植物工場とは?そのメリット・デメリットについて解説
植物工場とは、屋内の人工的な環境で細部をコントロールしながら作物を量産する施設のこと。農薬散布にかかる 作業量・費用などが大幅に削減でき、人件費も抑えられる、といった大きなメリットが期待されています。ただし、高額な初期投資が必要になるため、想定されうるデメリットもしっかりと学んでおきましょう。
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天候に影響されない「植物工場」は、安定した栽培が可能なため、収入面でも安心感があることから導入を検討している企業や農業関係者は少なくないようです。
この記事では、植物工場に必要なシステムや初期投資にかかる費用、運営するメリット・デメリットなど、植物工場に関する基礎知識を説明していきます。
植物工場とは
植物工場とは、屋内で人工的に作物を大量生産するためのシステムです。テクノロジーを活用し人工的に光や水の量を調整しながら、安定した作物の供給をめざします。現在世界的に研究や導入が進んでおり、日本でも先進的な企業が取り組みを開始しています。
植物工場には「完全人工光型」と「太陽光利用型」の2種類があります。完全人工光型では太陽光は一切入らず、すべてをLEDなどの人工的な光でまかなっています。一方、太陽光利用型ではある程度の自然光も取り入れています。
植物工場ではICT(情報通信技術)を使って論理的なデータを計測し、適切な栽培方法が実施されることが特徴です。
植物工場のメリット
人工的に環境を制御することで周年栽培を可能にし、安定した収量を確保できる植物工場には「未来の農業」として多くの関心が集まっています。改めてそのメリットについて紹介しましょう。
周年栽培ができる
工場では、温度・湿度・光・二酸化炭素濃度・養分など環境を高度に管理するため、季節にかかわらずほぼ周年での安定した栽培が可能です。また、作付けと作付けの間の期間が土耕栽培より短いため、年間を通じた単位あたり収量は多くなります。
出荷計画や受注状況に応じた生産計画通りに栽培をコントロールでき、収量見込みもずれにくいため、収支計画はたてやすいといえます。
省力化栽培ができる
工場では、温度・湿度・光・二酸化炭素濃度・養分など環境を高度に管理するため、季節にかかわらずほぼ周年での安定した栽培が可能です。また、作付けと作付けの間の期間が土耕栽培より短いため、年間を通じた単位あたり収量は多くなります。
出荷計画や受注状況に応じた生産計画通りに栽培をコントロールでき、収量見込みもずれにくいため、収支計画はたてやすいといえます。
連作障害を回避できる
植物工場での栽培は、基本的に「土」を使わない水耕栽培です。土が担っていた作物の根を支えること、養分を与えることを、水に浮かせたパネルや液体肥料で代替しています。
そのため、土壌の成分バランスの不均衡や病害虫が土壌に残ることによっておきる連作障害を回避し、同じ作物を短いサイクルで続けて栽培することができます。
高機能野菜を生産できる
最近では、温度・湿度・肥料・水質・光などを高度に管理することで、食品としての機能性成分の含有量を増減させることができるようになってきました。
この技術を利用して、抗酸化作用の強い野菜や、ビタミン、鉄分、マンガンなどを通常の品種よりも多く含む栄養価に優れた高機能野菜を生産し事業化している産地や企業もあります。また、亜硝酸態窒素など、体に有害な成分の含有量を減らす栽培方法もあります。
経験が少なくても作業できる
屋外の作業では、天候への対応や水量調整などの判断が経験則に基づき、目分量で行われることも多く、ノウハウが継承されづらいことがデメリットでした。対して植物工場では、栽培方法や作業内容をマニュアル化することで農業未経験のパート・アルバイトでも作業を行うことができます。
また、植物工場を働く環境としてみると、従来の農業と比べて制約が少なく、障害者や高齢者も働きやすい環境であるといえます。
例えば、都心立地も可能ですから自動車を運転できなくても通えますし、1年を通して空調で管理されていますので暑さ寒さによる体調変化の心配も小さくなります。
実際、障害者の就労支援施設として植物工場が導入されている事例も多数あり、新たな雇用の創出の役目を担っています。
植物工場のデメリット
Flatpit / PIXTA(ピクスタ)
ここまで植物工場のメリットをあげてきましたが、当然ながらデメリットもあります。以下に紹介する代表的なデメリットを理解した上で、植物工場の導入を検討しましょう。
コスト負担
植物工場を新設する場合、土地・建物の確保に加え、高価な機材や建物を確保するための設備投資が欠かせません。初期費用は、どんなに安くても数十万円はかかり、数千万円以上の費用に及ぶことも珍しくはありません。加えて、光熱費などのランニングコストもかかってきます。
シビアな採算ポイント
ではどのくらいの規模が採算ポイントになるのでしょうか。
一般的にいわれている植物工場の採算ポイントは、レタス換算で1日に3,000株以上出荷できる規模です。これほどの規模となると初期投資額は数千万以上かかることになり、企業や資金に余裕のある大規模な農業法人などでないと参入は難しいでしょう。
とはいえ実際には、小さい規模の植物工場も多数運営されています。農林水産省の農福連携推進の補助金などを利用し、純粋な事業としての利益はでないものの、障害者雇用を実現しながら事業を継続しています。
技術の未確立
レタスなどの葉菜類や一部のハーブ以外では事業ベースに載せられる技術が確立していないのが実情です。
例えばトマトのような果菜類の場合、作物自体の背が高く、果実と葉の重なりが多いため、全方位から光があたるような工夫をした特殊な光源を複数用意することになり、初期投資も光熱費などのランニングコストも高くなります。
生産物の価格
植物工場への投資を回収しようとすると、販売価格面では、大規模な植物工場でも露地栽培にかないません。前述した高機能野菜のように付加価値をつけた商品開発や、農福連携の社会的意義を認めてもらったうえでの販路開拓などの戦略が必要になってきます。
植物工場の導入を検討するときの参考情報
YNS / PIXTA(ピクスタ)
本格的に植物工場を検討するのなら、まずは必要資金を見積もってみましょう。工場の設立には決して安くない費用がかかります。勢い任せで事業を始めて、のちのち後悔することがないようにしたいものです。また、自分の考える規模に応じた、事例研究をしておくとよいでしょう。
初期投資金額について
スケールによるものの、植物工場は初期投資数千万円以上の大事業になることも少なくありません。特に、LEDをはじめとする機材にかかる費用は高額になりがちです。
ただし、事業計画書をしっかり作成したうえで交渉を行えば、銀行や日本政策金融公庫から融資を受けられる可能性もあります。また、植物工場は国の補助金対象です。バックアップをしてくれる機関、政策はたくさんあるため、自分の地域で受けられる支援を調べてみてください。
植物工場を導入した企業の事例
新昭和グループの合同会社アグリードは巨大な植物工場による事業を展開中です。京葉銀行からの融資を受け、2019年8月からプロジェクトに取り組んでいます。この事業が支援を得られたのは、地域の掲げる安全な食生活の実現に向け、多大な貢献を担えると認められたからです。
植物工場は経済界だけでなく、地域の期待も背負っています。そのため、好意的にサポートを検討してくれる金融機関は少なくないでしょう。
「植物工場」は生産者にも消費者にとってもメリットが大きい、新しい産業です。今後は、植物工場で作られた野菜が一般消費者にも浸透し、日常的に食卓に並ぶようになる日も遠くはないでしょう。
将来へ向けた投資として植物工場事業への参入を検討しみてもよいかもしれません。その際には、本記事で紹介したようなメリット・デメリットをしっかりと把握することが大切です。
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石塚就一
1984年京都府生まれ。会社員を経て、フリーライターに。京都府内でイベント運営や執筆活動する一方で、実家の農業にも従事している。主な生産物は米、ナス、京野菜。実践をともなった見地から、リアルな農業事情を伝えている。なお、京都市の町興しにも参加。目標は「全国区の知名度を誇るイベントを立ち上げて、京都の新しい魅力を広めること」。