レタス農家は儲かる?年収と仕事内容 、栽培の工夫
レタスは年間を通して需要が高い野菜で、産地ごとにさまざまな作型が確立されています。レタス栽培で安定的に収益を上げるには、自身のほ場条件に適した作型や、必要な作業・設備を確認したうえで、年間計画や中長期計画を立てて十分な準備を整えることが重要です。
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レタスの栽培を検討している農家にとって、年収は気になる情報の1つでしょう。そこで本記事では、レタス農家の作型による違い、仕事内容やスケジュール、年収や将来性などについて、経営安定のポイントや経営モデルの紹介も交えながら幅広く解説します。
レタス農家の年収はどのくらい?
koni-film/ PIXTA(ピクスタ)
レタスの栽培体系には、主に露地栽培・トンネル栽培・ハウス栽培があります。そのほか、施設での水耕栽培もありますが、本記事では触れません。
レタスは多様な栽培体系や作型で産地をリレーし、通年で出荷されます。春や秋には出荷量が増えるため価格が下がり、夏や冬に価格が上がる傾向にあります。
さらに天候の影響を受けやすく、価格の変動は少なくありません。それを踏まえたうえで、あくまでも収入の目安として、全国平均の10a当たり粗収益を計算してみましょう。
露地レタスの10a当たり粗収益の試算
10a当たり | |
---|---|
収量 | 2,730kg |
出荷量 | 2,582kg |
1kg当たり卸売価格 | 162円 |
粗収益試算 | 418,284円 |
※10a当たり出荷量は、全国の出荷量と作付面積から算出
※いずれも2021年の農林水産省統計の数値を基にしている
出典:農林水産省「作物統計|作況調査(野菜)|令和3年産野菜生産出荷統計」、農林水産省「令和3年青果物卸売市場調査報告」よりminorasu編集部作成
上記の表を見ると、令和3(2021)年の全国の10a当たり収量は2,730kgです。また、全国の作付面積と出荷量から算出した出荷量は2,582kgです。
同年の卸売価格が1kg当たり162円なので、出荷量×卸売価格を計算すると10a当たりで約41万8,000円、1ha規模では418万2,000円程度の粗収益であると求められます。
これはあくまでも数値上の試算です。1年間を平均した数値であるため、出荷時期によってここから価格が上下することや、所得を求めるには諸経費も考慮する必要があることに留意して、大まかな目安としてください。
もう1つの参考として、少し古い資料となりますが、農林水産省の「営農類型別経営統計」では2018年まで「当該作部門」が提供されていました。この統計での「露地レタス作」部門を見てみると、以下の通りとなります。
露地レタスの収支(2018年営農類型別経営統計による)
1戸平均 | 10a当たり | |
---|---|---|
作付面積 | 1.26ha | 10a |
生産量 | 32,525kg | 2,583kg |
当該品目収入 | 525.7万円 | 41.8万円 |
1kg当たり収入 | 162円 | 162円 |
部門所得率 | 42.1% | 42.1% |
出典:農林水産省「営農類型別経営統計|平成30年営農類型別経営統計(個別経営、第2分冊、野菜作・果樹作・花き作経営編)」よりminorasu編集部作成
この統計を見ると、集計対象58経営体による集計結果の概況は、全体で作付面積が約1.26ha、全体の生産量が32,525kgです。ここから10a当たり生産量を計算すると2,583kgとなり、前出の統計とほぼ一致します。
また、全体の粗収益のうちレタスからの収入が525万7,000円で、これを全体の生産量で割ると1kg当たり粗収益が約162円となり、作況統計と卸売市場調査から算出した数値とほぼ一致しています。
同集計の分析結果として、部門全体での所得率は42.1%とされています。これをもとに、令和3(2021)年の統計結果にこの所得率をかけると、10a当たり約17万6,000円、1ha規模で約176万円の農業所得と算出されます。
露地レタス作の所得の試算
10a当たり | 1ha当たり | |
---|---|---|
出荷量 | 2,582kg | 25.8t |
1kg当たり卸売価格 | 162円 | 162円 |
粗収益試算 | 41.8万円 | 418.3万円 |
所得率 | 42.1% | 42.1% |
所得試算 | 17.6万円 | 176.1万円 |
出典:農林水産省の以下統計よりmiorasu編集部作成
「作物統計|作況調査(野菜)|令和3年産野菜生産出荷統計」
「令和3年青果物卸売市場調査報告」
「営農類型別経営統計|平成30年営農類型別経営統計(個別経営、第2分冊、野菜作・果樹作・花き作経営編)」
レタス農家の仕事内容は?
karikari/ PIXTA(ピクスタ)
レタス栽培に取り組むに当たっては、年収だけでなく仕事内容についても確認し、労働時間や必要な人員、費用などを見積もっておく必要があります。実現性のある栽培計画を立てられるように、より正確に仕事内容を把握しましょう。
レタス収穫期における1日の仕事の流れ
レタス農家が最も多忙な時期は収穫期です。この時期の仕事の流れを把握し、十分な時間や人手、予算を確保できるかをシミュレーションすることが、安定した経営には不可欠です。
レタスは暑さに弱く、高温期には収穫後の品質低下を防ぐために、気温が低い夜明け前、午前3時頃に収穫を開始します。収穫適期の見極めは難しいので、試しどりをして適期かどうか確認するとよいでしょう。8分結球ほどのものを収穫すると、鮮度の低下を抑えられます。
切り口が酸化し変色しやすいため、刃物は鉄製を避けてステンレスを用い、収穫直後に切り口に水をかけて洗浄するなどして変色を防ぎます。また、切り口を上に向けて置くことも変色の防止になります。
収穫したら、すぐにコンテナなどに積み込み、夜明け前には「早出し」と呼ばれる1回目の出荷を行います。早出しされた出荷分は、真空冷却装置などで予冷し、その日のうちに消費地に送られ、「朝どりレタス」として販売されます。
1回目の出荷のあとも収穫を続け、トラックを何往復もさせながらこまめに出荷します。気温の低い午前中に収穫適期を迎えたレタスをすべて出荷することが、品質・収量向上のためには欠かせません。
日が昇り、朝8時前には収穫を終えてマルチを片付けます。その後、比較的日差しが柔らかく気温の低い午前中に、苗への灌水などの育苗管理を行ったり、翌日の収穫のためにコンテナや段ボール箱の準備を行ったりします。
レタス栽培の収穫期では、収穫適期を逃さないことと、気温の低い午前中に手早く作業を終わらせることが重要なポイントです。時間が勝負なので、この時期に十分な人員を確保できるように準備を進めましょう。
レタス栽培の年間スケジュール
レタス栽培の作型は、一般的に「春播き」と「夏播き」に大別されますが、さらに細かく「春播き」「初夏播き」「夏播き年内どり」「秋播き冬春どり」に分けられます。
地域の気候や環境に適し、ほかの作物と作業が競合しないように、適切な作型を選択することが重要です。以下、作型ごとの栽培暦をまとめます。
タキイ種苗株式会社「野菜の作型と品種生態 栽培の幅を広げるために 12 キク科野菜 レタス・シュンギク・ゴボウ(タキイ最前線 2013年冬春号 2014 タキイ最前線 冬春号)」よりminorasu編集部作成
※この図以外に、寒冷地でも初冬播きや冬播きで春に収穫するハウス栽培を行う地域もあります。
春播きの場合、暖地や温暖地では「ステディ」「スターレイ」「デローサ」や、高温期栽培に適した「エクシード」「パトリオット」「タフV」などの品種を3月上旬~下旬に播種し、4月上旬~下旬に定植、5月から6月にかけて収穫します。
寒冷地では「オアシス」「ラプトル」「クリスタル」などの品種を4月上旬頃に播種し、5月上旬頃に定植、7月上旬頃に収穫します。
初夏播きは、寒冷地や高冷地向きな作型です。「シーカー」や「マイヤー」、耐暑性・耐病性に優れる「シルル」などの品種を5月下旬から6月下旬にかけて播種し、6月中旬から7月中旬にかけて定植、8月から9月上旬頃まで収穫します。
夏播き年内どりの場合は、暖地から寒冷地まで栽培できます。「サウザー」「サーマルスター」「ラプトル」「早生サリナス」「スターレイ」「クリスタル」などの品種を、気候や播種時期に合わせて選びましょう。
播種は寒冷地で7月頃、温暖地で8月頃、暖地では8~9月にかけて行い、それぞれ3週間~1ヵ月で定植します。収穫は、寒冷地で9~10月、温暖地で10月頃、暖地では11月から年内に行います。
秋播き冬春どりは、温暖地から暖地に向いた作型で、「D・Jジョイグリーン」「レオグランド」「チアフル」「シスコビバ」「アスレ」「レイヤード」「ツララ」「フルバック」などの品種が適します。
播種は9~12月にかけて、定植は10~2月にかけて行い、11月以降はトンネルまたはハウスで栽培します。収穫は1~4月にかけて行います。
安定経営につながるレタス栽培の工夫
tenjou / PIXTA(ピクスタ)
より品質を上げ、高単価をめざすために、栽培や経営において気を付けたい点や工夫について紹介します。
平均単価が高い冬春どり栽培
レタスは春と秋に収穫する作型が多く、その時期は単価が下がりやすい傾向にあります。しかし、需要は年間を通して安定的にあります。そこで、市場価格が下がりにくい時期を狙い、寒冷地・高冷地では夏どり、温暖地や暖地では冬春どりを意識することで、高単価をめざせます。
▼冬春どりレタスの栽培について、詳しくは以下の記事も参照してください。
地力を上げる土作り
レタス栽培の基本は、地力の高い土作りです。地力を高め、レタス栽培に適した土作りを行うことで、安定的に品質・収量の向上を実現しましょう。
レタスは湿度が高いと湿害や病害が出やすいため、排水性の高い土壌が適します。排水が悪い場合は、明渠(めいきょ)・暗渠(あんきょ)の整備などの排水対策を行ったうえで高畝栽培にするとよいでしょう。
ただし、乾燥しすぎても生育が悪くなるため、適切な灌水管理も重要です。
また、レタスは酸性が強い土を嫌い石灰を好むので、土作りでは苦土石灰を散布し、pH6.0~6.5に調整します。特に夏どりの作型では、干ばつ防止のためにpH6.5まで調整するとよいでしょう。
土作りでは堆肥の施用も重要です。レタスの生育には地力窒素の影響が大きく、特に結球始期からは窒素吸収量が急増しますが、多すぎても変形球や結球の遅れを引き起こします。
バランスがよく高い地力を維持するために、良質な堆肥を10a当たり2~3tを目安に投入しましょう。
レタス栽培で参考にしたい経営モデルや取り組み例
☆ムヒカ☆/ PIXTA(ピクスタ)
レタス栽培で高収益をめざすには、地域ぐるみで産地形成に取り組むのが効果的です。本記事の最後に、地域でレタス生産に取り組んでいる事例を3つ紹介します。
土作りからこだわった独自ブランド「野菜名人レタス」の確立
茨城県南西に位置するJA岩井では、JAグループ茨城の統一ブランドである「惚レタス」の生産のほか、独自ブランドとして「野菜名人レタス」を確立しています。
「野菜名人」とは、管内で有機質80%以上のオリジナル肥料や土作り資材を活用し、農薬の使用を必要最小限に抑えてレタスを生産する農家への称号です。
野菜名人ブランドのレタスは、首都圏の百貨店などで販売されています。また、GAP認証も積極的に推進し、付加価値の高いレタス作りに取り組んでいます。
加工業者との契約栽培、人材育成に力を入れた経営
長野県の「有限会社トップリバー」では、レタス栽培を通して経営能力の高い農業経営者を育成しています。
例えば、加工業者と直接販売契約を行い、生産者が価格決定権を持つことや、需要に応じたレタスを生産して付加価値を付けること、出荷時に余分な外葉を外せばkg単価を上げられることなど、経営に必要なノウハウを教えます。
さらに人材育成の重要性や、従業員の業務内容をマネジメントすることなども学び、農業経営者にとって重要な知識やスキルを身につけた人材が、ここから新規就農者として独立しています。
レタスの安定生産をめざし「土づくり研究会」を発足
兵庫県の南あわじ市では、もともと地域の畜産業と連携し、野菜の生産に堆肥を利用していましたが、牛の飼養頭数の減少により堆肥が不足するようになりました。そこで、地域のレタス生産者が中心となって、緑肥栽培を試行錯誤しながら始めました。
それをきっかけとして若手のレタス農家などが集まり、2019年に「南あわじ市土づくり研究会」を発足します。研究会では、毎年講師を招いて研修会を開いたり、意見交換や情報共有をしたりしています。
さらに毎年2回、緑肥の播種前とすき込みのあとにほ場の土壌分析を行い、自身のほ場の状態を把握し、より高品質のレタス栽培に活かしているとのことです。
レタスは年間を通して需要があり、年に複数回栽培できるので、比較的安定して収益を上げやすい作物です。ほ場の条件や投資できる額に応じて、取り組みやすい作型から導入してみましょう。
いずれの作型でも、排水対策をしっかりすることと、堆肥を投入し十分な地力を付けることが重要です。
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大曾根三緒
ビジネス、ペット、美術関連など多分野の雑誌で編集者として携わる。 全国の農業協同組合の月刊誌で企画から取材執筆、校正まで携わり、農業経営にかかわるあらゆる記事を扱かった経験から、農業分野に詳しい。2019年からWebライターとして活動。経済、農業、教育分野からDIY、子育て情報など、さまざまなジャンルの記事を毎月10本以上執筆中。編集者として対象読者の異なるジャンルの記事を扱った経験を活かし、硬軟取り混ぜさまざまなタイプの記事を書き分けるのが得意。