農業系スタートアップ企業紹介~事業内容から読み解く、これからの日本農業~
「アグリテック」はこれからの農業経営に欠かせないシステムの1つです。アグリテック普及に貢献する日本のスタートアップ企業を6社ピックアップして紹介します。また、アグリテックとはどのようなものなのか、日本農業の課題、解決事例なども併せて解説します。
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今、「アグリテック」に取り組むスタートアップ企業が増えている
bluepanda8 / PIXTA(ピクスタ
昨今、新しい農業のシステムである「アグリテック(AgriTech)」に取り組むスタートアップ企業が増えています。ここでは、アグリテックの概要や日本の農業が抱える課題などを紹介します。また、拡大を続けるスマート農業の国内市場規模も確認しておきましょう。
アグリテック(AgrtiTech)とは?
アグリテック(AgrtiTech)とは、Agriculture(農業)とTechnology(テクノロジー)を組み合わせた造語です。
IoT、AIなどの最新のICT技術を活用したドローンや農機ロボットなどを導入し、就労人口が減少しつつある農業において、負担を減らしながら生産性の向上をめざします。「スマート農業」とも呼ばれる新しい農業への取り組みです。
日本農業が抱える課題と、アグリテックによる解決への期待
日本の農業就業人口は減少傾向にあり、作業の省力化や負担軽減といった生産性の向上が求められています。ICTやロボット技術の活用で日本農業の課題を解決することがアグリテックの取り組みなのです。
一例を挙げると、農業用ドローンを使った農薬散布や農業機械の自動走行による農地整備など、生産性を高める取り組みによって課題解決へとつなげています。
拡大を続ける「スマート農業」の国内市場規模
株式会社矢野経済研究所の試算によると、2020年度のスマート農業の市場規模は農業クラウドや複合環境制御装置などの栽培支援ソリューションがけん引し、約180億円でした。
出典:株式会社矢野経済研究所「2020年版 スマート農業の現状と将来展望 ~省力化・高品質生産を実現する農業IoT・精密農業・農業ロボットの方向性~(概要版)」よりminorasu編集部作成
気象予測と連携した販売支援ソリューションや経営支援ソリューション、農業機械の無人運転を実現するシステムや安全性確保のガイドラインの整備が進むことで、2026年までに市場規模は約3倍の500億円にまで拡大すると予想されています。
出典:出典:株式会社矢野経済研究所「2020年版 スマート農業の現状と将来展望 ~省力化・高品質生産を実現する農業IoT・精密農業・農業ロボットの方向性~(概要版)」
【ピックアップ】アグリテックの普及に貢献する、日本のスタートアップ企業
ここでは、アグリテック普及に貢献している日本のスタートアップ企業6社を紹介します。これからの農業経営に欠かせない画期的なテクノロジーを提供する企業ばかりなので、各企業の事業内容や提供するテクノロジーなどを押さえておきましょう。
株式会社オプティム:農業用ドローンを用いたAI解析を提供
兵庫県篠山市で「丹波黒 大豆・枝豆」のピンポイント農薬散布を用いた栽培を実施
出典:ソーシャルワイヤー株式会社(株式会社オプティム ニュースリリース 2018年10月17日)
株式会社オプティムは、農業用ドローンを用いてピンポイントに農薬を散布するテクノロジーを、世界で初めて開発した会社です。ドローンを活用して病害虫が発生した場所を見つけてAIで解析することにより、農薬使用量と労働時間を大幅に削減することができます。
株式会社オプティム「農業ソリューション」のページ
兵庫県篠山市で「丹波黒 大豆・枝豆」の栽培では、慣行栽培に対して、農薬使用量を99%、労働時間を約30%削減することに成功しました。
このプロジェクトでは、この枝豆を「スマート丹波黒大豆」として百貨店で販売するところまで手がけました。
ピンポイント農薬散布を用いて栽培した枝豆を「スマート丹波黒大豆」として販売
出典:ソーシャルワイヤー株式会社(株式会社オプティム ニュースリリース 2018年10月17日)
クレバアグリ株式会社:生産と経営を農業クラウドでまとめて支援
クレバアグリ株式会社は、各種センサーとAIを活用し、栽培管理からGAP対応の生産管理、財務管理まで、農業経営全般をまとめて支援するソリューションを提供しています。
ほ場には、温湿度を始め、二酸化炭素濃度、感雨雨量、照度、土壌塩分(EC)、土壌温度、土壌水分量などを測定する各種センサーを設置し、リアルタイムでデータ収集を行います。
収集したデータはAIで解析され、成長度合いの評価や生育シナリオが導出されます。経営面ではスケジュール管理からリソース計画までを総合的に支援します。
クレバアグリ株式会社ホームぺージ
inaho株式会社:AI搭載ロボットで野菜の収穫を自動化
inaho株式会社のアスパラガス自動収穫ロボット
出典:株式会社 PR TIMES(inaho株式会社 ニュースリリース 2020年6月23日)
inaho株式会社は、人工知能を搭載した収穫ロボットを開発する会社です。
収穫ロボットは、時間と労力のかかる収穫作業を自動化するだけでなく、これまで人の経験値が必要だった収穫適期の判断まで行います。同社は、農作業をAIとロボティクスによってサポートし、人手不足や時間の捻出といった農業経営におけるさまざまな課題を解決することをめざしています。
inaho株式会社ホームぺージ
株式会社セラク:「みどりクラウド」複合環境制御盤との連携も可能な環境モニタリングシステム
「みどりクラウド」の画面イメージ
出典:ソーシャルワイヤー株式会社(株式会社セラク ニュースリリース 2017年2月1日)
株式会社セラクは、複合環境制御盤との連携により生産効率化を支援する「みどりクラウド」を提供している会社です。アプリと連携し、ハウス内の環境を確認できます。遠隔操作で機器の作動状況や環境変化を見比べることも可能です。
これまで長年の経験や知識に依存していた生産データを「見える化」し、効率的に品質向上や生産の安定化につなげていけます。
株式会社セラク「みどりクラウド」ホームぺージ
みどりクラウドについてはこちらの記事もご覧ください。
メビオール株式会社:画期的なフィルム農法「アイメック」の技術で農業を変える
アイメックシステムを開発した メビオール株式会社 代表取締役社長 森有一氏
出典:株式会社 PR TIMES(CNN ニュースリリース 2017年11月13日)
メビオール株式会社は、世界で初めて、フィルム農法「アイメック」を開発した会社です。
アイメック農法では、作物の生長に必要な水と養分だけを通すナノサイズの穴が開いたフィルムのうえで作物を栽培します。養液は点滴チューブで与え、フィルムの下に不織布と止水シートを施して土壌面と作物を完全に隔離するため、病害のもととなるバクテリアや細菌などによる汚染を予防できます。
世界100ヵ国以上で特許を取得し、農業に関する多くの問題解決につながる技術だとして世界から注目されています。
メビオ―ル株式会社 アイメック製品ページ
NSGグループの株式会社ベジ・アビオでは、アイメックフィルム農法で、高糖度のブランドトマト「とマとマとマと」の栽培を行っている
出典:株式会社 PR TIMES(NSGグループ ニュースリリース 2019年1月25日)
株式会社アグリゲート:「SPF」の概念を取り入れ、流通から農業を支える
アグリゲートのビジネスモデル「SPF」
出典:株式会社 PR TIMES(株式会社アグリゲート ニュースリリース 2016年12月22日)
株式会社アグリゲートは、農業において、生産から販売までを統合管理するビジネスモデルを提供する会社です。
アパレル小売業が成功した「SPA」(Specialty store retailer of Private label Apparel:生産流通小売業)の手法を農業に取り入れるとともに「SPF」(Specialty store retailer of Private label Food)を掲げ、流通から農業を支援しています。
農産物の流通においてICTを取り入れ、農家とバイヤーとを直接つなげることで生産から販売までを統合するしくみを構築しています。
株式会社アグリゲート ホームぺージ
アグリテックの普及に向けた、スタートアップ企業の取り組み事例
アグリテックの普及に向けたスタートアップ企業の取り組み事例としては、株式会社オプティムの「スマートアグリフード」が参考となるでしょう。
同社は、AI・IoT・ドローンを活用した収益性の高い農業を実現する目的で、「スマート農業アライアンス」という参加型のプロジェクトを推進しており、農家と企業や金融機関、自治体、大学などの参加を募っています。
「スマート農業アライアンス」の概念図
出典:ソーシャルワイヤー株式会社(株式会社オプティム ニュースリリース 2019年2月28日)
「スマートアグリフード」は、「スマート農業アライアンス」のプロジェクトの1つで、農家がAI・IoT・ドローンを活用した農業の、生産から流通・販売まで一環で実現するものです。
このプロジェクトに参加した農家には、ピンポイント農薬散布テクノロジーを含む同社のスマート農業ソリューションが提供されます。
株式会社オプティム
「スマートアグリフード」ホームぺージ
「スマート農業アライアンス」のぺージ
大豆と米については、生産された作物をオプティムが全量買い取り、同社が開拓した仕向け先へ販売するビジネスモデルを確立しています。ECチャネルを活用した独自販路も開拓しており、消費者への直接販売も行っています。
栽培だけではなく流通までをも網羅する農業の新しいアプローチとして、スマートアグリフードは好例といえるのではないでしょうか。
AIやドローンを使い農薬使用量を抑えたお米「スマート米」をオンライン販売している
出典:ソーシャルワイヤー株式会社(株式会社オプティム ニュースリリース 2018年11月16日)
アグリテックに取り組むスタートアップ企業6社とその取り組み事例などについて紹介しました。日本の農業が抱える農家の減少や高齢化などの課題を解決するには、AIやIoTなどのテクノロジーを取り入れたアグリテックが欠かせません。
これからの新しい農業経営を実現するためにも、今回紹介した各企業の事業内容や取り組み事例をぜひ参考にしてみてください。
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光田直史
高校時代は化学を専攻し、農業に関する内容についても学んでいたことから、かねてより農業や地球環境に強い関心を持っていた。 卒業後は地元の運送業界や不動産業界に従事し、以後8年をIT企業の製造部門で勤務。事業部長と内部監査室長も兼任した。その経験を活かし、2020年よりライターとして活動開始。 ビジネス、金融、IT、マーケティング、不動産、農業など複数ジャンルでの記事執筆を手がけている。