バイオマス活用推進基本計画とは?地域の活用事例も紹介
新しい「バイオマス活用推進基本計画」では、バイオマス利用率の向上やバイオマス産業の規模拡大などについて、2030年までの目標を定めています。本記事では、その解説とともに、農業で今後どのようにバイオマス活用の幅を広げるべきか、優良事例も含めてご紹介します。
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農作業で行われる堆肥の施用や敷きわら、作物残渣の飼料化など、有機物を資源として活用することを「バイオマス」と呼び、再生可能エネルギーとして注目されています。令和4(2022)年には新たな「バイオマス活用推進基本計画」が決まり、活用が推進されています。
バイオマス活用推進基本計画とは?
NOV / PIXTA(ピクスタ)
バイオマス(biomass)とは、化石資源を除く再生可能な生物由来の有機性資源のことです。もともとは、生物資源を表す「bio(バイオ)」と質量を表す「mass(マス)」からなる英語で、生態学などで使われていました。
国はバイオマスの活用を推進するため、2009年に「バイオマス活用推進基本法」を定めました。それに基づいて「バイオマス活用推進基本計画」を策定し、少なくとも5年ごとに検討・変更をしながら、計画的に推進を図っています。
2022年9月には、第3次基本計画が発表されました。そこで以下では、改めてバイオマスとは何か、なぜその活用が推進されているのかをおさらいしながら、新たなバイオマス活用推進基本計画について詳しく解説します。
バイオマスの持続可能な活用推進
バイオマスが意味する「再生可能な生物由来の有機性資源」には、具体的には以下のようなものが該当します。
・堆肥の原料となる植物の残渣や家畜の排泄物
・でんぷんやバイオエタノールなどの原料となる作物としてのトウモロコシやサトウキビ
・敷きわらや飼料の原料となる稲わらや麦わら、もみ殻など
・収穫後の作物残渣
・食品廃棄物
・下水汚泥
これらの資源は、使用し続ければ枯渇する石油などの化石資源と異なり、再生が可能です。また、化石燃料は燃焼すると本来大気中になかった二酸化炭素を新たに放出しますが、バイオマス燃料が燃焼する際に放出する二酸化炭素は、もととなる植物が光合成によって大気中から吸収したものであるとされています。
そのため、二酸化炭素が大気中と植物体、バイオマス燃料を循環するという考えから、理論的には大気中の二酸化炭素を増やさない「カーボンニュートラル」な資源と呼ばれています。
このように、農業では古くから行われ、近年では衰退していた資源の活用や循環が、「再生可能でカーボンニュートラルな資源」として改めて注目されています。とはいえ、これまでバイオマス資源の活用は主に農山漁村でのごく一部に限られ、活用推進の加速が課題となっていました。
そこで国は、今後は都市部でも、地域を主体としたバイオマスの総合的な利用を推進することや、製品・エネルギー産業への国産バイオマス産業の進出拡大をめざすとしています。バイオマスの活用拡大によって、農⼭漁村の活性化や地球温暖化の防⽌、循環型社会の形成といった課題の解決につながることが期待できます。
出典:農林水産省「バイオマスの活用の推進」所収「参考資料」(P1~2、5、8)
2022年決定のバイオマス活用推進基本計画とは
前項で挙げたような状況を背景に、2022年に閣議決定した第3次バイオマス活用推進基本計画では、2030年までの目標が新たに定められました。具体的な目標の内容や数値など、詳しくは後述します。
今回の主な変更のポイントには、次のようなものがあります。
・「みどりの食料システム戦略」を推進
農林水産省は、持続可能な食料システムを構築するために「みどりの食料システム戦略」を策定し、「調達」「生産」「加工・流通」「消費」の各段階で中長期的に取り組んでいます。
「みどりの食料システム戦略」では、生産力の向上と持続性の両立を掲げ、持続可能な資材・資源の調達をめざしています。2050年までの目標を定めており、その中で温室効果ガス削減を目的として、カーボンニュートラル資源の推進が含まれています。こうした目標が、バイオマス活用推進基本計画と重なります。
そこで、第3次基本計画ではこの戦略を推進し、地域資源であるバイオマスの最大活用を図ることを重視しています。
・都市部も含めた地域主体のバイオマスの総合的な利⽤の推進
これまで、主に農山漁村で推進されていたバイオマスの利用について、都市部も含め、新たな需要に対応した総合的な利用を推進します。
・製品・エネルギー分野での国産バイオマス市場の拡大
製品・エネルギーとしてのバイオマス産業の市場規模を、技術開発や新産業の創出、新市場の獲得などを通して拡大します。
出典:農林水産省『新たな「バイオマス活用推進基本計画」の閣議決定について』所収「新たなバイオマス活用推進基本計画の概要(令和4年9月6日閣議決定)」
バイオマス活⽤推進基本計画の目標
ノンタン/PIXTA(ピクスタ)
第3次基本計画で掲げられている目標について、先述したポイントにも触れながら、数値も含めて概要を解説します。
出典:農林水産省「バイオマスの活用の推進」所収「参考資料」(P8~14)(以下共通)
バイオマスの利用量を増加
環境負荷の少ない持続的な社会を実現するためには、再生可能エネルギーの1つであるバイオマスの利用量を増加させることが重要です。しかし、現状の課題として、バイオマスの中でも食品廃棄物などが食品ロス対策によって減少していることが挙げられます。
そこで、これまで扱っていなかったバイオマスも調査し、利用対象となるバイオマスを拡大することで、2030年度までにバイオマスの年間産出量の約80%まで利用量を増加させることを目標としました。
新たな指標として、下⽔汚泥バイオマスのリサイクル率を現状の35%から、2030年までに50%に挙げるとしています。下水汚泥の処理技術を高め、より高品質の肥料化やリン回収を進めるとともに、利用者の理解を得て緑農地での活用などが期待されています。
また、バイオマスの高度利用によってエネルギーの地産地消を進めるために、エネルギー利用技術の開発・拡大を図っています。
全都道府県・市町村でバイオマス活用推進計画の策定
農山漁村に限らず、全都道府県でバイオマス活用推進計画を策定し、全市町村がバイオマス関連計画を活用することも、2030年までの大きな目標です。そのためには、都市部を含めた各市町村が地域の実情に応じて工夫し、計画的・主体的にバイオマス活用に取り組む必要があります。
類似の施策として「バイオマスタウン構想」や「バイオマス産業都市構想」があり、ゆくゆくはこれらの施策との統合も視野に入れています。いずれは市町村内で経済性が確立し、エネルギー循環を実現した一貫システムの構築をめざしています。
バイオマス産業の市場拡大
バイオマスを産業として成長させることも、バイオマス活用に欠かせません。そこで、製品・エネルギー産業のうち、国産バイオマス関連産業の占める市場シェアを2030年までに現状の1%から2%まで、2倍に伸ばすことを目標としています。
バイオマス産業の市場規模は、第2次基本計画策定の時点で約3,500億円だったものが、第3次基本計画策定までの約6年間で約5,300億円に伸⻑しています。ここから、バイオマスの産業規模は加速化しながら拡⼤することが想定され、市場規模を広げることでさらなる活性化を推進します。
農業におけるバイオマス活用
うぃき/PIXTA(ピクスタ)
持続可能な社会に向けて、バイオマスの活用が国を挙げて推進される中、農業においても、これまで以上の積極的な活用が求められています。
第3次バイオマス活用推進基本計画によって技術開発や産業の拡大、市町村における一貫システムの構築が推進されれば、農業へのバイオマス活用や、農業で発生する有機性廃棄物の有効利用の幅が広がるでしょう。
そこで、農業に関連して期待できるバイオマス活用法とそのメリット、課題について解説します。
バイオマス活用のメリット
現在でも、地域の畜産農家と連携して家畜の排泄物を堆肥に活用し、一方で稲わらやもみ殻を飼料に活用する、収穫後の作物残渣を食品廃棄物として燃料に活用する、メタン発酵によりメタンガスを燃焼させて発電するなどのバイオマス活用の取り組みは各地で見られ、収益を上げているケースもあります。
また、糖質資源としてサトウキビやてんさい、でんぷん資源として馬鈴薯や甘藷、油の資源として菜種や大豆を生産する農家もあります。
こうしたバイオマス活用により、農家にとっては廃棄物を減らせるほか、副産物による副収入を得られたり、資源作物は食用よりも効率的に栽培できコストを抑えられるため、収入がアップしたりするメリットがあります。また、作業にあまり手をかけず効率的に生産できる資源作物は、耕作放棄地の有効利用に役立てられます。
地域を挙げてバイオマス資源生産に取り組むことで、地域の活性化や新たな雇用創出につながることも期待できます。
バイオマス活用における課題
農業へのバイオマス資源の活用は、理論的には非常にメリットが大きく、農家にとってよいことずくめのように思えます。しかし、実際には生産や運搬にかかる時間やコストが膨大で、ほとんど収益が上がらず、続かないケースも多くあります。
資源としての作物は、一般的に食品よりも安価で取引されるため、大規模栽培などによって効率的に生産しない限り、食用の作物ほどの利益は上げられません。また、収穫残渣などの活用も、収集・運搬・管理などにコストがかさんで、利益が上がらない場合があります。
バイオマス資源を活用して実際に利益を上げるには、地理的・環境的な条件がよくなければ難しいのが現状です。加えて、条件が有利な土地で、効率的なバイオマス資源の生産が盛んになったとしても、「食料の生産」という農業本来の役割とのバランスを保たなければなりません。
とはいえ、農業におけるバイオマス資源の活用は、持続可能な農業の確立や地域の自然環境維持、エネルギー問題の課題解決など、社会的な意義も大きいことから、国による手厚い支援を伴う推進が期待されます。
農業におけるバイオマスの地域活用事例
通りすがり /PIXTA(ピクスタ)
バイオマス活用にはまだ課題も多いものの、すでに活用に取り組み成果を上げている事例もあります。そこで最後に、実際にバイオマス活用に取り組んだ優良事例を3つご紹介します。
【北海道⼗勝地域 ⿅追町】バイオガスプラント
酪農が盛んな北海道十勝地域にある鹿追町では、家畜ふん尿を適正に処理したり、⽣ゴミ・汚泥を資源化したりするために、「鹿追町環境保全センター」として、既存の汚泥処理施設にバイオガスプラント・堆肥化施設を新設しました。バイオガスで生じる電⼒は、施設内でも利⽤されています。
その結果、酪農家にとっては臭気の軽減や地下水・河川への負荷軽減など、周囲の環境改善につながっています。また、栽培農家にとっても、消化液・堆肥の施用による作物の品質向上や、ふん尿処理にかかる作業時間・コストの削減などが実現できました。
地域にとっては、地域内で生じたバイオマス資源を活用して得た電気・熱のエネルギーや消化液を、地域で使うという好循環が構築されています。それによってイメージアップにも成功し、観光業の活性化や雇用創出、余剰熱を活用した新規産業の創出などにつながっているとのことです。
出典:農林水産省「バイオマスの活用の推進」所収「参考資料」(p16)
【富山県射水市】もみ殻の燃料
水稲栽培が盛んな富山県の射水市では、毎年3,000トンも発生し、そのほとんどが産業廃棄物として処理されていた「もみ殻」をバイオマス資源として有効活用することに成功しています。
同市は農林水産省の助成金を継続して受けながら、2010 年に「もみ殻循環プロジェクトチーム」を形成します。自治体とJA、大学などの研究者や民間企業など、「産学官民」で構成されたプロジェクトチームを中心に、もみ殻の有効利用の技術開発および実用化に取り組みました。
その結果、残渣の発生や有害物質の排出がなく、熱処理だけで高品質な「もみ殻灰」を生成する、安全なリサイクル技術の確立に成功しました。もみ殻灰はシリカ資材として、ケイ酸肥料や工業資材などに活用しています。さらに、発生した熱を活用して隣接する園芸ハウス を加温し、いちご栽培も行っています。
今後は、これまでに確立した技術を活かし、より高性能な分散型再生可能エネルギー施設の完成をめざしているとのことです。一方で、研究資金の安定的な確保や、研究成果に対して発生する知的財産権の取り扱いなどが課題と見られています。
出典:
経済産業省近畿経済産業局「平成30年度バイオマスの有効活用による廃棄物の排出抑制と環境調和型産業の創出に向けた調査 事業報告書について」所収「富山県射水市 行政・JA・大学・企業の連携による“もみ殻”の有効活用プロジェクト」
総務省「報道資料|市町村の活性化施策(平成24年度地域政策の動向)」所収「バイオマス活用推進事業(もみ殻循環プロジェクト)
農林水産省「平成26年度選定地域のバイオマス産業都市構想」所収「射水市バイオマス産業都市構想(富山県)」
【栃木県さくら市】燃料用植物の栽培
栃木県さくら市では、耕作放棄地の拡大が深刻化していました。そこで、研究機関や地域の民間企業と連携し、耕作放棄地を活用した「エリアンサス栽培プロジェクト」に取り組んでいます。
この取り組みにより、バイオマス燃料となるイネ科植物「エリアンサス」を再生させた荒廃農地で栽培し、「エリアンサスペレット」という燃料に加工する技術を確立しました。
エリアンサスペレットは地元の民間企業が加工・販売し、事業化にも成功しています。必要な技術は、農研機構や国際農林水産業研究センター(JIRCAS)、民間のボイラーメーカーなどの協力を得て開発を進め、品質を向上させました。
エリアンサスペレットは市営の「もとゆ温泉」で灯油の燃料に代わって使用され、カーボンニュートラルであることから、二酸化炭素排出量の数値を大幅に減少させています。さくら市が抱えていた耕作放棄地の問題を解消すると同時に、さくら市地球温暖化対策実行計画の達成に大きく貢献した事例です。
また、地域でペレットに加工し販売していることで新たな産業を産み、雇用創出や地域の活性化にも役立っています。
出典:農耕機構「(研究成果)資源作物「エリアンサス」を原料とする地域自給燃料の実用化」
出典:農林水産省「令和元年度選定地域のバイオマス産業都市構想」所収「さくら市 バイオマス産業都市構想」(p22)
バイオマス活用推進基本計画は、世界的な課題となっている持続可能な社会の実現に不可欠な、再生可能エネルギーの開発や維持に大きく貢献する施策です。
バイオマス資源は農業に深く関わるため、農業への積極的な活用が求められています。助成金も活用しながら、地域の行政や研究機関、民間企業と連携し、新たなエネルギー市場の開拓をめざしましょう。
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大曾根三緒
ビジネス、ペット、美術関連など多分野の雑誌で編集者として携わる。 全国の農業協同組合の月刊誌で企画から取材執筆、校正まで携わり、農業経営にかかわるあらゆる記事を扱かった経験から、農業分野に詳しい。2019年からWebライターとして活動。経済、農業、教育分野からDIY、子育て情報など、さまざまなジャンルの記事を毎月10本以上執筆中。編集者として対象読者の異なるジャンルの記事を扱った経験を活かし、硬軟取り混ぜさまざまなタイプの記事を書き分けるのが得意。