りんごの害虫「カイガラムシ類」の防除方法!効く農薬や生態、見分け方は?
カイガラムシ類は種類が多く、主に樹体の幹や枝に寄生して、さまざまな果樹に被害をもたらします。りんご栽培においてもカイガラムシ類による被害は深刻で、樹勢が衰えたり枝葉が枯死したりするほか、果実の品質を著しく低下させるため、防除対策は欠かせません。
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りんごに寄生するカイガラムシ類は数種類が確認されており、種類に応じた防除対策が必要です。本記事では、普遍的に発生し、特に被害の大きい「クワコナカイガラムシ」「ナシマルカイガラムシ」を中心に、生態や被害の特徴、効果的な防除対策について解説します。
りんごの害虫、カイガラムシ類の生態
リンゴワタムシのコロニー
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
カイガラムシ類は、種類によって見た目の特徴は異なりますが、害虫として知られるものには、幹や枝に寄生して吸汁し身体をロウ状の分泌物で覆うなどの共通点があります。
発生してもそれほど被害が目立たない種もありますが、中には果実の外観を損ねたり、葉や枝を枯死させるなど、経済的な被害を生じさせる種もあります。
果実などに現れるカイガラムシの吸汁痕を虫害と気付かず、何らかの病気と勘違いする場合があるようです。カイガラムシ類による被害を見分け、早期に適切な防除対策を行うことが重要です。
カイガラムシ被害の特徴と防除のポイントについて解説します。
カイガラムシ類の被害と発生条件
りんごに発生するカイガラムシ類には、「リンゴワタムシ」、「オオワタコナカイガラムシ」、「クワコナカイガラムシ」、「ナシマルカイガラムシ」などさまざまな種類があります。
中でも全国的に分布し、多くの産地で多大な被害をもたらす代表的な種が「クワコナカイガラムシ」と「ナシマルカイガラムシ」です。どちらの種も、多発すると果実を吸汁し、りんごの商品性を著しく損なうため、売上の低下につながります。
種をまとめて「カイガラムシ類」と呼ぶ場合もありますが、防除のポイントはそれぞれ異なるので、適切で効率的な防除を行うためには確実に種を見分ける必要があります。
カイガラムシ類が“難防除”と言われる理由
Glucose / PIXTA(ピクスタ)
一部のカイガラムシ類は、古くからりんご栽培において害虫として防除対策が行われてきました。現在でも防除の難しい害虫とされています。
カイガラムシ類の防除が難しい理由は、その特徴的な生態のためです。成虫になると身体をロウ物質で覆うため、農薬をはじくようになり、農薬の効果が薄れます。
また、日の当たるところを避け、幹や枝の粗皮の下や隙間に潜んでいるため、発生量や農薬散布時期が見極めにくく、農薬がかかりにくい点も防除の難しさに拍車をかけています。
特に有袋栽培では、袋がけ後に袋の中に潜入し、効果的な防除ができないまま果実への被害が深刻化する場合もあります。被害を最小限に抑えるためには、カイガラムシの種類や発生状況、生育段階を見極め、対応する農薬を適期に散布することが重要です。
【画像】りんごに寄生するカイガラムシ類の主な種類と見分け方
りんご栽培で大きな被害が懸念されるナシマルカイガラムシとクワコナカイガラムシを中心に、近年新たに発生が確認されたブドウワタカイガラムシについて解説します。
※この記事で使用しているカイガラムシ類の写真は、りんごに寄生した状態ではなく、梨などの場合も含まれます。
ナシマルカイガラムシ(サンホーゼカイガラムシ)
ナシマルカイガラムシは別名「サンホーゼカイガラムシ」といいます。その由来は、アメリカ合衆国カリフォルニア州のサンノゼ(San Jose)で多発したためといわれます。
りんごのほか、梨や桃で多く発生します。成虫・幼虫ともに幹や枝を中心に寄生しますが、葉や果実にも寄生し、養水分を吸汁します。
ふ化したばかりの幼虫は「歩行幼虫」と呼ばれ移動できますが、やがて定着して円形のカイガラを形成し、「1齢幼虫」となります。2mmほどある淡灰色で同心円のカイガラが、雌のナシマルカイガラムシの特徴です。雄の場合はカイガラが小さめで楕円形になります。
ナシマルカイガラムシの成虫(体長約2mm)と幼虫
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
雌雄で発育形態が異なり、雌は成虫になってもカイガラ状のままですが、雄は2齢幼虫を経て蛹化し、有翅の成虫になります。雌成虫は幼虫を卵胎生で産むので、卵は見られません。これもナシマルカイガラムシの特徴です。
日本では北海道から九州まで広く分布し、特に関東以西に多く発生します。関東以西ではおおよそ5月から9月にかけて年3回発生し、東北では6月下旬から9月にかけて、年2回あるいは3回発生するなど、地域によって発生時期や世代サイクルが異なります。
出典:農研機構「平成22年度農政課題解決研修の実施概要」所収「カイガラムシの効果的な防除技術(平成22年度農政課課題解決研修 主要果樹の病害虫防除技術研修テキスト)」
ナシマルカイガラムシに寄生されると、葉や果実では寄生部分が赤紫色に変色し、果実は痕が目立つため外観が損なわれます。多発すると奇形果や裂果となることもあります。
葉や果実の寄生部位が赤紫色の斑点になることも、ナシマルカイガラムシを見分けるポイントです。なお、葉に寄生するのは主に羽のある雄です。
梨の新枝に寄生したナシマルカイガラムシ
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
ほかの被害には、葉や枝の枯死があります。
葉では、ナシマルカイガラムシの発生初期は主脈に沿って発生し、多発すると支脈にも広がり、寄生部位が赤紫色になった後に落葉することがあります。幹や枝では、全体が覆われるほどカイガラムシが発生した場合、樹勢が衰え、枝が枯死することがあります。
クワコナカイガラムシ
クワコナカイガラムシは、ナシマルカイガラムシと同様に、古くからりんごや梨に発生し吸汁する害虫として知られており、防除の難しい重要害虫として扱われています。桑やブドウにも寄生します。
2齢幼虫以降は身体全体を白色のロウ物質で覆います。雌成虫は、体長4mmほどのわらじ型になります。身体の周りに17対の刺毛があり、尾端の1対は長く伸びます。
クワコナカイガラムシ 老齢幼虫
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
クワコナカイガラムシ 成虫
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
雄成虫は雌よりも小さく、有翅で飛ぶことができ、有翅のアブラムシに似ています。雄は交尾のあとに死亡し、雌は白い綿状の卵のうに覆われた卵を産みます。
前年に産み付けられて越冬した卵がふ化し、第1世代となります。関東以南など暖かい地域では5月中旬頃〜9月頃まで年に3回、東北や高地など冷涼な地域では5月下旬頃〜9月頃まで年に2回発生します。
出典:長野県農業関係試験場「農作物病害虫データベース|クワコナカイガラムシ(果樹/ナシ・ブドウ・リンゴ・果樹全般)」
梨の枝の窪みに寄生するクワコナカイガラムシ
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
ふ化直後の若齢幼虫は日の当たる葉にも寄生しますが、老齢幼虫になると日の当たらないところを好み、幹や枝の粗皮下や隙間、根部などに移動します。有袋栽培の場合は、このとき袋の中に入り込んで果実に寄生し吸汁します。
無袋栽培では、果実への被害は少ないですが、がくあ部やこうあ部など、陰となる場所に寄生することがあります。被害部は凹んだりカスリ状になったりして、成熟後は青みが残る斑点になることがクワコナカイガラムシの被害の特徴です。
また、クワコナカイガラムシはアブラムシのように甘みのあるべとべとした排泄物を出すので、すす病が発生して果実が汚れる点も見分けるポイントです。
YoshiMechi / PIXTA(ピクスタ)
北海道で新たに確認「ブドウワタカイガラムシ」
りんご栽培では、注意が必要なカイガラムシ類はナシマルカイガラムシとクワコナカイガラムシの2種類とされていましたが、2019年には北海道の長沼町にある中央農業試験場で、新たに「ブドウワタカイガラムシ」によるりんごへの寄生が認められています。
また、同年8月には、同じ樹の2年枝上に次世代幼虫が高密度に発生していることが認められました。
ブドウワタカイガラムシは広食性で、りんごを含む14科30種に寄生することが分かっています。報告されたカイガラムシは、濃い褐色の雌の成虫で、体長・体幅ともに5mm程度の扁平な楕円形でした。
発見時には、カイガラの下に白色の卵のうを保持し、次世代幼虫がふ化して歩行していたとのことです。
2019年以前は、りんごへの寄生が見られなかったため、防除体系なども確立していません。今後、北海道を中心に発生が広がる恐れがあるため、新たな被害に注意が必要です。
ブドウワタカイガラムシの様子は、北海道病害虫防除所・北海道立総合研究機構のホームページで確認できます。
出典:北海道病害虫防除所・北海道立総合研究機構「りんごのブドウワタカイガラムシ(新寄主)」
HAPPY SMILE / PIXTA(ピクスタ)
りんごの品質を守る! カイガラムシ類の防除対策
りんごに寄生するナシマルカイガラムシとクワコナカイガラムシをはじめ、カイガラムシ類の防除に効果のある農薬を紹介します。
※なお、ここで紹介する農薬は2023年4月30日現在、りんごに登録のあるものです。実際の使用に当たっては、必ず使用時点の登録を確認し、ラベルをよく読んで用法・用量を守りましょう。
また、地域によっては農薬使用の決まりが設けられている場合もあるため、事前に確認しておいてください。農薬の登録は、「農薬登録情報提供システム」で検索できます。
カイガラムシ類に効く農薬の例
YoshiMechi / PIXTA(ピクスタ)
カイガラムシ類の農薬による防除は、身体がロウで覆われる2齢幼虫以前に行うことが効果的です。
登録農薬は「カイガラムシ類」となっているものや、ナシマルカイガラムシ・サンホーゼカイガラムシ・クワコナカイガラムシなど種類を明記してあるもの、さらに越冬卵や幼虫、成虫など生育段階を明記しているものもあります。発生状況に応じて選ぶとよいでしょう。
ナシマルカイガラムシに効く農薬
ナシマルカイガラムシの防除効果が高いとされるのは、発芽前の休眠期にマシン油の散布を行うことです。主に越冬卵からふ化したばかりの幼虫を狙うことで高い効果が期待できます。
マシン油は各社から多数販売されています。ハダニ類もマシン油で同時防除できますが、カイガラムシ類はハダニ類よりも高い濃度が必要なことがあるので、カイガラムシ類の使用基準に適した濃度に合わせましょう。
発芽前に園地に雪が残っているなど、その時期の散布ができない場合や、マシン油の散布後にも幼虫が残っている場合は、発芽後~開花前までに、歩行幼虫の発生程度を確認しながら「アプロードフロアブル」を適度に希釈して散布しましょう。
そのほか、ナシマルカイガラムシには「モスピラン水溶剤」「マラソン乳剤」などが有効です。
クワコナカイガラムシに効く農薬
クワコナカイガラムシに対しても、アプロードフロアブルの散布で防除効果が期待できます。ただし、カイガラムシの身体がロウで覆われる2齢幼虫前に適用することには注意してください。
そのほか、クワコナカイガラムシには「サイアノックス水和剤」「スミチオン乳剤」などが有効です。
なお、カイガラムシ類の中には、薬剤抵抗性の発達が報告されている種もあります。ナシマルカイガラムシやクワコナカイガラムシによる抵抗性の獲得を避けるため、同一系統の薬剤の連用は避け、ローテーション散布を心がけましょう。
出典:農研機構「平成22年度農政課題解決研修の実施概要」所収「カイガラムシの効果的な防除技術」
農薬散布だけでなく、冬期に粗皮を削ったり、空洞や隙間を埋めたりして越冬場所をなくすことや、9月の産卵時期に段ボールや新聞紙、布などを幹や大枝に巻き、産卵を誘引して春までに焼却するなどの耕種的防除も併せて行うと、効果的に密度を減らすことが可能です。
りんご栽培における防除適期の見極め方
ナシマルカイガラムシ・クワコナカイガラムシともに特に効果の高い防除適期は、越冬世代の幼虫や卵からふ化した幼虫が動き出す発芽前の時期です。発芽前の休眠期に、カイガラムシ類が潜んでいる枝や幹をめがけてまんべんなく散布しましょう。
dr30 / PIXTA(ピクスタ)
前項でも触れましたが、休眠期に散布できなかった場合や防除しきれなかった場合には、発芽10日後に幼齢幼虫に対して効果のある農薬を散布します。
次に高い効果が期待できるタイミングは、第1世代の幼齢幼虫が動き出す時期です。地域によって異なりますが、6月下旬〜7月頃の場合が多いようです。実際の防除時期については、地域のJAなどから毎年公表される有効積算温度に基づいた発生予測に従うことが基本です。
出典:農研機構「りんごの特別栽培で新たに顕在化した害虫の合理的防除に関する検討会 講演要旨集」所収「りんごの特別栽培で新たに顕在化した害虫の合理的防除に関する検討会 講演要旨集」
参考までに、青森では「ふじの展葉1週間後頃」という目安もあります。アプロードフロアブルを使用することで、ナシマルカイガラムシとクワコナカイガラムシを同時防除できると報告されています。
出典:地方独立行政法人 青森県産業技術センター「りんご研フラッシュ第7号と第8号を発行しました」所収「りんごのクワコナカイガラムシとナシマルカイガラムシの同時防除-『ふじの展葉1週間後頃』におけるアプロードフロアブル散布が有効-」(第64豪 平成31年3月)
kikisorasido / PIXTA(ピクスタ)
クワコナカイガラムシについては、より正確に自身のほ場の発生予測ができる、バンドトラップを用いた予測方法があります。
産卵が盛んな6月下旬~7月末頃に、ダンボールなどで作ったバンドトラップをおよそ5日間隔で設置し、回収するたびにバンド内の卵のう数を調査し推移を確認することで、発生状況が把握できます。詳しくは、以下の農研機構のサイトを参照してください。
出典:農研機構 東北農業研究センター「バンドトラップを用いたリンゴのクワコナカイガラムシ第1世代幼虫の防除時期予測(平成25年度 東北農業研究 成果情報)」
カイガラムシ類は幼虫の発生期間が短く、その後の発生はバラつき、さまざまな生育段階の幼虫・成虫が混在するようになります。
特に成虫が増えると、農薬を散布してもほとんど効果が得られないので、発生が比較的まとまっている第1世代の歩行幼虫発生までに防除することが重要です。
ライダー写真家はじめ / PIXTA(ピクスタ)
カイガラムシ類は防除が難しく、昔からりんご栽培農家を悩ませる厄介な害虫です。しかし、生態の特徴を知り、効果のある農薬を適期に散布し、耕種的防除も並行して実施することで、密度を大幅に減らせます。適期防除を心がけ、果実の品質を守りましょう。
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大曾根三緒
ビジネス、ペット、美術関連など多分野の雑誌で編集者として携わる。 全国の農業協同組合の月刊誌で企画から取材執筆、校正まで携わり、農業経営にかかわるあらゆる記事を扱かった経験から、農業分野に詳しい。2019年からWebライターとして活動。経済、農業、教育分野からDIY、子育て情報など、さまざまなジャンルの記事を毎月10本以上執筆中。編集者として対象読者の異なるジャンルの記事を扱った経験を活かし、硬軟取り混ぜさまざまなタイプの記事を書き分けるのが得意。