梨の摘花方法!花芽の整理から摘果まで、よい実を栽培するコツ
梨栽培において、生育や日当たりのよい花だけを残して余分な花を摘み取る摘花作業は品質のよい果実を実らせるうえで重要な役割を担っています。本記事では、梨栽培で摘花を行う目的や全体の工程における位置付け、摘花のポイントなどを解説します。
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梨の栽培において、摘花は品質がよく大きな果実を収穫するために欠かせない作業です。摘花をきちんと行うことで、優良な花のみに栄養を集中させ、果実の肥大を促せます。本記事では、よい果実を実らせたいと考えているプロの農業従事者に向けて、梨の摘花の方法やポイントなどを紹介します。
梨の摘花とは? 目的と効果
蕎麦喰亭 / PIXTA(ピクスタ)
摘花とは良質な果実になりそうな花だけを残し、他の花を取り除く作業のことです。
花を咲かせることは果樹にとって非常にエネルギーを要します。多くの花が咲き、その一つひとつが結実すると、果実を肥大化させるための栄養が分散され、1つ当たりが小ぶりな果実になってしまいます。
このような状況を防ぐため、あらかじめ結実数を制限し、果実の肥大を促すのが摘花を行う目的です。
また、摘花はその後の交配や摘果、袋かけといった工程の作業時間を短縮するうえでも役立ちます。
梨の摘花方法
kikisorasido/ PIXTA(ピクスタ)
梨は1つの花芽に約8〜10程度の蕾が付き、花が咲きます。
このとき、複数の花が束状になった花そう状態になりますが、目安としては花そう当たりの開花数が2〜3花程度となるように制限します。
花が梨の樹の枝に密集している箇所については、生育がよく、日当たりのよい位置に付いている花を残し、生育が悪い花や日当たりの悪い位置に付いている花は摘み取りましょう。
開花以前に不必要な蕾を手で摘み取る作業を摘蕾と呼びますが、摘花の際は手で摘み取ることが難しいため摘花用の鋏を用います。
梨の摘花に適した時期
pixelcat/ PIXTA(ピクスタ)
梨の多くの品種は4月初旬から中旬にかけてが開花時期に当たるため、摘花もそれに合わせて花が開花し始める4月頃に実施します。タイミングとしては花が満開になってから3日程度までが最適です。
よい実の栽培につながる! 梨栽培の流れとコツ
Carbondale / PIXTA(ピクスタ)
この章では、よい実を栽培するためのコツを梨作りの大まかな手順とともに解説していきます。梨栽培における作業全体の流れを確認し、ここまで解説してきた摘花の役割について理解を深めてください。
花芽の整理
花芽の整理は、蕾が付くまでの3月中に行います。花芽を整理しておくことで、開花、結実時の貯蔵養分の消耗が抑えられ、果実が肥大しやすくなります。
果樹の育成において、短果枝および短果枝群には複数の花芽が付きやすくなりますが、後々の樹形や枝における花芽の位置を考慮したうえで、必要となる花芽以外を取り除きましょう。
短果枝および短果枝群の中でも、側枝の外側を向き、充実した花芽のみを残すことがポイントです。
芽が小さい場合は手で、大きく堅い芽の場合は鋏を用いて切除します。摘み取る量としては、全体の7割ほどが目安です。
摘蕾・摘花
花芽が膨らんで蕾になった際、開花させずに蕾のまま摘み取る作業のことを摘蕾、開花後に余分な花を摘み取る作業を摘花と呼びます。
蕾が形成されてから開花までの期間は短く、摘蕾作業が追いつかず開花してしまう場合があります。摘花は、摘蕾で取り切れなかった分を補完する要領で行います。
摘蕾は梨の花が満開になる1週間前くらいから、摘花は満開後3日程度までが適期です。
昨年までの果実の質や結実率を考慮したうえで、枝に密集して多く付きすぎた蕾や、質が低下しやすい子持ち花などを摘み取り、必要な蕾と花だけを残しましょう。
なお、摘み取った中で生育状態がよい蕾や、開花直前の膨らんだ蕾、開花して間もない花には、十分な受精能力を備えた花粉が含まれている場合があります。
こうした蕾や花は採葯機や開葯器にかけることで人工授粉用の花粉を採取することも可能です。
交配
梨は一部の品種を除き、同一の品種同士ではうまく受粉ができない自家不和合性という性質を持つ作物です。
花の雌しべにある5つの柱頭すべてで受粉すると形の整った果実に成長しますが、1つでも受粉できなかった柱頭があると子房が綺麗に膨らまない奇形果が発生します。
すべての柱頭に確実に受粉させ、奇形果の発生を防ぐためには、ミツバチをはじめとする訪花昆虫の活用のほか、人工授粉も行われます。人工授粉を行う場合は、開花が始まる4月初旬から中旬が適期です。
なお、人工授粉にもさまざまな方法があり、手作業のほか、動力機械を用いて花粉を雌しべに吹き付ける方法、花粉を溶液化したものをスピードスプレーヤー(SS)で散布する方法などがあります。
機械作業の場合は作業スピードが向上する一方、手作業よりも多くの花粉が必要になります。手作業は手間と時間がかかりますが、十分な量の花粉を確保できない場合に最適です。
摘果
摘果は、栄養を十分に受け取って肥大化した果実を収穫するために、不必要な果実を摘み取り、適切な量に減らす作業です。
摘果は予備摘果と仕上げ摘果(本摘果)の2度に分けて行います。予備摘果は4月中旬から下旬にかけて、仕上げ摘果は果実が結実し始める5月初旬から6月初旬にかけて行うのが一般的です。
果実の肥大につなげるためには早期に行うことが望ましいものの、雹害のある地域などでは果実が雹害を受けることを見越して予備摘果を行わずに多く果実を残しておき、仕上げ摘果のみで対応する場合もあります。
摘果する果実を選ぶ際は、着果している枝の位置と果実の形を考慮します。
枝の先端部に着果した果実は新梢の伸長を促すために摘み取り、枝の真上に結実した果実も発育に伴って軸折れしてしまう可能性があるため摘み取りましょう。
また、枝の下側にできた果実も、日当たりが悪く、傷が付きやすくなるため摘み取ります。
果実の形に焦点を当てて摘果する際は、生育不良のもの、奇形果、病害虫による傷や変色のあるものを中心に摘果していきます。
袋かけ
袋かけを行いながら栽培する方法を有袋栽培、袋かけを行わない方法を無袋栽培と呼びますが、無袋栽培では鳥や害虫による食害で果実に傷が付き、傷から病原菌が侵入するおそれがあるほか、強すぎる日光によって変色やシミができるリスクがあります。
このような被害を防止するため、果実に専用の袋をかけ、口を針金などで縛って保護します。
果実の保護だけでなく、農薬の使用量を減らせるのも袋かけのメリットの1つです。
一つひとつの果実に袋をかけていく作業には時間と労力がかかりますが、袋がけによって病害虫の防除が可能であるため、農薬にかかる費用も削減できます。
成長を始めたばかりの果実は素手で触れると落ちてしまう場合があるため、作業は軸を持って行い、果実に触らないよう注意してください。摘果の適期は6月初めから中旬にかけてです。
収穫・出荷
梨の収穫・出荷時期は品種や地域ごとに差がありますが、一般的には8月中旬から10月中旬にかけてが最盛期となります。
緑がかった果実が黄色くなり始め、酸味が抜けた頃に収穫を行います。
収穫時期の近づいた梨は軸から取れやすくなっているため、手で掴んで持ち上げるだけで収穫が可能です。
果実や枝に負荷がかかると翌年以降の葉芽を傷めてしまうことがあるため、収穫の際は無理に力を入れずに行うことがポイントです。
収穫した梨は大きさや重量ごとに選果を行い、規格に沿って箱詰めしたうえで出荷します。
剪定・誘引
収穫が終わり、落葉が進む11月以降の冬季から3月にかけては剪定・誘引を行う時期です。
苗木を育成し、初めての着果を確認して以降は、継続的に良質な果実を多く収穫するための樹形の形成および維持が不可欠です。
剪定・誘引は、翌年以降の枝の伸長および樹勢の回復、日照条件の改善のために樹形を管理するために行う作業です。
剪定作業では余分な枝や芽を切り取り、誘引は枝同士の重なりを防ぐために果樹棚に枝を縛るために行います。
剪定・誘引いずれの作業も、葉の生い茂る夏季や果実が結実する秋季では全体のバランスを確認することが難しくなります。また、剪定鋏と剪定鋸を用いて枝を切る剪定作業は、切り口から病原菌が侵入するリスクがあります。
このため、剪定は落葉が進み、病原菌の活動が抑制される冬季に行うのが一般的です。
剪定に入る前に枝の徒長具合を確認することで、樹勢に合わせた剪定が可能になります。
樹齢を重ねて衰えた樹は改植の必要がありますが、衰えの兆候が見えた程度の枝であれば強く切り返すことで樹勢を復活させることができます。
梨栽培において、花の段階でよいものだけを残し、生育の悪いものや日当たりの悪い位置にある花を剪定する摘花は、大きな果実を得るために不可欠な作業です。
年間の栽培工程の中で摘花の実施時期や実施する目的を把握しつつ、適切な摘花を行うことで、良質な梨の収穫へとつなげていきましょう。
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大森雄貴
三重県伊賀市生まれ。京都を拠点に企業・団体の組織運営支援に携わった後、2020年に家業の米農家を継ぐためにUターン。現在は米農家とライターの二足の草鞋を履きつつ、人と自然が共に豊かになる未来を願いながら、耕作放棄地の再生、農家体験プログラムの実施、暮らしを大切にする経営支援などに取り組んでいる。