【スマート農業】AI技術の活用事例9選!導入をサポートする補助金も紹介

スマート農業とは、AIやIoTの技術を活用し、農作業の効率化や高品質な作物の生産をめざす取り組みのことです。播種から収穫までスマート農業の技術は飛躍的に発展しています。本記事では、農業でのAI技術活用について豊富な事例を含めて解説します。
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AIの発展でどう変わる? スマート農業の今

show999/ PIXTA(ピクスタ)
急速に発展を続けるAIは、連日のようにメディアにも取り上げられ、すっかり身近な存在となりました。その技術は社会の中でさまざまに応用され、各業界から注目が集まっています。
農業も例外ではなく、国が推進しているスマート農業の発展には、AIの技術が欠かせません。大規模経営農家や農業法人だけでなく小規模な個人農家まで、農業経営や農作業にAIを使ったスマート技術を導入し、成果を上げる事例が各地で増えています。
現場におけるスマート農業の今について、AI技術の活用に絞ってメリット・デメリットに触れながら解説します。
スマート農業はAIの活用で“一歩先の未来”へ
日本の農業では長い間、担い手不足や高齢化、それを補うための作業の効率化や省力化などが重要な課題とされてきました。それらを解決する有力な方法として、国はスマート農業への取り組みを推進しています。
農林水産省の定義によれば、
スマート農業とは、ロボット、AI、IoTなど先端技術を活用する農業のことです。
出典:農林水産省「スマート農業」
このうち、ロボットとはセンサーや知能・制御の要素を持った機械のことをいい、IoTとは「Internet of things」の略で、「モノのインターネット」と訳されます。つまり、農機や施設設備などの「モノ」が、インターネットにつながって通信することです。
これらの技術は、農業では自動走行できるトラクターや田植機、水田の水管理を遠隔または自動で制御できる水管理システムなどとして実用化されています。
こうしたロボットやIoTのしくみに欠かせないのが、AI技術です。AIとは「Artificial Intelligence」の略で、日本語では「人工知能」を意味します。
自動走行するトラクターが道幅や障害物を認識したり、危険を検知して緊急停止させたり、走行ルートを覚えて安全に自動で作業したりできるのは、このAIの働きによるものです。
AIは膨大な情報を蓄積し、それをもとに自ら学習することも可能です。例えば、ニンジンとジャガイモ(馬鈴薯)の画像を大量に入力することで、やがて両者を識別できるようになります。
こうした能力を「機械学習」と呼び、近年はその中でも、膨大なデータを時間をかけて多層的に学習させる「ディープラーニング(深層学習)」が注目されています。
農業でAI技術を活用するメリット・デメリット
AI技術を使ったスマート農業の導入によって、これまで人力で行っていた作業を自動化でき、人手不足の解消や作業の大幅な効率化が実現します。
さらに、施肥や病害虫防除、除草においては、適期の判断や施肥量・農薬散布量を最適化できるため、資材の使用を必要最小限に抑えられるメリットもあります。
作業上のメリットだけでなく、従来は熟練の農家にしかできなかった判断や技術をAIが学習し、短期間で的確に実行できるため、技術の継承にも役立つと期待されています。
デメリットとしては、主に導入コストがかかることが挙げられます。高性能の機器やシステムであるほど高額になるため、導入に当たっては目的を明確にし、必要な機能を絞って導入する必要があります。
また、いくらAIの能力が高くても、経験を通して人間が判断しなければならない場合もあることや、最終的な責任は人が負わなければならないことを忘れてはいけません。便利だからとAIに頼りすぎてしまうと、思わぬ失敗や損害につながる可能性もあります。
【2025】 最新のAI技術とは?日本のスマート農業活用事例9選

K@zuTa/ PIXTA(ピクスタ)
農業分野におけるAI技術の最新活用事例や導入事例には、次のようなものがあります。
【稲作・畑作の事例】
事例1:人工衛星センシング画像と田植機が連携した「可変施肥」
事例2:ロボットトラクターによる自動運転
事例3:AI搭載ドローンによる農薬散布と施肥
【露地野菜の事例】
事例4:AI画像解析で農地へ行かずに生育状況を把握
事例5:キャベツの自動収穫・調整作業で大幅省力化
【施設栽培の事例】
事例6:AIの自動制御による作物の高品化
事例7:AIが収量や時期を予測し、人員配置を最適化
事例8:AIによる病害予測で作物の品質・収量アップ
事例9:中小規模ハウス向けの低コスト環境制御システム
事例1:人工衛星センシング画像と田植機が連携した「可変施肥」(JA・クボタ・BASF)

「xarvio」のデータを「KSAS」に取り込む
画像提供:BASFジャパン株式会社
JA全農と株式会社クボタ、BASFデジタルファーミング社、BASFジャパン株式会社の4つの組織によって、栽培管理支援システム「xarvio® FIELD MANAGER(ザルビオ® フィールドマネージャー)」と、営農・サービス支援システム「KSAS(クボタスマートアグリシステム)」を連携した新しいサービスが、2024年3月から提供開始されました。

「xarvio」と「KSAS」の連携 実証実験の様子
画像提供:BASFジャパン株式会社
このシステムでは、ザルビオが人工衛星センシング画像を分析して作物の生育状況を見える化し、それをもとに「可変施肥マップ」を作成します。そのデータを、KSASを経由して田植機に取り込み、データをもとに自動で施肥作業を行うものです。
2023年に行われた実証実験では、地力窒素量が同程度のほ場では慣行施肥したほ場と比較して、可変施肥したほ場で4~5%の増収効果が確認されました。また、地力窒素が少ないほ場で可変施肥した結果、生育の平準化による収量の底上げが図れたことにより、地力窒素が多いほ場と同等程度の収量になることが確認されています。
可変施肥による収量向上に加えて、施肥管理にかかる時間短縮や肥料購入量の適正管理が可能となり、生産性向上に寄与することが期待されています。
出典:BASFジャパン株式会社「BASFの「xarvio® FIELD MANAGER」とクボタの「KSAS」間のシステム連携を開始し、水稲生産者の収量と生産性向上を実現」
事例2:ロボットトラクターによる自動運転(ヤンマー)
ヤンマーホールディングス株式会社 YouTube公式チャンネル「ロボットトラクター・オートトラクター YT488R/498R/4104R/5114R プロモーション動画」
北海道大学とヤンマーホールディングス株式会社などは、ヤンマーが開発した自動走行トラクターを使って、無人による耕うん整地と有人による施肥播種を連携して行う「有人-無人協調作業」を実施しました。このトラクターは2018年に市販化しています。
この技術によって、一人当たりの作業可能面積が拡大し、大規模経営の効率化を実現しています。また、タブレットを使った遠隔操作も簡単にできます。
出典:ヤンマーホールディングス株式会社「ロボットトラクター/オートトラクター」
事例3:AI搭載ドローンによる農薬散布と施肥(オプティム)
株式会社オプティム YouTube公式チャンネル「 ドローンによる確実で、効率良く、安価に解決できる適期防除サービス|ピンポイントタイム散布【紹介動画】」
株式会社オプティムが基本特許を取得している「ピンポイント農薬散布・施肥テクノロジー」は、必要な場所にピンポイントで農薬散布や施肥ができるシステムです。
ドローンや無人航空機でほ場を上空から撮影し、その画像をAIが解析して病害虫被害などの発生箇所を判定します。そして、自動でその場所にドローンや航空機を移動させ、ピンポイントで必要な農薬散布や施肥を行います。
この機能により、防除作業や施肥作業の省力化や、大幅なコストカットが実現できます。
出典:株式会社オプティム「テクノロジー AI・IoT・Roboticsを最大活用するための先進技術」
事例4:AI画像解析で農地へ行かずに生育状況を把握(いろは)

株式会社スカイマティクス「葉色解析サービスいろは」に実装された「ブロッコリーの生育診断」
出典:株式会社PR TIMES(株式会社スカイマティクス プレスリリース 2021年5月26日)
株式会社スカイマティクスが提供する「葉色解析サービスいろは」は、作物の葉色や生育状況、発生している雑草の種類まで特定できる高解像度のドローン画像を使い、AIが画像解析することで作物の生育状況を管理するシステムです。
画像や解析結果のデータはクラウド上にアップされるので、農家は直接ほ場に行かなくても、手もとのデバイスでいつでも、どこにいても生育状況や病害虫の発生を知ることが可能です。画像をチェックして気になるところがあれば、必要に応じて個別に解析もできます。
出典:株式会社スカイマティクス「いろは」
事例5:キャベツの自動収穫・調整作業で省力化(ヤンマー)

ヤンマーアグリ株式会社「キャベツ収穫機 HC1400」
画像提供:ヤンマーホールディングス株式会社(2019年11月26日 ヤンマー株式会社 プレスリリース)
ヤンマーアグリ株式会社は、立命館大学やオサダ農機株式会社と連携し、キャベツの自動収穫・運搬技術の開発を2019年から実証試験として進めてきました。さらに近年では、AIやICT(情報通信技術)を活用したスマート農業への取り組みが大きく進化しています。
最新の実証試験では、既存のキャベツ収穫機にAIとRGB-Dカメラ(カラー画像と距離情報を同時に取得可能なカメラ)を搭載し、収穫機の自動運転を実現しています。AIがリアルタイムで画像を解析し、収穫すべきキャベツの列や個体を高精度で検出、収穫部位も画像から的確に認識し、自動で収穫作業を行います。
また、ヤンマーの最新スマート農業技術では、RTK-GNSS(高精度測位衛星システム)を活用した自動操舵機能「Smartpilot(スマートパイロット)」を搭載したロボットトラクターや、直進アシスト機能付き田植機・野菜移植機なども展開されています。これにより、数cm単位の高精度な自動運転や作業再現性が実現し、省力化・高能率化・高精度化が大きく前進しています。
さらに、IoT技術を活用した「スマートアシスト」では、農機の稼働状況や作業記録を自動で管理し、農業経営の効率化や作業の見える化も進んでいます。
キャベツだけでなく、トマトや玉ねぎ、イチゴなど多様な作物で自動収穫ロボットや自動化技術の開発が進められており、今後はさらなる作業の省力化と品質向上が期待されています。
出典:
農研機構 生物系特定産業技術研究支援センター「各分野の研究委託事業|革新的技術開発・緊急展開事業|人工知能未来農業創造プロジェクト|研究成果」
「露地野菜の集荷までのロボット化・自動化による省力体系の構築」の項 所収「キャベツ自動収穫・運搬技術の開発(立命館大学、オサダ農機株式会社)」
ヤンマーホールディングス株式会社「キャベツ収穫機開発グループが「農業技術開発功労者 名誉賞状」受賞(ヤンマー株式会社)」
ヤンマーホールディングス株式会社「直進アシスト機能を搭載した乗用全自動野菜移植機「PW200Rシリーズ」を発売」
事例6:AIの自動制御による作物の高品化(クレバアグリ)
クレバアグリ株式会社では、日本と中国にデータセンターを持つクラウドサービス「Alibaba Cloud」を活用して、施設栽培作物における農作業・技術の発展や継承をサポートしています。
具体的なしくみとしては、まず施設内に設置した各種センサーが温度・湿度などを感知し、IoT基盤を通してそのデータをクラウド上に蓄積します。それをAIが機械学習し、施設における作物の最適な生育シナリオを作ります。
そのシナリオに基づいて、AIが水分量や日照量などを適切に自動制御することで農業経営を支援し、生産性や品質を大幅に向上させます。
出典:クレバアグリ株式会社
事例7:AIが収量や時期を予測し、人員配置を最適化(オプティム)

株式会社オプティムの「Agri House Manager」は「AI・人工知能EXPO」でも注目された。画像は、走行型ロボットが撮影したハウス内の画像を分析し、トマトの熟度を判定した結果
出典:株式会社PR TIMES(RX Japan株式会社 プレスリリース 2018年3月12日)
株式会社オプティムが開発したハウス管理サービス「Agri House Manager」では、施設内のセンサーによって収集した環境データの多角的な分析や、施設内を映した動画データの解析を、AIが行います。
その分析・解析結果から、病害虫リスクの診断をしたり、作物の収量や収穫・出荷時期の予測をしたりします。その予測によって、収穫時期に合わせた適切な人員配置などが可能になります。
出典:株式会社オプティム「ハウス管理サービス Agri House Manager」
事例8:AIによる病害予測で作物の品質・収量アップ(バイエル クロップサイエンス)

プランテクトの温度湿度センサー
出典:株式会社PR TIMES(バイエルホールディング株式会社 プレスリリース 2022年5月25日)
バイエルクロップサイエンス株式会社は、AIによるモニタリング機能を搭載したハウス栽培向けの病害予測モニタリングシステム「Plantect TM(プランテクト)」を提供しています。
このシステムでは、センサーによるほ場のモニタリング機能で、温湿度やCO2濃度、日射照度、露天湿度、飽差などを計測してデータを蓄積します。
そのデータをもとにAIが病害感染リスクを予測したり、その病害に登録のある農薬の情報を提示したりします。2025年5月時点で確認できる病害は、トマト、きゅうり、イチゴの主な病害である「灰色かび病」や「葉かび病」「うどんこ病」などです。
出典:バイエル クロップサイエンス株式会社「プランテクト® 」
事例9:中小規模ハウス向けの低コスト環境制御システム(システムクラフト)

株式会社システムクラフト「ネット&ファンクーリングコントローラー」のしくみ
画像提供:株式会社システムクラフト
東京都農林総合研究センターと株式会社システムクラフトは、小規模ハウスを多棟管理する農家向けに、低コストで導入できるハウス側窓開閉装置や灌水装置などを開発しています。2023年3月には、「ネット&ファンクーリングコントローラー」の受注生産販売をスタートしました。
「ネット&ファン」とは、換気扇と細霧冷房を組み合わせた装置で、ハウス内の換気をしながら帰化冷却された空気を送ることで、ハウス内温度を下げるシステムです。
自動制御によって、ハウス内の温度が20℃を超えると、側窓開閉から細霧冷房まで段階的に稼働します。小型の装置で、既存の施設に後付けできます。
出典:
東京都農林総合研究センター「東京型スマート農業プロジェクト|IoT・AIの活用:小型コンピュータによるハウス環境制御」
株式会社システムクラフト「ネット&ファンクーリングコントローラー」
スマート農業の課題、“導入コスト”の解決策は?
AI技術を農業に導入する際の大きな課題となるのが、コスト面です。その課題を解決するためのアイデアを2つ紹介します。
補助金・助成金を申請する

Sqback / PIXTA(ピクスタ)
国や自治体は、スマート農業の導入を積極的に推進しており、2025年現在も多様な補助金・助成金制度が拡充されています。
特に2025年度からは「スマート農業技術活用促進集中支援プログラム」や「スマート農業・農業支援サービス事業導入総合サポート事業」など、スマート農業機械ICT技術の導入を直接支援する新たな補助金が新設・拡充されています。これらを活用することにより、機械導入費用やデータ連携基盤の整備、現場実証などに対して支援が受けられます。
また、多くの自治体でも、独自にスマート農業機械の導入支援事業を実施しており、補助率や上限額、対象機器は自治体ごとに異なります。最新情報は各自治体の公式サイトで確認してください。
さらに「ものづくり補助金」「IT導入補助金」など、農業分野でも利用可能な他業種向け補助金がスマート農業に活用できることもあります。毎年内容が見直されているため、最新の公募要領を確認してください。
出典:
農林水産省「スマート農業」所収「スマート農業技術活用促進集中支援プログラム」
農林水産省 「スマート農業・農業支援サービス事業導入総合サポート緊急対策事業(令和6年度補正予算)の公募について」
リースやコントラクターを活用する
AIを搭載した最新のスマート農機やスマート農業技術は高額なものが多く、個人経営農家では導入が困難な場合があります。その場合は、必要な機器をリースしたり、「コントラクター」という農作業の請負事業者を活用したりするのもよい方法です。
近年は、農家数件でシェアリングしながらリースできるサービスもあり、よりコストを抑えられます。コントラクターを利用すれば、農機を持たずに最新機器を使った作業ができ、作業時間を大幅に削減できます。
リースを行う業者には、「JA三井リース株式会社」や、北海道にある建機レンタルの「株式会社共成レンテム」などがあります。
出典:JA三井リース株式会社「農林水産事業者向けサービス」
株式会社共成レンテム「農業機械レンタル」
コントラクターは、前出の共成レンテムや静岡県の「株式会社鈴生」など、地域にサービスを行う企業がある場合もあるので、調べてみましょう。
出典:株式会社共成レンテム「コントラクタ」
農研機構「スマート農業実証プロジェクト|令和3年度|実証経営体一覧|スマート商流|鈴生」
▼農機のリース・レンタルについては、こちらの記事もご覧ください。
スマート農業は、AI技術の発展に伴って急速に進歩しています。現在では、大規模経営農家や農業法人向けだけでなく、個人農家が利用できる技術も多く開発され、小規模なほ場でも導入しやすくなっています。
また、近隣農家と共同での導入やリースなど、コストを抑えて導入できるサービスも広まっています。
人材不足や収量の伸び悩みなど、解決できない問題がある場合は、スマート技術を導入することで改善できるかもしれません。
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大曾根三緒
ビジネス、ペット、美術関連など多分野の雑誌で編集者として携わる。 全国の農業協同組合の月刊誌で企画から取材執筆、校正まで携わり、農業経営にかかわるあらゆる記事を扱かった経験から、農業分野に詳しい。2019年からWebライターとして活動。経済、農業、教育分野からDIY、子育て情報など、さまざまなジャンルの記事を毎月10本以上執筆中。編集者として対象読者の異なるジャンルの記事を扱った経験を活かし、硬軟取り混ぜさまざまなタイプの記事を書き分けるのが得意。