玉ねぎ除草の実践ガイド|体系防除の基本を解説
玉ねぎ栽培での高収量・高品質確保には、体系的な除草対策が欠かせません。本記事では、作型別に除草剤の適切な使用法やポイントを解説し、コストと労力を抑えながら効率的な雑草防除を実現する方法を紹介します。
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玉ねぎ栽培における雑草防除は、作型ごとに、雑草の発生しやすい時期に合わせて体系的に行うと効率的です。本記事では、作型の違いによる雑草防除の時期やポイント、注意点について解説するとともに、それぞれの時期に使用できる除草剤を紹介します。
玉ねぎ栽培で重要なのは除草剤の体系処理
kiki/ PIXTA(ピクスタ)
玉ねぎ栽培は、作型によって多少の違いはあるものの、播種から収穫まで半年前後と期間が長く、時期に応じた雑草の防除対策が必要です。雑草を大幅に減らすことで、安定してより多くの収量を見込めます。
雑草が繁茂してからの対策では労力も時間もコストもかかってしまうため、予防を主とした除草剤による体系防除を構築し、効率的・効果的な防除を行います。
除草には、マルチ栽培や中耕といった耕種的防除もありますが、本記事では農薬を適切に用いる化学的防除の体系防除に絞って解説します。
作型別玉ねぎの雑草防除の体系例
現在、玉ねぎの作型は、北海道など寒冷地で行われている「春播き栽培」と、中間地~暖地で行われている「秋播き栽培」、そして、その端境期に供給できる新作型である「冬春播き栽培」があります。
それぞれの作型の雑草防除の体系例を挙げます。
※なお、本記事で紹介する農薬は2023年7月28日現在、玉ねぎに登録のあるものです。実際の使用に当たっては、必ず使用時点での登録を確認し、ラベルをよく読んで用法・用量を守って使用してください。
特に、玉ねぎの除草剤には適用地帯も登録されていることがあり、その場合は登録のない地域では使えないため注意が必要です。農薬の登録は、「農薬登録情報提供システム」で検索できます。
春播き玉ねぎ・冬春播き玉ねぎの雑草防除
出典:農研機構 東北農業研究センター「平成27年度 東北農業研究成果情報-部会別Index|タマネギ春まき栽培における除草剤体系処理による雑草防除法」よりminorasu編集部作成
※矢印は抑草期間のイメージで、除草剤が使用可能な期間ではありません
出典:JA全農「アピネス / アグリインフォ」内「栽培関連情報」所収「東北以南におけるタマネギの冬春まき栽培マニュアル」よりminorasu編集部作成
春播き・冬春播きの場合は、定植時に土壌処理型除草剤を使用し、その効果が切れる定植45日後くらいに再度、土壌処理型除草剤を散布します。
玉ねぎに使える土壌処理型除草剤には、「モーティブ乳剤」「ゴーゴーサン乳剤」「グラメックス水和剤」「トレファノサイド乳剤」などがあります。「ボクサー」は全面土壌散布・茎葉散布の両方に登録があります。
秋播き玉ねぎの雑草防除
※矢印は抑草期間イメージで、除草剤が使用可能な期間ではありません
出典:福島県「農業総合センター > 農業総合センター技術マニュアル」所収「営農再開地域の収益向上のためのタマネギ栽培マニュアル~生産者活用版~(令和3年3月)」よりminorasu編集部作成
秋播き栽培で、定植前にほ場に雑草が繁茂している場合は、グリホサート系除草剤の「タッチダウンiQ」「ラウンドアップマックスロード」などの茎葉処理型除草剤剤を使って除草しておきます。
定植時には「モーティブ乳剤」などの土壌処理型除草剤を使用します。
越冬後、雑草発生初期に発生している雑草にあわせて「バサグラン液剤」「セレクト乳剤」などの茎葉型除草剤で除草し、さらに中耕後に「ボクサー」などで処理します。
玉ねぎ向け除草剤の主な種類
玉ねぎ栽培の除草に使用する除草剤は、大きく分けて以下の2種類があります。
- 土壌処理型除草剤
- 茎葉処理型除草剤
この2種類は用途が異なり、使い方も違うので適切な使い分けが重要です。
土壌処理型除草剤
たかきち / PIXTA(ピクスタ)
土壌処理型除草剤は、雑草が発生する前に直接土壌に散布したり混和したりして、種子からの雑草発生を抑制・阻止する農薬です。ムラなく処理剤が浸透し効果が行きわたるように、散布前には砕土や整地を行い、ほ場の環境を整えることが効果を高めるポイントです。
液剤の場合は、ラベルをよく読んで、決められた薬量を決められた濃度に希釈し、土壌に全面散布します。なお、土壌処理型除草剤は同成分のものを1回しか使えない場合が多いため、2回目の散布は成分の異なるものを使用します。
乾燥した土壌よりも適度に湿っているほうが、薬剤がムラなく行きわたるので、適度な降雨後または灌水後に行うと効果的です。散布後は、降雨が続くと薬剤が流れてしまうので、散布前後の天候をよく調べることも大切です。
また、除草剤の中には薬害のリスクがあるものも少なくありません。例えば、「グラメックス水和剤」に使われているシアナジンは、高温条件下で使用すると薬害を生じる危険性があります。薬剤の性質をよく調べ、土壌や気候の条件に注意する必要があります。
茎葉処理型除草剤
kiki / PIXTA(ピクスタ)
茎葉処理型除草剤は、すでに発生している雑草に直接散布し、葉や茎から吸収されることで雑草を枯らす除草剤です。
効果を高めるポイントは、ほ場で優勢な雑草を見極めて適切な除草剤を選ぶこと、防除適期を逃さないこと、雑草の地上部全体にまんべんなく薬剤をかけることです。
特に防除適期は重要で、時期が遅れると効果が出ないことがあります。ラベルに記載してある「雑草の〇~〇葉期」といった適期に合わせ、遅れずに処理してください。
茎葉処理型除草剤だけで除草するよりも、土壌処理型除草剤を基本として、防除しきれなかった雑草を茎葉処理剤で除草する、といった具合に組み合わせて使うと使用回数を減らせるので効率的・省力的です。
玉ねぎの主な除草剤
玉ねぎに登録のある主な除草剤を、土壌処理型除草剤と茎葉処理型除草剤それぞれ2種類ずつ紹介します。
【土壌処理型】ゴーゴーサン乳剤
ペンディメタリンを有効成分とする除草剤で、雑草が発生する前に土壌処理することで、一年生雑草に対し高い防除効果を発揮します。雑草発生を抑制する効果は40~60日間と長期間持続します。
土壌の種類や気温・日照などの気象条件などに影響されず、安定して効果を得られる点や、作物への薬害リスクが低い点が特長です。
移植栽培では定植後、雑草発生前に10a当たり300~500mLの薬量を、70~150Lの水量で希釈し、1回のみ全面土壌散布します。ただし、収穫30日前までの使用に限られます。
直播栽培の場合は、播種後から本葉2葉期までの期間に、10a当たり200~400mLの薬量を70~100Lの水量で、定植栽培の場合よりも少し薄めに希釈して全面土壌散布します。
製品ページ:BASFジャパン株式会社「ゴーゴーサン®乳剤」
【土壌処理型】グラメックス水和剤
シアナジンを有効成分とする除草剤で、直播栽培・移植栽培のどちらにも使用できます。直播栽培の場合は播種後の雑草発生前に使用できますが、移植栽培の場合は使用時期が定植活着後かつ収穫30日前までに限られているため、使用前に活着を確認してください。
直播栽培では、10a当たり75~100gの薬量を100Lの水量で希釈し、全面土壌散布します。移植栽培では活着確認後、10a当たり50~100gの薬量を100Lの水量で希釈し、1回のみ全面土壌散布します。
イネ科雑草に対しての効果はやや低いものの、一年生広葉雑草、特にキク科の雑草に対し高い効果があります。ただし、ツユクサに対しては効果が劣るので、ツユクサが繁茂しているほ場での使用は避けます。
また、マルチ栽培や、砂土や水はけのよいほ場、乾燥や高温の条件下では薬害のでる恐れがあるので使用を避けてください。
製品ページ:アグロカネショウ株式会社「グラメックス水和剤」
【茎葉処理型×イネ科以外の雑草】バサグラン液剤
バサグラン液剤は、水稲の中後期除草剤としてよく知られていますが、玉ねぎほ場の雑草防除にも効果があります。
ベンタゾンナトリウム塩を有効成分とする茎葉処理剤で、イネ科雑草が優勢なほ場では使えませんが、イネ科雑草を除く一年生雑草に対して効果があります。玉ねぎの場合は、雑草の3~4葉期が防除適期で、散布時期が遅れると効果が劣るため要注意です。
玉ねぎでは、春播き栽培の場合は移植後6月上旬まで、秋播き栽培の場合は移植後生葉4葉期までに1回散布します。薬害を避けるため、必ずこれらの時期までに散布して下さい。
また、どちらの場合も、10a当たり60~120mLの薬量を70~100Lの水量で希釈して全面散布します。仕様はどちらも収穫30日前までの使用に限られます。
雑草に対し高い効果を得られるうえ、人畜毒性や魚毒性が低い点も特長です。散布の際は、雑草の茎葉にまんべんなく液剤が付くように散布しましょう。
製品ページ:BASFジャパン株式会社「BASFバサグラン®液剤 」
【茎葉処理型×イネ科雑草】セレクト乳剤
セレクト乳剤は、クレトジムを有効成分とするイネ科雑草を選択的に防除できる除草剤で、防除が困難なスズメノカタビラにも効果があることが特徴です。北海道では、ビート・豆類・玉ねぎ・ニンジンなどの広葉作物向けの除草剤として広く使われています。
玉ねぎの場合、イネ科雑草の3~5葉期が防除適期で、それ以上葉が展開した状態では効果が低くなります。
10a当たり50~70mLの薬量を100Lの水量で希釈して全面散布します。収穫21日前まで使用可能で、セレクト乳剤及びクレトジムを含む農薬をあわせて3回の使用に限られます。
製品ページ:アリスタ ライフサイエンス株式会社「セレクト乳剤」
玉ねぎの除草剤散布における注意点
@ism / PIXTA(ピクスタ)
玉ねぎは、いずれの作型においても栽培期間が長期にわたり、収穫期まで除草対策が欠かせません。農薬だけですべての雑草を防除するとコストも労力もかかるため、耕種的防除と組み合わせた体系的な防除が必要です。
まず、周囲に雑草が繁茂する荒れ地がないなど、雑草が発生しやすい環境を避けてほ場を選定しましょう。そのうえで、定植前の耕起やマルチなどの使用によって、雑草が生えにくい環境を整えながら効果的に除草剤を使用すると、労力やコストを抑えながら高い効果を期待できます。
除草剤によっては、作物に対する薬害リスクが高いものもあるので、必ず使用前にラベルをよく読んで、薬害が発生しないように条件を整えることも重要です。
▼品質・収量の安定には、除草対策だけでなく病害虫対策も重要です。玉ねぎの病害虫対策について知りたい方は、以下の記事も参照してください。
玉ねぎは需要が高く、安定的に高収入が見込める作物です。より収益を安定させるためには、体系的な除草対策を講じて、雑草の発生を抑制することが重要です。効果の高い農薬を耕種的防除と組み合わせて効率的に使うことで、省力的に玉ねぎの品質や収量を維持しましょう。
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大曾根三緒
ビジネス、ペット、美術関連など多分野の雑誌で編集者として携わる。 全国の農業協同組合の月刊誌で企画から取材執筆、校正まで携わり、農業経営にかかわるあらゆる記事を扱かった経験から、農業分野に詳しい。2019年からWebライターとして活動。経済、農業、教育分野からDIY、子育て情報など、さまざまなジャンルの記事を毎月10本以上執筆中。編集者として対象読者の異なるジャンルの記事を扱った経験を活かし、硬軟取り混ぜさまざまなタイプの記事を書き分けるのが得意。