【2025年版】兼業農家も確定申告は必要? やり方は? 基本ルールと税負担を軽減するポイント

兼業農家は厳しい経営状況の中で、農業を続けていることが少なくありません。「経営が赤字だから申告は必要ない」と思っていても、確定申告を行うことで税負担が軽くなることがあります。どのような場合に確定申告を行うと得するのか、詳しくチェックしてみましょう。
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目次
サラリーマンとして働き、給与所得を得ながら、農業を営む兼業農家の場合、確定申告が必要かどうかは状況によって異なります。もし不要であっても、申告を行ったほうが得する場合もあります。本記事では、確定申告による兼業農家が得られるメリットについて、詳しく説明します。
※本記事は2025年4月現在、国税庁の「令和6年分の確定申告に関する手引き等」および「令和7年度税制改正大綱」を基本に、一般社団法人全国農業経営専門会計人協会など、農業財務の専門サイトへ掲載された情報を参照しながら執筆しております。詳細は、お近くの税務署や公認会計士、税理士にご確認ください。
兼業農家の確定申告! 農業所得が赤字でも確定申告は必要?

ururu/PIXTA(ピクスタ)
給与所得は、雇用側で年末調整を実施していれば、所得税などが精算されるので、確定申告を行う必要はありません。ただし、給与以外の所得を得ている場合、申告を求められることがあります。
「所得はいくらから」「どのような場合に」など、農業所得を得ている兼業農家が、行うべき確定申告の必要性を判断するポイントについて解説します。
農業所得が20万円以下であれば、確定申告は不要
サラリーマンとしての給与所得を得ている兼業農家で、農業所得が20万円を超える場合は、確定申告が必要です。正確には、「給与所得および退職所得以外の所得金額の合計額が20万円を超える人」とされています。給与所得と農業所得以外にも収入を得ている場合は、給与所得以外のすべての所得の合計額が20万円を超えていれば確定申告が必要です。
例えば、給与以外の収入が農業のみで、なおかつ農業の規模が小さく、年間所得が20万円に満たない場合の確定申告は不要となります。また、年金を受給している兼業農家であれば、年金収入が400万円以下、かつ農業所得が20万円以下であれば確定申告は原則不要です。
ただし、金額に関わらず、農業所得を得ている場合は、住民税の計算方法が変わります、そのため、市区町村の住民課には、農業所得を得ていることを必ず申告しましょう。また、年金を受給している兼業農家で農業所得が赤字であっても、確定申告を行うことで年金から天引きされた源泉税の還付を受けられるケースがあります。
収入・経費の考え方と、農業所得の計算方法
農業所得が20万円を超えているかどうかを判断するためには、所得を正確に計算しなければなりません。農業所得とは、1年間の農業による収入から、必要経費を差し引いた額のことで、以下の式で求められます。
【農業所得】=【農業における収入金額】-【農業における必要経費】
「農業における収入」は、農作物を出荷・販売した合計額である「販売額」だけではありません。
ほかにも、自宅で消費する「家事消費」や、その年の収穫のうち、次の年の作付けに使う種や種いもなどの「事業消費」、小作料や各種の補助金・助成金や共済受取金などの「雑収入」が含まれます。コロナ禍で支給された持続化給付金も、雑収入として計上されます。
「農業における経費」には、農業に関わる出費がすべて計上されます。例えば、農具や農薬、肥料の「購入費」、ビニールや土、紐などの「諸材料費」、農機やハウスの暖房などに使う「燃料費」、種子や苗を購入する「種苗費」など、さまざまな勘定科目があります。
なお、経費として計上できる出費の具体例については、以下の記事も参考にしてみてください。
確定申告で税負担が軽くなるかも。知っておきたい「損益通算」のしくみ
農業で赤字が出た場合でも、ほかの所得と赤字を通算することで、税負担を軽減できることがあります。これを「損益通算」といいます。
損益通算とは?
「損益通算」とは確定申告によって、農業所得が赤字だった場合に、その金額を給与所得などの黒字から差し引けるしくみのことです。損益通算には確定申告が欠かせないので、申告が不要な兼業農家でも赤字で申告を行いましょう。
給与所得から赤字を差し引くと、課税対象となる総所得額が下がるため税負担の軽減につながります。例えば、農業所得の赤字が給与所得の黒字を上回っていた場合、課税対象の所得合計は0円です。その結果、所得税が0円となり、税負担が軽減されます。しかし、住民税の均等割(原則5,000円だが自治体により異なる)は課税される可能性があります。
国民健康保険税の所得割も0円となる自治体が多いですが、均等割や平均割の扱いは市区町村ごとに異なるため、必ず最新の条例をご確認ください。
出典:国税庁「No.2250 損益通算」

jessie/PIXTA(ピクスタ)
損益通算できる、そのほかの所得
損益通算 | 所得の種類 |
---|---|
損益通算できる所得 | ・不動産所得 ・事業所得 ・譲渡所得 ・山林所得 |
損益通算できない所得 | ・雑所得 ・一時所得 など |
損益通算の対象として赤字を差し引ける所得は、土地や建物の貸付などによる「不動産所得」や各種事業の営みによる「事業所得」、不動産や株式などの資産の譲渡による「譲渡所得」、山林の譲渡による「山林所得」の4つに限られ、農業所得はこのうちの「事業所得」に該当します。
これらの中で、農業以外に赤字になっている所得があれば、それも合わせて損益通算できます。ただし、趣味や娯楽、保養目的の資産に関する赤字の場合など、損益通算が不可能な場合があるので注意しましょう。
また、これ以外の雑所得や一時所得などは、原則として赤字になっても損益通算はできません。
青色申告なら、繰越控除制度でより税負担を軽く

さんいんち / PIXTA(ピクスタ)
損益通算は、青色申告と白色申告のどちらでも可能です。ただし、青色申告で給与所得と農業所得を損益通算し、農業所得の赤字が大きく、解消されずに純損失(控除しきれない金額)が生じた場合、その損失額を翌年以降3年間に渡って、繰り越せる特典があります。
そのため、翌年の確定申告の際にも、前年分の赤字を損益通算できるのです。そのほかにも、多くのメリットがあるので、損益通算が可能な所得の赤字が大きい場合は、青色申告で行うほうがおすすめといえます。
一方、赤字が黒字よりも少なく、金額も大きくない場合は、青色申告で行う必要性は低いため、費用と効果のバランスを考えて、どちらで申告するか決めるとよいです。
初めて青色申告を行うには、管轄の税務署への「青色申告承認申請書」と「開業届」の事前提出が必須です。青色申告承認申請書には提出期限があり、確定申告対象年の3月15日まで(開業日が1月16日以降の場合は開業から2ヵ月以内)に提出しなければなりません。
その年は、青色申告に適した帳簿が欠かせないので、事前にしっかり準備をしましょう。なお、提出期限を過ぎてしまうと、自動的に白色申告になってしまいます。
白色申告と青色申告には、それぞれメリット、デメリットがあるため、事業の規模や作業内容に応じて適切な方法を選んでください。
【白色申告と青色申告の主なメリット・デメリット】
メリット | デメリット | |
---|---|---|
白色申告 | ・単式簿記で帳簿作成が可能 ・提出書類が比較的少ない | ・特別控除がない ・原則、赤字を翌年へ繰り越せない |
青色申告 | ・要件を満たせば最大65万円の特別控除 ・赤字を翌年以降3年間にわたり繰越可能 | ・原則、複式簿記による帳簿作成 ・決算書類の作成が必要 |
損益通算のやり方は? 兼業農家の確定申告手順
損益通算は、一定の方法に従って計算することが必要ですが、農業所得のみ赤字で計上するのであれば、それほど複雑ではありません。黒字の給与所得と、赤字の農業所得(事業所得)を得ている場合の申告の基本的な流れは、以下のとおりです。
- 収入・経費を整理
- 所得の種類ごとに所得金額を算出
- 確定申告書などの書類を作成
- 税務署に提出 or e-Taxで送信
ここからは上記の流れを基本に、確定申告のやり方を紹介します。
【1】所得の種類ごとに、所得金額を算出する

CORA / PIXTA(ピクスタ)
まずは、給与所得金額がわかる源泉徴収票と、農業所得金額がわかる帳簿類を用意し、正確な所得金額を確認します。所得は1年分の帳簿をもとに、収入と経費をそれぞれ合計し、収入から経費を差し引いて算出します。それぞれの金額や仕訳を、申告書に記入しましょう。
白色申告の場合、帳簿をつけることが必須ですが、単式簿記でもよいため、簿記の知識がなくても比較的簡単に申告できます。また、必要書類に関しても、決算に当たって作成した棚卸表のほか、請求書や納品書、領収書などをそろえれば、申告にそれほど時間もかかりません。
青色申告の場合、複式簿記による帳簿が必須で、仕訳帳や総勘定元帳、現金出納帳、売掛帳、買掛帳、経費帳、固定資産台帳などに細かく分けて記帳・保存します。
同じく必要書類も、決算にあたって損益計算書、貸借対照表、棚卸表などを提出するため、兼業農家が仕事の合間に作成することは、相当大変かもしれません。
しかし、操作しやすい無料の会計ソフトなどを、インターネットで入手し活用することで、帳簿の作成や申告の手続きが軽減されるでしょう。
【2】確定申告書に【1】の金額等を記載し、税務署へ提出する

プロモリンク / PIXTA(ピクスタ)
【1】で算出した所得を損益通算した結果、所得が黒字になる場合は「確定申告書」の第一表・第二表を使用します。
青色申告でなおかつ所得が赤字になる場合は、赤字分の「繰越控除制度」を適用するので、「申告書第四表(損失申告用)」を使用して、確定申告を行います。
また、給与所得以外の所得が農業所得のみの場合は、申告書第三表への記載は通常必要ありません。ただし、土地や建物の譲渡所得など、分離課税の対象となる所得がある場合は、第三表への記載が必要です。
確定申告が初めての場合は、直接税務署に行って申告を行うほうがよいですが、手続きに慣れてきたら、国税庁の公式サイトから必要書類をダウンロードし、自宅で印刷して記入後、郵送する方法に切り替えられます。
また、会計ソフトや国税庁が提供している電子申告システム「e-Tax」を活用して、申告を行う方法も便利です。
★確定申告はe-Tax(電子申告)の利用が便利でお得!

RichR / PIXTA(ピクスタ)
青色申告を行う場合、国税庁の公式サイトから、確定申告書を作成・送信するe-Taxを利用すると、青色申告特別控除額が最大の65万円になるメリットがあります。
e-Taxを利用しない場合でも、パソコン上などで作成した帳簿を電子保存すれば、同様に特別控除を受けられます。
2023年10月1日からは「適格請求書等保存方式(インボイス制度)」が始まり、請求書・領収書などの電子データ保存については、電子帳簿保存法に基づき、以下の2つの要件を満たしたシステムでの保存が義務付けられています。
- 真実性の確保(タイムスタンプの付与後の授受や訂正・削除履歴の確保、または事務処理規程の整備など)
- 可視性の確保(見読性や検索機能の確保など)
これらの要件を満たさない場合、その取引にかかる仕入税額控除が認められないことがあるため、保存システムの導入や運用ルールの見直しが必要です。
とはいえ、e-Taxのメリットは控除額が増えて、税負担の軽減につながるだけではありません。
農業簿記やe-Taxに対応した会計ソフトを活用すれば、確定申告の作業負担が大幅に軽減し、またインターネット上で申告を完結できるので、24時間いつでも好きな時間に行えます。
e-Taxを始める場合、マイナンバーカード方式では、マイナンバーカードやICカードリーダライタなどを入手しなければなりません。一方、ID・パスワード方式では、事前に税務署に行き、職員との対面で本人確認をした上で、ID・パスワードを発行します。
どちらにしても事前の準備は欠かせないですが、毎年行う青色申告の作業が軽減されるメリットは大きいため、積極的にe-Taxを活用してみましょう。
農業所得の確定申告がスムーズになる会計ソフトについて、詳しくは以下の記事も参考にしてみてください。
出典:国税庁「過去分のパンフレット・手引(所得税関係)」所収 「平成30年分 所得税の改正のあらまし(平成30年4月)」
出典:国税庁「No.2072 青色申告特別控除」
出典:国税庁「電子帳簿等保存制度特設サイト」
出典:国税庁「No.6498 適格請求書等保存方式(インボイス制度)」
兼業農家の確定申告は、年末調整における「扶養」の扱いに注意!
兼業農家が確定申告を行う場合に注意すべきケースは、税法上の控除対象配偶者や扶養親族がいる場合です。
兼業農家が確定申告を行う場合、青色申告・白色申告それぞれに、農業に従事した家族(事業専従者)へ支払った給与や、その一部を経費として取り扱える「青色事業専従者給与の特例」や「事業専従者控除の特例」があります。
家族への給与を経費に含められるため、所得を減らして税負担が軽くなる制度ですが、一方で、青色・白色ともに事業専従者は、控除対象配偶者や扶養親族にはなれない点に要注意です。会社の年末調整で扶養親族として申告できず、扶養控除を受けられないことも考えられます。
家族ぐるみで農業に従事し、給与も支払っている場合は、その金額に応じて、事業専従者として申告を行うのか、給与所得で扶養のまま継続するのかを検討しましょう。

sasaki106 / PIXTA(ピクスタ)
兼業農家にとって、本業の仕事を勤めながら農業も従事し、そのうえ、複雑な帳簿が必須な青色申告を行うことは、非常に大変だといえます。
しかし、青色申告を正しく行うことによって、大きなメリットを受けられるケースも十分あるため、農業経営の状況と給与所得、家族への給与支払額などを合わせて検討し、最も効率的な申告方法を選んで実行しましょう。
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大曾根三緒
ビジネス、ペット、美術関連など多分野の雑誌で編集者として携わる。 全国の農業協同組合の月刊誌で企画から取材執筆、校正まで携わり、農業経営にかかわるあらゆる記事を扱かった経験から、農業分野に詳しい。2019年からWebライターとして活動。経済、農業、教育分野からDIY、子育て情報など、さまざまなジャンルの記事を毎月10本以上執筆中。編集者として対象読者の異なるジャンルの記事を扱った経験を活かし、硬軟取り混ぜさまざまなタイプの記事を書き分けるのが得意。