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りんご黒星病の原因は?対策・防除のポイント

りんご黒星病の原因は?対策・防除のポイント
出典 : Aleksa - stock.adobe.com

りんごの各主要産地では近年、りんご黒星病の多発による深刻な被害が問題となっています。りんご黒星病の発生が急激に増えている背景には、原因菌が農薬の主要な有効成分に対して耐性を獲得し、従来の防除体系では効果が得られなくなったことがあります。

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りんご黒星病に対して効果が高い農薬を連続使用した結果、病原菌が耐性を獲得し、防除効果が失われています。病原菌を確実に防除するには、従来の防除体系の見直しが必要です。本記事では、耐性菌にも効果のある農薬や、耕種的防除も含めた防除対策について解説します。

品質低下につながる「りんご黒星病」とは? その原因は?

りんご黒星病の被害果

りんご黒星病の被害果
HP埼玉の農作物病害虫写真集

りんご黒星病は「黒点病」とも呼ばれ、その名の示す通り、葉や果実に黒っぽい褐色の病斑を形成する病害です。病斑は主に葉と果実に現れますが、多発時には新梢や芽の鱗片にも病斑を生じることがあります。病原菌は「Venturia inaequalis(ベンチュリア イネクアリス)」という糸状菌(カビ)の一種です。

りんご黒星病は、樹が枯れたり果実が腐敗したりすることはありませんが、果実に病斑ができた場合、外観を大きく損ねるため、販売上の甚大な損失が生じます。

さらに、近年では黒星病に効果が高かった農薬成分に耐性を持つ菌(耐性菌)が発生し、各産地に広まって大きな被害をもたらしています。

現在、各産地でりんご黒星病の病原菌密度が高まっています。すでに耐性菌が発生した園地だけでなく、現時点では従来の防除体系で抑えられている園地であっても、耐性菌発生のリスクを下げる新たな防除体系を構築することが重要です。

りんご黒星病の主な病徴

りんご黒星病は、発生を見つけたら速やかに罹病葉や果実を取り除き、適切な農薬を散布する必要があります。早期の病徴を見逃さないように、日頃からこまめに園地の様子を観察しましょう。以下では、葉と果実それぞれに見られる症状を解説します。

葉に見られる病徴

りんご黒星病の葉裏病斑

Tomasz - stock.adobe.com

りんご黒星病が発生した葉に見られる症状には、以下のような特徴があります。

表と裏の両方に病斑が現れる
葉表に現れる病斑は、出始めは黄色っぽい小斑点で、拡大するにつれて黒っぽいぼんやりとした小斑点となり、次第に不定形なビロード状の病斑になります。葉裏に現れる病斑は、黒っぽくぼんやりしたすす状の不定形斑で、進行してもあまり状態が変わりません。

病斑が脱落して葉に穴が開く
葉表に発生した病斑は、症状が進行すると次第に盛り上がり、やがて脱落して穴が開くこともあります。

多数の病斑で葉が波打つ
葉表に病斑が多数できると、病斑が盛り上がることで葉が歪み、波打ったようになります。さらに激発すると、早期落葉することもあります。

りんご黒星病 波打った葉

kazakovmaksim - stock.adobe.com

果実に見られる病徴

りんご黒星病の症状が果実に見られる場合は、最初はがく片に葉と同じような黒っぽいすす状の病斑が現れます。

りんご黒星病 幼果の病斑

Aleksa - stock.adobe.com

幼果に発生した場合は、果実表面に黒っぽい小斑点ができ、次第に広がって暗褐色の病斑になります。病斑部分は肥大が抑制されるため、幼果のうちに病斑ができると肥大するにつれて歪み、ひび割れて裂果となったり、奇形果となります。

りんごの黒星病 肥大した果実の病斑

Aleksa - stock.adobe.com

果実は肥大すると感染しにくくなりますが、肥大してから感染した場合は、かさぶた状の灰褐色の病斑が形成されます。この病斑は表面だけで、果肉には影響なく、また歪みも生じません。

収穫前の8月過ぎ頃の感染の感染はまれですが、その場合、収穫時には変化がなく、貯蔵中に病斑が現れることもあります。

りんご黒星病の問題は?

りんご 開花期 

alps/ PIXTA(ピクスタ)

りんご黒星病は収入にも影響する重大な病害ですが、効果の高い農薬が多く、もともと防除は難しくありませんでした。

ところが、2016年頃以降、黒星病対策として長い間使われてきたステロール合成阻害剤などの「DMI剤」や、ストロビルリン系農薬などの「QoI剤」への耐性菌の発生が各地で確認されるようになりました。

DMI剤は長い間、りんごの開花直前から落花後15~20日という重点防除時期に基幹防除剤として使用されてきました。また、QoI剤は主に7~8月の夏場に基幹防除剤として使用され、どちらもこれまで黒星病防除の代表的な農薬でした。

もともとDMI剤もQoI剤も、耐性菌の発生リスクが高いことは知られていましたが、りんご黒星秒含め多くの病害に対して高い効果を発揮するため、多用されていたのが実情です。

特定の成分に対する耐性菌が発生した場合、その成分の農薬を散布しても効果がありません。そのため、別の成分の農薬を使用する必要があります。

現状では、DMI剤やQoI剤の代替材として、「SDHI剤」(コハク酸脱水素酵素阻害剤)や「AP剤」(アニリノピリミジン)の使用を進めている産地もありますが、これらも同様に連続使用することで耐性菌の発生が懸念されています。

耐性菌の発生を防ぐためには、特定系統に偏らない農薬を選んでの体系的防除を行い、年間で同一系統の農薬の使用回数を制限したり、散布間隔を厳密に管理したりすることが必要です。

りんご黒星病の発病条件

りんご園地 降雨 

mokumoku/ PIXTA(ピクスタ)

りんご黒星病の最大の一次伝染源は被害落葉で、園地内に放置された被害落葉、または枝や芽の鱗片で越冬した病原菌が、春までに「子のう胞子」を形成します。

子のう胞子は、りんごの開花前後から落花後20日くらいまでの間に多く作られ、降雨などにより飛散して周囲に感染します。

その後、感染した葉の病斑上では、多量の「分生子」が作られます。分生子は、降雨などによって周囲に飛散して、長期にわたり葉、果実へ二次感染を繰り返します。発病適温は15~20℃で、感染してから8~17日ほどで症状が現れます。

子のう胞子や分生子が付着した葉や果実が菌に感染するには、葉や果実が一定時間以上濡れた状態が続く必要があります。伝染源が葉や果実に付いても、その後すぐに乾燥し、濡れていた時間が短いと感染はしません。そのため、子のう胞子の多い開花期前後に降雨が続くと、感染が増えます。

病原菌の付着した葉が濡れたままで感染までにかかる時間は、平均気温5℃ の場合で30時間以上、10~14℃の場合で10~14時間、15~20℃の場合で9時間以上とされています。これよりも長時間、乾燥せずに濡れた状態の場合にりんご黒星病が多発します。

被害落葉以外の伝染方法としては、外部から導入した苗木や穂木が感染源となり、そこから園地全体に広がることもあります。苗木や穂木を購入する際は、栽培地でりんご黒星病が発生していないか販売元にもしっかり確認してください。

参考文献:
長野県農業関係試験場「農作物病害虫データベース「黒星病」」
宮城県「農業 > 技術支援 > 病害虫ライブラリー|園芸病害|果樹」所収「リンゴ黒星病(令和3年3月改訂)」

りんご黒星病の対策・防除のポイント

以下では、りんご黒星病の防除対策において重要なポイントとなる耕種的防除と、効果的な農薬の使用について解説します。

耕種的防除の徹底

りんご 剪定 

みやちゃん/ PIXTA(ピクスタ)

りんご黒星病対策で最も重要な耕種的防除は、被害落葉の処分やすき込みです。これらは、りんご黒星病の主要な一次感染源である被害落葉から子のう胞子が拡散することを防ぎ、初期の病原菌密度を低減します。

春のできるだけ早い時期、積雪のある地域では、雪解けしたらすぐに前年の被害落葉や枝、果実を集めて、園地外に持ち出し埋却または焼却処分します。

園地外に持ち出さなくても、トラクターですき込んだり、矮化栽培であれば集めた被害葉を樹冠下に埋却したりすることで発生が防げます。

また、農薬をまんべんなく行き渡らせるため、枝が混まないようこまめな剪定をして全体に付着しやすい樹形にすることも大切です。このほか、罹患した葉や果実、果枝を発見したらこまめに摘み取り、速やかに園外へ持ち出し埋却したりするのも効果的です。

有効とされる農薬の散布

りんご防除 農薬散布

dr30/ PIXTA(ピクスタ)

りんご黒星病に有効な農薬は多数あります。その中から、有効成分が重ならないようにローテーション体系を組んで散布することが重要です。ここ数年で、新たに黒星病の病原菌が抵抗性を獲得した成分もあるので、必ず最新の情報を確認して、新しい防除体系を立て直しましょう。

また、重点防除時期は雨の多い時期に重なります。降雨中や降雨後の散布は効果が落ちるので、降雨前の散布を徹底することも、防除効果を上げる重要なポイントです。

以下では、りんごの主産地の1つである青森県で、2021年に新たな防除体系として提示された農薬を紹介します。ここで紹介する農薬や成分を参考に、ローテーションを組んでもよいでしょう。

出典:青森県産業技術センター りんご研究所「普及に移す研究成果・参考となる研究成果等」所収「リンゴ黒星病対策を強化した春季の防除体系」

なお、りんご黒星病の病原菌が耐性を獲得する農薬は、増加する傾向にあります。効果のある農薬については古い資料を参照せず、必ずその年、地域で発信されるりんご黒星病防除の情報を確認してください。

※ここで紹介する農薬はすべて、2023年5月11日時点でりんごと黒星病に登録があるものです。実際の使用に当たっては、使用時点での登録を必ず確認し、ラベルをよく読んで用法・用量を守りましょう。農薬の登録は、「農薬登録情報提供システム」で確認できます。

展葉期
・ベフラン液剤25(イミノクタジン酢酸塩液剤)


開花直前
・セルカディスDフロアブル(SDHI剤の1つで、フルキサピロキサド・ジチアノン水和剤)
・カナメフロアブル(SDHI剤の1つで、インピルフルキサム水和剤)


落花直後
・ミギワ20フロアブル(イプフルフェノキン水和剤)



落花10日後頃
・ユニックス顆粒水和剤47(シプロジニル水和剤)


落花20日後頃
・デランフロアブル(ジチアノン水和剤)

散布に当たっては、以下の点に注意してください。
・DMI剤(単剤及び混合剤)は、AP剤に加用して1回限り使用しましょう。
・QoI剤単剤は、保護殺菌剤(オーソサイド水和剤やベルクートフロアブルなど)を加用して使用しましょう。
・散布量は以下を目安として、りんごの生育や病害の程度に合わせて調整してください。
展葉1週間後頃:300L/10a
開花直前:320L/10a
落花直後:350L/10a
落花10日後頃:350L/10a
落花20日後頃:420L/10a
6月中旬~8月末:500L/10a
・散布間隔は、展葉1週間~落花20日後頃は10日間隔にしましょう。
・降雨前散布を徹底しましょう。

出典:弘前市「農業情報|りんご黒星病対策」所収「りんご黒星病防除の重要ポイント耕種的防除と効果の高い薬剤防除の徹底 !!(青森県「攻めの農林水産業」推進本部) 」

りんご黒星病は長い間、DMI剤やQoI剤などの優れた効果によって被害が抑えられてきました。ところが、同系統の農薬に頼りすぎたために、近年、抵抗性を持つ菌が各地で大発生し、深刻な被害を受けるりんご農家も少なくありません。

罹患葉・果実の摘み取りや被害落葉の埋却には労力や時間を要するので、人手の足りない園地では困難と思われますが、根気よく実行することが重要です。

地域全体で力を合わせ、耕種的防除と効果的な農薬防除体系の構築を行い、りんご黒星病の病原菌密度を下げ、被害を軽減させましょう。

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大曾根三緒

大曾根三緒

ビジネス、ペット、美術関連など多分野の雑誌で編集者として携わる。 全国の農業協同組合の月刊誌で企画から取材執筆、校正まで携わり、農業経営にかかわるあらゆる記事を扱かった経験から、農業分野に詳しい。2019年からWebライターとして活動。経済、農業、教育分野からDIY、子育て情報など、さまざまなジャンルの記事を毎月10本以上執筆中。編集者として対象読者の異なるジャンルの記事を扱った経験を活かし、硬軟取り混ぜさまざまなタイプの記事を書き分けるのが得意。

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