里芋の反収は? 農家の収入目安と、増収を叶える栽培のコツ
里芋は高温・多湿を好み、水稲輪作や転作として栽培されることの多い作物です。里芋の栽培に新たに取り組む場合は、事前に反収の目安を付けて、おおよその収益を割り出し、計画的に作付けする必要があります。近年は、水田を活用した里芋の湛水栽培も注目されています。
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里芋は関東や四国、九州、新潟県などで主に栽培され、比較的安定して反収が得られる作物です。本記事では、里芋栽培を始めるに当たって知っておきたい、産地ごとの反収の違いや収入の目安について解説し、反収を上げるための栽培のポイントや新たな栽培技術を紹介します。
里芋の反収は? 10a当たり収量の目安
ykokamoto / PIXTA(ピクスタ)
まず、農林水産省の「野菜生産出荷統計」を参照しながら、里芋の収穫量や反収について、全国と主要産地の現状を解説します。
里芋の反収、全国平均は「1,370 kg」(2021年)
里芋の生産量の長期的な推移を知るために、2003年以降の統計をもとに、全国の作付面積、収穫量、反収(10a当たり収量)を見てきましょう。
作付面積や収穫量は年々減少しています。
出典:農林水産省「作物統計調査|作況調査(野菜)|確報|野菜生産出荷統計」よりminorasu編集部作成
2004年と2021年で比較すると、作付面積は15,800haから10,400haと34%減少しています。一方、収穫量も18.5万tから14.2万tに23%減少していますが、減少幅はゆるやかであることがわかります。
そして、反収は増加傾向にあります。
出典:農林水産省「作物統計調査|作況調査(野菜)|確報|野菜生産出荷統計」よりminorasu編集部作成
2004年から2021年では1,170kgから1,370kgまで増加しています。特に2021年は里芋の反収が大幅に増えています。この背景には、各産地で栽培方法や品種改良などの研究が進んでいることがあります。
生産量上位には、より反収の多い県も
次に、「令和3年産野菜生産出荷統計」を参考に、里芋の主要産地ごとの作付面積、収穫量、反収を見てみましょう。産地は、この年の収穫量上位5県である埼玉県、千葉県、宮崎県、愛媛県、栃木県を挙げています。
2021年 里芋の収穫量ランキング
順位 | 都道府県 | 作付面積(ha) | 収穫量(万t) | 反収(kg) |
---|---|---|---|---|
1位 | 埼玉 | 759 | 1.87 | 2,460 |
2位 | 千葉 | 986 | 1.48 | 1,500 |
3位 | 宮崎 | 884 | 1.37 | 1,550 |
4位 | 愛媛 | 428 | 0.96 | 2,240 |
5位 | 栃木 | 495 | 0.81 | 1,640 |
その他 | 5192 | 6.02 | 23,953 | |
全国計 | 8744 | 12.52 | 33,343 |
出典:農林水産省「作物統計調査|作況調査(野菜)|確報|令和3年野菜生産出荷統計」よりminorasu編集部作成
反収を比べると、特に埼玉県と愛媛県が多く、それぞれ2,460kgと2,240kgとなっています。埼玉県は作付面積こそ1位の千葉県よりも狭いものの、収穫量では1位です。愛媛県も、作付面積は比較的狭いものの、収穫量では4位です。
埼玉県や愛媛県での反収が多い理由には、埼玉県では「丸系八つ頭」、愛媛県では「伊予美人」のような県独自の新品種の開発や、高い生産技術の普及などがあると考えられます。
このように、産地によって作付面積に差はありますが、工夫次第で反収を上げ、平均以上の高い収穫量を得られる可能性は十分にあります。
里芋は儲かる? 農家の収入目安
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里芋栽培の収益や所得については、近年、全国レベルの統計はありません。そこで、参考として東京都中央卸売市場の品目別取扱実績(さといも)の2021年1月~12月のデータをもとに、粗収益を試算してみましょう。
東京都中央卸売市場では、2021年の里芋の平均単価は324円/kgです。これを前項の表にある同年の全国平均反収1,370kgにかけると、44.4万円が10a当たりの年間粗収益目安となります。ただし、これは全国平均のおおよその目安です。
さらに具体的な収益や所得は、都道府県や市町村で作成している経営指標を見れば、ある程度把握できます。例えば、山形県長井市の農業経営指標を参照すると、里芋の反収は1,500kg、売上は57.2万円で、所得は28.9万円、所得率は 49.2%となっています。
出典:山形県長井市「認定農業者・認定新規就農者制度の概要についてお知らせします」所収「農業経営指標一覧(10aあたり)」
長井市の指標のほか、熊本県の「社団法人熊本県野菜振興協会」で提示している里芋の耕種基準を見ると、経営目標として所得率を50%としてあり、里芋の所得率はおおむね50%と考えられます。
これを全国平均反収の粗収益目安44.4万円に掛けた22.2万円が、10a当たり所得の目安と考えられます。
出典:社団法人熊本県野菜振興協会「耕種基準」所収「サトイモ(普通掘り・マルチ栽培)」
上記の所得はあくまで全国平均の反収における目安です。里芋の反収が多い埼玉県や愛媛県のように栽培方法を工夫すれば、所得が増える見込みはあります。
昨今では、里芋を湛水栽培する技術も開発されています。水田活用のため新たに作付ける作物として検討をおすすめします。
反収を上げる! 里芋栽培における4つのポイント
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里芋の栽培方法には、普通堀り、ハウス早掘り、トンネル早掘り、マルチ早掘りなどがあります。ここでは、最も一般的な普通堀り(露地栽培)について、反収アップにつながる4つのポイントを紹介します。
- 品種選定と種芋選び
- 土作りと施肥設計
- 植え付けと栽植密度
- 水管理
それぞれ、どのような部分に着目して栽培すべきか、栽培のポイントについて、以下の項目で解説します。
品種選定・種芋選び
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栽培に当たっては、まずは品種を決めます。里芋の品種は多いものの、全国的に栽培されている品種は限られています。反収を増やすなら、多収性の品種を選びましょう。
また、収益を増やすという観点からは、産地独特の品種を選び、差別化を図ったりブランド化をめざしたりするのもよいでしょう。
関東や九州をはじめ、全国的に広く栽培されているのが、子芋系の「石川早生」や、親芋と子芋どちらも食べる親子兼用系の「セレベス(赤芽芋)」などです。
関東では、晩生種の子芋系「土垂(どだれ)」や親芋と子芋と葉柄も利用できる「八つ頭」も栽培されています。
このほか、埼玉県では「丸系八つ頭」、愛媛県では「伊予美人」、千葉県では「ちば丸」など、産地で改良された独自の品種もあります。
出典:
独立行政法人 農畜産業振興機構「さといもの需給動向」(2021年01月)
埼玉県「生産している農作物 > 埼玉野菜 >丸系八つ頭」
JAうま「ー愛媛のブランド里芋ー伊代美人のご紹介」
千葉県「千葉県育成さといも品種「ちば丸」ちばの農産物 > 千葉県育成品種 > 千葉県育成さといも品種『ちば丸』」
品種を決めたら、次は種芋を選びます。種芋を自家栽培する場合は、品種の持つ特性を明確に有し、品質・収量性ともに優れた株を選びましょう。
芽や子芋が健全で、なるべく大きさの揃ったものを選ぶと、生育も揃います。病害虫の被害のないものを選ぶことも重要です。なお、種芋の必要量は、経営規模100a当たり100kg前後です。
土作り・施肥設計
植え付けの1ヵ月前には良質の堆肥を10a当たり2t程度散布し、pH5.5~6.5に調整できるように苦土石灰を施用します。里芋は石灰の吸収量が多いので、10a当たり150~200kgを目安に十分に施用します。
同時に、硬盤破砕し排水をよくするために、プラウなどを使って深耕します。深耕することで里芋の根が深く伸長し、収量の向上につながります。
また、センチュウの被害は収量を大幅に減らすので、被害が予想される場合は植え付け前に土壌消毒を行ってください。
植え付けの4~5日前になったら基肥を施用します。10a当たりN:P:Kでそれぞれ20kg:25kg:20kgを目安に施用し、十分に耕起して畝を立てます。
マルチ栽培をする場合は、畝立てとマルチと植え付けを同時にできる作業機を使用すると、大幅な作業の省力化が見込めます。
植え付け・栽植密度
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畝の中央に、種芋の芽を上にして並べ、深さ10~15cm程度になるよう土を被せます。これよりも浅いと、生育中期以降に乾燥や多湿の影響を受けやすくなるため、十分に培土しましょう。畝立てとマルチを同時にする場合は、種芋を1列に並べてから畝立て・マルチをします。
株間の目安は30〜50cmですが、品種や土壌の状態、畝幅によっても異なるため、工夫をしながら自身のほ場・品種に最適な幅を見極めてください。
1つの例として、栃木県で行われた里芋の栽植密度の試験の結果を紹介します。それによると、40g以上の種芋であれば、1株当たりの専有面積は2,000~3,000平方cm、つまり株間は20~30cmが最適な密度と報告しています。
また、10~20gの小さな種芋であれば1,000平方cm、同じく株間は10cmとするのが最適と報告としています。
出典:栃木県農政部運営「とちぎファーマーズチャレンジネット」内「栃木県農業試験場の研究成果 第10号(1991年)」所収「さといもの栽植密度」
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水管理
里芋は乾燥を嫌うため、灌水量が収量に大きく影響します。特に夏期の肥大最盛期に灌水が不足すると、養水分の吸収が十分にできなくなり生育が抑制され、収量・品質ともに低下するおそれがあります。芽つぶれや割れなどの発生も増えます。
乾燥を防ぎ増収をめざすためには、定期的な灌水が欠かせません。一般的には畝間灌水を行いますが、灌水チューブやスプリンクラーなどを利用してもよいでしょう。灌水量の目安は、5日おきに30mmです。
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里芋の増収に期待! 「湛水栽培(水田栽培)」という方法も
里芋の品質・収量を向上させる栽培方法として、「湛水栽培(水田栽培)」が注目されています。水稲の輪作や転作として里芋を栽培する場合、従来の栽培方法では収穫まで畑地として管理しますが、湛水栽培の場合は夏期に畑に水を入れます。
湛水栽培の手順は、まず従来と同様に水田の水を抜いて、土作りや畝立て・植え付けを行います。梅雨明け頃までは雑草や病害虫の発生に注意し、適切に防除しながら従来と同様に管理します。
梅雨明け頃に畑へ水を入れ始め、植え付け2~3ヵ月後から収穫2ヵ月ほど前までの期間、常に一定量の水を湛えます。水の深さは、畝間の通路に10cm程度が適量です。
出典:鹿児島大学農学部「湛水畝立て栽培種イモ生産マニュアル」所収「湛水田機能を活かした湛水畝⽴て栽培種いも生産マニュアル」
この方法を数年前から実践している鹿児島県さつま町のかじや農産株式会社では、湛水栽培の結果、従来よりも地上部の生育や芋の着生がよく収量がアップしたうえに、芽つぶれや割れ、センチュウ被害などがなくなり、品質も向上したという実績を上げています。
かじや農産が湛水栽培を始めたきっかけは、ある年に隣の水田から里芋畑に水が流れ込んでしまい、仕方なくそのまま栽培したことが始まりでした。
水が入ったところで収穫された里芋は割れや芽つぶれがなく、そのほかのほ場で育った里芋と比較して芋も大きく育ったのです。そこで、その翌年からは、毎年夏場に湛水して里芋を栽培しています。
偶然から始まったかじや農産の湛水栽培ですが、もともと里芋の湛水栽培を研究していた鹿児島県農業開発総合センターと情報交換をしながら、より効果的な栽培方法を進めています。
出典:月刊現代農業「2020年7月号|偶然から生まれた水田栽培、大成功」
鹿児島だけでなく、里芋の湛水栽培は各産地で研究が進められています。もう1つの例として、栃木県の日光市でも2019年から湛水栽培を導入しており、2020年にはJAかみつが日光青果協議会里芋研究会が実践ほ場での里芋現地検討会を開きました。
その検討の結果、実践ほ場では雑草・害虫被害の軽減や収量アップのほか、農薬散布の軽減によるコストダウンと省力化、連作障害の解消などの効果があり、作付面積を増やすことができるとしています。
出典:JAグループ「自己改革の取り組み状況・事例一覧>(JAかみつが )サトイモ 湛水栽培で所得増へ」
とく / PIXTA(ピクスタ)
里芋は、全国の作付面積や収穫量は減少していますが、新品種や栽培技術(湛水技術など)の確立により、反収は増えています。
作業時間や作業負担が比較的少ない作物で、安定した収益も見込めるため、水田輪作や転作作物としておすすめです。
地域の経営指標や栽培暦を参考にしながら栽培方法や品種などを決め、準備を整えてから里芋栽培を導入することで、安定的に高品質・多収をめざしましょう。
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大曾根三緒
ビジネス、ペット、美術関連など多分野の雑誌で編集者として携わる。 全国の農業協同組合の月刊誌で企画から取材執筆、校正まで携わり、農業経営にかかわるあらゆる記事を扱かった経験から、農業分野に詳しい。2019年からWebライターとして活動。経済、農業、教育分野からDIY、子育て情報など、さまざまなジャンルの記事を毎月10本以上執筆中。編集者として対象読者の異なるジャンルの記事を扱った経験を活かし、硬軟取り混ぜさまざまなタイプの記事を書き分けるのが得意。