【梅の受粉方法】着果率を上げるには? 安定結実がかなう栽培のコツ
梅栽培農家では、冬が終わると梅の開花に合わせて受粉の準備が始まります。梅は自家不結実性や他家不親和性を持つ品種が多いため、受粉するには親和性があり花粉の豊富な受粉樹を植え付け、ミツバチを放飼したり、人工的に受粉作業したりするなどの工夫が必要です。
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オットさま/PIXTA(ピクスタ)
梅の受粉作業を確実に行うには、地域の気候や品種による開花時期の違い、受粉樹の親和性など、さまざまな要素を考慮する必要があります。本記事では、効率的な授粉方法や着果率を上げるポイントについて解説するとともに、自家和合性のある梅の新品種を紹介します。
梅の結実に必要不可欠な“受粉”
梅は品種が豊富で、実梅としては北海道から九州まで、気候に合った品種が広く栽培されています。1月下旬から5月上旬にかけて日本列島をゆっくり梅前線が北上し、各地の梅農家で開花とともに受粉のための作業が始まります。
miamiwatase/PIXTA(ピクスタ)
実梅の生産量国内1位の和歌山県では2月頃、春の訪れの遅い青森県や北海道では4月下旬から5月上旬が、梅の開花時期です。
現在、国内で栽培されている実梅の品種の多くは、同じ品種の花粉では受粉しない「自家不結実性」という性質を持っています。
さらに、違う品種であっても交配の組み合わせによっては受精せず、実が付きにくい性質の「他家不親和性」も多くの品種が持っています。
この自家不結実性についてはわからないことも多く、例えば「豊後」を自家結実性とする資料もあれば、自家不結実性とする資料もあります。環境や気候も着果に影響すると考えられるので、自身の園地や梅の様子をよく観察し、判断するとよいでしょう。
梅「南高」の花と実
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一般的には、「南高」「豊後」「白加賀」「鶯宿」などの主要品種の多くは、実を付けるために他品種の梅の花粉を用いる「他家受粉」が必要です。栽培に当たっては、園地内に花粉を取るための受粉樹を2品種ほど植えます。
2品種以上植え付けるのは、開花時期の異なる品種を植え付けることで、天候による開花時期のずれがあった場合でも受粉樹の開花と合わせ、確実に受粉させるためです。また、天候などの影響により花の付きが悪い場合でも、複数の受粉樹があれば補えるという利点もあります。
受粉樹に適した品種の条件としては、花粉を多く付けること、実を取る梅の品種と開花時期が同じかやや早いこと、親和性があることなどが重要です。特に、人気品種である「南高」は他家不親和性も強いため、受粉樹に適した品種は限られています。
梅は、このように受粉しにくい性質を持つ品種が多いため、より効率的に結実させて多収をめざすには、適切な受粉樹を植え付けるだけでなく、確実な受粉を促す工夫が必要になります。
梅「鶯宿」の花と実
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【やり方解説】 梅栽培で使われる2つの授粉方法
ここでは、現在の梅栽培で主流となっている2つの授粉方法について、具体的なやり方を解説します。
1. セイヨウミツバチの放飼
めいおじさん / PIXTA(ピクスタ)
梅の受粉に活躍するのが、セイヨウミツバチの放飼です。やり方は、セイヨウミツバチの巣箱を園地内や園地近くで、冬に冷たい風の当たらない南側の傾斜面など、暖かくて静かな場所に設置するだけです。
とはいえ、ミツバチの巣箱は一度設置すると、そこから少し移動するだけでミツバチたちが巣に帰れなくなり死んでしまいます。そのため、ほとんど移動はできません。巣箱を移動させる場合には、2km以上も離さないとミツバチは巣が移動したとは気付かないそうです。
そのため巣箱の設置時には、雨風をしのげて夏場は高温になりすぎず、天敵に狙われにくいなど、1年を通してミツバチにとって快適な場所を選ぶ必要があります。
また、地面の上に直接置かず、コンテナなどの上に置いて風通しをよくし、南向きまたは東向きに置いて太陽に当たりやすくしましょう。
セイヨウミツバチの訪花適温は18~25℃とされますが、風がなく、よく晴れていれば12℃以上でも活発に活動します。一方で、どんよりと曇った日や寒い日、風の強い日には活動が鈍ります。
ミツバチによる受粉を成功させるには、多くのミツバチが活発に活動することが大切です。そのためには、愛情を持ってミツバチを飼育する必要があります。
なお、梅の栽培には農薬を使うこともありますが、春先はハチを導入する前に早めに病害虫防除を済ませておき、開花中は基本的に農薬散布をしないようにしましょう。
どうしても使用する場合は、ハチなどの昆虫に害のないものを選び、散布前夜に巣箱を閉じて納屋などに移動させます。
果樹の中で最も早く開花する梅ですが、地域やその年の気候によっては、開花時期にまだ気温が低く、ミツバチの活動が活発でないこともあります。その場合は受粉が十分に行えず、その年の収量に大きく影響してしまいます。
春先から温暖な気候の地域ではミツバチが大活躍しますが、寒冷地では巣箱を設置してミツバチを放飼しても、ほとんど効果がない場所もあります。その場合は、人の手による人工授粉が必要です。
2. 人工授粉
こしあん / PIXTA(ピクスタ)
開花期の気温が低くミツバチの活動に期待できない場合や、受粉樹と開花期がずれてしまい他家受粉ができない場合などには、手作業で人工授粉をする方法もあります。
ミツバチが活発に活動していても、人工授粉を組み合わせて1つでも多く実がなるように授粉を補う農家も少なくありません。
人工授粉作業は、受粉樹の花粉を毛ばたきなどに付け、着果させたい梅の花が開花したら3日以内に、一つひとつ軽くこすりつけて行います。
開花の少し早い品種を受粉樹に使い、あらかじめ花粉を採取しておくと、開花期のずれを気にすることなく授粉できます。採取した花粉は冷蔵庫など湿度の低い冷暗所で保管すれば、その年の授粉に十分使えます。
より多収をめざすには? 梅の着果率を上げるコツ
ミツバチの放飼と人工授粉を行って受粉を促進した場合でも、受粉樹が適切かどうかによって着果率は大きく変わってきます。つまり、品種ごとに適切な受粉樹を選定することが、梅の着果率を上げるコツです。
そこで以下では、受粉樹の適切な栽植方法や選び方について解説します。
受粉樹の栽植割合は「10本に2~3本」
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梅を植え付ける際は、10a当たり60本を目安に4×4mの距離を確保します。受粉樹は30%の割合で、10本に約2~3本を混植しましょう。
このスペースは、幼木の時期から収量を確保するために十分な広さです。混み合ってきたら適宜間伐をします。受粉樹は、間伐したあとも園地内に偏りなく残るように配置するのがポイントです。
また、混植する受粉樹は1種類とせず、品種ごとの開花時期のずれを想定し、実を取る栽培品種1種に対して少なくとも2品種以上植えておきます。
栽培品種と相性のよい受粉樹を選ぶ
花粉が多い「花香実」
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受粉樹は花粉を取ることを主な目的としているため、花粉の多く付く品種が向いています。また、実を取る栽培品種と親和性があり、相性がよいことも必須条件です。
受粉樹としてよく用いられるのは、小梅類や「花香実」「紀州大粒小梅」「八郎」「梅郷」「稲積」など、花粉が多く自家受粉できる品種です。自家受粉できれば、ほかの品種を受粉させるだけでなく受粉樹も自ら結実し収穫できます。
中でも「花香実」は、花粉が多いうえに開花期が中庸で対応しやすく、親和性も高いので多くの品種に適します。
「南高」や「鷺宿」は、自家受粉はできないものの、花粉が多いため受粉樹としてもよく使われます。この場合は、複数種を混植することで、互いに他家受粉をして良質の実を結実するので効率的です。
こうした特性を踏まえ、地域ごとの開花時期や気候に適した品種を受粉樹に選びましょう。植栽の例としては、「南高」をメインとして8割、受粉樹として「小粒南高」や「白玉」「西川」「小梅」などを2割という組み合わせや、「南高」をメインで7割、「小城」を1割、受粉樹を2割といった組み合わせがあります。
梅「白加賀」の花と実
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なお、梅干しにも梅酒にも加工できる「白加賀」は関東地方で人気の高い主要品種ですが、花粉がほとんどないため自家受粉できず、受粉樹としても使えません。さらに、主要品種の中でも開花時期がやや遅く、開花時期がずれる恐れがあります。
そのため、受粉樹には「花香実」「甲州小梅」「竜峡小梅」など、自家結実性が高く開花時期に幅のあるものが適しています。あるいは、「南高」のような花粉の多い品種と組み合わせるとよいとされます。ただし、その場合は別途、南高のための受粉樹を用意する必要があります。
“受粉樹いらず”で安定結実! 自家和合性の最新品種
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梅の主要品種の栽培では、受粉樹と混植し、ミツバチや人工授粉によって他家受粉させるという方法が現在の主流です。ただし、人工授粉には多大な労力がかかり、ミツバチによる受粉は天候などに大きく左右されるため、収量は不安定になりやすいという欠点があります。
そこで、梅の生産量日本一の和歌山県では、着果にばらつきが出やすい従来の他家受粉ではなく、自家受粉で安定した着果が期待できる自家和合性品種の開発や栽培を、長い間独自に進めてきました。近年、その成果が徐々に実ってきています。
2009年には、「南高」と自家和合性の福井県の在来種「剣先」を掛け合わせ、「NK14」を新品種として登録しました。さらに2020年には、同じく「南高」と「剣先」を掛け合わせた「星秀」を開発しました。
どちらも自家和合性品種で安定した着果率が見込めるほか、受粉樹としても活用できます。さらに「星秀」は、黒星病に強いという特徴もある点で優れています。
出典:
和歌山県「農林水産部 農林水産総務課 研究推進室 >平成25年度 研究成果選集」所収「果樹試験場うめ研究所「NK14」の果実特性について」
株式会社紀伊民報「病気に強い梅「星秀」 県うめ研究所が開発(AGARA 紀伊民報 2020年02月22日)
また、同じ時期に農研機構で、自家和合性の最新品種「麗和(れいわ)」と「和郷(わごう)」が育成され、2021年の秋から販売されています。
「麗和」「和郷」とも、実は「南高」のように大きいながらも、ヤニ果の発生が少ないため梅干しや梅酒などに適しています。開花期がやや遅く、花粉が多いため、「白加賀」の受粉樹としても最適です。さらに「麗和」は、実梅でありながら花は八重咲で美しく、観賞用にもなります。
出典:農研機構
「 自家和合性のウメ新品種「麗和」と「和郷」(プレスリリース 2020年9月14日)
「品種詳細|麗和」
「品種詳細|和郷」
YUMIK / PIXTA(ピクスタ)
梅の栽培は長い歴史がありながら、その実、受粉が難しく、受粉樹を植えたうえでミツバチの放飼や手作業の人工授粉によって行われてきました。それでも着果率は不安定で、天候に大きく左右されてしまうのが実情でした。
しかし、近年は自家和合性品種の開発が進み、これまで小粒品種が主であった受粉樹も、大粒で結果樹として適した品種が増えてきています。今後は受粉樹のいらない、自家受精で着果率のよい品種がますます増え、梅の栽培方法そのものを大きく変えるかもしれません。
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大曾根三緒
ビジネス、ペット、美術関連など多分野の雑誌で編集者として携わる。 全国の農業協同組合の月刊誌で企画から取材執筆、校正まで携わり、農業経営にかかわるあらゆる記事を扱かった経験から、農業分野に詳しい。2019年からWebライターとして活動。経済、農業、教育分野からDIY、子育て情報など、さまざまなジャンルの記事を毎月10本以上執筆中。編集者として対象読者の異なるジャンルの記事を扱った経験を活かし、硬軟取り混ぜさまざまなタイプの記事を書き分けるのが得意。