レタス栽培は冬どりが有利!? 安定経営を叶える“冬春どり”の栽培方法
冷涼な気候を好むレタスは春と秋に収穫する作型が多く、夏と冬は生産量が減ります。一方、需要は年間を通して一定量あるため、取引量が低下する時期に出荷すれば高単価が見込めます。そこで、特に冬どりレタスについて、単価を上げる栽培のコツをご紹介します。
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目次
レタスは気候に適した品種や作型を選ぶことで、暖地から寒冷地まで、年に数作の栽培が可能です。生産量の減る夏どりの作付けは寒冷地に適し、冬どりの作付けは温暖地のハウス栽培に適しています。この記事では、冬どりレタスの栽培方法について詳しく解説します。
高単価がめざせる、レタスの冬春どり栽培
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レタスには、丸く結球する品種のほか、非結球のリーフレタスやサニーレタス、白菜のような縦長に緩く結球するロメインレタスなど、多くの種類があります。昔から日本で栽培されている「かきチシャ」は、今では韓国語の「サンチュ」と呼ばれ焼肉のお供として人気ですが、これもレタスの一種です。
さまざまな品種の中でもやはり一番の人気は、お馴染みの玉レタスでしょう。一年中、食卓に並ぶサラダのほか、炒め物やスープにも使えるので冬でも安定した需要があります。
レタスは栽培適温18~23℃で冷涼な気候を好み、高温や低温の環境では育てにくいこともあって、春(5月以降)もしくは秋(9~10月)に収穫する作型が多く栽培されています。夏どりと冬どりの作付けはそれぞれ寒冷地、温暖地と産地も限られるため、全国的な収量は減少します。
実例として、東京都中央卸売市場の月報をもとにした都内全市場におけるレタスの取り扱い実績を見てみましょう。2018年4月から2021年9月までのデータを見ると、年ごとにばらつきはあるものの12月や1月はほかの月に比べて数量が少なく、平均単価が高い傾向があることがわかります。
出典:東京都中央卸売市場「市場統計情報・月報」よりminorasu編集部作成
出典:東京都中央卸売市場「市場統計情報・月報」よりminorasu編集部作成
取引量の少ない冬~早春にかけてレタスを安定的に出荷できれば高単価が見込め、後作でありながら農業経営の要となる可能性もあるでしょう。
レタスの冬春どりを叶える作型「無加温ハウス栽培」
無加温ハウスでのレタスの栽培方法について、概要を具体的に解説します。
無加温ハウス栽培の概要と、期待できるメリット
レタスは周年で市場に出回りますが、主な作付けは初夏から夏にかけて収穫できる春播き、晩夏から秋に収穫できる夏播き、冬から春に収穫できる秋播きの3つに分けられます。
秋播きは、暖地においては露地栽培でもトンネル・ベタ掛けなどで保温すれば収穫可能ですが、1月以降の収穫をめざすなら、無加温ハウス栽培がおすすめです。
無加温ハウス栽培とは、パイプハウスの中で内カーテンを使って保温し、燃料を使っての加温をせずに作物を栽培することです。
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レタスを無加温ハウス栽培にするメリットは、高単価となる時期に出荷できることだけではありません。夏秋果菜類の後作として丁度よく、冬場のパイプハウスを有効利用して所得を確保できること、加温しないため燃料代などのコストがかからないことなども大きなメリットです。
無加温ハウスによる冬春どりレタスの栽培暦
播種は、発芽適温である15~20℃の間、9~10月頃に行います。
播種から約1ヵ月後、10~11月にかけてが定植の適期です。
定植後はハウス内のレタス付近の温度をレタスの生育適温にあわせて保つ必要があります。レタスの生育適温は18~23℃、結球適温は20℃前後なので、その範囲になるよう内張りカーテンなどで調節します。
冬場でも積雪量が少なく、無加温ハウスの内張りカーテン内の温度を生育適温に保てる地域が、冬春どりに向いているといえるでしょう。
収穫は、品種によって幅がありますが、12月上旬くらいから3月中旬にかけて行います。一般的な秋播きよりも遅く、12月下旬に播種し4月下旬に収穫する「フルバック」という品種もあります。
無加温ハウスを活用した冬春どりレタスの栽培管理
それでは、無加温ハウスでの秋播き冬どりレタスの栽培管理のポイントを、栽培手順に沿って解説します。
なお、ここで紹介する栽培方法は、福島県農業総合センター 作物園芸部野菜科で公開している実用化技術情報を参考にしています。
出典:福島県農業総合センター 作物園芸部野菜科「実用化技術情報 冬期間の無加温ハウスを利用したレタスの栽培法」
播種~育苗期間
トマト大好き/PIXTA(ピクスタ)
先にも触れたとおり、播種はレタスの発芽適温である15~20℃の時期に行います。25℃度以上になると種が休眠状態になって発芽が悪くなり、4℃以下ではほとんど発芽しないので、適温期の播種を心がけましょう。
出典の福島県農業総合センターの栽培例では、セルトレイによる育苗で10月上旬~11月下旬に播種を行っています。
発芽には日当たりも重要なため、覆土はごく薄くします。ただし、発芽するまで覆土が乾かないように適度な灌水をしましょう。
播種後約5日で子葉が出て、約10日で第1本葉が出始めます。健苗にするには、温度管理とともに水分管理もポイントです。水分が多いと軟弱徒長しやすいので、夕方には表面が乾く程度の灌水量にとどめます。
また、水が溜まらないように、苗を植えたコンテナを地面から浮かして水を通せるケースや棚などの上に置きます。こうすることで、通気性もよくなり、温度の上昇も防げます。
セルトレイの場合、育苗日数は約20~25日で、本葉2~3枚で定植します。老化苗では定植後の活着が遅れ、収量や品質の低下につながるため、若苗定植がおすすめです。
定植~収穫まで
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福島県農業総合センターの定植時の栽培例によると、定植時の施肥量は10a当たり窒素成分で15kg程度です。栽植様式は畦幅60cm、条間45cm、株間30cmの2条植としています。
冬春どりの作型は低温期の栽培となるため、生長が緩慢で作期が長引きます。本葉12~13枚から結球開始しやすくなり、20℃以上の高温かつ長日の条件下では花芽分化が促進されます。
花芽分化後、抽苔までは温度によってかかる日数が変わります。25℃以上では約10日、20℃で約20日、15℃で約30日を目安とするとよいでしょう。
少しでも地温を上げ、併せて雑草や害虫を防ぐためにも黒マルチの利用がおすすめです。12月に入ったらハウスに内張りカーテンをつけ、適宜開閉して室温を25℃程度の適温に保ちましょう。
それでも低温になる場合は、レタスに不織布を浮きがけまたはベタがけ被覆するとよいでしょう。その方法で日中は3~4℃、夜間で2℃温度を高くする効果があると、群馬県の農業技術センターが研究成果として報告しています。
出典:出典:群馬県農業技術センター「平坦地における冬春どりレタスの作型開発」
ただし、不織布をかけっぱなしにすると風通しが悪くなって湿度が高まり、病害虫の被害が懸念されます。日中の温度が高い日には外して風を通しましょう。
収穫14日前には「寒締め処理」で品質向上
寒締めは、冬どりの作物ならではのもので、品質向上のために行う技術です。十分に生育した作物を一定期間低温にさらすことで、含水率の低下、糖・スクロース・甘味アミノ酸などの増加を引き起こし、品質や食味を向上させます。
寒締めは効果が出るまでに約14日かかります。寒締めを始める前に、十分な大きさに生育させましょう。それまでは内張りカーテンをつけ適温で管理し、少しずつ慣れさせるために寒締め初日から4日目までは日中のみ側窓を開放して外気を入れます。
夜間は内張りカーテンを閉めます。5日目以降は夜間も側窓を開放し、収穫まで14日ほど寒気にさらします。
参考までに、2006~2007年に農研機構で行った研究結果を見てみましょう。2007年2月1日~2月20日まで側窓を開放した結果、密閉時には平均8.6℃だった気温は平均4.8℃に、平均11.7℃だった地温は平均9.1℃に低下しました。
出典:農研機構「寒締めに適しているレタス品種」
また、研究は複数品種のレタスで行われましたが、品種によって食味性が向上したもの、低下したもの、低温性障害が出たものなど異なる結果が出ました。
農研機構では結果として、玉レタスでは「シリウス」と「サリナス88」が、リーフレタスでは「レッドウェーブ」と「レッドリッチ」が寒締めによる品質向上が期待できるとしています。
なお、この研究で低温性障害が出た品種は、「コスタリカ2号」「美味タス」「カットマン」でした。ただ、ほかの研究結果として、「カットマン」は低温性障害が発生しなかったとするものもあり、1つの研究結果だけでは断定できません。
寒締めは、うまくいけば品質を大きく向上させ、付加価値が得られますが、失敗すれば大きく品質を損ないます。気候や土地との相性も考えられるので、実施する前に少量で試し、適した品種かどうかを見極める必要があります。
冬春どりレタスの栽培で失敗しないために! 知っておきたいコツと注意点
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最後に、冬春どりレタスの栽培を成功させ、より収益を上げるためのコツと注意点をまとめます。
冬春どりの作型に適したレタス品種の選定が重要
冬春どり栽培を成功させるには、まず低温性障害に強い品種を選定することが重要です。
寒締めの項でも触れたように、複数の機関で冬春どりに適したレタスについて研究していますが、それぞれ異なる結果となっています。
その中でも、複数の研究結果が「冬春どり栽培に適している」と示しているクリスプヘッドレタス(玉レタス)は、寒締めでもよい結果を残した「シリウス」「サリナス88」、そして「シグマ」でした。
ただし、いずれも10年~20年ほど前とやや古い研究結果なので、より耐寒性の強い品種があるかもしれません。これらの品種を参考に、自身のほ場に最も適した品種を探してみましょう。
パイプハウスの保温性を高める工夫も施そう
レタスは比較的寒さに強い野菜ですが、-2℃を下回ると細胞が凍ってしまい枯死することもあります。また、低温によって生育が遅延し、収量が不安定になることも少なくありません。
無加温パイプハウスの保温性が足りない場合には、それを補うための工夫が必要です。その1つとして、上述したレタスへの不織布の浮きがけまたはベタがけ被覆を行いましょう。
ほかにも、農業用ビニールで作ったトンネルや、アルミ蒸着シートや空気緩衝材を組み合わせた保温も効果的です。
いずれも、それほど初期投資がかからずに効果が得られる方法なので、低温が心配されるときには積極的に試してみましょう。
mits / PIXTA(ピクスタ)
冬春どりレタスは高単価が期待でき、夏秋野菜の収穫後に冬場のパイプハウスを有効活用する方法として適しています。低温障害を起こさないように気を付けながら土地や気候に合った品種を見極め、食味のよい高品質な冬春どりレタスの生産をめざしましょう。
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大曾根三緒
ビジネス、ペット、美術関連など多分野の雑誌で編集者として携わる。 全国の農業協同組合の月刊誌で企画から取材執筆、校正まで携わり、農業経営にかかわるあらゆる記事を扱かった経験から、農業分野に詳しい。2019年からWebライターとして活動。経済、農業、教育分野からDIY、子育て情報など、さまざまなジャンルの記事を毎月10本以上執筆中。編集者として対象読者の異なるジャンルの記事を扱った経験を活かし、硬軟取り混ぜさまざまなタイプの記事を書き分けるのが得意。