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「中山間地農業ルネッサンス事業」とは? 支援内容と地域の活用事例

「中山間地農業ルネッサンス事業」とは? 支援内容と地域の活用事例
出典 : ライダー写真家はじめ / PIXTA(ピクスタ)

中山間地域は、食料生産を行う農地やコミュニティとしての重要な役割を担いながらも、人口減少や高齢化などに伴う多くの課題を抱えています。「中山間地農業ルネッサンス事業」は、そのような中山間地農業を元気にすることを目的として、2017年に創設された制度です。

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「中山間地農業ルネッサンス事業」では、都道府県が地域ごとにまとめて中山間地農業の振興計画を策定し、それに基づいて国が支援を行います。本記事では、具体的な成功事例を挙げながら、事業の目的や概要、農家にとってのメリットなどを解説します。

中山間地農業ルネッサンス事業とは?

中山間地域は、全国の耕地面積の4割弱、農業産出額の約4割を占める

※耕地面積は「令和2年耕地及び作付面積統計」、販売農家数は「2020年農林業センサス」、農業産出額は「令和2年生産農業所得統計」
出典:農林水産省「中山間地域等について」よりminorasu編集部作成
画像出典:marumaru / PIXTA(ピクスタ)

日本の農業は全国的に、高齢化や担い手不足、耕作放棄地の増加などの深刻な課題に直面しています。こうした課題の解決に向け、国は農地の集約化・大規模化と、農作業の効率化・省力化を推し進めています。

しかし 、全国の耕地面積の約4割を占める中山間地農業では、傾斜地など条件の不利な農地が多く、集約化や大規模化は困難とされています。

そうした中山間地では、工夫を凝らして周囲の自然と調和し、気候や地理的条件を活かして、付加価値の高い作物を生産しています。

食料生産の場としてだけでなく、治水・利水機能や土壌浸食防止機能、土砂崩壊防止機能など、中山間地農業は、自然と人の営みの間で多面的機能を担っています。国は、農業の大規模化や効率化を進める一方で、こうした価値ある中山間地農業の存続も重視しています。

「中山間地農業ルネッサンス事業」は、中山間地域を活性化する多様な取り組みを支援し、中山間地農業を元気にすることを目的として2017年に創設されました。

以下では、この事業の具体的な支援内容としくみ、そして中山間地の定義について詳しく解説します。

各交付金の優先枠設定や要件緩和で、地域農業を支援する制度

中山間地農業ルネッサンス事業における支援とは、対象となる取り組みに対して、関連する交付金・補助金などを受ける際に優先枠を設定したり、審査時にポイント加算したりすることで採択されやすくすることです。

そのほか、支援制度を拡充したり、支援を申請する際の要件を緩和したり、交付額を決める際の補助率を引き上げることでも取り組みを支援します。

支援までの流れは、まず各市町村が地域の将来ビジョンを作成し、それを都道府県が複数の市町村単位で取りまとめ、「地域別農業振興計画」を策定します。その計画に位置付けられる取り組みに対して、国が支援を実施します。

対象となる「中山間地」の定義

指定棚田 白米千枚田

Yoshitaka / PIXTA(ピクスタ)

中山間地農業ルネッサンス事業では、主に中山間地域を支援の対象としています。

中山間地域とは、農林水産省のホームページでは「農業地域類型区分のうち、中間農業地域と山間農業地域を合わせた地域」と定義しています。

中間農業地域や山間農業地域は、農林統計上の言葉で、統計を取るために耕地率や林野率などの条件によって区分けしたものです。 中間農業地域は全国に980市町村、山間農業地域は730市町村(いずれも2023年4月1日時点)が該当します。

出典:農林水産省「中山間地域等について」

なお、実際の対象地域には、中山間地域だけでなく、過疎地域や半島・離島、指定棚田なども含まれます。実際にどの地域が対象として認定されているかは、各自治体が公式サイトで公表しているので、確認してみましょう。

中山間地農業ルネッサンス事業の支援対象

中山間地 農業の担い手

マハロ / PIXTA(ピクスタ)

中山間地農業ルネッサンス事業として支援を行う対象の事業は、大きく「中山間地農業推進対策」と「支援事業」の2つに分けられます。 詳しい内容について、次項で解説します。

中山間地農業推進対策

「中山間地農業推進対策」は、「農山漁村振興交付金」制度にある対策の1つで、中山間地域などを対象としています。この交付金を受けようとする場合は、中山間地農業ルネッサンス事業の支援によって有利になります。

中山間地農業推進対策は、「中山間地農業ルネッサンス推進事業」と「農村型地域運営組織(農村RMO)形成推進事業」の2つに分けられます。

中山間地農業ルネッサンス推進事業

この事業には、主に以下の取り組みが該当します。

  • 地域の特性を活かした独創的な取り組み
  • 収益力向上、販売力強化、生活支援等に関する具体的な取り組み
  • デジタル技術の導入・定着を推進する取り組み
  • 地域レジリエンス強化連携協定に基づく災害時の避難等に関する活動
  • 地域特性に応じた複合経営を実践する取り組み

2023年度予算の概要では、この事業の支援内容が拡充され、デジタル技術の導入に対する支援が提示されています。

  • デジタル技術を導入することによる地域農業の販売力強化や収益向上、また地域の人への買い物支援などの取り組みを「元気な地域創出モデル支援」として後押しし、優良事例を創出

事業期間:最大3年間
交付率(上限):定額(1,000万円〈年基準額〉×事業年数)

出典:農林水産省「中山間地農業ルネッサンス事業」所収「令和5年度予算の概要」

農村型地域運営組織(農村RMO)形成推進事業

「農村型地域運営組織(農村RMO:Region Management Organization)」とは、複数の集落が共同で互いの集落機能を補完し、地域コミュニティの維持を図ることをいいます。この組織を形成するための取り組みも、この事業の対象です。

こちらについても、2023年度から支援内容が拡充され、デジタル技術の導入推進が対象となりました。

  • 地域協議会などが作成する将来ビジョンに基づいて行われる、農用地保全や地域資源活用、生活支援を目的とした調査や計画策定、実証事業の取り組み、デジタル技術の導入・定着を推進する取り組み

事業期間:最大3年間
交付率(上限):定額(1,000万円〈年基準額〉×事業年数)

出典:農林水産省「中山間地農業ルネッサンス事業」所収「令和5年度予算の概要」

支援事業

支援事業とは、「多様で豊かな農業と美しく活力ある農山村の実現に向けた支援」または「地域コミュニティによる農地等の地域資源の維持・継承」のために、振興計画に基づいて実施される事業のことを指します。

以下、それぞれの具体的な内容を解説します。

多様で豊かな農業と美しく活力ある農山村の実現に向けた支援

中山間地域の持つ特色を活用し、農業と観光、教育、福祉などを連携して都市と農村の交流を図ったり、農村への移住を推進したりする取り組みを支援します。

2023年度の場合、具体的に次の各事業が支援対象となり、支援を受ける際に優先枠や優遇措置が適用されます。

  • 強い農業づくり総合支援交付金のうち産地基幹施設等支援タイプ
  • 機構集積協力金交付事業のうち地域集積協力金交付事業
  • 農業農村整備関係事業
  • 集落営農活性化プロジェクト促進事業
  • 持続的生産強化対策事業のうち果樹農業生産力増強総合対策事業(未来型果樹農業等推進条件整備事業)
  • 持続的生産強化対策事業のうち茶・薬用作物等支援対策
  • みどりの食料システム戦略推進交付金のうちバイオマス地産地消対策
  • 農山漁村振興交付金(農山漁村発イノベーション対策等)

地域コミュニティによる農地等の地域資源の維持・継承

兼業農家や小規模な農家も含む地域コミュニティで、農地などの地域資源を維持・継承する取り組みを支援します。

2023年度の場合、具体的に次の各事業が支援対象となり、支援を受ける際に優先枠や優遇措置が適用されます。

  • 多面的機能支払交付金
  • 環境保全型農業直接支払交付金
  • 鳥獣被害防止総合対策交付金のうち整備事業
  • 畜産生産力・生産体制強化対策事業のうち国産飼料資源生産利用拡大対策
    (放牧活用型持続的畜産生産推進)
  • 森林・山村多面的機能発揮対策交付金

中山間地農業ルネッサンス事業を活用! 地域の取り組み事例3選

持続可能な農業の実現のために、中山間地農業ルネッサンス事業を活用して農業の収益アップや課題解決に成功した取り組み事例を3つ紹介します。

高収益作物の栽培へ向け、研修会やほ場の整備を実施 (青森県)

蓬田村・青森市北部地域

suzumeclub / PIXTA(ピクスタ)

青森県の東青地域内の蓬田村・青森市北部地域は「過疎・振興山村・特定農山村・半島」に当たります。

この地域では、陸奥湾で獲れるホタテや水田利用で栽培するトマトを地域振興の柱とし、ほたて残渣の活用によるブランド化にも取り組んできました。

しかし、過疎化や高齢化に伴う担い手不足が深刻化したため、機械化による省力化や所得向上が見込める玉ねぎ栽培を導入し、収益性向上と新たな産地形成をめざすために同事業を活用しました。

この事例では、中山間地農業ルネッサンス事業を活用して、以下のような多数の取り組みを実現しています。

  • 「中山間地農業ルネッサンス推進事業」を活用した研修会や実証試験の実施、販売ルートの構築
  • 「多様で豊かな農業と美しく活力ある農山村の実現に向けた支援」を活用して「農地耕作条件改善事業」の支援を受け、暗きょ排水の再整備を実施
  • 「地域コミュニティによる農地等の地域資源の維持・継承」を活用して「多面的機能支払交付金」「中山間地域等直接支払交付金」を受け、地域の共同活動の支援や、地域資源の適切な保全・管理を推進

事業の活用により多くの支援や交付金を受け、収益性の高い玉ねぎの作付面積を拡大するとともに、地元の大手スーパーと契約した安定的な販売ルートを確保し、農業所得の向上に成功しました。

さらに、ホタテ残渣の有効活用にも取組んでいます。ホタテ残渣を疎水材とした暗渠排水を整備しました。また、ホタテ残渣を堆肥材料に使い、この堆肥を施したほ場で生産した野菜類を「陸奥湾の資源が作り育てた野菜」として高付加価値化しています。

出典:農林水産省「中山間地農業ルネッサンス事業」「3.中山間地農業ルネッサンス事業取組事例」の項 所収「中山間地農業ルネッサンス事業~取組事例~(全体版)」(高収益作物導入の取組を軸にした魅力的な農村の実現【青森県東青地域】(蓬田村・青森市北部地域))

支援を活かした商品開発で、地域特産品の高付加価値化を実現 (三重県)

夫婦岩に隣接するショッピング施設「伊勢夫婦岩めおと横丁」のショッピングマルシェに出品された大台町の柚子製品

夫婦岩に隣接するショッピング施設「伊勢夫婦岩めおと横丁」のショッピングマルシェに出品された大台町の柚子製品
出典:株式会社PR TIMES(株式会社伊勢夫婦岩パラダイス プレスリリース 2021年7月19日)

三重県松阪地域にある大台町は中山間地であり大規模経営化が困難なため、地域資源を活かし、収益性・加工性に優れた野菜などの栽培を振興したり、6次産業化に取り組んできました。

しかし、高齢化による栽培面積や収量の変化に加え、鳥獣被害による生産意欲の低下といった問題が生じ、生産体制の再構築による安定供給や販売力強化による所得向上を目指して本事業を活用しました。

この事例では、以下のように事業を活用して支援を受けました。

  • 「中山間地農業ルネッサンス推進事業」を活用して「農山漁村振興交付金」を受け、農地など地域資源の維持や研修会の実施
  • 「多様で豊かな農業と美しく活力ある農山村の実現に向けた支援」を活用して「農山漁村振興交付金」を受け、地域資源を活用した商品開発や生産組織の育成、新たな加工施設の整備、移住者への生活支援や農業研修・営農指導
  • さらに連携事業である「山村活性化支援交付金」を受け、特産品である柚子とフキを使った商品開発と販路の獲得
  • 「地域コミュニティによる農地等の地域資源の維持・継承」を活用して「鳥獣被害防止総合対策交付金」「多面的機能支払交付金」「中山間地域等直接支払交付金」を受け、鳥獣害対策を推進

事業の活用により多くの支援や交付金を受けて多角的に取り組みを進めた結果、新たな特産品開発と販路拡大に成功しました。その中でも、柚子商品は2016年から2020年で販売額が51%も増加しました。

出典:農林水産省「中山間地農業ルネッサンス事業」「3.中山間地農業ルネッサンス事業取組事例」の項 所収「中山間地農業ルネッサンス事業~取組事例~(全体版)」(地域特産品のゆずを活用した6次産業化による販売力強化【三重県松阪地域】(松阪市、多気町、明和町、大台町))

深刻化する鳥獣被害対策に、くくりワナセンサーを開発 (長野県)

ソフトバンク株式会社・株式会社huntech・国立大学法人信州大学が開発したわなセンサー「スマートトラップ NB-IoT」

ソフトバンク株式会社・株式会社huntech・国立大学法人信州大学が開発したわなセンサー「スマートトラップ NB-IoT」
出典:株式会社PR TIMES(株式会社huntech プレスリリース 2019年10月31日)

長野県上伊那地域の伊那市では、米や果樹、野菜、花きなどの生産が盛んですが、リニア開通という商機を活かすために 、さらなる産業振興・所得向上をめざして加工による付加価値向上や販路拡大を進める必要があると考えていました。

そこで本事業を活用し、以下のような取り組みを進めています。

  • 「中山間地農業ルネッサンス推進事業」を活用し、JA、商工会議所、市役所、農業法人が連携して特産品を使用した商品開発を推進
  • 「多様で豊かな農業と美しく活力ある農山村の実現に向けた支援」の優先枠を利用して、農産物の高付加価値化に向けた集出荷施設・加工施設の整備や、農産物のブランド化などを推進
  • 「地域コミュニティによる農地等の地域資源の維持・継承」を活用して、鳥獣被害防止対策を推進するとともに、低電力・低コスト通信技術(LPWA)活用による「くくりワナセンサー」の開発・実証へ

このうち3番目の鳥獣害対策では、産官学が連携して「くくりワナセンサー」の開発に取り組みました。このセンサーの開発は、国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)から受託した研究案件でもあり、信州大学・新光商事株式会社・伊那市有線放送農業協同組合 ( いなあいネット)・ソフトバンク株式会社が参加しました。

既に「スマートトラップ NB-IoT」として製品化されており、ほかの地域を含めた水平展開が期待されています。

出典:
長野県「農政部関係の施策・計画 >第3期長野県食と農業農村振興計画」「長野県食と農業農村振興計画レポート」の項 所収「平成30年度実績年次報告|地域別の取組み状況」
独立行政法人情報処理推進機構 運営「地域DX推進ラボ」内「【更新】「CEATEC 2019」で地方版IoT推進ラボ選定地域が取組・成果を紹介しました。各ラボのプレゼン資料を掲載しました!」「INA Valleyを実証フィールドとする新産業技術推進ラボ」の項 所収「LoRaWAN LPWAを活用した鳥獣害対策」
農林水産省「中山間地農業ルネッサンス事業」所収「長野県 上伊那地域」(中山間地農業ルネッサンス事業取組事例「官民連携による農業を核とした産業振興と鳥獣被害防止対策の労力軽減に向けたICT技術導入の取組【長野県上伊那地域】(伊那市))

中山間地農業ルネッサンス推進事業は、個々の農家を直接支援する事業ではありませんが、市町村単位の将来ビジョンに対して実施されます。活用すれば多数の支援事業や交付金・助成金を受けながら、多角的に中山間地域や中山間地農業の振興を実現できます。

地域と連携しながら意欲的に事業を活用して、中山間地特有の優れた機能や景観を維持し、そこで生産される質の高い農産物を次世代に残しましょう。

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大曾根三緒

大曾根三緒

ビジネス、ペット、美術関連など多分野の雑誌で編集者として携わる。 全国の農業協同組合の月刊誌で企画から取材執筆、校正まで携わり、農業経営にかかわるあらゆる記事を扱かった経験から、農業分野に詳しい。2019年からWebライターとして活動。経済、農業、教育分野からDIY、子育て情報など、さまざまなジャンルの記事を毎月10本以上執筆中。編集者として対象読者の異なるジャンルの記事を扱った経験を活かし、硬軟取り混ぜさまざまなタイプの記事を書き分けるのが得意。

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