
熊本県の中央に広がる上益城郡。この地で農業を支えるJAかみましきは、法人経営と個人経営が共存できる独自の仕組みを築き、持続可能な農業の実現に取り組んでいます。さらに、最先端のスマート農業を導入し、生産性の向上と次世代農業の発展を目指しています。
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目次
後編となる今回は、JAかみましきのスマート農業への取り組みを深掘り。組合長の田原要一さんと営農販売部課長の竹田健二さんにインタビューし、上益城の農業の未来について伺いました。
恵まれた土地と水が育む、上益城の農業

▲左から田原組合長、竹田課長
──上益城の農業は、どのような特徴を持っているのでしょうか?
田原組合長:益城は水が豊富な地域で、天然のプールがあるほど良質な伏流水が流れています。そのため、上流域では米の生産が盛んです。一方で、海に向かうにつれて土壌が粘土質から砂地へと変化し、この特性を活かして麦の生産も行っています。
──作物の栽培に適した環境が整っているのですね。農業の基盤も整備されているのでしょうか?
田原組合長: JAかみましきには大規模なカントリーエレベーターがあり、収穫後の処理を一貫して行える体制が整っています。この設備があることで、品質の安定化や効率的な出荷が可能になり、農家の負担軽減にもつながっています。

▲JAかみましきのカントリーエレベーター
地域が一丸に!上益城の農業はみんなで支える
──JAかみましきでは、作付けの品種を統一していると聞きました。なぜそのような取り組みを?
田原組合長:地域全体で収量を安定させるためです。米は「くまさんの輝き」、麦は「ミナミノカオリ」、大豆は「フクユタカ」といった品種を統一して作付けしています。また、種まきや収穫のタイミングも、JA・町・県が一体となって話し合い、決めています。
──農家ごとにバラバラに動くのではなく、地域全体で足並みをそろえているのですね。
田原組合長:ええ。上益城では昔から、作物のローテーションを地域のみんなで話し合い、決めてきたという風土があります。この文化が根付いているからこそ、統一的な営農が可能になっているのです。
──そうした話し合いの文化は、農家同士の情報共有にもつながっているのでしょうか?
竹田課長:そうですね。JAかみましきには青壮年部という若手農業者の組織があり、農業のノウハウや最新技術を互いに教え合う文化が根付いています。特に、農業を継いだばかりの人や、他業種から転身した若手農家にとっては、経験豊富な先輩農家から学べる貴重な場となっています。
──若手とベテランが交流しながら農業を学んでいけるのですね。
竹田課長:はい。最近は機械の発達によって、高齢者の方も機械に乗れるうちは農業を続けられるようになりました。その結果、世代交代のタイミングが遅れ、技術の伝承がスムーズに進みにくくなっています。だからこそ、青壮年部のような組織が重要な役割を果たしています。若手農家同士がつながり、知識や技術を共有することで、地域全体の農業経営の発展につながっているのです。

▲上益城の特徴を語る田原組合長
法人と個人が共存する、上益城ならではの農業経営
──上益城では、法人と個人経営がうまく共存していると聞きました。具体的にはどのような形ですか?
田原組合長:「かしま広域農場」という法人があり、高齢農家が管理しきれなくなった農地を法人が受け持っています。そのため、農地の引き継ぎ問題が起こらず、地域全体で無理なく農業を続けられています。
──法人が土地を管理することで、スムーズな世代交代が可能になっているのですね。
田原組合長:そうですね。また、個人で農業に取り組む認定農家の中には、法人のメンバーとして活動している人もいます。個人経営と法人経営が対立するのではなく、互いに補完し合いながら農業を続けられるのが上益城の特徴です。
──法人と個人経営が共存しているのは、全国的に見ても珍しい形ではないでしょうか?
田原組合長:確かに、一般的には個人経営と法人は分かれていることが多いですね。しかし、上益城ではもともと「地域のみんなで協力しながら農業を進める」という文化が根付いていました。法人が誕生する前から、地域全体でブロックローテーションを実現するなど、共同で農業を進める仕組みを作ってきた歴史があります。その土壌があったからこそ、法人と個人が対立せずに共存できるのだと思います。
──ブロックローテーションとはどのような仕組みですか?
田原組合長:簡単に言えば、米・麦・大豆をエリアごとに分けてローテーションで栽培する仕組みです。これによって、土地の生産力を維持しながら効率的に作付けができます。このシステムを導入する際も、地域全体で話し合いを重ねながら進めてきました。つまり、法人化の前から「みんなで農業を支える」という意識があったのです。
──もともと話し合いを大切にしていたからこそ、法人ができても対立せず、協力しながら農業を続けられるわけですね。

▲収穫前の麦が広がるほ場
スマート農業で進化する営農スタイル
──JAかみましきでは、スマート農業も取り入れているとのことですが、どのような技術が導入されていますか?
田原組合長:例えば、ドローンを使った防除作業ですね。JAや法人が取りまとめて、専門業者に委託することで効率的に農薬散布を行っています。また、「ザルビオ」を使い、衛星画像で作物の生育状況を確認しながら適切な施肥や防除を行っています。これによって、ほ場ごとに最適な管理ができるようになりました。

▲ザルビオを使用する上益城の若手農家
──農業のデジタル化が進んでいるのですね。他にも新しい技術はありますか?
竹田課長:現在、集出荷管理システムの導入を進めているところです。スマホから出荷情報を登録できるようになれば、紙の伝票を使わずにスムーズな物流が実現できます。これまで手作業で行っていた処理も迅速化され、農家の負担を大きく軽減できると期待しています。
──現場での指導や管理にも、スマート農業の技術が活用されているのでしょうか?
竹田課長:はい、営農指導の現場では、農地の状況をデータとして記録し、指導員同士で共有できるシステムの導入を進めています。例えば、ほ場の病害虫の発生状況を写真付きで記録し、蓄積したデータを活用することで、過去の事例と比較しながら適切な対策を提案できるようになります。しかし、現時点ではまだ十分に使いこなせているとは言えません。これからさらに活用を進め、指導員が変わってもほ場の情報を一元管理し、農家への指導をよりスムーズにしていきたいと考えています。
──個々の農家だけでなく、JAの指導の現場でもデジタル技術が活用されているのですね。
竹田課長:ええ。スマート農業の技術を活用することで、農業の効率化だけでなく、知識や経験の継承もよりスムーズになります。今後も、新しい技術を積極的に取り入れながら、地域全体の農業の発展を支えていきたいですね。

▲上益城のスマート農業を語る竹田課長
ザルビオを活かす学びの場
──新しい技術が導入されると、農家の方が使いこなすのも大変ではないですか?
竹田課長:そうなんです。技術が進歩しても、それを現場で活用できなければ意味がありません。そのため、JAではスマート農業の勉強会を開いています。
──具体的に、どのような勉強会を開いているのですか?
竹田課長:最近では「ザルビオ」の活用方法について勉強会を開きました。農家の多くは可変施肥の機能しか知らなかったのですが、実は衛星画像を使って生育状況を細かく分析できることを学び、新たな活用の可能性に気づいてくれました。
──技術を導入するだけでなく、使いこなすための学びの場も大切なのですね。
竹田課長:その通りです。農業のデジタル化を進めるには、現場と技術の間のギャップを埋めることが不可欠です。

▲ほ場でザルビオを使用する若手農家
上益城の農業の未来とは?
──今後、上益城エリアの農業はどのように発展していくと考えていますか?
田原組合長:世代交代の時期が迫っており、今後10〜15年で農業の担い手が大きく変わるでしょう。これまで農業を続けてきた高齢の方々が引退し、その土地を若手が引き継ぐことで、大規模化が進んでいくと思います。しかし、急激な規模拡大は農家にとって大きな負担になります。そこで、スマート農業を活用し、労力を減らしながら効率よく経営できる仕組みを作ることが重要になってきます。
──具体的には、どのようにスマート農業を活用していくのでしょうか?
田原組合長:例えば、ドローンを使った防除や、自動操縦のトラクターなどを活用すれば、大規模化しても人手の負担を最小限に抑えることができます。また、ザルビオのようなデータを活用した農業管理システムを使えば、ほ場ごとの最適な施肥や防除を数値で判断できるようになります。これまでJAの営農指導は、経験則や勘に頼る部分が多かったのですが、これからはデータをもとに誰でもわかる形で指導していくことが求められています。
──営農指導の方法も変わっていくということですね。
田原組合長:そうです。以前は「この時期ならこれくらいの肥料を撒いたほうがいい」「この天候ならこのタイミングで収穫したほうがいい」といった経験に基づく指導が主流でした。しかし、今後はデータを活用し、数値に基づいた営農支援を行うことで、若手農業者も納得しやすくなりますし、誰が指導してもブレがなくなると考えています。
──スマート農業が、これからの上益城の農業をさらに発展させていきそうですね。
田原組合長:はい。青壮年部の若手農業者たちは、スマート農業を積極的に活用しながら、これからの上益城の農業を支えていく存在になります。彼らが最新の技術を駆使し、生産効率を高めていくことで、地域全体の農業がさらに発展していくと期待しています。
──本日は貴重なお話をありがとうございました!

▲上益城の未来を語る田原組合長と竹田課長
上益城の農業は、地域ぐるみの営農とスマート農業の導入によって、持続可能な未来を築こうとしています。長年培われた話し合いの文化と、新たな技術の融合が、これからの農業の発展を支えていくでしょう。これからの上益城の挑戦に、ますます目が離せません!
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