【みかんの施肥設計】基準や施肥量、適切な時期を解説
長期にわたって品質のよいみかんを収穫し続けるためには、栽培暦に合わせた適切な施肥が欠かせません。施肥量によって樹勢や果実の食味が変化するので、産地の信頼を維持・向上するためにも毎年の施肥設計が重要です。この記事では、みかん栽培と肥料の関係性や基本的な施肥設計、新しい施肥技術について解説します。
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みかんの施肥は、一般的に春肥(基肥)と夏肥(追肥)・秋の礼肥の3回に分けて行います。園地の形状や土壌の特性に応じて、肥料の配合や施用量を調整するのが収量を確保するためのポイントです。
適切な施肥計画に向け、肥料の3要素と呼ばれる窒素・リン酸・カリウムについて、みかん栽培との関係から解説していきます。
肥料の3要素N・P・Kとみかん栽培との関係
窒素(N)・リン酸(P)・カリウム(K)は、作物の生育にとって必要不可欠な成分で、「肥料の3要素」と呼ばれています。それぞれの成分の特徴や、みかん栽培で果たす役割について解説します。
窒素(N)
gobou3 / PIXTA(ピクスタ)
窒素(N)は、光合成で作られるデンプンからタンパク質を合成するために欠かせない元素です。合成されたタンパク質は、葉緑体や核酸など植物体の生命維持にかかわる成分として利用されます。
植物体内の生体反応にも関与しているため、窒素の量によって葉・茎や果樹の成長に影響が及びます。特に、窒素が不足すると葉緑素が十分に生成されず、光合成の能力が下がるので注意してください。
みかんの栽培では、春に地温が12℃以上になる頃から窒素の吸収が始まります。窒素の吸収は新梢伸長が盛んな5~6月が第1のピークで、果実肥大期に当たる7~9月に第2のピークを迎えます。
窒素の供給量に応じて吸収量が増える傾向があり、過剰に吸収されると果実の品質低下を招く恐れがあります。そのため適切な施肥設計が重要です。
リン酸(P)
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リン酸(P)は、ほとんどの炭素・エネルギーの代謝に関与しており、植物の生命維持に重要な元素です。生物の細胞膜を構成しており、光合成や呼吸によって植物の生長を促進します。また、遺伝子の元になるDNA(核酸)の構成要素でもあります。
リン酸は土壌内に溜まりやすいため、リン酸を有効活用するためには、マグネシウム(苦土)と合わせた施肥が効果的です。
みかん栽培では窒素と同様に、5~6月と7~9月にリン酸の吸収量のピークを迎えますが、樹体よりも果実へ移行する割合が高い傾向にあります。リン酸が不足すると葉の枚数や面積が減り、生育不良や着果数の減少・果実の食味低下の原因につながります。
一方、リン酸が過剰になるとマグネシウム・亜鉛や鉄の不足が誘発される恐れがあるものの、過剰症の影響は少ないといわれています。
カリウム(K)
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カリウム(K)は生体内ではカリウムイオンとして存在し、細胞液の浸透圧調整や葉からの水分蒸散の調節などに関与する元素です。
肥料名としては「カリ(加里)」と呼ばれており、タンパク質や炭水化物の合成といった植物体内の化学反応を促進する補酵素としても機能しています。根や茎を丈夫にし、病害虫や寒さに対する抵抗力を高めるためにも有効です。
みかん栽培では、6月頃に春梢によるカリウムの吸収が盛んになりますが、その後は吸収量が減少します。カリウムが不足すると根腐れや葉の黄化が発生し、土壌からの養分吸収や光合成に影響が及びます。
また、カリウムが過剰になるとマグネシウムの吸収量が減り、植物体内のアルカリバランスが崩れてタンパク質の合成に支障をきたします。
みかんの基本的な作型・栽培暦
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みかんの基本的な作型は収穫期によって分けられており、露地栽培の場合は極早生・早生・普通の3通りです。ハウス栽培の場合は秋・冬にハウス内を加温し、4月中旬~9月下旬にかけて収穫・出荷します。
温州みかんの生育・栽培暦
発芽期 | 開花期 | 収穫期 | |
---|---|---|---|
極早生 | 4月上旬 | 5月上旬~中旬 | 9月下旬~10月下旬 |
早生 | 4月上旬 | 5月上旬~中旬 | 10月下旬~11月下旬 |
普通 | 4月上旬~中旬 | 5月中旬 | 11月~12月 |
出典:以下資料よりminorasu編集部まとめ
和歌山県「環境保全型農業栽培技術指針(改訂版)」 所収「品目別栽培技術」(97ページ ウンシュウミカン)
全国農業協同組合連合会徳島県本部「みかん」
農山漁村文化協会「ハウスミカン」
農林水産省「かんきつの技術情報のページ」所収「うんしゅうみかんの基本的な栽培技術」
引き続き、栽培暦に沿って栽培管理のポイントを解説します。土壌の水分管理や除草・病害虫の防除といった作業も、収量を確保する上では大切です。
●整枝・剪定(2~3月)
密植による病害虫の発生や果実の品質低下を防ぐため、どの枝にも十分に日光が当たるように整枝・剪定します。
着花と葉数のバランスがとれるよう、立ち枝・内向枝の除去といった軽めの整枝・剪定にとどめるのがポイントです。基本樹形を考慮しながら、太い枝から細い枝にかけて進めていくと効率的でしょう。
●着花管理(5月)
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窒素の過剰消費を防ぎ、樹勢を保つために重要な作業です。着花量が少ない樹の場合は着花部にかぶさるように発生する新梢が多くなるため、枝ごと除去することで日照量が増加し、落果防止が期待できます。
徒長枝になりそうな強い新梢の摘心、芽かきも、結実を促進するためには重要です。また、着花量が多い樹の場合は花で養分が多く消費される傾向があります。新梢の伸長を促進し、樹勢を確保するために側枝単位で摘蕾を行います。
●摘果(6月上旬~10月上旬)
着果量が多すぎると、みかんが小玉になったり酸味が強くなったりして商品価値が下がる可能性があります。そのため、着果状況に合わせた適切な摘果が大切です。果実の肥大を促進して品質・収量を安定させるために、早い段階で粗摘果を徹底するようにします。
着果が多すぎる場合は、摘果剤を使用するのも一つの方法です。なお、農薬を使用する前にラベルに記載された注意事項を十分に読んで、適切な量・方法で散布してください。
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みかんの基本的な施肥設計(時期・施肥量)
みかんは永年性の作物で、栽培環境によっては収穫量が年ごとに増減する隔年結果が生じる場合もあります。収量を安定させるためには、前年度の収穫量や栽培中の生育状況・気象環境などを踏まえた長期的な施肥設計が重要です。
ここでは愛媛県施肥基準を参考に、露地栽培みかんの施肥時期・施肥量の設計方法について解説します。なお、施肥量や成分の比率は土質・品種などによって異なります。施肥設計に当たっては、栽培地域ごとの最新の施肥基準をご確認ください。
春肥(基肥):翌年の果実生産に向けて
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春肥(基肥)は、地温が12℃以上になる3月下旬~4月上旬に行います。翌年の母枝になる新梢を充実させるだけでなく、開花や幼果の初期肥大を促進するために必要な養分となります。
基肥の施肥量が不足すると樹勢の低下を招くだけでなく、新葉・花蕾の生育が不十分になるので注意が必要です。発芽期・開花期に肥料の効果が現れるよう、基肥の時期を早めたり、早春・晩春の2回に分けて施す方法もあります。
温州ミカンの春肥 施肥量 例(10a当りの成分量)
作型 | 窒素(N) | リン酸(P) | カリウム(K) |
---|---|---|---|
極早生温州 | 6kg | 5kg | 5kg |
極早生温州(マルチ栽培) | 7kg | 5kg | 5kg |
早生温州 | 8kg | 6kg | 6kg |
早生温州(マルチ栽培) | 8kg | 6kg | 6kg |
普通温州 | 9kg | 7kg | 7kg |
出典:愛媛県「愛媛県農業技術情報サービス」所収「愛媛県施肥基準(令和4年度) 10 果樹」よりminorasu編集部まとめ
基肥の効果を高めるためには、施用前に必ず園地の除草をすることがポイントです。雑草に養分を奪われるリスクを低減させると同時に、地温を上昇させて養分の吸収を促進する効果も期待できます。
夏肥:果実肥大期
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夏肥(追肥)は、主に5月下旬~7月にかけて行いますが、品種によって追肥の時期が変わる点に留意が必要です。極早生温州など収穫時期が早い品種では、着果状況によって追肥を行わない場合があります。
樹体の栄養量が健全に維持されることで、果実の肥大や発根が促進されるのはもちろん、翌年の着果量の安定にもつながります。果実肥大期に追肥の効果が出るように、降水量が少ない場合には灌水を行い、土壌の乾燥を防ぐことが大切です。
温州ミカンの夏肥 施肥量例(10a当りの成分量)
作型 | 窒素(N) | リン酸(P) | カリウム(K) |
---|---|---|---|
極早生温州 | 追肥なし | 追肥なし | 追肥なし |
極早生温州(マルチ栽培)5月下旬 | 5kg | 3kg | 4kg |
早生温州 | 追肥なし | 追肥なし | 追肥なし |
早生温州(マルチ栽培) | 5kg | 3kg | 4kg |
普通温州 | 5kg | 3kg | 4kg |
出典:愛媛県「愛媛県農業技術情報サービス」 所収「愛媛県施肥基準(令和4年度) 10 果樹」よりminorasu編集部まとめ
高品質化のために強い水分ストレスを付与するマルチ栽培では、樹勢が低下し、収量低下や隔年結果の要因になり得ます。
一方、追肥(夏肥)を実施することで樹体の栄養状態が改善され、果実の糖度・着色が向上した事例も見られます。マルチ栽培では着果量にかかわらず、追肥(夏肥)を実施するのが収量・品質を安定させるポイントといえるでしょう。
出典:佐賀県「果樹の栽培管理 温州ミカン」所収「カンキツにおける夏肥と摘果剤の有効活用について」
礼肥(秋肥):収穫前後
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礼肥(秋肥)は、収穫直後から11月上旬にかけて行います。収穫期と礼肥の時期が重なる場合は、収穫前の礼肥でも問題ありません。
愛媛県の極早生温州では樹勢の回復を目的として、10月中旬までに大部分の果実を収穫する前提で、10月上旬と11月上旬に分施する事例も見られます。礼肥を行うことで樹勢が回復し、耐寒性が強化されるとともに翌年度の着果数も確保されます。
温州ミカンの礼肥 施肥量例(10a当りの成分量)
作型 | 窒素(N) | リン酸(P) | カリウム(K) |
---|---|---|---|
極早生温州 | 8kg | 6kg | 6kg |
極早生温州(マルチ栽培) | 11kg | 8kg | 9kg |
早生温州 | 11kg | 7kg | 7kg |
早生温州(マルチ栽培) | 11kg | 7kg | 8kg |
出典:愛媛県「愛媛県農業技術情報サービス」 所収「愛媛県施肥基準(令和4年度) 10 果樹」よりminorasu編集部まとめ
礼肥の時期が遅くなると地温が12℃未満に低下し、樹体内に養分が吸収されにくくなります。また、礼肥の成分が春まで残っていると春芽の伸びすぎなど翌年の栽培に影響が出る恐れがあります。
園地への灌水を実施した上で速効性肥料を施用するのが、礼肥の効果を高めるポイントです。
柑橘の高品質化を叶える新しい栽培技術「マルドリ方式」
出典:農研機構「周年マルチ点滴灌水同時施肥法マニュアル」所収「周年マルチ点滴灌水同時施肥法(マルドリ方式)マニュアル(近畿中国四国農業研究センター)」よりminorasu編集部作成
糖度と酸味のバランスが取れた高品質のみかん・柑橘栽培を実現できる「マルドリ方式」という新しい栽培技術が開発されています。
マルドリ方式とは「周年マルチ点滴灌水同時施肥法」の略称で、園地に敷設した点滴灌水チューブを通じて灌水・施肥を行うしくみです。施肥では液体肥料を用いるため吸収効率がよく、生産コストの低減にも有効です。
従来のマルチ栽培では夏から秋の降雨を遮断して水分コントロールができる反面、過乾燥による樹勢低下や毎年のマルチ敷設・撤去作業が営農上の負担となる課題が生じています。
一方、マルドリ方式では必要に応じて自動で灌水・施肥できるため、気象の変化に左右されない水ストレス管理ができるのがメリットです。耐久性の高いハードタイプのマルチを敷設すれば2~3年は撤去せずに済むため、農作業の省力化にも効果を発揮します。
▼マルドリ方式についてはこちらの記事もご覧ください
みかんの収量と品質を安定させるためには、肥料の3要素のバランスと施肥時期を踏まえた施肥設計が重要です。マルチ栽培では、水ストレスと品質の制御を両立できるマルドリ方式を導入する農家も見られます。
栽培方法や品種などによって施肥成分量が異なるので、施肥基準を参考にした上で園地・栽培環境に合わせて施肥量を調整するとよいでしょう。
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舟根大
医療・福祉業界を中心に「人を大切にする人事・労務サポート」を幅広く提供する社会保険労務士。起業・経営・6次産業化をはじめ、執筆分野は多岐にわたる。座右の銘は「道なき道を切り拓く」。