次世代アスパラガスの栽培方法「採りっきり栽培」とは?
「採りっきり栽培(R)」とは、アスパラガス栽培の常識を覆す画期的な栽培方法です。段階を追って3年目で収穫可能になるアスパラガスが、この栽培方法なら1年目から収穫できます。その秘密は何なのか、最新のアスパラガス栽培について解説します。
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軽量で単価が高めであるため、流通にも農家にも人気のあるアスパラガスですが、通常本格的な収穫まで3年を要します。その後10~15年にわたって収益をあげることができますが、株の年生ごとの栽培管理で収益に差がつく作物でもあります。
その常識を破って登場したのが「採りっきり栽培」です。従来の栽培方法とはまったく違う、この新しいアスパラガス栽培の特徴をご紹介します。
※「採りっきり栽培(R)」はパイオニアエコサイエンス株式会社の登録商標です。この記事では以下「採りっきり栽培」と表記します。
今注目のアスパラガスの「採りっきり栽培」とは?
ノア / PIXTA(ピクスタ)
従来のアスパラガス栽培
アスパラガスはヨーロッパ原産で、日本では明治以降に栽培されるようになりました。鮮度がよければ生でも食べることができ、多様な調理法があるため、世代を超えて人気のある野菜です。
しかし、収益化するまでに時間ががかかる作物でもあります。苗を植えてから丸2年間は、根株の生育を待たなければならず、本格的に出荷できるのは3年目以降です。
その後、10~15年にわたって収穫できますが、根株が古くなると収量も減り、病害にもかかりやすくなってしまいます。
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従来のアスパラガス栽培との違い
従来のアスパラガス栽培の負担を軽減し、毎年新しい株からアスパラガスの収穫を可能にするのが、従来の栽培方法とは根本的に異なる「採りっきり栽培」です。
採りっきり栽培は、産官学のコラボレーションによって生まれた農法で、明治大学農学部農学科の野菜園芸学研究室を中心に、パイオニアエコサイエンス株式会社と東京都多摩市ほか2市による共同開発で誕生しました。
従来のアスパラガス栽培では、苗を定植してから出荷可能になるまで、丸々2年という期間が必要でした。
ところが採りっきり栽培では、多年性というアスパラガス栽培の常識を覆し、1つの株を1年間で次の株へと更新します。
きゅうりやナスなどと同様に、1つの苗を栽培して収穫し、収穫が終了するまでが1つのサイクルで、翌シーズンはまた新しい苗から栽培がスタートするわけです。
この点が、従来のアスパラガス栽培とは完全に異なります。
明治大学農学部農学科の野菜園芸学研究室とパイオニアエコサイエンス株式会社が共同開発した「採りっきり栽培」
出典:ソーシャルワイヤー株式会社(学校法人明治大学 ニュースリリース 2020年8月31日)
不可能を可能にした「専用ホーラー」
通常の栽培1年目の定植は、凍霜害を避け、暖地で3月~4月、冷涼地で6月~7月に行われます。1年目は十分な根株養成期間がないため、収穫できません。
採りっきり栽培では、2~3月という早い時期に定植することで、翌春の収穫を可能にしています。この時期の凍霜害を避けるために明治大学によって開発されたのが、専用ホーラーを用いた定植方法です。
専用ホーラーで、15cmほどの深さに、苗の周囲に土の壁をつくる形で苗を植え込めば、地温を確保でき、凍霜害を避けることができるのです。
当年定植でも、収穫に十分な生長を確保できる
出典:ソーシャルワイヤー株式会社(学校法人明治大学 ニュースリリース 2016年10月24日)
アスパラガス「採りっきり栽培」の播種から収穫まで
この新しいアスパラガス栽培法は、どのような流れで行われるのでしょうか。ここからは、具体的な栽培の手順とポイントについてご紹介します。
※関東地方など一般地での露地栽培を想定しています。
1. 播種
播種は地域の気候に合わせて、12月上旬~2月までに、128穴のプラグトレイを使って行います。発芽温度は28℃前後で、おおよそ2~3週間で発芽します。
発芽してからは、20℃前後の環境を保つことがポイントです。
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2. ほ場準備
ほ場は排水性がよい土壌を選び、準備段階で10a当たり4tの堆肥を投入します。そのあと、10a当たり20kgの窒素成分を基肥にして、土壌が十分に水分を含んだ状態でマルチングを行います
3. 定植
定植は3月中旬~4月上旬に、専用ホーラーを使って行います。株間 約40cm、条間 約140cmが目安です。
マルチによる熱風焼けを防ぐため、茎径が3mmを超えたら、土でマルチ穴を塞ぎます。
4. 病害虫防除
採りっきり栽培は1年で株が更新されるため、病害虫の影響を受けにくいメリットがあります。しかし、生育が盛んになる5月以降は、定期的に病害虫防除を実施したほうがよいでしょう。
特に注意すべき病気は「茎枯病」や「斑点病」などで、害虫はアザミウマ類やカメムシなどが発生しやすい傾向にあります。6~10月の期間中は、定期的な防除が必要となるでしょう。
アスパラガス 茎枯病 発病茎
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
5. 倒伏防止
アスパラガスは茎の生育に合わせ、早めに支柱やネットを設置して、倒伏を防止する必要があります。この点は従来のアスパラガス栽培と同じです。
6. 栽培管理
11月中旬頃に地上部分が黄化したら、そのまま刈り取らずに根株に養分を流転させます。
その後、年末から年明けにかけて、茎が乾燥して割れるようになったら、地上部分をすべて刈り取ります。同時にマルチも外してしまいましょう。
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7. 収穫
収穫は翌年の3月中旬頃から、およそ60日間にわたって続きます。可食部20~25cmで収穫し、目標収量は10a当たり約1,000kgです。
収穫時期が終了したら、根株をそのまま土壌にすき込んで、1つのサイクルが完了します。
収穫期を迎えた「採りっきり栽培」のアスパラガスほ場
出典:株式会社PR TIMES(東京都多摩市 ニュースリリース 2019年3月13日 )
アスパラガス「採りっきり栽培」のメリット
最後に、採りっきり栽培を始める魅力は何なのか、そのメリットをまとめておきます。導入を検討する際の参考にしてください。
早期の収益化
従来のアスパラガス栽培では、本格的な収穫は3年目まで待つ必要がありますが、採りっきり栽培では定植の翌春から収益化が可能で、1年更新なのでその後の根株養成は必要ありません。
病害の影響を受けにくい
10年以上、同じほ場・同じ根株で養成と収穫を繰り返す、従来のアスパラガス栽培では、根株は次第に老化していき、また、輪作体系に組み込むことができません。そのため、病害が発生しやすく防除の負担がかかっていました。
1年で株を更新する採りっきり栽培はほかの作物との輪作が可能で、根株は常に若い状態のため、病害リスクが減少します。
収量増が見込める
茎の太い「採りっきり栽培」アスパラガス
出典:ソーシャルワイヤー株式会社(学校法人明治大学 ニュースリリース 2019年3月13日)
従来の栽培方法よりも、L規格以上の割合が増加すると報告されています。10a当たり約1,000kgという目標収量は、従来の栽培法での全国平均のほぼ2倍に当たります。
また、収穫期を、アスパラガスの端境期の4月にあわせることで高値の出荷を狙うこともできます。
採りっきり栽培アスパラガスの太い茎を利用したお寿司
出典:株式会社PR TIMES(東京都多摩市 ニュースリリース 2020年3月18日)
1年ごとに株を更新していく採りっきり栽培は、ほ場を専有せず、早期の収益化が可能で、アスパラガス栽培の門戸を大きくひろげたといえるのではないでしょうか。
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大澤秀城
福島県で農産物直売所を立ち上げ、店長として徹底的に品質にこだわった店づくりを行い、多くの優れた農家との交流を通じて、農業の奥深さを学ぶ。 人気店へと成長を遂げ始めたさなかに東日本大震災によって被災。泣く泣く直売所をあきらめ、故郷の茨城県で白菜農家に弟子入りし、畑仕事の厳しさを身をもって体験する。 現在は農業に関する知識と体験を活かしながら、ライターと塾講師という2足のわらじで日々歩みを進めている。