで、剪定作業以降の摘蕾・摘花・受粉と続く栽培管理と収穫作業がやりやすくなります。

桃の剪定のあとにはすぐに摘蕾が始まり、その後、摘花、人工授粉、袋掛け、収獲と作業が続く

桃の剪定のあとにはすぐに摘蕾が始まり、その後、摘花、人工授粉、袋掛け、収獲と作業が続く
東北の山親父 / PIXTA(ピクスタ)・あこたま / PIXTA(ピクスタ)・ papilio / PIXTA(ピクスタ)

剪定作業だけで桃の収量や品質が決まるわけではありませんが、栽培管理の一環として、適正に行うことが重要です。

なお、樹形を整えることを「整枝」、枝を切ることを「剪定」といいますが、本記事ではまとめて剪定と記載しています。

桃の剪定はいつが目安? 樹のダメージを極力抑えられる時期

冬季の桃園地 収穫後の袋だけが残っている

冬季の桃園地 収穫後の袋だけが残っている
ヨハン / PIXTA(ピクスタ)

適切なタイミングで剪定を行わないと樹にダメージを与えることになり、枯れる原因にもなりかねません。桃の剪定は、12月〜2月頃までを目安に行います。この期間は桃の休眠期で、発芽前の期間です。樹への負担を極力減らすためには休眠期中の剪定が推奨されます。

ただし、詳しくは後述しますが、樹勢が特に旺盛な場合は9月上旬に剪定を行う場合もあります(秋季剪定)。

【手順解説】 基本の桃の剪定方法

桃 開心自然形

kikisorasido/ PIXTA(ピクスタ)

この章では、桃の剪定の基本として、もっとも一般的な「開心自然形」について、目標樹形と、目標樹形に近づける過程での整枝・剪定の仕方を紹介します。

※本記事では、初心者の方に向け、基礎知識としての剪定方法をまとめています。地域あるいは品種によって、推奨される目標樹形、目標収量と剪定強度などは異なります。また、各地できめ細かな指導や講習がなされていますので、自治体の農政部署や地域のJAに是非問合せてみてください。

切り返し剪定と間引き剪定

枝の途中で切る「切り返し剪定」は、樹の骨格となる強い新梢を伸長させたり、下垂してきた枝の勢いをを回復させるなどの目的で行います。

切り返し剪定が樹勢を強くするのに対し、枝の基から切る「間引き剪定」は樹勢を落ち着かせ、日当たりや通風をよくし、花芽のつきをよくする役割があります。摘蕾以降の作業性も左右します。

開心自然形の目標樹形と枝の名前

果樹 開心自然形の模式図

出典:下記資料よりminorasu編集部作成
山梨県果樹試験場「栽培技術資料|モモ、スモモ、オウトウの栽培管理」所収「モモの整枝剪定について」
奈良県「モモづくりのポイント」
都留市「果樹栽培マニュアルを改訂しました!」所収「都留市果樹栽培研究会|都留市版モモ栽培マニュアル(令和4年3月)」
佐賀県果樹試験場「果樹の栽培管理」所収「落葉果樹のせん定・管理~ブドウ・モモ・スモモ・カキ・キウイフルーツ~」

桃の栽培での一般的な樹形は、2本主枝で仕立てる開心自然形です。主幹から2本の主枝を立て、それぞれ2本ずつ、合計4本の亜主枝が伸長するように仕立てます。

主枝のうち主幹に近い枝が第1主枝で、地上高40〜80cmを目安に伸ばしていきます。第2主枝は、地上高1.0~1.5mくらいの位置から伸びるようにします。

主枝から2本伸びる亜主枝はそれぞれ1mほど間隔を空け、主枝に対して60度の角度で開くようにします。

そして、主枝と亜主枝すべての枝において、先端が頂点となる三角形を形作るように側枝を伸ばしていき、枝の先端から樹冠の内側に至るまで日光を取り込みやすい樹形を作っていきます。

1年目|第2主枝を充実させる

桃 植栽後1年目の整枝・剪定イメージ

桃 植栽後1年目の整枝・剪定イメージ
出典:都留市「果樹栽培マニュアルを改訂しました!」所収「都留市果樹栽培研究会|都留市版モモ栽培マニュアル(令和4年3月)」よりminorasu編集部作成

桃は、より新しく出た枝、より基部に近い枝が強く伸びる性質があります。そこで、植栽1年目の冬には、基部に近い第1主枝ではなく、第2主枝を充実させることを優先させます。

2年目には、第2主枝よりも下方からでている枝が強く伸びてくるので、これらから第1主枝を選ぶことで、将来的に2本の主枝のバランスがとれるのです。

具体的には、既に強く伸びている枝を第2主枝とし、この枝の切り返しと競合する枝の間引きをします。

第2主枝の切り返し位置は先端から1/3~1/2くらい、充実した「外芽」(下側を向いた葉芽)のすぐ上です。

その他は、第2主枝と競合する枝のみ剪除しておきます。主枝と競合する枝以外を残すのは、葉の面積をなるべく多くし、幹を太らせ、しっかりした樹形を作るためです。

2年目| 第1主枝を決める

桃 植栽後2年目の整枝・剪定イメージ

桃 植栽後2年目の整枝・剪定イメージ
出典:都留市「果樹栽培マニュアルを改訂しました!」所収「都留市果樹栽培研究会|都留市版モモ栽培マニュアル(令和4年3月)」、奈良県「モモづくりのポイント」よりminorasu編集部作成

植栽2年目の冬は、第1主枝を決めて誘引し、2本仕立てにします。

第1主枝は、第2主枝より少し下で、主幹との分岐点の太さが、第2主枝に対して7:3、あるいは、8:2程度の枝を選びます。前述したように、桃は、基部により近い枝が強くなる性質があり、幼木の段階で第1主枝が強いと、第2主枝が負けてしまうことがあるからです。

2本の主枝は、互いに反対方向に伸びるように支柱などで誘引します。

それぞれの主枝は、枝の色の変わり目付近を目安に切り返します。また、亜主枝候補として樹勢が強すぎない枝を残し、亜主枝の先端は生長を促すように切り返します。そして、主枝と競合する枝や、内向枝や徒長枝を剪除してすっきりさせます。

桃 2~3年目ごろの若木

tenjou / PIXTA(ピクスタ)

3〜5年目|亜主枝を配置し、結果する枝を作っていく

果樹 開心自然形の模式図

出典:下記資料よりminorasu編集部作成
山梨県果樹試験場「栽培技術資料|モモ、スモモ、オウトウの栽培管理」所収「モモの整枝剪定について」
奈良県「モモづくりのポイント」
都留市「果樹栽培マニュアルを改訂しました!」所収「都留市果樹栽培研究会|都留市版モモ栽培マニュアル(令和4年3月)」
佐賀県果樹試験場「果樹の栽培管理」所収「落葉果樹のせん定・管理~ブドウ・モモ・スモモ・カキ・キウイフルーツ~」

主枝を確定できたら、主枝から発生してくる枝の中から亜主枝を選んで配置していきます。

第1亜主枝は、主枝の側面・斜め下から発生し、主枝に対して太さの比率が7:3ほどの弱めの枝を利用します。

植栽から4〜5年目になると、おおよそ目標の樹高に近付きます。この頃に第2亜主枝を養成します。第2亜主枝は、第1亜主枝の反対側、1mほど離れたところに配置します。

整枝のあとは、主枝と競合する立ち枝を中心に剪定していきます。主枝は、前年と同様、樹勢に注意しつつ切り返しを行いましょう。

桃の樹形 徐々に目標樹形に近づける

shotariver / PIXTA(ピクスタ)

亜主枝が決定したら、側枝を形成するために先刈りを行います。

側枝は、主枝・亜主枝から発生する結果枝を持つ枝です。側枝全体の配置は、亜主枝の先端に向けて三角形をイメージしましょう。また、側枝同士が混み合わないようにできるだけ小さく保ち、果実をならせては下垂させ、順次切り返して更新するようにします。

なお、桃は主枝のような太枝に直射日光が当たると、日焼けを起こしやすいので、背面から発生している小枝は多めに残します。

結果枝の剪定

桃の結果枝

orca / PIXTA(ピクスタ)

植栽3年目ごろから結実が始まります。結果枝の剪定では樹の状態を考慮し、樹勢を調節することを意識して、切り返し剪定と間引き剪定を使い分けます。

樹勢の弱い樹については樹勢の回復を目的として切り返し剪定を行います。原則として、中果枝・短果枝の切り返しは行いません。強い枝は弱く、伸びや充実が悪い枝は強めに切り返すことで、常に若返りを促します。

間引き剪定は、枝の間隔が混み合わないように行います。

樹勢が強い桃には「秋季剪定」も検討を

桃は枝が生い茂りやすく、樹冠内部が暗くなり、枝の充実不良が起きやすい果樹です。特に樹勢が盛んな樹の場合、樹形の乱れも目立つため、翌年以降の樹勢抑制に効果的な秋季剪定を検討してみるとよいでしょう。

以下では、秋季剪定のメリットや流れ、注意点を解説します。

桃の秋季剪定を行うメリット

桃の園地 秋

Yama/ PIXTA(ピクスタ)

秋季剪定のメリットは、葉のある状態で剪定を行えるので、樹冠下の明るさを確認しながら誘引・剪定できる点です。樹冠内部への日当たりを確認しながら適正に剪定することで、翌年の結果枝が充実し、徒長枝の発生が減り、新梢管理を省力化できます。

また、冬季剪定より切り口が小さい秋季剪定では、切り口の癒合がよく、枯れ込みが比較的少なくなります。さらに枝がやわらかい分、誘引・剪定がしやすいことも秋季剪定ならではのメリットです。

秋季剪定の実施判断と時期

秋季剪定を行う場合は、実施のタイミングと桃の樹勢に留意する必要があります。

秋季剪定は、二次伸長の心配がなくなる9月上旬~中旬を目安に行います。10月に行うと冬季剪定に近くなり、剪定の効果が現れにくくなります。逆に、実施が早すぎると二次伸長を招いてしまいます。

また、徒長枝の発生が少なく樹勢が低下している樹や、秋季に落葉している樹、病害虫の発生が見られる場合には、樹勢のさらなる低下を招く恐れがあるため、秋季剪定は控えましょう。

秋季剪定の作業手順

秋季剪定の手順として、まず主枝および亜主枝、側枝を支柱を立てて持ち上げます。その際、主枝には添え竹をして荒縄で固定し、湾曲を直します。

次に、側枝の間引きをします。また、側枝や主枝・亜主枝から発生した徒長枝の剪除もします。徒このとき、枝の日焼けを防ぐため20cmほど残して剪除すると良いでしょう。

注意点は? プロ農家が知る“失敗しない剪定”のコツ

最後に、実際の現場で農家が意識している剪定強度と農薬の到達度に着目した改良樹形について紹介します。

剪定は最小限とし、切断面を増やさない

桃の剪定切り口

hanamomo_eiko / PIXTA(ピクスタ)

樹形管理による生産量の増加と作業性の向上を目的とする剪定ですが、度が過ぎると剪定をきっかけに樹が枯死してしまう恐れもあります。実際、山梨県では1990年代後半より、地域で桃の樹が衰弱または枯死してしまう事例が見られるようになりました。

2014年、山梨県は冬季の強剪定による切り口からの枯れ込みが樹液や養分、水分の流動を妨げ、枯死につながっている可能性が高いことを報告しています。

また、同報告の中で剪定強度は、剪定による切り口の総面積が主幹部の断面積を超えない程度とするとよいことも併記されています。

出典:山梨県「果樹試験場ホームページ」内「果樹試験場研究報告 第13号」所収「モモの枯死障害に及ぼす強剪定の影響」

こうした事例があることも踏まえ、剪定を行う際は、その切り口の面積を最小限にするよう留意しましょう。

薬液到達性も考慮した樹形で、病害虫被害を防ぐ

スピードスプレイヤーによる農薬散布(りんご園地)

スピードスプレイヤーによる農薬散布(りんご園地)
dr30 / PIXTA(ピクスタ)

桃の栽培において、作業効率の向上と高収量を実現させるためには、剪定だけでなく病害虫の防除の効率化も欠かせません。

参考として、桃の樹形改良により薬液到達性を向上させた福島県の事例を紹介します。

この事例では、主枝2本、亜主枝8本を形成し、それぞれを水平に対して30度ほど開張させて支柱や添え竹などで支え低樹高に整枝した、改良樹形に対する薬液到達性に関する研究結果が報告されています。

改良樹形の具体的な育成としては、第1主枝を地上50cmから養成し、第2主枝には主幹延長枝を利用しています。また、4本の亜主枝を主枝分岐部から50cm/100cm/250cm/300cm離れた位置に配置し、支柱や添え竹などで低樹高に整枝します。

報告によれば、慣行の樹形と改良樹形ともに、スピードスプレーヤーの通路側に比べて、樹冠内部の幹に近く高い位置ほど薬液到達性が低くなることが指摘されています。

それを踏まえると、主枝を開帳させて樹高を抑えた改良樹形は薬液到達性の向上に有効であり、薬液到達性が低い部分の側枝を配置しないことで、さらなる改善効果が期待できるとしています。

ただし、改良樹形は主枝の開張度が大きい分、徒長枝などの新梢の発生が多い傾向にあるので、夏季剪定や摘心などの新梢管理が遅れることのないように留意する必要があることも報告されています。

出典:福島県農業総合センター「果樹に関する研究成果」所収「薬液到達性を向上させるためのモモの樹形改良と新梢管理」

桃 誘引 添え竹

はすまん / PIXTA(ピクスタ)

剪定は、桃の多収を実現するために重要な作業ですが、過度に行うと樹全体の健康を損ねてしまいます。剪定を最小限に抑えるための樹形の形成を心がけるとともに、多収につながる新しい樹形や栽培方法のトレンドも確認しながら、最適な樹形管理に努めましょう。

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大森雄貴

大森雄貴

三重県伊賀市生まれ。京都を拠点に企業・団体の組織運営支援に携わった後、2020年に家業の米農家を継ぐためにUターン。現在は米農家とライターの二足の草鞋を履きつつ、人と自然が共に豊かになる未来を願いながら、耕作放棄地の再生、農家体験プログラムの実施、暮らしを大切にする経営支援などに取り組んでいる。

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