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梨の受粉(人工授粉)方法 甘く形よく実らせるためのポイント

梨の受粉(人工授粉)方法 甘く形よく実らせるためのポイント
出典 : tsukat / PIXTA(ピクスタ)

自家不和合性を持つ梨の栽培では、確実に受粉・結実させるためには訪花昆虫による自然受粉を期待するだけでなく、人工授粉の作業が不可欠です。本記事では人工授粉と自然受粉の違いや、人工授粉の具体的な方法、授粉を成功させるためのコツについて紹介します。

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梨の栽培では、気温、湿度などの気候条件のほか、梨自体の特性をよく理解しておく必要があります。本記事では、自然受粉に比べ受精の確率を高める人工授粉の具体的な方法、人工授粉に必要な機具類および梨の生育特徴について紹介します。

梨の受粉方法

梨 花 葯

pixelcat/ PIXTA(ピクスタ)

梨の受粉方法には、自家不和合性の遺伝子型が異なる受粉樹を混植してマメコバチやミツバチによる授粉を期待する「自然受粉」と、採取したり購入した花粉を手作業で授粉する「人工授粉」があります。

梨では人工授粉が主流

梨の場合、開花期の天候不順リスクを避け、確実にムラなく着果させるため、人工授粉が広く普及しています。

公益財団法人中央果実協会が2016年に日本梨の主産県15県を対象に行った調査によると、全ての県で人工授粉を採用しています。さらに授粉樹の混植や訪花昆虫の放飼で補っている県もあります。

日本梨の主産県 15県の受粉方法(2016年調査)

日本梨の
受粉方法
回答数構成比
花粉を入手し
人工授粉
15県100%
授粉樹を混植し
自然受粉に期待
9県60%
授粉樹を混植し
ハチを放飼
6県40%

出典:公益財団法人中央果実協会「調査研究成果(国内)」
所収「平成28年度 なしの安定生産に向けたなし花粉の利用実態調査報告書(中央果実協会調査資料 No241)」よりminorasu編集部まとめ

梨の人工授粉手順

人工授粉には、受精させるための花粉を採取する工程と、花粉を雌しべに付着させる工程があります。この章では人工授粉での花粉の取り扱い方と、受粉作業の方法について紹介します。

花粉の採取方法

梨の蕾、開花直前

通りすがり / PIXTA(ピクスタ)

人工授粉の前には、開花しかけの花蕾を集め、葯(やく)採取機、開葯器(かいやくき)などの機器を使用して花粉を取り出します。

花蕾を摘む

まず開花しかけの蕾を摘みます。若い蕾では花粉の能力が足りず、開花した後はすぐに葯が開いて花粉が飛散してしまうので、開花しかけの花弁が風船のようにふくらんだ状態のときに摘むのが効率的です。

この花蕾の採取を効率化するために、農研機構が梨の主産県とともに「手持ち式花蕾採取機」を開発しています。

農研機構 Youtube公式チャンネル「花蕾採取機」

埼玉県塗業技術研究センターの試験では、採取時間が立ち木区で45%、低樹高区で25%短縮されたと報告されています。鳥取大学の現地実証試験では、棚栽培で89%、低樹高ジョイント栽培で62%削減されたことが報告されています。

2022年2月に製品化されていますので、導入を検討される方は問合せてみてください。
製品ホームぺージ:株式会社サンオーコミュニケーションズ「花蕾採取アシスタント トップページ」

出典:
農研機構生物系特定産業技術研究支援センター「(お知らせ)輸入花粉に依存しない国産花粉の供給強化に向けて」(プレスリリース 2023年1月31日) 所収「別紙」
埼玉県塗業技術研究センター「令和3年度 農業技術研究センター試験研究成果発表会」 所収「ニホンナシにおける花粉自給率向上のための取組」
鳥取大学 農学部 「花粉採取技術開発コンソーシアム|研究成果(ポスター)」所収「(2)手持ち式花蕾採取機の現地実証」

葯だけを集める

集めた花蕾を葯採取機にかけて花弁などを取り除きます。

次に「葯フルイ」にかけ、さらに葯精選機で細かい花糸を取り除いて、濃いピンク色の葯だけを集めます。採葯と葯フルイ・花糸とりを連続してできる機械もあります。

株式会社ミツワ Youtube公式チャンネル「葯採取機(MK 402)」

葯を開いて花粉を取り出す

集めた葯をトレイに敷き詰め、開葯機に入れ25℃前後で約1日加温すると、葯が開いて黄色い花粉が採取できます。

株式会社ミツワ Youtube公式チャンネル「開葯器(M-300D)」

購入した花粉を使う場合の手順

人工授粉に必要な花粉量は、品種や栽植密度、樹齢によって異なりますが、前出の中央果実協会の調査資料によると、10a当たり80g程度が平均です。

受必要量を確保できない場合は花粉を購入して必要量を補いますが、購入花粉は「順化」または「馴化」という準備が必要です。

馴化作業は、まず花粉を冷凍庫から冷蔵庫に移し、一晩置きます。そして花粉を載せた皿を濡れタオルを敷いた蓋付きの容器に入れます。10〜13℃程度の室温で24時間放置し、花粉を外部の温度に適応させるとともに、水分を吸収させたら馴化作業は完了です。

受粉作業の方法

この章では、人工授粉のタイミングと「粉末授粉」と「溶液受粉」の2種類の方法について紹介します。

タイミング

梨の花が受粉できる期間は、開花から約4日です。この期間は目安で気象状況によって変ります。気温が高く乾燥しているときは期間は短く、低温で雨が続いたときは長くなります。

気象情報をチェックし開花ピークを見極めて作業日を決めますが、生育状況や場所などの条件で、開花ピークにはばらつきがでるので、数回にわけて作業するのが一般的です。

また、花粉が柱頭についてから発芽を始めるまでには2~3時間かかるので、降雨の予想がない日の早めの時間に作業を行うこともポイントです。

万が一、人工授粉後すぐに雨が降った場合は、花粉が流れてしまうことがあるので、再度実施します。

手作業や交配機による粉末授粉

梵天による梨の人工授粉

tsukat / PIXTA(ピクスタ)

花粉を増量剤(石松子)で希釈して梵天や筆、または、交配機で花粉を花に付けていくのが「粉末受粉」です。

80%前後の発芽率の場合、花粉精選機を通さない「粗花粉」は2倍程度、花粉精選機を通したり、購入したりした「純花粉」は10倍程度に希釈します。

実際の授粉作業は、柱頭を傷つけないような柔らかな梵天や筆の先端に花粉を付着させ、雌しべの柱頭付近で優しく撫でていきます。

確実に授粉でき、慣れれば誰にでも作業ができることがメリットですが、複数人で作業する場合は、付着させる花粉量にムラがでたり、花粉を多く使ってしまわないよう注意が必要です。

作業する人には花粉の使用量と作業量の関係について適切な指示を出しましょう。また、梵天や筆が湿ると花粉が固まって花に付着しにくくなるので、乾いたものと取り替えるようにします。

交配機は電動で花粉を散布することで人工授粉の効率を高める器具です。噴出口の先端に羽毛が付いており、花を傷つけず授粉を促すことができます。

交配機を使用するときの花粉量や希釈倍数は、製品の取扱説明書などに従ってください。

溶液受粉の手順

花粉を専用の溶液に懸濁させスプレーで吹き付けるのが「溶液授粉」です。

液体増量剤を1L作成する場合、蒸留水(精製水)1L、受粉の有無を確認するための食用色素(赤色102号)0.1~0.2g、ショ糖100gを準備します。

これらにキサンタンガム(食品用増粘剤)0.4gもしくは、粉末タイプの寒天1gを加え、粉末がだまにならないように溶かします。

ここに希釈倍率が300倍程度(3g/L)になるように花粉を溶かし込んで花粉懸濁液を作り、ハンドスプレーなどを用いて、着果させたい梨の花の柱頭めがけて散布します。

液体増量剤に混和した花粉は、時間の経過に伴って発芽率が低くなってしまうため、3時間程度を目安に使い切りましょう。

出典:農研機構 「技術紹介パンフレット|ニホンナシの溶液受粉について 2018年3月改訂版」所収「ニホンナシ溶液受粉マニュアル2018」

甘く形のよい梨を結実させる受粉のポイント

梨 人工授粉

tsukat / PIXTA(ピクスタ)

人工授粉を成功させ、良質な果実を収穫するためには、梨の結実条件を知ることが重要です。以下、梨の特質および受粉に適切な環境条件を紹介します。

花粉採取用の品種について

梨には同一品種や同じ個体の花粉では受粉しない自家不和合性という性質があり、品種によって個別のS遺伝子型(自家不和合成遺伝子型)を持っています。

授粉に用いる花粉は、このS遺伝子型を調べ、異なるS遺伝子型を持つ品種のものを用意しなければなりません。

また、異なる品種同士であっても、その組み合わせによって梨が結実する確率が異なります。良質な梨の果実を収穫するためには、品種ごとの親和性を知ることが重要です。

梨の主要品種(縦軸)と受粉用品種(横軸)のS遺伝子型

奈良吉野
古木
新生新興土佐梨今村夏長十郎
S1 S9S3 S4S4 S9S1 S7S1 S12S2 S3
S1 S3凛夏
S1 S5秋水
S1 S7豊月×
S2 S4二十世紀
ゴールド
二十世紀
菊水
S3 S4あきづき×
甘太×
筑水×
なつしずく×
秋麗×
なつひかり×
若光×
稲城×
S3 S5豊水
S3 S9新高
S4 S5幸水
王秋
新水
愛甘水
S4 S9新星×
南水×
新甘泉×
S5 S7晩三吉
S5 S9にっこり

※×の組み合わせは使えない
出典:佐賀県 果樹試験場「果樹の栽培管理 ナシ」所収「再確認!なし授粉作業に向けた注意点」、埼玉県 農業技術研究センター「令和3年度農業技術研究センター試験研究成果発表会」所収「ニホンナシにおける花粉自給率向上のための取組」よりminorasu編集部まとめ

例えば、「S4・S5」の「王秋」の花粉親に、同じ遺伝子型の「幸水」は使えません。これは花粉採取用の品種でも同じで、「あきづき」は「S3・S4」なので、花粉親に受粉用品種の「新生」は使えません。



また、近年では自家和合性を持つ品種が開発されつつあり、人工授粉の作業時間の短縮が期待されています。

出典:
国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構 広報・プレスリリース「全てのナシ品種を結実させる花粉を作るニホンナシ系統を作出」

受粉に適した条件を整える

地域や品種によって異なりますが、気温、湿度ともに条件が整いやすい4月初旬から中旬にかけてが受粉に適切な時期です。

梨は、日中の気温が25℃前後の晴れた日に受精の確率が高まり、気温が10℃以下になると発芽率が低下します。適切な温度を確保するための工夫としては、防風林や防風ネットの利用が有効です。

また、乾燥した気候条件下では発芽率が低下するため、受粉には雌しべの花の柱頭がやや湿って花粉が付着しやすい状態が理想的です。

乾燥対策としては、園内への散水や、人工授粉を行う花粉に多少の湿気を含ませることなどが挙げられます。

出典:佐賀県「果樹の栽培管理 ナシ」所収「再確認!なし授粉作業に向けた注意点(佐賀県果樹試験場)」

受粉可能な花を見分ける

適切に授粉を行うためには、受粉が可能な花を見分ける必要があります。

開花以降、雌しべの柱頭は粘液が分泌されて湿っている状態から時間の経過とともに乾燥し、花粉が付着しにくくなるため、開花から間もない湿った状態のときに授粉作業を行うことがポイントです。

雄しべがピンク色に色づいていることや、柱頭がしっかりしていること、雌しべが虫の食害などによって枯れていないことなども適切な花の条件として挙げられます。

すべての柱頭に花粉を付着させる

梨の花には一部の品種を除いて雌しべが5本存在し、そのすべての柱頭に花粉を受粉させる必要があります。

すべての柱頭が受粉しないと奇形果が発生し、良質な果実の収量低下につながります。対策としては、花が5分咲きの時期と、満開の時期と期間を空け、2回以上の人工授粉を行うことでより確実に結実を促すことができます。

梨は自家不和合性の作物であり、栽培において良質かつ収量増を実現するためには人工授粉が不可欠です。

梨の生育特性および人工授粉のための方法、花粉の管理についての理解を深めたうえで、園地の面積、樹の本数などに即した人工授粉の方法を検討しましょう。

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大森雄貴

大森雄貴

三重県伊賀市生まれ。京都を拠点に企業・団体の組織運営支援に携わった後、2020年に家業の米農家を継ぐためにUターン。現在は米農家とライターの二足の草鞋を履きつつ、人と自然が共に豊かになる未来を願いながら、耕作放棄地の再生、農家体験プログラムの実施、暮らしを大切にする経営支援などに取り組んでいる。

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