食料自給率とは? 計算方法や日本の状況などについて解説
世界的に最低水準と言われる日本の食料自給率は、国がさまざまな対策を行っているにもかかわらず低迷を続けており、現状では不測の事態で輸入が制限された場合、ただちに食料不足になるリスクが懸念されます。食料自給率向上に向け、国産農産物の生産量・消費量の拡大や食品ロスの軽減など、生産者と消費者が一体となった取り組みが大切です。
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日本の食料自給率は、世界的に見ても最低水準であることを知っている人は多いでしょう。
とはいえ、実際にどのような定義でどう計算されているのか、どれくらい低いのか、低いとどのような問題があるのかについてはなかなか知る機会がありません。
また、食料自給率の対策としては、食品ロスの低減など消費者側の対策が注目されることが多く、生産者である農家にとっては意識しにくいかもしれません。
しかし、不測の事態で輸入が制限された際のリスクを考えると、生産者も消費者も一体になって、食料自給率の意味することを正確に知り、安定した食料の確保に向けた対策に向き合っていくことが大切です。
食料自給率とは
skipinof / PIXTA(ピクスタ)
食料自給率とは、国内で供給された食料全体のうち、国内で生産されたものの占める割合を指す指標です。例えば、食料自給率が30%ならば、国内で消費されている食料のうち、70%は輸入に頼っていることになります。食料自給率は算出の方法によって、「品目別自給率」と「総合食料自給率」に大別されます。
さらに総合食料自給率は、供給される熱量(カロリー)を単位として算出する「カロリーベース」と、生産される金額を単位として算出する「生産額ベース」の2種類に分けられます。
農林水産省の調べでは、2018年度(平成30年度)の食料自給率はカロリーベースで37%、生産額ベースで66%となっており、過去最低を更新しています。
出典:農林水産省「知ってる?日本の食料事情~食料自給率とは」
食料自給率の計算方法
食料自給率は何をベースに計算するかによって数値が異なります。そこで、品目別自給率と、総合食料自給率の違いやそれぞれの意味、算出方法を紹介します。
品目別自給率(重量ベース)
品目別自給率は、食料の品目ごとに生産物の重量をベースにして算出される自給率です。カロリーベース、生産額ベースに対して「重量ベース」とも呼ばれます。農産物は重さで管理されることが多いので、計算しやすい方法といえます。
計算式は「品目別自給率=食料の国内生産量÷食料の国内消費仕向量×100」で表されます。
なお、国内消費仕向量とは、国内で消費に回された食料の量(国内市場に出回った食料の量)を表し、品目ごとに「国内生産量+輸入量-輸出量-在庫分の増加量(または+在庫分の減少量)」で算出されます。
重量をベースにした計算は、個別の品目や品目群内での割合算出には問題ありません。しかし、軽い葉物野菜と重い穀物などでは、品目によって密度がまちまちなため、品目を総合的に計算しても意味のある数値を割り出せないと考えられています。
カロリーベース
総合食料自給率を算出する方法の1つとして、基本の栄養価である熱量(カロリー)に着目した計算方法があります。計算式は「カロリーベース総合食料自給率=1人1日当たり国産供給熱量÷1人1日当たり供給熱量×100」で表されます。
つまり、「1人が1日に摂取したカロリーのうち、何割が国産のものだったか」という方法です。例えば、日本国民全員が、国産⼤⾖100%使⽤の⾖腐を⽉にもう約2丁(557g)⾷べると、カロリーベースの食料自給率は1%向上するとされています。
この方法だと、カロリーの低い野菜の場合は、国産供給量が多くても高カロリーの肉や穀物ほど全体の自給率には大きく影響しないことになるため、カロリーベースで計算された食料自給率は、慎重に考察する必要があります。
なお、カロリーベースの計算方法には注意点があります。畜産物の自給率には家畜の飼料自給率も反映されるため、国産の肉や乳製品であっても飼育に使用した飼料が輸入品であれば、国産供給としてカウントされません。
また、実際には食べられずに廃棄された食料も分母に含まれるので、大量の食品ロスが問題となっている近年の日本では、分母の数値が高くなり、実際よりも自給率が低く算出されます。
生産額ベース
総合食料自給率を算出するもう1つの方法が、食料の経済的価値に着目した計算方法です。計算式は「生産額ベース総合食料自給率=食料の国内生産額÷食料の国内消費仕向額×100」で表されます。
この方法では、単価の高い食料であるほど自給率の数値に大きく影響することになります。主要先進国をはじめ、多くの国で生産額ベースの食料自給率が公表されているので、国際的な比較がしやすいのが特徴です。
日本の食料自給率
よっちゃん必撮仕事人 / PIXTA(ピクスタ)
日本では従来、諸外国に比べて厳しい条件下で複数の方法を用いて食料自給率を算出し、その推移を明示してきました。そこから見えてくる食料自給の現状や問題点、必要な対策とはどのようなものでしょうか。
現状と問題点
食料自給率はベースの違いによって数値に偏りが生じるため、1つの数値だけで判断せず、複数の視点から多角的に分析することが必要です。
また、諸外国との比較は、それぞれの国で算出方法も食料事情も異なるため、大きな意味を持たないとされています。憂慮すべきは、日本は食料供給の多くを輸入に頼っている現状と、今後不測の事態で食料の輸入が制限された場合に、国民が十分な食料を得られなくなるリスクが高いことです。
さらに問題なのは、国は食料自給率の低さをかなり以前から把握し、目標を立てて対策を講じてきたにもかかわらず、なかなか数値が上がらないことです。
その背景には、食の欧米化に伴う米の消費の減少と、小麦をはじめとした国内生産量の少ない食材の消費拡大、第一次産業の従事者の減少、海外産の農産物の輸入増加、大量の食品ロスなど、さまざまな要因が絡んでいます。
また、農家にとって自給率アップによるメリットが見えにくいのも、思うように協力を得られない一因でしょう。
目標とする食料自給率
2020年3月31日に閣議決定された計画のなかで農林水産省が示している目標は、10年後の2030年度(令和12年度)までにカロリーベースで45%、生産額ベースでは75%まで食料自給率をアップするというものです。
これまでの推移も考慮し、無理なく実現できるよう、前回の目標値であるカロリーベース45%、生産額ベース73%とほぼ同じ数値に設定されています。
そのうえで、これまで国産供給にカウントされていなかった、輸入飼料で育てた畜産物も国産として扱う「食料国産率」を新たな指標として導入しました。
先ほどの計算式で、改めて2018年度の食料国産率を計算すると、カロリーベースで46%、生産額ベースで69%となります。数値は上がりますが、あくまでも食料自給率とは別の指標であるため、食糧自給率の目標の数値は変わらず、食料国産率も別途目標に向けて引き上げを図ることになります。
出典:農林水産省
「知ってる?日本の食料事情~日本の食料自給率」
「食料・農業・農村基本計画 平成27年3月」
「知ってる?日本の食料事情~食料自給率とは」
食料自給率を向上させるための対策
ふじよ / PIXTA(ピクスタ)
農林水産省は食料自給率の向上に向け、さまざまな取り組みをしています。
食料の国内生産面では、経営感覚に優れた人材の育成や農業の担い手の確保、農作業を少ない人員で効率よく行える科学技術の導入、食品産業と農業の連携の強化、耕作放棄地の再生などを掲げています。
また、食料消費面では、食育や地産地消の推進、国産農産物への消費者の信頼確保と消費拡大、食品ロスの減少などの取り組みをあげています。
本記事では、食料自給率の種類を解説し、日本の食料自給の現状と問題点を紐解きました。食料自給率の低迷はすべての国民が直面している問題です。生産者と消費者の区別なく、国民一人一人が当事者意識を持って取り組み、力を合わせて目標達成を目指していきましょう。
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大曾根三緒
ビジネス、ペット、美術関連など多分野の雑誌で編集者として携わる。 全国の農業協同組合の月刊誌で企画から取材執筆、校正まで携わり、農業経営にかかわるあらゆる記事を扱かった経験から、農業分野に詳しい。2019年からWebライターとして活動。経済、農業、教育分野からDIY、子育て情報など、さまざまなジャンルの記事を毎月10本以上執筆中。編集者として対象読者の異なるジャンルの記事を扱った経験を活かし、硬軟取り混ぜさまざまなタイプの記事を書き分けるのが得意。