【2023】アスパラガスの最新品種を一覧比較!「今育てるべき」優良品種は?
アスパラガス栽培で収量や品質を向上させるには、気候条件、作型、ほ場の条件のほか、想定する売り先の需要に合った品種を選ぶことが重要です。品種選定の際の参考として、本記事では2023年現在の新品種を中心に、アスパラガスの人気品種の特徴を解説します。
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アスパラガス栽培は少ない初期投資で導入しやすく、収益性も高いため、水田転作や輪作として取り組む農家も多くいます。北海道や東北などの寒冷地から九州をはじめとする温暖地まで広く栽培され、各生産地で品種改良や新品種の開発も盛んに行われています。
国内産アスパラガスの主要品種と、主な作型
プルースト/ PIXTA(ピクスタ)
アスパラガスは、食の欧米化が進むにつれて日本でも人気が高まり、現在では年間を通して安定した需要があります。需要に応じてさまざまな品種の開発が進み、色や形、サイズのバリエーションも豊富です。
2023年現在、北海道から九州まで、各地で気候に合わせた栽培技術が確立され、さまざまなアスパラガスの品種が栽培されています。各産地ではどのような品種が主に栽培されているのか、地域差や作型にも触れながらご紹介します。
全国的に「ウェルカム(グリーンアスパラガス)」の栽培が盛ん
地域や気候を問わず、全国的によく栽培されている品種が、幅広い作型に対応するグリーンアスパラガス「ウェルカム」です。ウェルカムは病気に弱いものの、多収性で品質が高く、生育の揃いもよく栽培しやすいので、初心者でも取り組みやすい品種です。
アスパラガス栽培では、主に冷涼地の「露地春どり栽培」や、暖地で開発され全国的に広まっている「半促成長期どり栽培」、露地栽培にトンネル被覆で作期前進させる「トンネル栽培」など、さまざまな栽培技術が確立しています。
ウェルカムは、そのほとんどの栽培方法に適応し、反収も高いため各地で主要な品種となっています。
そのほかの品種としては、北海道ではホワイトアスパラガスとしても栽培されている「ガインリム」や、ウェルカムよりも茎が太い「スーパーウェルカム」などが多く栽培されています。
また、長野や福島などで栽培されている茎枯病に強い「グリーンタワー」や、幅広い作型に対応でき、市場性の高い極早生種「バイトル」などもよく知られています。
これから作付・改植するなら、収量などで優位な新品種もおすすめ
安定的に多収が得られるウェルカムは、多くの産地で長い間主要品種とされてきました。しかし、現在ではより収量性・収益性に優れていたり、ウェルカムにはない特長を持っていたりする新品種も多く開発されています。
病気に弱いウェルカムの弱点を補う、耐病性の高い品種もあります。
アスパラガスの株は一度根付くと長く収穫し続けられますが、10年ほどで収量が減ってきます。
ウェルカムを長く栽培してきたものの、株の老齢化のため収量の低下が見られ、更新を検討している場合や、これから新規にアスパラガスの導入を考えている場合には、これまでにない新品種も選択肢に入れるとよいでしょう。
【2023最新】特長を比較! アスパラガスの新品種一覧
たけちゃん/ PIXTA(ピクスタ)
近年、品種登録・出願されたアスパラガスの新品種の中から、特に注目すべき品種は以下の4つです。ここでは、それぞれの特長について解説します。
・ウェルカムAT
・さぬきのめざめ2021
・RG紫色舞ファースト
・ふくきたる
ウェルカムAT(グリーンアスパラガス/全雄系)
「ウェルカムAT」は、オランダで育成された新品種で、2018年に株式会社サカタのタネから発売されました。2020年には「Atticus」という名で品種登録されています。
ウェルカムと同様に「露地春どり栽培」や「長期立茎栽培」、冷涼地および高冷地で行う「伏せ込み栽培」など、さまざまな作型や地域に幅広く対応できます。茎は安定して太く、頭部の締まりもよく、食味は良好です。
一般的なアスパラガス品種は定植後3年目から本格収穫が可能となるのに対し、ウェルカムATは定植後2年目からの高い上物率が期待できることも特長です。
なかでもウェルカムATの特に優れた点は、生育した株がほぼ雄株になる「全雄系」のF1品種であることです。アスパラガスは雌雄異株で、通常は生育すると雄株になるものと雌株になるものが混ざっていますが、全雄系の場合はほとんどが雄株となります。
雄株しかないため雌雄の差がなく、生育が揃い、選果や調整作業がしやすいうえ、受粉をしないので種子が付いて樹勢が衰えたり、こぼれ種から生えた実生苗が雑草化したりする問題が起きないなど、多くのメリットがあります。
一方、雄株は雌株に比べて茎が細くなる傾向がありますが、ウェルカムATは雄でも太い若茎を安定して収穫できる点も大きな特長です。
出典:株式会社サカタのタネ「ニュースリリース|アスパラガスの新品種『ウェルカムAT』の種子を発売」
さぬきのめざめ2021(グリーンアスパラガス/雌雄混合)
アスパラガスの温暖な産地である香川県では、農業試験場が育成した「さぬきのめざめ2021」が、2022年6月に品種登録出願公表されました。
さぬきのめざめ2021は、現在香川県で栽培されているアスパラガスの6割以上を占めるオリジナル品種、「さぬきのめざめ」をもとに生まれた新品種です。
出願公表されたことにより、出願者である香川県の許可がなければ第三者による生産・譲渡はできません。2~3年後には品種登録される見込みです。
さぬきのめざめ2021はさぬきのめざめと比較して、低温期のアントシアニンの発生が少ないので赤くなりにくく、夏の高温期でも濃い緑色を保つため色鮮やかです。春どりで収穫始めがやや早く、萌芽は安定して収量も多いのが特長です。
香川県では、知名度の高いさぬきのめざめをもとにした品種改良が積極的に行われており、2021年に一足早く品種登録された紫アスパラガス「さぬきのめざめビオレッタ」とともに、「さぬきのめざめシリーズ」の展開をめざしています。
出典:香川県「アスパラガスの新品種「さぬきのめざめ2021」を育成しました」
RG紫色舞ファースト(紫アスパラガス/雌雄混合)
「RG紫色舞(むらさきしきぶ)ファースト」は、「RG紫色舞ルーチェ」とともに北海道の酪農学園大学農食環境学群長・園田高広教授によって開発された紫アスパラガスの新品種で、2022年3月、同時に品種登録されました。
園田教授は10年かけて学生たちと協力しながら改良を重ね、2種類の紫アスパラガス品種開発に成功しました。
これまで日本で栽培されていた紫アスパラガスは、病気に弱く収量も少ないうえに、色味も暗くて鮮やかでないなどの課題があり、あまり普及が進んでいませんでした。
一方で、北海道はアスパラガスの主要産地ですが、人手不足から作付面積が減少し続けているという課題を抱えていました。
園田教授は、このような状況を打開するため、優れた紫アスパラガス品種の開発によって道内のアスパラガス生産を振興し、農家の収益増につなげたいという思いから開発を進めてきたとのことです。
新品種のRG紫色舞ファーストRG紫色舞ルーチェは、ともに色味が鮮やかで、従来品種よりも安定して収量が多い品種となっています。ルーチェは収穫時期が5月中旬と道内のグリーンアスパラガスよりも10日ほど遅いものの、。従来品より茎が太いのが特長です。
ファーストは、太さではルーチェに及びませんが、収穫時期がグリーンアスパラガスとほぼ同じで、同時出荷が可能です。同じく北海道で生産されているホワイトアスパラガスと組み合わせて、3色アスパラガスとして付加価値を付け、贈答用として出荷すれば収益アップにつながります。
出典:酪農学園大学「NEWS No.11(2022年度)園田高広教授が開発した紫アスパラガスが品種登録されました。」
ふくきたる(グリーンアスパラガス/雌雄混合)
福島県のオリジナル品種である「ふくきたる」は、東日本大震災からの復興と、県内農業者だけでなく県民すべてに福が訪れるように、との願いをその名に込められています。2015年に商標登録出願・名称公表され、品種登録は2021年6月です。
ふくきたるの特長は、ウェルカムと比較して生育が旺盛で収量性も高く、春芽の芽生えが10日ほど早いため、早期収穫・出荷が可能な点です。茎が太くて芽の揃いがよく、製品化率が高いうえに食味も良好で、安定的に高収益が期待できます。
春どり、夏秋どりが可能で、現在、県内のアスパラガス農家を中心に栽培され、徐々に普及が広がっています。
出典:FOODS CHANNEL「アスパラガス新品種名称公表のお知らせ(提供:福島県庁)」
出典:福島県「福島県オリジナル品種」 所収「アスパラガス『ふくきたる』の紹介」
選定のコツは? “アスパラガスの優良品種”を見極めるポイント
alps/ PIXTA(ピクスタ)
アスパラガス栽培で新たな品種を選定する際は、作型に適しているかどうかに加え、「収量性・収益性」と「雌雄間差」に着目するとよいでしょう。そこで以下では、それぞれの着目すべきポイントについて解説します。
“太いアスパラガス”が人気! 所得向上に直結する「収量性・収益性」
taa / PIXTA(ピクスタ)
従来主流となっているウェルカムは病害に弱く、茎枯病などにより収量が減少することがあります。そこで、所得向上のためには茎枯病など主要病害への耐性が高く、多収が見込める品種を選定することが重要です。
それに加えて、近年の市場における「太いアスパラガス」人気の高まりから、茎の太さも重視すべきポイントです。アスパラガスは品種によって、細い茎を特長とするものと太い茎を特長とするものがあります。現在の人気の動向を考えると、スーパーウェルカムやウェルカムAT、ふくきたるなど、太い茎の品種が市場ニーズに合っています。
また、収益性の面では紫アスパラガスなど付加価値の高い品種を選定し、レストランなどの独自の販路を確保して、単価の向上をめざすのもひとつの戦略です。
全雄系? 雌雄混合? 農作業の省力化にもつながる「雌雄間差」
先述したように、アスパラガスでは雌株のほうが雄株と比べて太い若茎のものが収穫でき、収量も高いことが判明しています。太もののニーズが高いことにより、高単価なため、雌雄混合で雌株を利用することは収益向上の可能性があります。
ただし、雌雄判別や雑草化した実生苗の防除にかかるコストを考える必要があります。
その点、ウェルカムATのように、近年は全雄系品種でありながら太い若茎が収穫できる新品種が開発されており、品種にも「全雄系」「雌雄混合」などと表記されていることがあります。
ウェルカムATの項目で説明したように、全雄系にはサイズが揃いやすく選別や出荷作業が省力化できる、こぼれ種が発生しないため余計な除草作業が不要になる、といったメリットがあります。作業の省力化をしたい場合には、全雄系の選択を検討してみましょう。
アスパラガス栽培をすでにしていて収益が伸び悩んでいる場合は、現状の課題を割り出し、その解決に適した品種を選ぶことが大切です。
また、人気がある太い茎の品種にするのか、あえて特徴的な個性を持つ品種を栽培するのか、出荷時期を調整するのか、作業の軽減を図るのかなど、重視したいポイントを絞り込み、目的に合わせて品種を選んでください。
アスパラガスは品種改良が盛んで、品種によって個性が大きく異なります。そのため、アスパラガス栽培に取り組む際は、販路・作型・栽培暦などを十分に検討し、ビジョンに合った品種を選ぶことで収益性を大きく向上させられます。新品種も常にチェックして適切な品種を選び、収益アップをめざしましょう。
ただし、アスパラガスの株は一度植え付けると10年持つので、すぐには品種を変えられません。この点に注意し、長期的な計画を立てることが重要です。
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大曾根三緒
ビジネス、ペット、美術関連など多分野の雑誌で編集者として携わる。 全国の農業協同組合の月刊誌で企画から取材執筆、校正まで携わり、農業経営にかかわるあらゆる記事を扱かった経験から、農業分野に詳しい。2019年からWebライターとして活動。経済、農業、教育分野からDIY、子育て情報など、さまざまなジャンルの記事を毎月10本以上執筆中。編集者として対象読者の異なるジャンルの記事を扱った経験を活かし、硬軟取り混ぜさまざまなタイプの記事を書き分けるのが得意。