春菊栽培の収益を高める秘訣|高単価を狙う出荷時期と品種選定
春菊は、初心者からベテラン農家まで取り組みやすい作物でありながら、収益性を最大化するには、出荷時期や消費者ニーズを踏まえた工夫が欠かせません。本記事では、大阪府や滋賀県、石川県などの先進事例をもとに、高収益を目指すための技術や地域に合わせた戦略を具体的に解説します。
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春菊は年間を通して需要がありますが、収益の向上をめざすなら、出荷時期や栽培品種をほかと競合しないようにするなどの戦略が必要です。本記事では、春菊の出荷量の基本情報や、出荷量を増やす産地の取り組みについて詳しく解説します。
春菊の旬と産地は? 出荷に関する基礎知識
たけけ / PIXTA(ピクスタ)
春菊で高収益を上げるには、単価の高い時期に出荷できる栽培体系を構築することが重要です。そこで、需要動向を知るために、年間を通した出荷量の推移や都道府県の出荷量ランキングを見ていきます。
春菊の出荷時期、ピークは12月
2022年における東京中央卸売市場の統計を参考にすると、春菊の出荷量は冬場が多く、12月の321tがピークです。一方、夏場は出荷量が減り、8月は27tとピーク時の1/10以下まで減少しています。
出典:東京都中央卸売市場「市場統計情報|品目別取扱実績(しゅんぎく)|2022年1月〜12月」よりminorasu編集部作成
また、春菊の平均価格(円/kg)を見ると、取扱量の多い冬場の12月や1月と、取扱量の少ない夏場の8月や9月で高くなっています。
出典:東京都中央卸売市場「市場統計情報|品目別取扱実績(しゅんぎく)|2022年1月〜12月」よりminorasu編集部作成
理由として、鍋物需要が高い冬場、入荷量の少ない夏場は需要が高まることが考えられます。
このことから、高収益を上げる出荷のポイントとして、単価が比較的高く収量も上がる12月に多量の出荷をめざすか、取扱量が減り単価が跳ね上がる8月の出荷を狙うとよいことがわかります。
春菊の出荷量日本一は大阪府!
次に、春菊の主な産地を見てみましょう。年によって多少前後しますが、直近のデータである2021年の春菊の出荷量を見ると、全国では22,400tにのぼり、出荷量のベスト5は次の府県です。
春菊 出荷量ランキング(2021年)
順位 | 都道府県 | 出荷量 |
---|---|---|
1 | 大阪府 | 3,220t |
2 | 千葉県 | 2,380t |
3 | 福岡県 | 2,140t |
4 | 茨城県 | 1,930t |
5 | 群馬県 | 1,830t |
その他 | 10,900t | |
合計 | 22,400t |
出典:農林水産省「作物統計調査|作況調査(野菜)|確報|令和3年産野菜生産出荷統計」
この5府県は毎年出荷量で上位に入る春菊の主要産地です。2021年のデータでは、上位5府県だけで全国出荷量の5割以上を占めます。
春菊は比較的冷涼な気候を好みますが、寒害や冷害には弱いため、需要の高い冬場には、関東以西の温暖な地域で栽培されることが多くなっています。
また、高温に弱いため、夏場は宮城県、岩手県、青森県などの東北や、産地によっては高温対策を施して温暖な場所でも栽培されます。
春菊の収穫・出荷方法と、一般的な出荷規格
春菊には大きく分けて「大葉」「中葉」「小葉」の3つの種類があります。大葉タイプは主に四国や九州地方で、中葉タイプは全国で流通しています。
中葉タイプのは、株ごと抜き取って収穫する「株張り型」と、株立ちしてよく側枝が伸び、摘み取って長く収穫する「株立ち型(摘み取り型)」があります。
春菊の種類
株たち中葉 | 被張り中葉 | 大葉 | |
---|---|---|---|
摘み取り | ◯ | △ | △ |
抜き取り | △ | ◯ | ◯ |
出回り市場 | 関東に多い | 関西に多い | 中国・九州地方に多い |
代表的な品種 | さとゆたか おきく3号 など | 冬の精 大阪中葉 など | 大葉中葉 おたふく春菊 など |
出典:以下資料よりminorasu編集部まとめ
独立行政法人 農畜産業振興機構「野菜ブック」所収「(12)しゅんぎく」
福岡県「福岡県野菜主要栽培品種一覧表」所収「Ⅰ 品種・作型」
広島県「旬の野菜|広島県産 春菊」
PHOTO NAOKI / PIXTA(ピクスタ)・YUMIK / PIXTA(ピクスタ)
株張り型の収穫は、本葉が7~8枚程度で草丈は20cmほどになったら、根をつけたまま収穫した後、株元を切ります。
株立ち型の収穫は、本葉が10枚ほどに育ったら下葉を3~4枚残して、上の葉をハサミで摘み取ります。そこから脇芽が出たら、下葉を2枚残して脇芽をハサミで摘み取ります。
春菊の収穫後は、余分な葉、傷んだ葉、変色した葉などを取り除き、長さをそろえて決められた重量を袋に詰める、調整作業を行います。
出荷規格は地域によって異なりますが、1袋でおおよそ150~200gの間で定められるケースが多いようです。
春菊の産地に学ぶ! 出荷量を増やす取り組み事例
春菊の生産地のうち、出荷量を増やすための取り組みを行っている地域の事例を4つ紹介します。
1. 高温期での栽培方法を工夫して周年出荷 (大阪府)
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冬の鍋の材料として人気の高い春菊ですが、サラダに使われることもあり、夏場でも需要はあります。しかし、もともとは冷涼な気候を好む作物であるため、高温期は発芽や生育が劣り収量が減少します。
そんな中、春菊の生産量が多い大阪府では、夏場も春菊を栽培する体制を整えたことにより、安定して周年出荷しています。
大阪府では、高温期に春菊を栽培するコツとして、以下のような点を挙げています。
- 堆肥を投入し土作りをしっかり行い、客土をして排水性を高める
- 夏場は心枯れ症状や軟弱徒長が増えるため、窒素過多にならないよう施肥を控える
- 灌水管理のポイント
- 播種前後:しっかり灌水させて発芽させる
- 発芽後:水を切って根を張らせること
- 根が張った後:株の様子を見ながら控えめに灌水する
- 灌水の時間帯:灌水は夜までに葉に付いた水滴が乾くよう夕方の時間帯に行う
- 地温の上昇を防ぎ、かつ生育を抑制しないため、遮光率が60%ほどの遮光資材を使う
- 耐暑性のある品種を選ぶ(大阪では「さとにしき」「夏の精」など)
- 播種量をほかの時期より多くする
出典:大阪府「普及だより」所収「普及だより84号」
また、農研機構の進める夏播き春菊の生産安定技術では、遮光には遮光率22%ほどの白い寒冷紗が適しているとしており、おすすめの品種には株立ち型の「きわめ中葉」「おやさと株張り中葉」を挙げています。
出典:農研機構「夏まきシュンギクの生産安定技術」
2. 仕立て法と栽植密度の改善で、収穫・調製作業を省力化 (福島県)
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主要産地の1つである福島県では、株立ち型の春菊について、栽培作業の中でも多くの時間と労力がかかる収穫・調製作業を省力化する栽培技術を開発し、普及しています。
株立ち型の春菊の収穫は、色味の同じ葉の中から収穫に適した脇芽を見つけて適切な位置で摘み取るため、機械では判別が難しく、作業の機械化は進んでいません。そのため、収穫時期には、1日に何時間も中腰で作業を続ける必要があり、省力化が課題です。
その解決策となるのが、仕立て法と栽植密度を改善する方法です。具体的には、栽植密度を20cm×20cmの粗植えにして、収穫では、側枝を常に4本だけ残す「4本仕立て」で収穫していきます。
4本仕立てによる収穫の流れは以下のようになります。
- はじめは慣行栽培と同様に主枝を1本収穫して4葉残す
- 脇芽が出てきたら、一次側枝が等間隔で4葉残るように収穫(2本の側枝に2葉ずつ残す)
- 二次側枝も4葉残るように収穫
- その後も4葉に制限しながら収穫を繰り返す
こうすることで、従来の収穫方法と比べて、収穫後半に側枝が増えすぎて細くなることを防ぎ、安定したサイズで収穫を続けられます。
また、収穫する側枝の本数が減ることで、収穫にかかる時間やそれを詰める調整作業の時間も減り、収穫~袋詰め作業を従来の約70%に省力化できるとしています。
出典:福島県「平成10年度から平成17年度の成果」所収「シュンギクの仕立て法と栽植密度の改善による省力高品質生産技術」
3. 消費者ニーズに合わせた出荷規格へ変更 (滋賀県)
beauty-box / PIXTA(ピクスタ)
滋賀県野洲市吉川野菜生産出荷組合では、春菊の出荷規格を150gから75gに変更することで、消費者ニーズに合致した出荷体系へのシフトに取り組んでいます。
同組合は以前から春菊を栽培しており、全盛期の1990年頃には販売金額が2億6,000万円あったものの、現在ではその1割にも満たない2,300万円に減少しています。そこで、春菊の出荷量回復をめざし、出荷体系の大幅な変更を組合に提案しました。
具体的には、近年需要が増えている「食べきりサイズ」に袋詰めして出荷することで、市場での有利販売を狙うという提案です。従来は1パック150gで出荷していましたが、「食べきりサイズ」はその半量である75gで詰めます。
組合員からは「半量に詰めると手間がこれまでの倍かかり、品種も選び直さなければならないし、そこまでしても有利販売される保証もない」など消極的な意見が多数上がりました。
そこで、まずは組合長が試作して最終調整まで実践しながら、春菊の生産量の回復には改革が必要であることを組合員に根気よく説得し続けたところ、ようやく現場が動きはじめ、出荷形態の変更が実現したそうです。
出典:滋賀県
「大津・南部の普及現地情報」所収「令和3年度~野洲市吉川野菜生産出荷組合のシュンギクの出荷形態を変える」
「大津・南部地域普及活動実績集(令和3年度)」所収「競争力のある担い手の育成 」
4. 栽培管理が難しい“大葉種”でブランド化 (石川県)
Mayuko / PIXTA(ピクスタ)
石川県金沢市では、地域の気候や風土を活かした地域独自の伝統野菜を「加賀野菜」として生産しています。
加賀野菜は1945年以前から栽培され、現在も主として金沢で栽培されている野菜の生産体制を整え、1997年以降、「加賀れんこん」「源助だいこん」「金沢一本太ねぎ」などの野菜を次々にブランド化しています。
その1つに「金沢春菊」があります。別名「ツマジロ」と呼ばれ、1670年頃から石川県で栽培されていたとされる大葉種です。現在主流となっている中葉の春菊に比べて、クセのない独特の香りや柔らかさに優れ、利用範囲も広いのが魅力です。
現在でも市内の三馬地区などで、春作のトンネル栽培や一部ハウスでの栽培が受け継がれています。
大葉種は、中葉種に比べると耐病性が低く栽培管理が難しいことや、中葉種ほど収益性が高くないことから、全国的に生産量が大幅に減っています。
その希少性や品質の高さを付加価値として2003年にブランド化した金沢春菊は、着実に売上を伸ばし、ブランド化以降、2021年までに生産農家戸数は10倍、栽培面積は2.4倍、出荷量は約3.9倍に増加しています。
出典:金沢市「みんなで学ぼう!加賀野菜」ダウンロードページ」所収「データでみる金沢の農業と加賀野菜」
Caito / PIXTA(ピクスタ)
春菊は、ほうれん草や小松菜ほどポピュラーな軟弱野菜ではないものの、鍋需要の増える冬場を中心に年間を通して需要があり、収穫期間が長いため収益性の高い作物です。
需要に合わせて出荷時期を調整したり、消費者や実需者のニーズに合わせて出荷体制を改善したり、産地の特性を活かしてほかの産地と差別化することで、付加価値を付けて収益を増やしましょう。
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大曾根三緒
ビジネス、ペット、美術関連など多分野の雑誌で編集者として携わる。 全国の農業協同組合の月刊誌で企画から取材執筆、校正まで携わり、農業経営にかかわるあらゆる記事を扱かった経験から、農業分野に詳しい。2019年からWebライターとして活動。経済、農業、教育分野からDIY、子育て情報など、さまざまなジャンルの記事を毎月10本以上執筆中。編集者として対象読者の異なるジャンルの記事を扱った経験を活かし、硬軟取り混ぜさまざまなタイプの記事を書き分けるのが得意。