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スマート農業の導入を検討するとき参考にしたい事例を紹介
出典 : Fast&Slow / PIXTA(ピクスタ)
  • 農業経営

スマート農業の導入を検討するとき参考にしたい事例を紹介

今、世界的にも注目が高まっているスマート農業とは、ロボットやICTなど最先端技術を駆使した新しい農業のことです。超省力化や効率化を実現し、国境を越えて農業を発展させるなど、多様な成果をあげています。未知の可能性を秘めたスマート農業の実態を、豊富な事例をもとに解説します。

世の中にあふれるスマート化の波は着実に農業にも押し寄せ、農林水産省もスマート農業を積極的に推進しています。すでにロボット技術やICT、AIなどの先端技術を取り入れた農業が各地で実績をあげており、これからの農業に欠かせない技術が生まれています。ここでは、多くの事例をもとに、スマート農業の実態と今後を解説します。

スマート農業とは

そもそもスマート化とは、既存のものにICT(Information and Communication Technology:情報技術)、AI(Artificial Intelligence:人工知能)、IoT(Internet of Things:モノのインターネット)などの先端技術を取り入れ、高度な情報処理能力や管理能力、制御機能などを持たせることをいいます。

その結果、それまでの課題を解決し、より高度で多様な運用が可能になります。こうした先端技術を活用した農業を「スマート農業」といいます。

スマート農業の役割

スマート農業では人手不足の補てん、作業の省力化・効率化、力仕事のサポートなどを目的としてロボットやICTを活用しています。すでに農業に特化した多くの技術開発が進んでおり、農業機器の自動操舵、ドローンの活用、作物の生育管理システムなどの実践例があります。

大規模農園だけでなく作付面積の小さな個人経営農家まで、それぞれの環境に適した技術が次々に開発され、今後の農業のあり方を変える技術として世界中で注目を集めています。 

スマート農業の導入で期待できる効果

担い手不足、高齢化、重労働による身体的負担、収穫量の不安定性など、農業の現場が抱える多くの問題は深刻化の一途をたどるばかり。それらの問題を解決するために、スマート農業の効果が期待されています。

例えば、ICTやAIを生育管理に活用する農業経営の高度化、ロボットによる作業の自動化やサポート、AIによる技術の継承など、農業の諸問題を解決する事例が増えてきました。大規模農家や先端技術に詳しい若手農家だけでなく小規模な個人経営農家でも、スマート農業の導入で作業の省力化や効率アップなどが飛躍的に向上しています。

田植え機は精密になり田植えにかかる労力を大幅に削減している

Blue flash / PIXTA(ピクスタ)

スマート農業の導入事例

スマート農業の導入によって、農業の現場にはどのような変化が見られるのでしょうか。複数の導入事例をもとに、その効果について検証します。

自動操舵システムの導入事例

大規模経営農場では、耕起や播種、田植などの作業にトラクターや田植機が欠かせません。しかし操作には熟練の技術が必要なため作業できる人材に限りがあります。

そうした問題を解決するには、自動操舵システムの導入が効果的です。「斜里町農業ICT推進協議会」(北海道)では、町をあげてトプコン、ニコントリンブル製などのトラクターの自動操舵システムの導入を行っています。

導入した農家ではトラクター操作経験の浅い従業員にも作業できるようになり、経営者の負担が大幅に軽減。さらなる耕作規模拡大につながり、町全体で耕作放棄地が減少するという成果を上げています。

水稲と大豆、小麦生産、和牛の肥育・繁殖を手掛ける岩手県の「株式会社西部開発農産」ではトプコンのX25自動操舵システムを導入。耕起・播種作業時の重ね合わせが減って作業効率が上がり、肥料や種子、トラクターの燃料の節約もできたそうです。

千葉県で水稲や大豆・小麦などを手掛ける「柏染谷農場」でも、田植機やトラクターでトプコンの自動操舵システムを活用し、耕起・播種だけでなくマルチをかけての培土や除草にも活用。作業効率の大幅アップに成功しています。

ドローンの導入事例

ドローンも農業の現場で幅広く活躍し、大きな成果をあげています。

北海道で10ha以上の水稲を営む「JT農場」の事例では、動力噴霧器で行っていたミネラル資材の葉面散布作業を省力化するため、マゼックス製のドローン飛助Ⅱを導入。その結果、作業時間は3分の1に減り、収穫した米の食味は向上しました。病害虫や雑草の防除作業にもドローンを活用しています。

岐阜県の中山間地域で水稲栽培を行う「合資会社源丸屋ファーム」では、ほ場枚数が多いために動力噴霧器による農薬散布に時間がかかり適期防除が難しいことから、DJI製ドローン、AGRAS MG-1Sを導入しました。導入後は一日当たりの防除面積が3.5倍、作業時間は3分の1になり、すべてのほ場で適期防除が可能になりました。この結果は中山間地でのドローンの有効性を示しています。

ドローンにマルチスペクトルカメラを搭載した生育診断技術を導入したのが、三重県で稲作を営む個人経営の「つじ農園」です。集約された6haのほ場の生育管理が難しく、米の品質向上のために導入しました。

生育診断の結果、ほ場内に生育ムラがあることが原因であることを突き止め、翌年には生育の均一化に成功しています。今後は高付加価値化のための有機農法推進を目指し、さらなるスマート農業の導入を検討しているそうです。

播種機による小麦の播種

ふうび / PIXTA(ピクスタ)

アシストスーツの導入事例

ロボットの1つであるアシストスーツも、高齢化が進む農業の作業現場で活躍しています。
例えば、従業員の高齢化に悩んでいた秋田県の「農事組合法人きずな」では、サステクノ製のパワーアシストスーツを導入しすいかの収穫や運搬に活用しています。

その結果、作業姿勢が安定して落下による果実のキズ・割れが減少。作業効率も上がって作業員の体への負担も軽減し、作業意欲も向上しました。

富山県で稲作を中心に営む「農事組合法人岩木営農」でも、田植え時期の苗の運搬や上げ下ろしなど、重量物の移動作業による腰や膝への負担軽減のためにUPR製のアシストスーツを導入し、体への負担軽減を実感しています。

管理システムの導入事例

大規模経営や離れた土地にほ場を持っている場合に便利なのが、ほ場管理システムです。離れた場所にあるほ場も、スマートフォンやタブレットで効率的に遠隔管理できます。

千葉県山武市の「カネタ農場」では、多くのほ場をスマートフォンやPCを通じて管理しています。中には9km離れたほ場もあるため、移動が負担となっていました。そこで、株式会社クボタケミックスのほ場水管理システム「WATARAS」を遠距離のほ場に導入しました。

水田の給水バルブと排水口にインターネット通信機能、センシング機能を付加した制御装置を設置して、水田の水量を遠隔操作や自動で管理しました。その結果、1ヵ月に10回程度行っていた水回りの作業回数を3ヵ月に1回と大幅に削減できました。

食べる宝石をコンセプトとしてブランド化した「ミガキイチゴ」の生産・販売をてがける「株式会社GRA」は、NECのHYPERPOST/圃場管理システムを利用して、日本からインドにあるイチゴほ場の営農支援を行っています。

この事業はJICAのBOPビジネスのプロジェクトとして始まりました(BOPビジネス:途上国の低所得層に有益な製品・サービスを提供し、生活水準の向上に貢献しつつ、企業の発展も実現する持続的なビジネス)。GRAが農業経営・栽培技術・循環型水冷装置を利用した先端グリーンハウスを導入、NECが生産管理、遠隔栽培支援のICT開発を行いました。

具体的には、インドの作業員が、ほ場に設置されたセンターのデータや作業記録をタブレットに保存し、インターネット環境がある場所で、クラウドサーバーにまとめてアップロードします。GRAでは、専門家がシステムによって解析・可視化されたデータを見て、施肥量や空調調整などをきめ細かく指導します。

スマート農業は営農のグローバル化も可能にするのです。

環境制御システム(装置)の導入事例

ハウス栽培における環境制御システム(装置)は、複数の技術を複合させたスマート農業の真骨頂ともいうべきシステムです。

岐阜県でハウストマトを栽培する「田家農園」では、株式会社誠和製のプロファインダーNext80というシステムを導入し、ハウス内環境を自動および遠隔操作で管理しています。

他にも様々な地域で、様々な農家が環境制御装置を利用しています。
長崎県の「立石バラ園」では、統合環境制御盤として 株式会社ニッポーのハウスナビアドバンス、さらにフルタ電気株式会社の炭酸ガス局所施用と自動換気を導入。香川県で花きを栽培する「株式会社石原」では株式会社友成ハイテック社製の複合環境制御装置、埼玉県でイチゴを栽培する「秩父ファーム株式会社」ではネポン株式会社製のネポンアグリネット、宮崎県の大玉フルーツトマト部会では神港テクノス株式会社の菜援(SAIEN)を導入しています。

いずれの農家も、それぞれの作物に適したハウス内環境を自動または遠隔管理して、収穫量増加や品質向上に成功しています。

ピーマンの施設栽培 環境制御装置でハウス内環境を管理できる

hamahiro / PIXTA(ピクスタ)

その他の導入事例

最後に、農業経営からは少し離れていますが、農業関連でスマート化が導入された事例を参考として2つ紹介します。

まず、愛知県の江南市では、農地管理や利用状況の把握のために統合型GISと連携する農地台帳システムを導入。それまで紙ベースで管理していた台帳の内容や地図情報を電子化したことで、農地利用状況調査の精度向上や作業の効率化が可能になりました。

次に、ベジタリア株式会社が作成した農業高校用のスマート農業×STEAM学習プログラムです。未来の農業を担う高校生を対象に、スマート農業の実態とSTEAM教育(スティームきょういく:Science(科学)、Technology(技術)、Engineering(工学)、Art(芸術)、Mathematics(数学)を統合的に学習する教育手法)を組み合わせた教育プログラム作成し、導入を推進しています。

最先端の技術を活用したスマート農業により、農業は超省力化・効率化を実現しています。先人の築いた伝統技術と共存させながら、それぞれの状況に合わせて取り入れることで、農業の未来が広がっていくことでしょう。

大曾根三緒

大曾根三緒

ビジネス、ペット、美術関連など多分野の雑誌で編集者として携わる。 全国の農業協同組合の月刊誌で企画から取材執筆、校正まで携わり、農業経営にかかわるあらゆる記事を扱かった経験から、農業分野に詳しい。2019年からWebライターとして活動。経済、農業、教育分野からDIY、子育て情報など、さまざまなジャンルの記事を毎月10本以上執筆中。編集者として対象読者の異なるジャンルの記事を扱った経験を活かし、硬軟取り混ぜさまざまなタイプの記事を書き分けるのが得意。

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