アスパラガスの反収アップ! プロ農家に学ぶ“多収実現”のコツ
アスパラガス栽培は取り組みやすく、取引価格が比較的安定していて高収益を見込めることから、各地で水田転作や新規導入が推進されています。地域や栽培方法の違いによって反収が大きく異なるため、栽培方法別に収益を上げるコツをしっかり押さえることが重要です。
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目次
各地でアスパラガス栽培が推進されていることに伴い、反収をアップさせるさまざまな技術が、露地栽培・施設栽培ともに開発されています。本記事では、それらの技術を栽培方法ごとに詳しく解説するとともに、単収アップに取り組む地域の事例を紹介します。
アスパラガスの平均反収は? 10a当たり収量の目安
川村恵司/PIXTA(ピクスタ)
2021年産野菜の作況調査を見ると、アスパラガスの10a当たり収量の全国平均は560kgです。
最近10年でみると、2011年から2016年にかけて大きく伸び、2017年に500kgを切りましたが、最近数年は回復しています。
出典:農林水産省「作物統計調査|作況調査(野菜)」の長期累年及び令和3年産野菜生産出荷統計よりminorasu編集部作成
その間、作付面積は減り続けており、結果、収穫量・出荷量は、横ばいから微減で推移しています。
出典:農林水産省「作物統計調査|作況調査(野菜)」の長期累年及び令和3年産野菜生産出荷統計よりminorasu編集部作成
アスパラガスの10a当たり収量は、産地ごとの差が大きいのが特徴です。例えば、北海道・岩手・秋田・長野など露地栽培が中心の冷涼な地域では200~300kg前後、熊本・福岡・佐賀・長崎など雨よけハウス栽培が中心の温暖な地域では2,000kg前後と、10倍近い反収となっています。
出典:農林水産省「作物統計調査|作況調査(野菜)|令和3年産野菜生産出荷統計」よりminorasu編集部作成
このような大きな差があるのは、露地栽培では大規模ほ場での水田転作または輪作による栽培が多く、施設栽培においては、狭い作付面積で収量を上げる栽培技術が普及しているためと考えられます。
露地アスパラガスの反収を増やす! 栽培管理における“3つのポイント”
まず、露地栽培における、反収を上げる基本のポイントをご紹介します。主に北海道や東北など、東日本の冷涼な地域で多く行われている方法です。
栽培年ごとの立茎管理
wasanajai - stock.adobe.com
アスパラガスは、地下茎の先端部に鱗芽(りんが)を作り、同時に地下茎の外側に側芽を作りながら株を広げていきます。側芽は新しい生長点となり、そこに萌芽する若芽を収穫します。
萌芽の際は貯蔵根に蓄えられた養分を消費するため、品質向上や収量増をめざすには、十分な養分を確保できる健全な親茎を立てることが重要です。特に定植後3年間は、収穫よりも株養成を重視する必要があります。
また、定植後2年ほどは株の範囲が狭く、密集するため斑点病などの病害が発生しやすくなります。排水をよくして、病害の早期発見・防除を心がけます。
1年目は収穫を行わず、株当たり5~8本の太い茎を親茎として立茎します。それ以外の細い茎は間引きます。立茎した場所が新たな生長点となるため、畝幅に均等に広がるよう配置します。
2年目の春からは収穫も可能ですが、株養成を優先して適期に切り上げ、できるだけ太い茎を選び、1株当たり3~6本程度立茎します。このとき、親茎ができるだけ密生しないように、なるべく株の外側に配置することが重要です。
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3年目には1株に生長点が複数できているので、それぞれの生長点を発達させることを考慮しながら立茎します。同じ生長点だけから立茎していると、それ以外の生長点が消失してしまうので注意が必要です。
萌芽の様子をよく観察し、地下茎がどの生長点から伸び、どうつながっているかなどを意識しながら親茎を配置していきます。
春芽は収穫できますが、だんだん収量が減り、茎が細くなったり曲がったりするなど、養分の不足を感じるようになったら収穫を打ち切り、立茎を始めます。
4年目以降は、新たな生長点を作ることを意識せず、すでに形成された生長点を維持するように立茎していきます。目安は、立茎本数は1株当たり3~4本です。
立茎の適期は、春どりだけをするのであれば、収量がピーク時から30%程度低下し、品質も落ち始めた頃になりますが、夏どりをする場合はそれよりも2~3週間早めます。
iceforest / PIXTA(ピクスタ)
土作りと肥料設計
ミック / PIXTA(ピクスタ)
アスパラガスは多年生で、定植後は株を維持しながら10年ほど収穫を続けるため、その間は大掛かりな土壌改良が困難です。
また、前年に蓄えた貯蔵根の養分を消費しながら萌芽するため、親茎が十分な養分を土から吸収することが、翌年の収量や品質の確保には欠かせません。よって、定植前に土作りと肥料設計を確実に行う必要があります。
なお、アスパラガスは湿害に弱いので、排水性がよく肥沃な土壌と日当たりのよいほ場が向いています。水田転作の場合、排水をよくするために耕盤破砕や暗渠(あんきょ)・明渠(めいきょ)の設置など、排水対策を定植前に済ませておきましょう。
有効土の厚さは40cm以上、地下水位は50cm以下を目安として深耕し、土壌改良剤、堆肥、基肥の半量を植溝に施用し、残りの半量を全面施用して耕うんします。pH値は5.5~6.5の弱酸性から微酸性に調整します。
堆肥や肥料の施用量の目安として、長野県の栽培マニュアルを例に挙げると、10a当たりの目安は堆肥約10~15t(腐熟したもの)、土壌改良剤として石灰質資材を150~200kg、リン酸質資材を約50~100kg、基肥は窒素成分量で約10~20kgとしています。
出典:長野県「アスパラガスの生産振興」所収「長野県・JA全農長野|アスパラガス収量性向上マニュアル(2018年3月改訂版)」
ただし、適切な施肥量や必要な土壌改良材は、地域の気候やほ場の環境、土壌の状態などによって異なります。上記はあくまでも目安として捉え、土壌診断結果に従って最適な施用をすることが収量アップの重要なポイントです。
定植後の土作りは、必要に応じて収穫期に2~3回追肥をし、3回目の追肥のあとに中耕・培土を行います。3回目の追肥と中耕・培土は、貯蔵根への養分補給を促し、次の年の収量アップにつながります。
たかきち / PIXTA(ピクスタ)
収穫が終わり、擬葉が完全に黄変したら、地際から5~6cmのところで株ごと刈り取ります。刈り取った株は、すべてほ場の外に持ち出して焼却または廃棄します。そうすることで、病害虫の発生による減収を防止できます。
その後、土寄せしていた土を戻し、冬の間に通路部分に腐熟した堆肥や有機質資材を施用し、中耕をしましょう。それにより、根圏土壌の通気性・排水性・保水性を向上させ、根に養分を補給します。
灌水設備の整備
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光合成や養分流転を行う都合、アスパラガスは水分要求量の多い作物です。特に萌芽期間中には十分な水分が不可欠で、不足すると鱗芽が休眠状態になることもあります。そのため、灌水は肥料を増やすよりも収量増に効果があるとされるほど重要です。
一方、アスパラガスは湿害に弱く、茎枯病などの病害にも注意しなければならないので、茎葉が濡れるのをできるだけ避け、長時間滞水しないようにする必要があります。そのため、確実かつ効率的に灌水するには、チューブ灌水や畝間灌水、点滴灌水などが適しています。
前出の長野県のマニュアルによれば、1回の灌水量の目安は約15~20mmとされており、ほ場の環境や気候、作型、季節、土壌条件などを考慮して、降水量と合わせて調整します。
特に、水はけのよいほ場や乾燥しやすい夏場は水分量を多めにし、降水量と合わせて1週間当たり約30~45mmとなるようにします。
灌水のポイントとして、「給水側と奥側の水量差を極力なくし、ムラなく給水すること」「畝間に長時間滞水しないようにすること」「萌芽が止まっても、親茎が養分を貯蔵したり鱗芽を形成したりできるように、灌水を続けること」などが挙げられます。
雨よけハウスで反収の大幅アップを実現! 「半促成長期どり栽培」
次に、温暖な西日本で反収を大幅に増加させ、その効果の高さから、今では全国的に普及が広がっている栽培方法「半促成長期どり栽培」について、基本の栽培体系や重要なポイントをご紹介します。
アスパラガス“半促成長期どり”の栽培体系
プルースト / PIXTA(ピクスタ)
「半促成長期どり栽培」とは、雨よけハウスの中で春芽を収穫したあと、1株当たり3~4本を立茎させ、そこから発生する夏芽を10月末頃まで(寒冷地では9月半ばまで)収穫するという栽培方法です。
もともと西日本では露地栽培が行われていたものの、湿害や気候の関係で収量が安定せず徐々に衰退し、これに代わる方法として雨よけハウスを使った栽培が始まりました。
さらに、夏は過繁茂になりやすいことから、夏場まで長期にわたって鱗芽を収穫し続ける「長期どり」が推進された経緯があります。その結果、収量の大幅アップにつながり、新たな栽培方法として確立しました。
以前は、夏芽は収穫せず、翌年の春芽を充実させるために株を養成する、というのがアスパラガス栽培の常識でした。しかし、今では東北の露地栽培でも長期どりの栽培方法が取り入れられています。
適した品種については、夏場に長く収穫することから、病害に強い品種を選択する方法もありますが、アスパラガスの品種は病害に強いと収量が劣る傾向にあります。病害への耐性を取るか、収量を取るか、その地域やほ場の特性に合わせて決めるとよいでしょう。
西日本では、耐病性はあまりないものの多収が見込める「ウェルカム」や、比較的病害に強く、半促成から抑制栽培まで幅広く適応できる「バイトル」などが多く使われているようです。
サカタ種苗株式会社「ウェルカム」
カネコ種苗株式会社「バイトル」
立茎管理と肥料設計
ハゲ&ポチャ/PIXTA(ピクスタ)
立茎管理や施肥については、地域によって異なります。
例えば、栃木県の研究成果を見てみると、1年目は露地栽培同様に養成株を育成しています。2年目は、3月の収穫開始から1ヵ月で収穫をやめたのち、立茎をして夏芽の収穫を10月半ばまで続けます。
3年目以降は、春芽の収穫を3月に始めて40~55日間ほどで打ち切り、立茎したあと4月半ばから夏芽の収穫を10月半ばまで続けます。
出典:栃木県農政部「栃木県農業試験場の研究成果」 所収「アスパラガスの最適な生産方法(那須農業振興事務所)」
また、秋田県でも寒冷地向けに修正を加え、2013年からハウス半促成栽培が導入されています。
秋田県でのハウス半促成栽培管理は、簡易な雨よけハウスを設置する「夏期雨よけタイプ」と、通常のパイプハウスを設置して冬季には屋根フィルムを取り除く「冬季被覆除去タイプ」、通常のパイプハウスを設置して冬季も屋根を被覆し保温する「周年被覆タイプ」に分けられます。
「夏期雨よけタイプ」では、4月から収穫を始めて30日で打ち切り、5月いっぱいで立茎をします。その後、6月から9月半ばまで100日ほど夏芽を収穫し、9月下旬から11月上旬まで株を養成します。「冬季被覆除去タイプ」もほぼ同様の栽培暦です。
「周年被覆タイプ」は寒冷地ならではの栽培方法で、春芽の収穫は3月上旬から4月下旬までの60日ですが、立茎と夏芽の収穫、株の養成期間はほか2つの方法と同様であるため、ほかの栽培方法よりも30日分多く収穫できます。
同地域での露地栽培と比較した収穫量の増加率は、露地長期どり栽培を100%とした場合、「夏期雨よけタイプ」が180%、「冬季被覆除去タイプ」は200%、「周年被覆タイプ」はなんと270%にも及ぶというデータがあります。
出典:秋田県「実用化できる試験研究成果(平成29年度試験研究成果)」所収「新技術名:アスパラガスハウス半促成栽培マニュアルの作成(秋田県農業試験場)」
施肥設計については、露地栽培と同様に地域の環境や気候、ほ場の土壌診断に沿って、追肥は生育状況を見ながら適切に行うことが基本です。目安として、前出の出典から栃木県の施肥例を挙げます。
定植前の土作りについては残念ながら言及されていませんが、露地栽培と同様に行うと考えてよいでしょう。
定植2年目の施肥は、堆肥を10a当たり3t全面に施用し、追肥として10a当たり「窒素:リン:カリ」を「40kg:18kg:40kg」の割合で、冬肥・春肥・夏追肥に分けて施用しています。
定植3年目は、堆肥は2年目と同様で、追肥は10a当たり「窒素:リン:カリ」を「40kg:18kg:18kg」の割合で、冬肥・春肥・夏追肥に分けて施用したとあります。2年目と3年目の施肥量の違いは、土壌診断や作物の生育状況から判断したと考えられます。
生育ステージ別の灌水管理
むさしーど/PIXTA(ピクスタ)
露地栽培と同様に、半促成長期どり栽培においても、灌水管理は収量・品質の向上に直接影響するため非常に重要です。灌水設備は、やはりチューブ灌水や畝間灌水、点滴灌水などが適しています。そのうえで、生育ステージごとの灌水管理のポイントについて解説します。
・春芽収穫期
アスパラガスは萌芽の際に多量の水分を要し、水分が不足すると鱗芽が休眠してしまうため、土壌が乾かないよう少量多数回の灌水を行います。
・立茎期
この時期も水分が不足すると、生育が遅れる恐れがあるため、少量多数回の灌水を心がけます。
・夏芽収穫期
直接降雨が当たることはないものの、天候が大きく変わることと、日射量の増加に伴い給水量も増えることから、気象の状況を見ながら灌水量を調整します。雨が続く場合は、土壌表面をよく観察しながら控えめに灌水し、高温で晴天が続く場合は日中を避け、こまめに灌水をします。
・株養成期
この時期の水分は追肥に勝る養分吸収効果があるため、萌芽停止のあとも、株の黄化が完了するまで灌水を続けます。
栽培管理のコツは? アスパラガス産地の反収アップ実例
gr_K / PIXTA(ピクスタ)
最後に、具体的にアスパラガスの反収アップに取り組んでいる地域の例を2つご紹介します。
1つは、鳥取県の鳥取市農業再生協議会など3協議会が主体となって計画を作成し、鳥取いなば農業協同組合が実践している取り組みです。
水稲栽培中心の鳥取県東部地区では、園芸作物を導入して複合型農業経営に取り組む農家が増えていることから、中でも導入しやすく収益性も期待できるアスパラガスで産地形成することをめざし、地域ぐるみで促進してきました。
露地栽培をしていたアスパラガス農家に、「低コスト簡易雨よけハウス」などの施設導入を進めることで、作期の拡大による収量アップや品質向上、安定的な生産を着実に実現しています。
同時に販売力強化にも取り組んでおり、2022年までに同地区のアスパラガスの総販売額を、2017年時点の3,755万9,000円から4,850万円まで29.1%増やすことをめざしています。
出典:中国四国農政部「産地パワーアップ事業の取組事例」所収「産地パワーアップ事業の取組事例(鳥取県)」
もう1つの事例は、広島県三次地域による法人への導入・経営改善支援の取り組みです。
以前から、水田転作の高収益作物としてアスパラガス栽培を推進してきた同地域では、担い手不足により低迷していたアスパラガスの収益性を上げるため、アスパラガス栽培の新たな担い手として、集落の農業生産法人への導入を推進しました。
まず、関係機関で「チームアスパラ」を結成し、それまで露地栽培を推進していた方針を変え、ハウス化を進めました。それに伴いマニュアルを作成し、法人代表・栽培担当者を対象に研修会や技術指導、経営講座などを行い栽培技術や経営分析の支援を続けました。
その結果、2007年に3法人でスタートした取り組みは、2016年時点で14法人まで広がりました。栽培面積は1.8haから7.5haまで、販売額は700万円から5,600 万円までアップしています。
それと同時に、アスパラガスを露地栽培していた個人農家のハウス化も進み、技術も向上したことから、地域全体の収益アップにつながりました。この取り組みは、現在も続けられています。
出典:農林水産省「協同農業普及事業の成果事例(平成29年度)」所収「アスパラガス産地の構造改革 ~法人への導入・経営改善支援~(広島県)」
ファイン / PIXTA(ピクスタ)・小町 / PIXTA(ピクスタ)
アスパラガスは、もともと初期投資が少なく収益性が高いため、栽培に取り組みやすい作物です。しかも、工夫次第でさらに収益をアップすることも可能です。
とはいえ、地域によって栽培方法や収量に大きな差があるため、具体的な栽培技術については本記事の内容を参考にしながら、地域の気候やほ場の土壌特性などに合わせて検討することが重要です。
そのためには、紹介した事例に見られるように、個々の農家や法人だけでなく地域全体での取り組みが求められます。
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大曾根三緒
ビジネス、ペット、美術関連など多分野の雑誌で編集者として携わる。 全国の農業協同組合の月刊誌で企画から取材執筆、校正まで携わり、農業経営にかかわるあらゆる記事を扱かった経験から、農業分野に詳しい。2019年からWebライターとして活動。経済、農業、教育分野からDIY、子育て情報など、さまざまなジャンルの記事を毎月10本以上執筆中。編集者として対象読者の異なるジャンルの記事を扱った経験を活かし、硬軟取り混ぜさまざまなタイプの記事を書き分けるのが得意。