農業者年金とは?いくらもらえる? 加入のメリット・デメリット
農家のための年金制度「農業者年金」を知らない方もいるのではないでしょうか。農業者年金は、補助金がある、少子高齢化の影響を受けないなどのメリットがあります。将来的な資金確保のためにも、農業に従事する利点を生かせる年金の加入を検討してみてはいかがでしょうか。
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目次
この記事では、農家が加入することができる「農業者年金」について取り上げます。制度の概要、加入条件や補助制度、税金の優遇などのメリットはもちろん、デメリットや他の年金との違いを挙げながら、給付額のシミュレーションを交えて説明します。
農家の年金、「農業者年金」とは?
農業者年金とは、農業者のみが任意に加入できる公的年金のことで、国民年金の上乗せ年金の1つです。会社員であれば国民年金のほかに厚生年金を受給できますが、農業者の場合は国民年金とは別に農業者年金を受給できます。
農業経営による収入は必ずしも安定しているとは限りません。国民年金だけでは不安な方は、将来のために農業者年金の検討をおすすめします。
農業者年金の加入要件と保険料、給付期間
artswai / PIXTA(ピクスタ)
まずは農業者年金の加入要件や料金、給付期間から解説します。
加入要件
農業者年金に加入するためには、以下3つの条件を満たす必要があります。
1. 年間60日以上農業に従事すること
2. 国民年金の第1号被保険者(国民年金の保険料納付免除者を除く)であること
3. 20歳以上かつ60歳未満の方
ただし、農業法人の方は加入できません。農業者年金は、厚生年金の適用を受けない国民年金の第1号被保険者が加入対象なので、厚生年金の適用事業所である農業法人の方は対象外となります。
一方、法人化されていない集落営農組織に参加している農業者は、農業者年金に加入することができます。また、集落営農組織が従事分量配当制の農事組合法人の場合も、農業者年金に加入することができます。
そのほか、農業者年金への加入や脱退は自由に行えます。一度脱退した方でも、加入要件を満たしていればいつでも再加入が可能です。
※脱退した場合は、それまでに納めた保険料や運用益が、将来、年金として支給されます。
保険料
保険料は、月額2万円から6万7,000円の間であれば自分で決めることができ、金額はいつでも変更できます(千円単位)。また、後述する要件を満たせば、国庫補助を受けて月額最低1万円まで減額できます。
ただし、農業者年金は国民年金の基礎年金に上乗せされる年金ですので、付加年金への加入が必須となり、月額400円の付加保険料の納付が必要です。
※付加年金とは老齢基礎年金と合わせて受給できる終身年金のことで、2年間以上受給すると納付額以上の金額を受け取れます。詳細は日本年金機構「付加年金」をご覧ください。
給付期間
農業者年金は終身受給できます。
農業者年金は、65歳以上75歳未満の間で裁定請求を行なった時点から受給できます。また、裁定請求をしないうちに75歳になった場合は、75歳から受給が始まります。
もし80歳前に亡くなった場合は、死亡した翌月から80歳到達月までに受け取るはずの年金を現在価値に計算し直した総額が、死亡一時金として亡くなった方の遺族に支給されます。
なお、農業者年金を途中で脱退した場合には一時金は支給されず、それまでに納付された保険料をもとに、将来、上記の農業者老齢年金として支払われます。
いくらもらえる? 農業者年金の給付額シミュレーション
ELUTAS / PIXTA(ピクスタ)
それでは具体的なシミュレーションを見てみましょう。
- 40歳男性が毎月2万円を20年間納付
- 65歳までの運用利回りが2.5%、65歳以降の予定利率が0.70%の場合
- 65歳での農業者年金加入者(男性)の平均寿命86.5歳まで生存した場合
納付例
納付金額など | |
---|---|
納付期間 | 20年 (40歳で加入) |
保険料(年額) | 12万円 |
納付総額 | 480万円 |
上記条件を設定した際の給付額は以下のとおりです。
受給例
受給金額など | |
---|---|
受給期間 | 21.5年 (65〜86.5歳) |
給付額(年額) | 31万円 |
給付総額 | 675万円 |
※ただし、運用成績により変動するためあくまで目安の数字です。
個人の状況に応じた年金額は、農業者年金基金の「年金シミュレーター」から試算できますので活用してみてください。
年金シミュレーター
農家が農業者年金へ加入する3つのメリット
農業者年金には大きく分けると、
- 「積立方式・確定拠出型」のため少子高齢化の影響を受けない
- 社会保険料控除などが適用され税金が安くなる
- 保険料の国庫補助が受けられる
という3つのメリットがあります。それぞれ見ていきましょう。
少子高齢化の影響を受けない「積立方式・確定拠出型」
農業者年金 しくみ 積立方式 確定拠出型
出典:独立行政法人農業者年金基金「積立方式・確定拠出型で少子高齢時代でも安心」よりminorasu編集部作成
農業者年金では「積立方式・確定拠出型」を採用しており、受け取れる年金額は、自らが積み立てた保険料の総額と運用成績に応じて決まります。
保険の加入者数や受給者数が変化しても影響を受けないしくみなので、現役世代が少ないからといって年金額が下がることはありません。また、世代ごとの人口比の影響を受けないため、少子高齢化の時代でも安心して加入できる年金といえます。
社会保険料控除などにより税金が安くなる
農業者年金で年間に支払った保険料の全額(最高額は80万4,000円/年)が、社会保険料(所得税・住民税・復興特別所得税)の控除対象になります。
また、金融商品の運用益は一般的に20%の税金がかかりますが、農業者年金の運用益は非課税のため、その分年金の原資が多くなります。
さらに、受け取った年金は、税制上、公的年金など控除の対象となるため、公的年金などの合計額が110万円までは全額非課税となります(65歳以上の方限定)。
保険料の国庫補助が受けられる
農業者年金 国庫補助
出典:農林水産省「農業者年金」所収「農業者年金のメリット(ポスター)」よりminorasu編集部作成
農業者年金の保険料は月額2万円~6万7,000円ですが、納付が困難な場合は以下3つの条件を満たせば、4,000円〜1万円の国庫補助が受けられます。
- 60歳までに保険料納付期間などが20年以上見込まれる(39歳までの加入が必要)
- 農業所得(配偶者、後継者の場合は支払いを受けた給料など)が900万円以下
- 認定農業者で青色申告者など、下記「保険料の国庫補助対象者と補助額」の必要要件のいずれかに該当する
■保険料の国庫補助対象者と補助額一覧
ただし、保険料の国庫補助が受けられる期間は下記の通り決まっています。
- 35歳未満であれば要件を満たしている全期間
- 35歳以上であれば10年以内
1と2を通算して最長20年間となります。39歳までに加入していれば、加入時に国庫補助の要件を満たしていなくても、そのあとに要件が揃った時点で補助の対象となります。
デメリットも! 農業者年金の知っておくべき注意点
農業者年金に加入を検討する際のデメリットには、
- 掛金を自分で運用できない
- 毎月一定の金額が入ってくる代わりにまとめて受給できない
- 個人型確定拠出年金(iDeCo・イデコ)と国民年金基金と重複して加入できない
などがあります。ここからは各デメリットについて説明します。
掛金を自分で運用できない
農業者年金の資金は、独立行政法人農業者年金基金(以下「基金」と呼ぶ)が運用・管理しています。そのため、自分で運用方針を決めて金融商品を選ぶことができません。例えば、自分で積極的な資金運用をして受給額を増やすといったことはできません。
その分、基金では資金運用の専門部署や委員会、外部の専門家などを交えて、安全かつ効率的な運用を行うための体制を整えており、長期的な収益確保が期待できます。
毎月一定額しか受給できない
農業者年金は65歳を超えると、毎月一定の金額が入ってくるようになりますが、全額をまとめて受給することはできません。また、一部をまとめて受け取ることもできません。
受給金額は、受給開始(裁定請求を行なったとき)の年齢で変わります。例えば、65歳から受給開始する場合では、75歳から受給する場合と比べ、1回に受け取る年金額は少なくなります。
また、希望により65歳より前に繰り上げて受給することも可能ですが、その場合、60歳で男性は満額の約84%、女性は約86%に減額※されることになります。
※令和4年度の年金現価率で試算した場合
国民年金基金やiDeCoとは併用できない
農業者年金は、国民年金基金と個人型確定拠出年金(iDeCo)とは、重複して加入できませんので注意が必要です。
国民年金基金は、自営業やフリーランスの方向けに、年金を厚くして受給額を増やすことが目的の公的年金で、国民年金の第1号被保険者で20歳以上60歳未満の方が加入できます。農業者年金同様に終身年金で、掛金を運用する必要はありません。
iDeCoは、老後の資産形成を目的とした私的年金制度で、20歳以上65歳未満の方であれば加入できます。自分で掛金を運用し、掛金とその運用益の合計額を給付金として受け取るしくみです。
農業者年金、iDeCo、国民年金基金の3つの年金について、特徴をまとめました。自身の状況に応じて検討してみてください。
農業者年金、国民年金基金、iDeCoの違い
農業者年金 | 国民年金基金 | iDeCo(イデコ) | |
---|---|---|---|
種類 | 公的年金 | 公的年金 | 私的年金 |
方式 | 積立方式 | 積立方式 | 積立方式 |
掛金(月額) | 2万〜6万7千円 | 5千〜6万8千円 | 5千〜6万8千円 |
給付方法 | 終身年金 | 終身年金 | 有期年金 |
受給開始時期 | 原則65歳 | 原則65歳 | 60~65歳 |
資金運用 | 必要なし | 必要なし | 必要あり |
補助金 | 4千〜1万円 | なし | なし |
年金の併用 | 不可 | iDeCoと併用可 | 国民年金と併用可 |
※国民年金基金とiDeCoを併用する場合、掛金上限は6万8,000円
農業者年金は、少子高齢化の影響を受けない「積立方式・確定拠出型」のため、比較的安定した年金といえます。
また、農業者年金のほかにも国民年金基金、iDeCoに触れましたが、農業を営む方の将来の備えとして退職金代わりになる「小規模企業共済」もあります。内容を理解したうえで、自分に合った年金制度を選択しましょう。
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田中翔
かつて経営情報誌の取材ライターを経験し、ここ数年は求人・不動産・企業経営メディアをはじめ複数ジャンルでライティングを担当。最近は経営者のインタビュー記事や経済系メディアで時事的なテーマを取り上げながら、「書いて伝える充実感」を日々かみしめている。「食」を生み出す農業に、微力ながら書くことで少しでも貢献できれば、というのが現在の心境。