【NKアグリの植物工場】惜しまれる撤退|注目を集めたビジネスモデルと植物工場の経営リスク
植物工場の建設には多大な初期投資が必要です。参入に当たり、経営リスクや参考事例を知りたい方もいるのではないでしょうか。この記事では、2020年に惜しまれながらも撤退したNKアグリを例に、植物工場の経営とリスクについて解説します。
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植物工場で栽培する作物は、天候に左右されにくいため、安定した品質と収量を確保できるのがメリットです。しかし、作物の生育に適した環境を維持するための設備にお金がかかることが多く、リスクも気になるところです。一定の成功を納めながらも、2020年に撤退したNKアグリ株式会社を例に、経営リスクやビジネスモデルについて見ていきましょう。
NKアグリは2020年に撤退
出典:ソーシャルワイヤー株式会社(NKアグリ株式会社 ニュースリリース 2016年9月15日)
NKアグリは、初期投資の負担による赤字基調の継続や大型台風による被害を理由として、2020年に太陽光利用型の植物工場事業から撤退しました。
NKアグリの取り組みを時間を追って説明しましょう。
・NKアグリを設立
2009年、自社の敷地に3,000坪という大規模な太陽光型植物工場を建設し、NKアグリを設立します。
・約4,000店ものスーパーへ作物を出荷
事業開始から7年後、約4,000店ものスーパーへ作物を出荷するまでに事業が拡大しました。
・先進的な農業へのチャレンジ
自社野菜ブランド「AQUA LEAF」の生産や、ITを活用した先進的な農業へチャレンジしてきました。
特に先進的な農業への取り組みへの取り組みは注目を集め、経営は徐々に軌道に乗りつつあるように見えました。
そんなNKアグリが、なぜ事業撤退することとなったのでしょうか。NKアグリの事例からは、農業経営において大切なことと、注意点が学べますので見ていきましょう。
注目されたNKアグリのビジネスモデルの特徴
NKアグリ株式会社の「AQU LEAF」シリーズ
出典:ソーシャルワイヤー株式会社(ノーリツ鋼機株式会社 ニュースリリース 2013年8月1日)
事業開始から7年後、約4,000店ものスーパーへ作物を出荷するまでになったNKアグリですが、多くの試行錯誤がありました。なぜなら、農業に関して素人ばかりの社員で始めたビジネスだったからです。
また、一時的ではあるものの事業の拡大に成功したこともあり、農業関係者から大きな関心を持たれていました。そんなNKアグリのビジネスモデルには、農業経営に役立つヒントがたくさんありますので解説します。
徹底したデータ管理とIT化
NKアグリの創業当初は失敗の連続でした。栽培上のトラブルが多発したのです。そうした問題を解決するのに一役買ったのが、徹底したデータ管理とIT化です。
作物はほ場環境や天候の影響によって生育が変わります。さらに高品質な作物を安定収穫するには、施肥量や農薬の使用量などの微調整が必要です。しかし、経験や知識が不足していたため、これらに対応できませんでした。
そんな状況の中、以下を行うことで問題を解決しました。
・徹底したデータ管理
徹底したデータ管理により、品質・収量ともに改善しました。そのために、まずは栽培施設内の温度や湿度、葉数や重量、根の長さを記録し、次にデータを精査し、栽培を成功させるためのKPI(Key Performance Indicator=重要業績評価指標)を設定したのです。
・徹底的な生産管理
過去のデータから生産量と需要量を予測し、徹底的な生産管理を行い、無駄のない効率的な栽培を実現しました。スーパーなど、出荷先の仕入れ量は天候や季節によって変わり、生産に非効率が生まれます。そこで過去のデータを使って対応したのです。
・社員のコミュニケーションの円滑化
クラウド型業務改善プラットフォームであるkintoneを利用し、営業現場、生産現場で社員コミュニケーションの円滑化を図りました。営業担当者のニーズをリアルタイムに把握し、生産現場での需給調整ができるため、大きな成果につながりました。
このように徹底してデータ管理することで、農業に詳しくない人でも安定した管理ができるようにしたわけです。
医療機関や大学との共同研究による付加価値の高い商品の開発
機能性野菜「こいくれない」
出典:ソーシャルワイヤー株式会社(NKアグリ株式会社 ニュースリリース 2016年9月15日)
NKアグリは、より高い収益を求めて、独自の品種開発にも取り組みました。そこで、本来は ほとんど含まれていない色素成分、リコピンが多く含まれているニンジンの開発に成功しました。「こいくれない」という名称で販売し、ほかの品種にはない独自性が話題になったのです。
※「こいくれない」は、ビジネスモデルが評価され、2017年度グッドデザイン特別賞(主催:公益財団法人日本デザイン振興会)を受賞し、ベスト100に選出されています。
公益財団法人日本デザイン振興会 2017年度 グッドデザイン特別賞(ものづくり)「にんじん[こいくれない]」
開発に当たって重視したのは、「既存の流通規格に合わせて商品を作らない」という考え方です。既存の規格にある大きさや重さ、形ではなく、作物に含まれる栄養価とおいしさで勝負することにこだわりました。
ただし、NKアグリには、新品種開発におけるノウハウがありませんでした。そこで、新品種開発や栄養素に専門知識を持つ大学や医療機関に協力を求めたのです。
リコピン人参こいくれないは 「2017年度 グッドデザイン賞ベスト100」に選出された
出典:ソーシャルワイヤー株式会社(NKアグリ株式会社 ニュースリリース 2017年10月4日)
産地連携による安定供給の実現
こいくれないは、産地連携による安定供給を実現しました。各地域と連携を取ることで計画的な栽培が可能になり、常に旬の作物が収穫できるようになったのです。また、規模の大きい生産地に引けを取らない生産体制もできました。
しかし当初は、露地栽培を行っていることもあり、年間を通じて収量を安定させることが課題でした。
そこで以下を行ったのです。
・幅広い地域で生産を行う
北海道から鹿児島まで、気候の異なる幅広い地域で生産を行うことで、収穫期をずらしました。それにより、年間を通じて、旬の作物が収穫できるようになったのです。
・地域間の連携と情報共有
地域間の連携には、コミュニケーションツールとして導入したkintoneも活躍しました。kintoneによって、ニンジンの生育や作物に含まれる成分に関わる環境因子などを共有したのです。それにより、どのほ場でも安定した収穫ができるようになりました。
kintoneで構築したIoTシステムを、機能性野菜「こいくれない」(ニンジン)の提携農家にも解放。収穫予測日や生育状況を農家と共有し、議論を重ね栽ることで栽培精度を向上させていった
出典:ソーシャルワイヤー株式会社(NKアグリ株式会社 ニュースリリース 2016年9月15日)
太陽光利用型の植物工場事業の経営リスク
いくつかの斬新な取り組みによって、一定程度の成功を収めたNKアグリでしたが、2020年、太陽光型植物工場から撤退しました。そこで、太陽光利用型の植物工場事業の経営リスクについて解説します。
植物工場の経営状況を知る参考資料として、一般社団法人日本施設園芸協会が令和2年(2020年)3月に公表した「令和3年度 データ駆動型農業の実践・展開支援 (スマートグリーンハウス展開推進)事業報告書」別冊「大規模施設園芸・植物工場実態調査・事例調査」があります。
同資料によると、太陽光型植物工場の経営調査では、以下のようなデータが出ています。
経営状態
4割程度の会社は赤字になっています。
出典:一般社団法人日本施設園芸協会「令和3年度 データ駆動型農業の実践・展開支援 (スマートグリーンハウス展開推進)事業報告書」別冊「大規模施設園芸・植物工場実態調査・事例調査」よりminorasu編集部作成
事業安定化までに要した年数
事業安定化化までに要した年数は、1~3年の44%、4~6年が25%となっています。あくまで事業が安定化したということで、必ずしも黒字化しているわけではありません。
出典:一般社団法人日本施設園芸協会「令和3年度 データ駆動型農業の実践・展開支援 (スマートグリーンハウス展開推進)事業報告書」別冊「大規模施設園芸・植物工場実態調査・事例調査」よりminorasu編集部作成
収益化した事業者の傾向
栽培面積2万平方m未満の事業者は、2万平方m以上の事業者よりも収益が悪い傾向にあります。
出典:一般社団法人日本施設園芸協会「令和3年度 データ駆動型農業の実践・展開支援 (スマートグリーンハウス展開推進)事業報告書」別冊「大規模施設園芸・植物工場実態調査・事例調査」よりminorasu編集部作成
また、NKアグリのように農業に関する知識が十分でない企業は要注意といえます。初期投資の負担が重くのしかかるうえに、スタート時の収益があまり期待できないからです。太陽光型植物工場を始める方は参考にしてください。
ivas76 / PIXTA(ピクスタ)
農業の大規模化に伴い、ITを活用した植物工場は注目を集めつつあります。しかし、実際にすべての植物工場の経営が順調というわけではありません。NKアグリのように安定した収量を確保し、作物のブランド化に成功した企業であっても、経営に苦労するケースが多いのです。
日本施設園芸協会の調査結果からは、経営の黒字化には大規模化とある程度の年数が必要であることが読み取れますが、それには資本的な体力が必要になるでしょう。これから植物工場の建設を予定している方は、黒字化までのシミュレーションを入念に行ったうえで取り組んでください。
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中原尚樹
4年生大学を卒業後、農業関係の団体職員として11年勤務。主に施設栽培を担当し、果菜類や葉菜類、花き類など、農作物全般に携わった経験を持つ。2016年からは実家の不動産経営を引き継ぐ傍ら、webライターとして活動中。実務経験を活かして不動産に関する記事を中心に執筆。また、ファイナンシャルプランナー(AFP)の資格も所持しており、税金やライフスタイルといったジャンルの記事も得意にしている。