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ダイレクトマーケティングで年商1.4億円を実現した富良野のメロン農家【前編】直売と通販で年商23倍へ
出典 : 寺坂農園HP社長ごあいさつページ
  • 農業経営

ダイレクトマーケティングで年商1.4億円を実現した富良野のメロン農家【前編】直売と通販で年商23倍へ

規模の拡大をせず、「稼げる農家」を実現した北海道・富良野市の寺坂農園。「自分で売ることができないものは作らない」「自分で値段の決められないものは作らない」というポリシーのもと、直販メロン農家として年商1.4億円を実現しました。その歩みをご紹介します。

寺坂祐一さんプロフィール

寺坂農園は、大雪山系を望む富良野盆地のほぼ中央にある

寺坂農園は、大雪山系を望む富良野盆地のほぼ中央にある
出典:寺坂農園Facebookページ2020年4月30日より

寺坂農園株式会社 代表取締役 寺坂祐一(てらさかゆういち)さん

1972年12月19日北海道空知郡中富良野町生まれ。富良野農業高校を卒業後、農業特別専攻科に2年通って家業の農家を継ぐ。

年商600万円、借金1400万円という貧乏生活からの脱却を目指してメロン栽培に進出。周囲の反対を押し切って直売所をオープン。

31歳のとき、コンビニで偶然手に取った本でダイレクトマーケティングを知り、事業改革を始めて急成長を遂げる。著書は『直販・通販で稼ぐ!年商1億円農家』『農家はつらいよ――零細メロン農家・年商1億までの奮闘記』(同文舘出版)。

家族は妻(専務)と1男1女。

貧乏農家を継いでメロン栽培を開始

寺坂農園の大人気商品「富良野メロン」

寺坂農園の大人気商品「富良野メロン」
出典:寺坂農園Facebook 2016年8月14日より

現在、寺坂祐一さんの2冊目の著書『農家はつらいよ――零細メロン農家・年商1億までの奮闘記』が大ヒット中です。470ページにもおよぶ本作は、発売前からアマゾンの農林水産カテゴリーで1位を獲得するなど人気沸騰。同時に、2015年に出版した1冊目の著書『直販・通販で稼ぐ!年商1億円農家』も同カテゴリーで2位にランクインしました。

寺坂 今回の本ですが、本当は600ページ分の原稿を書いたんですよ。編集の人から「多すぎる!」と言われて泣く泣く130ページほどカットしました。
でも、読んだみなさんから「おもしろかったよ」とか「よくここまで赤裸々に書けたね」とのお褒めの言葉をいただき、励みになっています。

そんな寺坂さんですが、もちろん最初から右肩上がりの成長を遂げてきたわけではありません。現在は「通販で一番メロンを売っている農家」として知られていますが、そのメロン栽培も、寺坂さんが跡継ぎとして農業の世界に入ってから始めたものです。

寺坂 私が跡を継ぐ前のわが家は、4.5ha(ヘクタール)の農地で米、にんじん 、アスパラガス、豆などを栽培する、ごく普通の兼業農家でした。兼業農家なのに跡を継ごうという私に危ういものを感じたのか、高校の専攻科の先生が「メロンを作ってみないか」とアドバイスしてくれたんです。それがメロン栽培を始めるきっかけでした。家族の反対とかがあって、なかなか大変だったんですけどね。

寺坂さんが跡を継いだ当時、寺坂家の状況は年商600万円で借金1,400万円という厳しい状況でした。これほど収入が少なくこれだけの借金を抱えているということを、寺坂さんは跡を継ぐことになってから知らされたといいます。

寺坂 もともと3.7haだった農地を、私が跡を継ぐということで買い足した分の借金に、農機具購入の資金や生活費の補填などで大きな借金ができていました。それを知ったときは、愕然としましたよ。

赤字の農家を黒字にする方法としては、規模の拡大が一般的です。農地を拡大して機械化・省力化し、コストを下げながら売上げを伸ばしていく方法です。しかし寺坂さんはその道をあえて選ばず、専業化と直販化による売上げの拡大を目指しました。

寺坂 普通は規模の拡大を選ぶと思うんですよね。そのほうが男らしくてカッコいいし。

でも私はそれまでに、貧乏から抜け出そうと規模を拡大する農家をたくさん見てきました。そこでよくある例が、土地を買う、農地が広くなったので機械を買うという資金を投入し続けるループにはまりこんでしまうことです。借金地獄のスパイラルですね。

うちはすでに借金があったので、下手 をするとそこにはまりこんでしまう恐れがありました。なので、その道は選ばず、専業化を選んだわけです。農地はむしろ縮小して、3.3haにしました。

自分で売ることのできない農産物は作らない

メロン育苗ハウスで発芽した『ルピアレッド』の苗

メロン育苗ハウスで発芽した『ルピアレッド』の苗
出典:感動野菜産直農家寺坂農園ブログ

メロン専業農家への道を歩む途中で、寺坂さんは代々受け継いできた水稲栽培をやめてしまいます。また、メロン栽培の裏作として数年間取り組んできたイチゴ栽培も、やめるという決断をしました。それには大きな葛藤と周囲からの抵抗がありました。

寺坂 米作りはコストが合わないからやめようと思ったのですが、まわりの農家からは怒られましたね。「この地域から出ていけ!」と怒鳴られたりしました。やっぱり米作りは農家のプライドですから。

イチゴ栽培のほうは、夏はメロンで稼いで、秋にイチゴで稼ぐという形を目指して始めました。収穫期が完全にメロンの裏になるので、理想的な作物だと考えたのです。しかし、販売先が商社だったので、自分で価格のコントロールができないという壁にぶつかりました。

メロンは直売所の売上が伸びていくのに、イチゴはいくらやっても収支が改善しません。結局、7年間がんばりましたが、イチゴ栽培はやめることにしました。このときも、一緒にやってきた農家から猛烈に怒られましたね。

それほどの抵抗があっても突破するつもりの決断でしたから、その後は「自分で価格の決められないものは作らない」「自分で売ることのできないものは作らない」というポリシーを強烈に打ち立てました。

遠くからでもメロンを売っていることがわかる寺坂農園の直売所

遠くからでもメロンを売っていることがわかる寺坂農園の直売所
出典:寺坂農園Facebook 2016年9月10日より

今でこそ富良野名物となっている寺坂農園のメロン直売所ですが、スタートは窮余の一策として始めたものでした。絶対に成功するという確信があったわけでもなく、あまり予算もかけられない中、 手探りでの出発でした。

寺坂 メロン直売所は26歳のときにスタートしましたから、今から21年前のことです。メロン栽培を始めて10年近くたち、それなりに作れるようになっていたんですが、その年にメロンの価格が暴落してしまい、窮余の一策として始めました。

直売所は親戚の土地を借りて作ったのですが、30万円くらいしか予算がかけられなかったので、ほとんど手作りでした。カーブの内側という目立たない場所だったので、着ぐるみや巨大なのぼり旗を作りました。

やむにやまれず始めたメロン直売所でしたが、次第に右肩上がりの成長を遂げていきます。その要因は、メロンの高い品質と、とにかくお客さまを大切にしようという寺坂さんの情熱でした。

寺坂 とにかく買ってくれたお客さまにリピーターになってもらおうと、買ってくれたその日のうちに富良野の絵葉書に手書きでメッセージを書いて出していました。通販のお客さまになってもらいたくて、ホームページビルダーでサイトも立ち上げました。

そのうち年間売上が3,000万円を超えるようになりましたが、実は農家はそのくらいの規模が一番金銭的に苦しいんです。やることがいっぱいあって。

特に寺坂農園の場合は、ふつうの農家と比べて仕事が3倍あります。通常の農作業のほかに直売所の管理と通販の仕事。そして、畑に入る人たちの雇用管理もしなければなりません。過労で赤い小水が出て、いつも口の中は血の味がしていました。

ダイレクトマーケティングとの出会い

メロンのビニールハウス内でトラクター作業をする寺坂さん

メロンのビニールハウス内でトラクター作業をする寺坂さん
出典:寺坂農園Facebook 2017年4月2日より

毎日が茨の道だった寺坂さんを救ったのは、偶然コンビニで手に取った1冊の本でした。その内容にショックを受け、繰り返し読むうちに、寺坂さんの経営姿勢ががらりと変わっていきます。ここから寺坂農園の快進撃が始まりました。

寺坂 私が偶然出会ったのは、『図解[非常識に儲ける 人々]が実践する成功ノート』(神田昌典・監修/起業家大学・著/三笠書房)という本です。仕事に疲れて缶コーヒーでも飲もうとコンビニに行って、そこで見つけました。バラバラっと立ち読みするうちに、「これは買って読まなければならない」と強く思ったんです。

帰ってから朝の3時までに、夢中で2回読みました。体は疲れてフラフラなのに、アドレナリンが出っぱなしでした。この本から学んだポイントは、「世の中には仕組みがある」ということと、「人の心は解明されている」ということの2点です。心の目がくわっと開いた感じでした。

本を読んでから、まず寺坂さんはお客さま向けの新聞を手作りで発行し始めました。お客さまとのコミュニケーションが苦手で、文章も得意でなかった寺坂さんですが、お客さまとの特別な関係を築くことの大切さをこの本で学んだからこその実践でした。

寺坂 最初にやったのは、「手作り新聞」を入れたニュースレターの発行です。それまでは文章を書くのが苦手で、お詫びの手紙もろくに書けなかったのですが、必死で情報発信を始めました。それでお客さまと良好な人間関係が作れるようになり、クレームの件数やクレームの内容ががらっと変わりました。

私がそこまで変わることができたのは、タイミングがよかったこともあると思います。当時、メロン直売所を始めて5、6年たっていましたから、この本に書いてあることがよく響いたんです。本の中に「砂時計の中の砂=一般大衆」と「砂時計をひっくり返す人=成功者」という例えがありましたが、これを見て「絶対に砂時計から出てやる!」と思いました。

「お客さまに寄り添う」姿勢

寺坂農園のDMは年に3回、平均1万通ずつ郵送している

DMは年に3回、平均1万通ずつ郵送している
出典:寺坂農園 Facebook 2015年3月7日より

ニュースレターの発行を始めてから、寺坂農園へのお客さまからのクレームは激減しました。それまでは寺坂農園と対決する雰囲気にあったお客さまの立場が、応援してくれる立場に変わったからです。それには、寺坂さんのクレーム対応ポリシーも大きく関係していました。

寺坂 私のクレーム対応のポリシーは、「お客さまの心がどうすれば癒やされるか」に尽きます。お客さまと対立して向き合うのではなく、お客さまの横に私たちがすっと入っていく。お客さまに寄り添ってカウンセリングする感じです。

ニュースレターの発行頻度は春夏秋の年3回で、平均1万通ずつ出しています。累計4万の顧客リストの中から、直近2年間でアクションのあったお客さまを選んで発送します。手作り新聞と私の手紙を同封するのですが、手作り新聞にはSNSのQRコードをつけてスマホでつながってもらえるようにしています。

送ったDMのうち、過去最大の成績を叩き出したのは、2014年の「メロンととうもろこしのご案内」で、成約率が23.4%という驚異的な数字でした。

ニュースレターやホームページだけでなく、寺坂農園はSNSの発信も熱心にやっています。農作業と通販の仕事で目が回るほど忙しいはずですが、寺坂さんがご自身で書く文章は更新頻度が高いだけでなく、中身も濃密。なぜ、そこまでできるのでしょうか。

寺坂 SNSは、Facebook、LINE、YouTubeでの発信を心がけています。お客さまと「ゆるくつながる」のが狙いですね。この毎日の情報発信は、思いがけず人材採用にも役立っています。私たちの実状をよく理解してから応募してくれるので、ミスマッチが少なくなるからです。

おかげで私はお客さまのことを何も知らないのに、お客さまの側は私のことをよく知っているという状況になっています。そんなお客さまが日本全国に1万人いるわけです。

寺坂さんの波瀾万丈の半生記から見ると、ここで紹介したのはごく一部です。興味を持たれたら、ぜひ2冊の著書や、ホームページ、SNSなどをご覧ください。

寺坂農園ホームページ:
https://furano-melon.jp/

寺坂農園公式ブログ:
https://furano-melon.jp/official-blog/

寺坂農園Facebook:
https://www.facebook.com/terasaka.nouen/

寺坂農園Youtube:
https://www.youtube.com/c/寺坂農園/videos

寺坂さんの成功の秘訣は「お客さまに幸せを届けたい」という純粋な思いから作物を育て、その思いをぶらさずに届け続けてきた行動にこそありま す。テクニックを学ぶことも大切ですが 、まずその心がけを参考にしてみてはいかがでしょうか。

【後編に続く】「壁を越える秘訣は経営者の成長」

山崎 修

山崎 修

学習院大学理学部化学科卒、平凡社雑誌部勤務を経て独立し、現在は書籍・雑誌編集者、取材ライター。主戦場は書籍のゴーストライティングで常時5、6冊の仕事を抱えており、制作に関与した書籍・雑誌は合計で500冊を超える。ほかにもメルマガの書評連載から講演活動、1人出版社としての活動まで守備範囲は広い。

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