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作物の高温障害とは? 発生のメカニズムから症状、予防対策までを学ぶ

作物の高温障害とは? 発生のメカニズムから症状、予防対策までを学ぶ
出典 : ヨシヒロ / PIXTA(ピクスタ)

高温障害は環境によって作物に起こる生理障害の1つです。近年、夏場は猛暑が続き、強い日差しや乾燥など、作物にとって過酷な環境になります。高温障害を回避し被害を防ぐため、作付け前からほ場やハウスの環境整備をするなどの重要な対策について解説しています。

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近年、日本の夏はかつてない高温を記録し、秋に入っても夏日が続くことが多くなりました。過酷な状況下で、作物にも高温障害による品質低下や収量減といった被害が増えています。

そこで、本記事では作物を守るために必要な高温障害に関連する情報や有効な対策などを解説します。

地球温暖化の影響で増加傾向にある、作物の「高温障害」とは

日本の夏の天気

and4me / PIXTA(ピクスタ)

日本の夏(6~8月)の平均気温は年々上昇する傾向にあり、大雨や猛暑日といった極端現象の発生率や紫外線量なども増加し続けています。高温・高湿度の過酷な暑さが続く厳しい季節は、人間のみならず、多くの作物にとっても厳しいもので、さまざまな高温障害と呼ばれる生理障害が発生しています。

出典:気象庁ホームページ 日本の季節平均気温、大雨や猛暑日など(極端現象)のこれまでの変化、紫外線の経年変化
日本の夏平均気温偏差の経年変化(1898〜2020年)
全国(アメダス)の1時間降水量50mm以上の年間発生回数
紫外線の経年変化

高温障害の症状には、葉が萎れる、水稲では未熟粒が多発する、結球性葉菜類では小球化する、根菜類では肥大が悪くなる、果菜類は糖度が不足する、花きでは奇形や花色の不良が多発するなど、さまざまなものがあります。

高温障害は、ほとんどの野菜類や作物に品質の低下や収量の減少といった実害をもたらします。果菜類や果樹の場合は、高温により作物の生殖器官が直接障害を受け、結実できず出荷できないこともあります。

今後も、地球温暖化などの影響により平均気温が上がり続けることが予想されます。農業においては夏場の高温障害について十分な情報を得て、万全な対策を講じることが重要です。

原因は? 作物に高温障害が起きるメカニズムと、発生しやすい条件

なぜ、高温によって作物にさまざまな障害が発生するのか、そのメカニズムはまだ解明できていない部分も多いため、はっきりとは示せません。

それでも、年々過酷になる夏の環境から作物を守るために多くの研究が続けられ、現在いくつかのメカニズムが推測されています。以下の項目でそれらを詳しく紹介します。

高温が作物に障害を発生させるメカニズムとは?

高温が原因で作物が受けるさまざまな障害のメカニズムとしては、生育適温を超えることによる「光合成能力の低下」「呼吸量の増加による消耗」「代謝の異常によって引き起こされるさまざまな障害」などが挙げられています。

高温障害の具体例としてよく見られるものに、水稲の白未熟粒の多発があります。水稲の登熟初期に高温の時期があると、胚乳のでんぷん合成機能に直接障害が生じる可能性があり、胚乳細胞にでんぷんを蓄積できなくなります。

その結果、胚乳のでんぷん粒間に隙間が生じ、そこに光が乱反射して白く見えるようになり、「白未熟粒」や「乳白米」と呼ばれる障害が発生します

出典:農林水産省 水稲高温対策連絡会議対策推進チーム「水稲の高温障害の克服に向けて」

水稲  白未熟粒

水稲 白未熟粒
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集

また、日照不足や水不足によるストレス、夜間高温のための呼吸の増大、窒素含量の低下などの要因によって、高温障害の発生が助長されるといわれています。

このように、高温障害は1つの原因だけでなく、複数の要因が絡み合って生じていると考えられています。

そのため、高温障害の対策は、これら複数の要因をできる限り取り除くことが基本となります。

日光や温度変化もポイント。作物に高温障害が起きやすい条件

高温障害は、気温30℃以上、または平均気温が25℃以上の日が続くと発生しやすくなるといわれています。特にハウス栽培(施設栽培)では温度が上がりやすいので、高温障害が多発する傾向があります。

高温障害の原因は、気温の高さだけではありません。発生しやすい条件としては、高温であると同時に「葉や果実などに強い日光が当たり、その部分だけ局所的に高温になる」「苗の時期に高温に当たる」「急激に温度が上昇する」などが挙げられます。

また、土壌が過度の湿潤・乾燥状態にあるときに高温が加わることで、根腐れや水分不足を引き起こし、茎葉が萎れるなどの障害の原因になります。

ハウス栽培(施設栽培)は高温になりやすい

.840 / PIXTA(ピクスタ)

その症状、高温のせいかも? 高温障害が発生しやすい主な作物とその症状

高温障害は、同じ環境下であっても作物によって個別の要因が加わり、それぞれ特有の症状が現れます。以下に、高温障害に弱いといわれている作物について、発生した場合の具体的な症状を解説します。

水稲

水稲は、高温障害に弱い作物の代表ともいえます。近年は、先述の白未熟粒の多発が全国的に問題となっていますが、それ以外にも高温によってさまざまな影響を受けます。

稲作では出穂後の気温が高いと、生育が前進して登熟期間が短くなり、刈り取り適期が早まってしまいます。

そのため、追肥や病害虫の防除、刈り取りなどすべての適期がずれてしまい、例年通りに稲作作業を行うと、生育不良や病気、刈り遅れによる胴割粒の多発など、さまざまなトラブルを引き起こします。

また、35℃以上の高温が続くと不稔が多く発生します。その結果、品質が著しく低下して米の等級が下がったり、収量が減ったりして、大幅な収入減につながります。

水稲の高温障害 止葉枯れ症

水稲の高温障害 止葉枯れ症
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集

大豆

水稲と同様に、高温により生長が早まるので、追肥、防除、収穫の適期がずれることに注意が必要です。

また、乾燥に弱いため、高温が続き土壌が乾燥すると茎葉が萎れます。特に開花期~子実肥大初期には、開花数の減少や落花・落莢の多発によって収量減になります。

加えて、高温が続くとカメムシ類やダイズサヤタマバエなどの害虫や、紫斑病などの病害も発生しやすくなります。

トマト、ナス、イチゴなどの果菜類

トマトやピーマン、イチゴなどの果菜類では、日焼けや水分不足によって葉、花、果実それぞれに被害が発生します。

茎葉が高温障害を受けると、萎れたり黄緑色や灰白色に変色したりして、生育が悪くなります。開花期に高温になると、花粉の減少により着果が悪くなり、落花が増加することで、収量減になります。

果実は、高温や日焼けによって変形・変色・硬化または軟化、裂果が生じます。水分が不足すると、カルシウムが欠乏して尻ぐされ果が多発します。その結果、商品価値が著しく低下したり出荷できなくなったりします。

トマトの高温障害 尻ぐされ果

佐竹 美幸 / PIXTA(ピクスタ)

キャベツ、レタス、ホウレンソウなどの葉菜類

葉菜類の生育可能温度は30℃までとされています。30℃を超える日が続くと、育苗期であれば発育不良や茎葉の萎れ、葉焼けなどが生じやすくなります。生育中であれば、生育の遅れ、チップバーンの発生が見られます。結球性の作物の場合は、結球異常や小球化、芯ぐされなどが発生します。

また、葉菜類には軟腐病、立枯病、根茎腐敗病など、高温で発生しやすい病害虫も多いので注意が必要です。

高温障害を回避するには? 高温期の病害予防と対策

夏期に高温障害を回避するため、さまざまな対策が考えられています。人間と同じように、暑さに負けないためには体力が大切なので、どの作物においても、土作りと栽培管理をしっかり行い、作物を良好な状態に維持するよう努めることが基本です。

例えば、水稲ならば、本田の土作りで堆肥を入れ作土深を20cm以上にしたり、分げつ期から登熟期までの水深管理、生育ステージに応じた施肥管理などが挙げられます。

そのうえで、高温対策として、そもそも高温に当てないようにするための予防策と、高温に耐える力をつける耐性対策、高温になってしまったあとの治療を含む事後処置など、多面的に考えましょう。以下に、具体的な対策を紹介します。

参考:水稲の高温登熟障害の対策技術の考え方による分類例

水稲の高温登熟障害の対策技術の考え方による分類

出典:独立行政法人 農業・食品産業技術総合研究機構 九州沖縄農業研究センター「地球温暖化対策研修Ⅱ水稲の高温登熟障害対策技術」、みんなの農業広場「高温障害に強い稲の栽培法」よりminorasu編集部作成

高い気温に耐性を持った品種を選定する

もともと高温に弱い水稲は、高温登熟耐性品種が多数育成されています。代表的なものとして、「にこまる」や「笑みの絆」のほか、「つや姫」「新之助」「富富富」「おいでまい」「くまさんの力」など、全国の産地で、高温でも高品質を保てる品種が育成されています。

涼しくなってから稔る「あきほなみ」、「あきさかり」などの晩生品種を選んでもよいでしょう。

水稲以外では、キャベツなら耐暑性に優れた「おきな」や「彩峰」、白菜なら生理障害が起きにくい85日タイプの「晴黄85」などの品種を選ぶのもおすすめです。

寒冷紗などの遮熱・遮光資材で直射日光を防ぐ

寒冷紗がかかった茶畑

Tony / PIXTA(ピクスタ)

高温障害を防ぐために最も簡単に導入でき、かつ大きな効果が期待できる対策が、寒冷紗などの遮熱・遮光資材による直射日光の遮断です。特に高温に弱い苗を守るために、育苗期に使用すると効果的です。

ハウス栽培の場合は、定植後も、日中の暑い時間帯にあわせ遮光カーテンなどで日射を調節しましょう。また、熱気がこもらないように空気孔をすべて開放して換気することも重要です

作物の環境ストレスを減らす肥料の使用も効果的


高温障害などの生理障害は、外的環境によって作物にストレスがかかることも原因なので、これを軽減することも改善に有効です。適切な株間・条間をとることに心がけ、適度な灌水や換気をし負荷を減らしましょう。

また、肥料として糖の1つであるトレハロースを与えることで、環境ストレスから植物の細胞を守ることが知られています。高温期には葉菜類などの萎れを軽減し、低温期には凍害の影響を抑えることが期待できます。

栽培用のトレハロースとしては、トレハロースに植物に必要な微量要素などを加えたタキイ種苗株式会社の「タキイ トレエース」や、OATアグリオ株式会社と愛知製鋼株式会社が共同開発した、二価鉄とトレハロースを合わせた「鉄力トレプラス」などがあります。

タキイ種苗株式会社の「タキイ トレエース」のページはこちら
OATアグリオ株式会社「鉄力トレプラス」のページはこちら

ハウス栽培なら冷房装置の導入も検討を

ビニールハウスの遮光ネット

apokado/ PIXTA(ピクスタ)

設備次第で施設内の環境をコントロールできるのがハウス栽培の強みです。

あまり資金をかけなくても、遮熱シート・遮光ネットの活用やこまめな換気、灌水チューブを用いた少量多回数の灌水などでハウス内の温度上昇を防げます。

さらに、循環扇や細霧冷房(ミスト)、ヒートポンプの夜間運転などの設備を導入することで、より効率的に高温障害を防ぐ方法もあります。費用対効果を考慮しながら、最善の対策を講じましょう。

ハウス栽培における温度管理の方法についてはこちらの記事をご覧ください。
「ビニールハウスの温度管理で作物の収量アップをめざそう」

ビニールハウスの循環扇

Ystudio / PIXTA(ピクスタ)

高温障害は病害ではないものの、悪化すると品質低下や収量減少を招き、大幅な収入ダウンにつながりかねません。

対策としては、ほ場の土壌づくりやハウスの環境整備など、作付け前から暑さに備えて環境を整えることが大切です。

丈夫で健全な作物を栽培するための環境を整え、暑さに強い品種の導入も視野に入れ、厳しい夏を乗り切りましょう。

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大曾根三緒

大曾根三緒

ビジネス、ペット、美術関連など多分野の雑誌で編集者として携わる。 全国の農業協同組合の月刊誌で企画から取材執筆、校正まで携わり、農業経営にかかわるあらゆる記事を扱かった経験から、農業分野に詳しい。2019年からWebライターとして活動。経済、農業、教育分野からDIY、子育て情報など、さまざまなジャンルの記事を毎月10本以上執筆中。編集者として対象読者の異なるジャンルの記事を扱った経験を活かし、硬軟取り混ぜさまざまなタイプの記事を書き分けるのが得意。

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