【農業用遮熱ネット】ハウスの高温対策で注目される遮熱資材の選び方
太陽光が強くなる春先から夏にかけてのビニールハウスでは、高温による収量・品質の低下や暑さによる過酷な作業環境が農業経営上の課題となっています。この記事では、ハウス内の温度上昇を防ぐ農業用遮熱資材の概要や効果的な使用方法、活用事例、代表的メーカーの製品について解説します。
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地球温暖化による気候変動で、ここ数十年の日本の平均気温は年々上昇しており、農業生産の現場においてもその対策が急務となっています。
特にハウス栽培では、高温障害による収量・品質の低下のほか、内部が高温多湿になることによる熱中症の発症リスクも大きな課題となっています。
本記事では、ハウス内の温度を下げ、作物の収量アップや快適な作業環境を得るために、遮熱資材を導入するメリットやその効果について解説していきます。
遮熱資材が生産管理にもたらす効果
ハウス内の高温状態が続くと、多くの作物が生育不良や品質・収量の低下が生じやすくなります。また、作業者は高温下での作業を余儀なくされるため、熱中症の発症リスクが高まります。
作物の収量安定を図り、農作業に伴う健康リスクを軽減するためには、遮熱資材を上手に活用し、ハウス内の温度上昇を防ぐことが重要です。
遮熱ネットと遮光ネットの違い
apokado / PIXTA(ピクスタ)
ハウス内の温度を下げるには、太陽からの日射のうち、760nm以上の波長域の赤外線を遮る必要があります。
従来から多く利用されている遮光ネットは、日射を遮る機能を持ち、遮光率と呼ばれる値の数字が高いほど光を遮る割合が高くなります。
ハウス内の温度を下げる機能はあるものの、光合成に必要な波長400~700nmの可視光線も遮断するため、作物の種類や栽培ステージによって適切な遮光率のものを選ぶ必要があります。
一方、遮熱ネットは、可視光線の透過率を維持しながら、温度上昇の原因となる赤外線だけを遮るため、作物の生育を阻害しにくいメリットがあります。温度を抑えつつ、光合成に必要な光量を保つことができるため、高温期の育苗や夏秋のハウス栽培で利用が進んでいます。
遮熱資材の種類
農業用の遮熱資材はさまざまな形状・タイプのものが販売されています。
・遮熱ネット
ハウスの外側からかぶせる外張りタイプと、ハウス内部に設置する内張りタイプがあります。一般的に白色系のネットは熱を持ちにくく、遮熱効果が高いのが特徴です。
・カーテンタイプの遮熱資材
ハウス内部に設置する開閉可能な遮熱ネットで、冬の保温対策にも活用できます。カーテン開閉装置と併用すれば、換気の必要性や温度・湿度などに合わせた環境制御が可能です。
・塗布剤(遮熱塗料)
ハウスの外側に液体の遮熱塗料を吹き付けるタイプの資材です。効果は1~6ヵ月程度ですが、希釈倍率を変えることで作物に合わせた遮光率・遮熱率で使用できます。
・遮熱フィルム
ハウスに直接張れる、遮熱機能を持ったフィルムです。遮熱剤がフィルム表面に塗布されたタイプと、フィルムの素材に遮熱剤が練り込まれたタイプとがあります。
遮熱ネット活用の実証例・期待される効果
夏季のハウス栽培では、品質と収量を確保するため、作物の高温対策を実践することが重要です。ここからは、遮熱ネットを活用した高温対策の事例を紹介します。
作業スペースの遮熱により省エネルギーと作業者の快適性向上を実現
千葉県農業総合研究センターでは、トマトの養液栽培を行う際に栽培スペースと管理スペースを区分し、管理スペース部分を遮熱することで作業環境の向上と省エネルギー化を実現しました。
作業スペースを遮光率99%の遮光フィルムと断熱材で遮熱し、エアコンも取り付けた環境での実験でした。トマト栽培に当たっては、移動栽培装置が導入されています。
実験の結果、作業者の心拍数は管理スペースでの作業時よりも栽培スペースでの作業時のほうが低く、人体と外気との熱のやりとりを示すWBGT値も大幅に低下することがわかりました。
作業環境を快適に保てるだけでなく冷房に必要なエネルギー量も減らせるため、営農コストの節減にも効果的です。熱中症による健康リスクの軽減にも効果を発揮できると考えられます。
夏秋トマトの雨よけ栽培で裂果を抑制
Ystudio / PIXTA(ピクスタ)
夏秋トマトの雨よけ栽培では、光合成に必要な可視光線を通しつつ、熱源となる赤外線を反射する高性能な遮熱ネットや遮熱塗料を活用することで、果実の表面温度の上昇を防ぎ、放射状裂果の発生を抑制できるという研究結果もあります。
熊本県農業研究センターでは、ハウスの外側に波長域800~1200nmの赤外線をカットする資材を終日張った区画と遮光あり、遮光なしの3区画で比較実験を実施しました。
その結果、赤外線カット区画は、遮光なしと比べ、光が当たっている果実の表面温度が5.7℃低下し、放射状裂果の発生が減少しました。また、販売可能な果実の割合は3区画の中で最も高くなりました。
出典:熊本県「熊本県農業研究センター研究報告 第27号」所収「夏秋トマト雨よけ栽培における赤外線カット資材による終日遮光は放射状裂果の発生を抑制し可販果収量を増加させる」
また、岡山県農林水産総合センター農業研究所では、ビニールハウスの外側に遮熱塗料(レディヒート)を10a当たり45kg(3缶)塗布したところ、果実の表面温度を2.9~3.3℃低下させる効果が得られました。
梅雨明け後の7月下旬~9月上旬の塗布が裂果の抑制に効果的で、販売可能な果実が増加することもわかりました。
出典:岡山県「平成28年度試験研究主要成果」所収「遮熱資材のハウス天ビニール塗布によるトマトの放射状裂果軽減」
地温を低下しナス・パプリカの高温期の収量増を実現
hamahiro / PIXTA(ピクスタ)
ナス・パプリカの施設栽培では、熱線の透過を抑制する遮熱フィルムを活用することで地温や植物の表面温度が低下し、収量の増加につながったという例もあります。
高知大学教育研究部自然科学系農学部門の実験では、ナスの栽培で熱線反射フィルム(遮熱フィルム)を利用した際に遮熱なしの区画よりも平均で1.9℃地温を低くできることがわかりました。また、障害果の発生が抑制され、一部の品種で総重量が増加しました。
パプリカ栽培では、遮熱フィルムを利用した区画で遮熱なしの区画よりも総収量が増加し、一部の品種でひび割れ果の発生が抑制できたという結果も得られています。
ただし、遮熱フィルムは高温対策としては有効である一方、低温期には地温が下がることから暖房費の増加が予想されます。そのため、可動式の遮熱カーテンを取り入れるなど夏季だけ遮熱する仕組みにすると効果的です。
出典:日本学術振興会 科学研究費助成事業 研究成果報告書「熱線透過抑制機能を持つ長期展張型農業用光学フィルムで高温対策(高知大学 教育研究部自然科学系農学部門 准教授 西村安代)
」
水菜など軟弱野菜の発芽率が安定し収量が約1.5倍に
写真提供:住友金属鉱山株式会社
住友金属鉱山の近赤外線吸収材料「CWO®」を使って開発された遮熱資材「青天張」。軟弱野菜での導入事例
水菜やホウレンソウといった軟弱野菜の栽培に遮熱ネットを導入することで、発芽率の安定につながった事例も見られます。
住友金属鉱山株式会社の近赤外線吸収材料「CWO®(セシウム酸化タングステン)」を、株式会社能任七が遮熱ネットとして開発した「青天張」を導入した農家では、遮熱ネットでハウス内の温度をコントロールしながら、生育に必要な可視光線を作物に届けることで、遮光シートを利用していた時期と比べて生育環境がよくなり、発芽率も安定して収量が約1.5倍に増加しました。
さらに、「青天張」の繊維は光を拡散する性質があるため、ハウスの隅々まで光が行き渡り、日照不足による生育不良リスクも軽減できます。ハウス内の気温上昇も抑えられるので、作業者の熱中症予防につながるなど作業環境の改善にも有効です。
出典:住友金属鉱山株式会社「X-MINING|農業のビニールハウスを変える。CWORを使用した遮熱シートの開発で温度を下げる」
遮熱ネットを効果的に活用するためのポイント
kaka / PIXTA(ピクスタ)
遮熱ネットを効果的に活用するためには、ハウス内の風通しを良くして温度ムラが起こらないようにするのが重要です。遮光率が高い製品の場合は作物の光合成が阻害されないよう、開閉可能なカーテンタイプを導入するなど生育状況に合わせて光量を確保できる環境を整える必要もあります。
ハウス内の温度ムラを解消するためには、自然換気を行うほか、循環扇や換気扇を活用して空気を入れ替えます。
下層部で逆方向の空気の流れが生じないよう、風の到達距離に合わせて複数の循環扇を配置するのがポイントです。ハウス内の熱が外部に排出されるよう、換気扇と連動させるようにします。
ハウス内の通気環境を整備しておけばCO2濃度を均一化でき、光合成の促進による収量・品質の向上が期待できます。さらに、湿気も溜まりにくくなるため結露が原因となる病害も防げます。
農業用遮熱ネットの一例
農業用遮熱ネットは、農業資材メーカーからさまざまな商品が販売されています。ここでは、代表的な商品をいくつか紹介します。
タキイ涼感ホワイト20・30・40・50
<特徴>
・光合成に必要な可視光線を乱反射させてハウス内の明るさを確保
・紫外線劣化防止剤入りで耐久性が高い
<遮光率>
20~50%
<販売元>
タキイ種苗株式会社
https://www.takii.co.jp/material/product/002/
ふあふあエース40・50・60
<特徴>
・糸どうしの交点を熱融着していてほつれづらい
・ハトメなど多様な加工に対応できる
<遮光率>
約8~約85%
<販売元>
ダイヤテックス株式会社
https://www.diatex.co.jp/product/fuafua/
ウォータースルーMX
写真提供:丸和バイオケミカル株式会社
<特徴>
・90%以上の光反射率があり、シートに熱がこもりにくい
・結露でたまった水を抜く孔がある
<遮光率>
90%
<販売元>
丸和バイオケミカル株式会社
https://www.mbc-g.co.jp/product/water-through/
青天張
写真提供:株式会社能任七
<特徴>
・紫外線劣化の影響を受けにくい
・トンネル栽培にも利用できる
<遮光率>
17~38%
<販売元>
株式会社能任七
https://notoshichi.com/product.html
シーアイマテックス株式会社
https://www.ci-matex.co.jp/product/
デュポンタイベック スリムホワイト
写真提供:日本ワイドクロス株式会社
<特徴>
・テープ部分の散乱光による忌避効果で害虫の侵入防止に役立つ
・ハウスのサイズに合わせて調達できる
<遮光率>
約30~約90%
<販売元>
日本ワイドクロス株式会社
https://www.sunsunnet.co.jp/widecloth/products/agriculture/detail.php?12
太陽光の日射量が多い春から夏にかけては遮熱ネットを活用してハウス内の過度な温度の上昇を抑え、作物の高温障害を低減することができます。種類によっては光合成に必要な可視光線が不足する可能性があるため、栽培作物に合った製品を選ぶのがポイントです。
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舟根大
医療・福祉業界を中心に「人を大切にする人事・労務サポート」を幅広く提供する社会保険労務士。起業・経営・6次産業化をはじめ、執筆分野は多岐にわたる。座右の銘は「道なき道を切り拓く」。