りんごのアブラムシ類対策!害虫の種類や防除のポイント
アブラムシ類はりんご栽培の主な害虫の1つで、晴天が続き雨の少ない乾燥した気候条件で発生が増加します。本記事ではりんごを吸汁害するアブラムシ類の主な種類と特徴に加え、化学的防除として有効な農薬の種類および用法について紹介します。
- 公開日:
記事をお気に入り登録する
りんごの収量と果実の品質を確保するには、病害虫防除が欠かせません。アブラムシ類の加害はりんごの生育不良に留まらず、果実の品質低下をもたらす恐れもあります。アブラムシ類を適切に防除するためには、その特徴をよく知ることが大切です。
りんごに寄生する主なアブラムシの種類と特徴
olko21393 / PIXTA(ピクスタ)
アブラムシ類とは、カメムシ目アブラムシ科に属する昆虫の総称です。
そのうち、りんごに寄生するアブラムシ類としては、「リンゴコブアブラムシ」「リンゴワタムシ」「ニシヤワタアブラムシ」「リンゴクビレアブラムシ」「ユキヤナギアブラムシ」「リンゴミドリアブラムシ」「ムギクビレアブラムシ」など多数が知られています。
繁殖能力が高く、りんごの葉にアブラムシ類が群がって吸汁することで葉を変色・萎縮させ、生育不良を引き起こすことがあります。また、アブラムシ類の透明な排泄物(甘露)は葉や果実を汚し、光合成の阻害や商品価値の低下をもたらします。
地域によって発生するアブラムシの種類は異なりますが、本記事では特に注意すべきアブラムシとして、「リンゴコブアブラムシ」「リンゴワタムシ」「ニシヤワタアブラムシ」「リンゴクビレアブラムシ」の4種について解説します。
リンゴコブアブラムシ
リンゴコブアブラムシ成虫(体長1.6mm)
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
リンゴコブアブラムシ 寄生葉は巻いてコブができる
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
リンゴコブアブラムシは成虫の体長が1.3〜1.6mm程度の昆虫です。新梢や葉の裏に群生して、成虫および幼虫が吸汁します。多発すると被害を受けたりんごの新梢は生育不良に陥り、葉はコブを発生させながら裏側を中にして縦向きに巻かれます。
リンゴコブアブラムシはりんごの芽の基部で卵の状態で越冬し、気温が上昇して芽の開く時期にふ化します。
その後、葉の裏に定着し始め吸汁害をもたらすようになり、1年のうちに10世代程度の発生を繰り返します。新梢の伸長が促進される5月から7月にかけてが発生のピークであり、特に被害が大きくなります。
成虫へ成長するに従い、黄緑色をしていた体色はより色濃くなっていき、成虫になる頃には茶褐色混じりの濃淡のある体色へ変化します。
リンゴワタムシ
リンゴワタムシ成虫(体長2mm)
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
リンゴワタムシ コロニー
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
リンゴワタムシは、別名メンチュウとも呼ばれる世界的な害虫であり、成虫の体長が2.0mm程度の昆虫です。
北米原産の外来種とされるリンゴワタムシは、1870年代に国内で初めて報告され、国立研究開発法人 国立環境研究所の侵入生物データベースに登録されています。
赤褐色の体表が綿状の白い分泌物で覆われていることが特徴の害虫で、根や枝の切り口に寄生し吸汁します。加害部はコブ状に隆起し養水分の流通を阻害するため、多発すると樹勢を弱くし、果実の肥大や着色を妨げます。
繁殖すると白い綿状のコロニーが形成され、目につきやすいこともリンゴワタムシの特徴です。
樹皮下や根に幼虫の状態で寄生して越冬し、新梢の生長が活発になる5月頃から枝や幹へ移動を開始します。なお、根に寄生した場合は甚大な被害をもたらします。
ニシヤワタアブラムシ
ニシヤワタアブラムシ成虫(体長4.5mm)
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
ニシヤワタアブラムシ 寄生葉
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
ニシヤワタアブラムシは、成虫の体長が4.0〜4.5mmに達する大型のアブラムシ類です。薄黄緑色の幼虫が成長するにつれて白に近い体色となり、体表は白い綿状の分泌物で覆われます。
白い綿状の見た目はリンゴワタムシに似ていますが、リンゴワタムシが主に枝や根に寄生するのに対し、ニシヤワタアブラムシは葉に寄生することが特徴です。また、大型であることから容易に区別できます。
被害を受けた葉は白い分泌物によって綿状のコロニーが形成されるほか、吸汁によって横向きに葉が巻かれ全体がねじれます。
発生時期は4月~5月頃の開花期に当たり、同じく綿状の分泌物を出しながら群棲するリンゴワタムシに比べ、発生時期が早いことが特徴です。
リンゴクビレアブラムシ
Tomasz - stock.adobe.com
リンゴクビレアブラムシは、体長は1.5〜2.5mmほどで緑色〜黄緑色の体色をした昆虫です。りんごの樹上や芽の基部に産みつけられた卵の状態で越冬し、開花期となる4〜5月にかけて盛んに発生します。
主に新梢の葉や花そう部に寄生して吸汁し、被害を受けた葉は大きく巻き込みながら縮れます。落花期になると有翅虫が出現して移動し始め、りんご樹上での密度や被害は減るものの、秋になると再びりんごに戻り、産卵する習性を持ちます。
アブラムシの防除方法
アブラムシ類の繁殖力の高さと、効果のある農薬が多く、りんご栽培でも農薬散布が防除の基本です。
同じ系統の農薬を継続的に散布すると、農薬に対する抵抗性を獲得した個体の発生を誘発することがあります。防除全般にいえることですが、複数回散布するときは、系統の違う農薬を使います。
農薬散布のタイミング
1 dr30 / PIXTA(ピクスタ)
アブラムシ類の活動は気温の上昇とともに活発となり、4〜6月頃にピークを迎えます。りんごの場合は、新梢が伸びる6月頃がアブラムシ類の増殖する時期で、新梢が硬化する夏季にはアブラムシ類の発生は減少します。
そのため農薬散布は、開花直前と落花直後の2回重点的に行い、その後は発生の状態をみて、多発したときは特別散布を実施する産地が多いようです。
なお、落花以降に農薬散布を行う場合、農薬の種類によっては生理落果を助長してしまうため、注意が必要です。
効果的な農薬の例
アブラムシ類の防除に効果的な農薬を3つ紹介します。
・アディオン水和剤
農薬の種類:ペルメトリン水和剤
作用機構分類(IRACコード):3A
本剤の使用回数:2回以内
・テルスター水和剤
農薬の種類:ビフェントリン水和剤
作用機構分類(IRACコード):3A
本剤の使用回数:1回
・トランスフォームフロアブル
農薬の種類:スルホキサフロル水和剤(スルホキシイミン系の新規殺虫剤)
作用機構分類(IRACコード):4C
本剤の使用回数:3回以内
IRACコードの出典:JCPA農薬工業会「農薬名とRACコード(作用機構分類)(国内)」所収「殺虫剤(IRAC)2021年9月版(Ver10.1)」
※なお、ここで紹介する農薬は2023年5月18日現在りんご・アブラムシ類に登録のあるものです。農薬を使用する際は、ラベルの記載内容をよく確認し、使用方法を守って正しく防除を行ってください。農薬の登録は「農薬登録情報提供システム」で確認できます。
新梢の管理
前述したように、アブラムシ類は柔らかい新芽や若い葉を好み、新梢の伸長期に増殖します。そのため、新梢や徒長枝の管理がアブラムシ類の増殖を抑えることにつながります。
dr30 / PIXTA(ピクスタ)
りんごを加害するアブラムシ類は、新梢の伸長期に増殖します。地域の防除暦に沿って早めの防除をしますが、その後は発生の消長をみて特別散布の実施が必要になるときもあります。
りんごの主要害虫を抑えるには、新梢や徒長枝の管理も重要です。自身の園地の状態をよくみて高品質な果実の増収をめざしましょう。
記事をお気に入り登録する
minorasuをご覧いただきありがとうございます。
簡単なアンケートにご協力ください。(全1問)
あなたの農業に対しての関わり方を教えてください。
ご回答ありがとうございました。
お客様のご回答をminorasuのサービス向上のためにご利用させていただきます。
大森雄貴
三重県伊賀市生まれ。京都を拠点に企業・団体の組織運営支援に携わった後、2020年に家業の米農家を継ぐためにUターン。現在は米農家とライターの二足の草鞋を履きつつ、人と自然が共に豊かになる未来を願いながら、耕作放棄地の再生、農家体験プログラムの実施、暮らしを大切にする経営支援などに取り組んでいる。