アスパラガスのハウス栽培方法を紹介! 育苗から害虫対策まで
アスパラガスは軽量で栽培時の作業負担が軽く、女性や高齢者にも取り組みやすい作物です。また、水田転作作物にも向いているため、各地で導入が推進されています。気候に合わせたさまざまな栽培方法が開発され、寒冷地から温暖地まで広い地域で栽培が可能です。
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アスパラガスは、以前は北海道や長野など比較的冷涼な地域が主な産地で、春芽のみを収穫していました。しかし、ハウスを利用すれば、冷涼な地域以外でも早春から晩秋まで収穫できます。この記事では、多収につながるアスパラガスのハウス栽培について、最新の技術も含めて紹介します。
アスパラガスの主な栽培方法
小町 / PIXTA(ピクスタ)
アスパラガスは軽量ゆえ栽培時の作業がしやすく、収穫のための大型機器なども不要なため、導入しやすい園芸作物として注目を集めています。さらに、多くの水分を必要とするアスパラガスは水田転作作物としても適しており、積極的に導入を推進している地域もあります。
各産地での推進例:
鳥取県東部農林事務所八頭事務所「野菜・花き特技の取組|水田導入野菜の栽培技術向上」
山形県 置賜総合支庁 産業経済部 農業振興課 運営「おきたま食の応援団」内「生産者の取組み|転作作物にはアスパラガスが最適」
広島県「広島の旬の農業情報が満載‼ 平成28年度」所収「三次市でハウスアスパラガスが拡大」
農林水産省 中国四国農政局「産地パワーアップ事業の取組事例」所収「野菜(アスパラガス)【二期計画】(鳥取県)」
ただし、排水が悪いと茎枯病が蔓延しやすく、水田転作では排水対策が欠かせません。
そこで、排水の悪い土壌でアスパラガスへの転作をする場合には、あらかじめほ場表面に水路を設け、余剰水を排出する明きょや、土壌中の余剰水を下層へ排出する簡易暗きょを設置することで、病害のリスクを軽減できます。
また、ほ場の表面を床上げしたり、畝を高くしたりすることで、冠水による被害の防止が可能です。
アスパラガスは多年草で、従来の栽培方法では、定植してから丸2年かけて株根を生育し、その後は10年以上にわたって毎年、同じ株から出てくる若芽を収穫します。
そのため、一度定植すると長い間、ほ場を掘り起こすような本格的な土壌改良や排水対策が難しくなります。そこで、アスパラガスの栽培を始める前に、ほ場の環境を適切に整えることが重要です。
YUMIK / PIXTA(ピクスタ)
従来、北海道や長野などアスパラガスの主産地では、この栽培方法をもとに、露地栽培で春季のみ収穫する栽培体系が主流でした。一方、九州などの温暖で雨量の多い地域では、降雨によって茎枯病が多発するという問題があり、その対策としてビニールハウスでの「半促成長期どり」栽培が確立されました。
この半促成長期どり栽培では、簡易なパイプハウスで雨を防ぎ、温度調節もしながら春季の春芽を収穫し、その後、夏から秋にかけて夏芽も収穫し続けます。雨による病害を防ぎながら収穫時期も長期化できるこのハウス栽培方法は、露地栽培が中心であった主産地でも普及が広がっています。
gr_K/PIXTA(ピクスタ)
なお、ハウス栽培であっても、株を長期にわたって定着させる従来の方法では、本格的に出荷できるのは3年目以降と収益化までに時間がかかることや、株が古くなると収量が減ったり、病害が発生しやすくなるなどの問題がありました。それを解消する画期的な方法として、近年では株を毎年植え替える「採りっきり栽培(R)」という方法も注目されています。
▼「採りっきり栽培(R)」についてはこちらの記事をご覧ください。
ハウス栽培を導入するメリット
アスパラガスの多様な栽培方法の中でも、この記事では主産地を含め導入が増加傾向にあるハウス栽培について解説します。まずは、アスパラガスのハウス栽培ならではのメリットについて見てみましょう。
ハゲ&ポチャ/PIXTA(ピクスタ)
メリット1:降雨による病害のリスク軽減
アスパラガスは湿害に弱く、雨に当たると茎枯病などの病害も発生しやすくなります。そのため、雨を防除できるハウス栽培では病害リスクの大幅な軽減が期待できます。
メリット2:管理・収穫作業性の向上
収穫期に入ると、アスパラガスは天候に関わらず毎日芽が伸び、収穫を休むことができません。露地の場合、雨天での収穫作業は負担が大きく作業効率も低下するため、天候に関わらず安定して作業できるハウス栽培は管理・収穫作業の効率向上が期待できます。
メリット3:春芽収穫時期の調整による収益の向上
春先にビニールハウスを密閉し、ハウス内にも地表にビニールをかけ灌水することで、地温と気温を上昇させ、萌芽の時期を早められます。この気温・地温の調整によって、市場価格の高い時期に収穫できるよう管理することが可能となり、収益の向上につながります。
メリット4:収穫時期を長期化でき、単収が大幅にアップする
これはハウス栽培によるメリットというよりも、ハウス栽培と併せて行われる半促成長期どり栽培によるメリットです。半促成長期どり栽培では3~4月の春芽だけでなく、6~10月にかけて長期にわたって夏芽を収穫できるため、単収が大幅に向上します。
アスパラガスのハウス栽培方法
ハゲ&ポチャ / PIXTA(ピクスタ)・Princess Anmitsu / PIXTA(ピクスタ)
次に、従来の栽培方法によるアスパラガスのハウス栽培について、播種から根株の生育を行う1年目、収穫が可能となる2年目以降に分けて解説します。
育苗
2月中旬から3月中旬に播種を行います。アスパラガスの種子は種皮が硬く、吸水に時間がかかるため、発芽まで培土の表面が乾かないように管理しながら昼夜25~28℃を確保し、7~10日で一斉に発芽させます。4~5日ほど種子を水に浸してから恒温器などを使って催芽し、その後は育苗箱などに撒いてもよいでしょう。
育苗日数の目安は60~70日ですが、90日ほどかかることもあります。育苗日数を予測し、定植予定日から逆算して播種の予定を立てましょう。育苗中の管理温度は、昼間は30℃以上にならないよう注意し、夜間は5℃以上を確保します。発芽後の灌水は、培土表面が乾いたら午前中に行います。
定植前に必要な準備
前述の通り、アスパラガスは定植後10年以上、同じ株で収穫し続けることが可能です。そのためには、保水・排水がともによく栽培に適した土地を選び、定植前に排水対策と土作りを十分に行いましょう。
また、ハウス周囲の土壌を掘り、その土をハウス内に持ってかさ上げをしておくことで、大雨の際に雨水がハウス内に侵入するのを防げます。
アスパラガスの根は深さ70cm、幅150cm以上にまで達します。そのため作土層が深く、地下水位が60~100cm以下であることや、排水性のよい砂壌土などが栽培地として適しています。
水田転作の場合は、明きょ・暗きょの設置や心土破砕を行い、環境を整えるとよいでしょう。加えて、土壌の通気性・透水性を確保するために、堆肥を10a当たり30~60tを目安に投入します。
ほ場の環境が整ったら、基肥、畝作り、除草を定植1ヵ月前までに終わらせます。基肥は土壌の状態や栽培品種などによって異なりますが、施肥例としては窒素・リン酸・カリウムが5:5:5の肥料を10a当たり120kg、ハウス内に全面散布するなどが挙げられます。
畝は、排水をよくするために30cm以上の高畝とするとよいでしょう。定植時の地温を18℃以上確保するため、定植の10日程度前までにハウス内にマルチ張りを行います。
定植
定植の時期は4月下旬~5月下旬です。定植に適した苗は草丈15~20cm、茎数3~4本を基準としましょう。
苗の活着をよくするため、定植日の2~3日前にハウス内の土壌に十分な灌水をし、ポットの培土も崩れないように前日に灌水し湿らせます。土壌・苗ともに準備が整ったら、株間30cm・1条植えで定植本数1,800~2,200本を目安として、5cmほどの深さに植付けます。
定植時に、株から10cm離して灌水チューブを設置します。また、地上部の倒伏を防ぐために定植直後に支柱を立て、フラワーネットも張ります。
むさしーど/PIXTA(ピクスタ)
定植1年目の管理
定植1年目は収穫を目的とせず、株根の養成を優先しましょう。定植後1ヵ月程度は株元を中心に灌水し、活着を促進させます。ハウス内は温度が上がりやすいので、温度管理をこまめに行いましょう。換気により生育適温である気温20~25℃、地温10℃以上を保ちます。
気温35℃を超えると生育が悪くなるので換気は重要ですが、定植直後は生育に風の影響を受けるほどにデリケートなので、風上はあまり大きく開けず、風下で換気の調整を行います。風を受けると新芽がマルチの下に潜ってしまうので、こまめにマルチから出しましょう。
川村恵司 / PIXTA(ピクスタ)
生育中もサイドや妻面を開放し、なるべく外気に近付けますが、風の強い日は開けすぎないように注意が必要です。
1年目は根域が浅く、乾燥すると根が傷んだり葉焼けを起こしたりすることのあるので、畝の地表面が乾かないよう注意し、3日に1回程度の頻度でなるべく晴れた日に灌水を行います。
追肥は、定植30~60日後から開始します。アスパラガスはどんどん肥料を吸収するので、生育の様子を見ながら随時行いましょう。
新しい芽が育ったら、古い茎は倒伏してから切り取っていき、混み合って換気が悪くならないように株を整理します。1年目はあまり収穫を重視しませんが、株の直径が10cmを超え、直径7~8mm以上の芽が多く出るようになったら収穫できます。ただし、1年目は貯蔵根に十分な養分がないので、収穫は30~40日までとして地上部を育てます。
Princess Anmitsu / PIXTA(ピクスタ)
黄化が始まると「養分転流」といって、光合成により地上部に作られた養分が貯蔵根に送られます。早く刈り取りすぎると十分な養分が送られず、翌春の春芽の生育に影響するので、茎葉が完全に黄化した時点で全部刈り取ります。
コウゲン / PIXTA(ピクスタ)
定植2年目以降の管理
2年目以降の管理は、換気に注意し、萌芽伸長の促進よりも品質を重視した温度管理に努めます。地域や品種によって時期は異なりますが、おおよその1年間の流れは次の通りです。
1月に刈り取りをし、前年の切り株や地表に落ちた茎葉の残さなどをバーナー焼却します。その後、保温を始めて発芽時期を調整し、2~3月に春芽を収穫、4~5月に生長点にある充実した芽を選んで立茎し、6~10月にかけて夏芽を収穫、11~12月には養分転流を行います。
寒冷地では、春芽の収穫はもっと遅くなります。
ファイン / PIXTA(ピクスタ)・小町 / PIXTA(ピクスタ)
収穫の見極めは、27cm程度に伸長したものを地際から切り取ります。アスパラガスは水分や養分をよく吸収するので、収穫期には草勢を見ながら、追肥と灌水を兼ねて液肥を月1回程度施用します。
春芽収穫のあとは、夏芽収穫のための立茎をします。立茎は、株の生長点辺りにある直径1.5cm程度の充実した芽を株当たり3~4本、10cm以上の間隔を置いて選びます。
茎葉120cmくらいで摘芯をします。夏場は過繁茂に注意し、通気性や作業性向上のために地際の腋芽は7~8割を除去します。
アイメックス / PIXTA(ピクスタ)
アスパラガスの収穫時期
定植後、3年目の春から本格的な収穫が可能になります。地域ごとに異なりますが、温暖地やハウスで十分に保温できる場合は2~3月、寒冷地では4~5月頃が春芽の収穫時期です。
夏芽を収穫する場合は立茎をするため、春芽の収穫を45~50日で切り上げます。夏芽の収穫は10月頃まで可能です。10月になり、細い芽しか出てこなくなったら収穫をやめ、養分転流のための茎を育てましょう。
アスパラガスの病害・害虫
kmdkssgm /PIXTA(ピクスタ)
ここでは、アスパラガスのハウス栽培で注意すべき主な病害虫について解説します。
アスパラガスの主な病害は「斑点病・褐斑病・茎枯病」
「斑点病」は擬葉や茎、苞に赤褐色で紡錘形の小さな病斑が多数できる病気です。「褐斑病」は茎や擬葉に、中央が灰色で周囲にはっきりとした赤褐色の輪縁のある病斑ができます。「茎枯病」は茎に赤褐色・紡錘形の病斑が見られます。
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
いずれも糸状菌(かび)が原因で、風通しが悪く高温多湿の環境で多発します。梅雨や秋雨期に発生しやすく、夏芽の収穫期や養分転流期の発生に注意が必要です。
芽に発生すれば商品価値を著しく低下させ、枝に発生すれば生育を悪くして十分な養分転流ができず、翌年の春芽の生育を低下させます。
アスパラガスの主な害虫は「ジュウシホシクビナガハムシ・アザミウマ類・ヨトウ類」
「ジュウシホシクビナガハムシ」は、成虫で体長7~8mmほどあり、全体的に橙色をしていて14個の黒点が目立つ昆虫です。春先から成虫による食害が見られ、幼虫・成虫ともに茎葉を好んで食害します。
「アザミウマ類」は「スリップス」とも呼ばれる体長1~2mmの小さな昆虫で、口吻(こうふん)を葉に突き刺して汁を吸い、食害痕を残します。多発すると生育が悪くなります。
「ハスモンヨトウ」は蛾の一種で、幼虫が梅雨明けから発生し、穂先や茎をかじって穴をあけます。日中は葉の影や地際に潜み、主に夜に食害します。
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
病害・害虫対策
続いて、アスパラガスに発生する病害虫の効果的な防除対策を紹介します。
被害株の早期撤去やバーナー焼却など
アスパラガスのハウス栽培の場合、夏場は換気のために開放することから、ハウスとはいえ病害虫の防除にはあまり役立ちません。主な対策は、被害が出たら被害株をできるだけ早期に発見し、株ごと撤去して被害の拡大を防ぐことです。
また、刈り取り後は擬葉などの残さをすべて撤去し、1月にバーナー焼却を行うなどの耕種的防除が有効です。ヨトウムシ類は防虫ネットで防ぐことも可能です。
農薬を散布する
アスパラガスの病害虫防除には、多くの有効な農薬があります。斑点病・褐斑病・茎枯病には、同じ農薬で防除できる「ダコニール1000」「アミスター20フロアブル」などが有効です。斑点病と褐斑病には適用がありませんが、「ベンレート水和剤」は茎枯病に高い効果が得られます。
また害虫には、「ダントツ水溶剤」がジュウシホシクビナガハムシとネギアサミウマのほか、カメムシ類やアブラムシ類に有効です。「コテツフロアブル」もジュウシホシクビナガハムシとハスモンヨトウ、ヨトウムシに有効であり、同時防除が可能です。
なお、ここで紹介する農薬は2022年10月8日現在、アスパラガスに登録のあるものです。実際の使用に当たっては、必ずラベルをよく読み、用法・用量を守って使用してください。
アスパラガス栽培のスマート農業
アスパラガスの栽培は、比較的作業負担が軽く取り組みやすいとはいえ、収穫期には毎日休めない収穫作業に加え、温湿度管理や灌水、施肥などに気を配らなければなりません。こうした作業は品質や収量に影響するため、安定的な収入増加のためにはこまめな管理が必要です。
これらの作業を効率化するべく、株式会社クボタ、inaho株式会社、株式会社オプティム、株式会社ルートレック・ネットワークス、株式会社レグミン、株式会社関東甲信クボタの6社は2021年、アスパラガスなどの作物におけるハウス栽培のスマート化に向けた実証実験を行っています。
出典:各社ニュースリリース「ハウス栽培のスマート化実証実験を開始」
株式会社クボタ ニュースリリース 2021年7月19日
株式会社オプティム プレスリリース 2021年7月19日
株式会社ルートレック・ネットワークス ニュースリリース 2021年7月4日
株式会社レグミン ニュース 2021年7月19日
これが実用化すれば、ハウスの気温や湿度、地中の水分を自動的に計測し、換気や灌水、施肥まで、適切な数値への調整が自動で行えるようになります。
現在、アスパラガスのハウス栽培は、パイプとビニールのみの簡易なものが主流で、手軽さがメリットですが省力化の機能はありません。
このようなスマート技術が普及すれば、初期費用はかかるものの、作業負担を軽減するとともに高い品質を実現し、大幅な収入アップにつながるでしょう。今後の技術開発が待たれます。
ソーシャルワイヤー株式会社(株式会社クボタ、inaho株式会社、株式会社オプティム、株式会社ルートレック・ネットワークス、株式会社レグミン、株式会社関東甲信クボタ プレスリリース 2021年7月19日)
アスパラガスのハウス栽培は、降雨や多湿環境からアスパラガスを守り病害を防ぐとともに、雨天時の作業負担軽減にも寄与します。そのため、露地栽培からハウス栽培に切り替える農家も増えています。今後、スマート技術が導入されれば、アスパラガス栽培はますます取り組みやすくなることが期待できます。
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大曾根三緒
ビジネス、ペット、美術関連など多分野の雑誌で編集者として携わる。 全国の農業協同組合の月刊誌で企画から取材執筆、校正まで携わり、農業経営にかかわるあらゆる記事を扱かった経験から、農業分野に詳しい。2019年からWebライターとして活動。経済、農業、教育分野からDIY、子育て情報など、さまざまなジャンルの記事を毎月10本以上執筆中。編集者として対象読者の異なるジャンルの記事を扱った経験を活かし、硬軟取り混ぜさまざまなタイプの記事を書き分けるのが得意。