【レタス収穫機】レタスの収穫作業を省力化するには?機械化の最新動向
レタス栽培農家にとって、収穫作業は時間がかかるだけでなく、長時間腰を曲げたり屈んだりするので身体的な負担も少なくありません。そのため、レタス栽培では、効率化・省力化の技術が求められています。この記事では、レタスの収穫作業をサポートする便利な農機とともに、レタス収穫機開発の現状を解説します。
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スマート技術が発達し、果菜類などでは自動収穫の開発が盛んですが、レタス栽培では収穫作業の機械化が遅れ、未だにほとんどの作業を人力に頼っています。本記事ではレタス収穫の現状と課題を解説します。
収穫作業は省力化できる? レタス収穫機の現状と必要性
korvo-kato / PIXTA(ピクスタ)
レタスは軽量野菜といわれ、比較的労力のかからない作物とされますが、収穫や調整作業には多くの時間を要します。
実際、農林水産省の「令和3年営農類型別経営統計」で露地レタス栽培における作業別の労働時間を見ると、全労働時間2,101時間の中で収穫・調整にかかる時間は878時間で、全体の4割以上の時間がかかっていることがわかります。
出典:農林水産省「令和3年営農類型別経営統計|個人経営体の部門収支」よりminorasu編集部作成
このように、収穫・調整作業に時間がかかってしまうのは収穫・調整作業の機械化が遅れていることが要因の一つです。
例えば、全国でもレタス栽培が盛んな長野県の機械化状況を見ると、2006年には既に畝立てやマルチ、移植作業では全面マルチを省力化できる「土入れ全面マルチャー」や、セル苗から自動で移植できる「自動移植機」、防除作業では「大型ズームスプレイヤー」などが普及しています。
一方、収穫や調整作業を効率化・省力化できる機械は、まだ試験的に導入されている段階でした。
レタスほ場 ズームスプレイヤーによる防除
kikisorasido / PIXTA(ピクスタ)
レタスの収穫作業
kikisorasido / PIXTA(ピクスタ)
また、収穫作業は、労働時間だけでなく作業者の体への負担が大きいことも問題です。
レタスの収穫では刃物で地際の茎を切り取るため、長時間腰を曲げ、屈んだ姿勢で作業します。こうした姿勢を続けることが作業者の負担となり、作業効率を下げる要因となります。
さらに、収穫作業の重労働は高齢農家にとって負担が大きいため、栽培を続けられなくなり、人手不足を助長する可能性もあります。
レタス農家として規模を拡大し、売上と利益のアップを図るには、この収穫や調整作業の省力化・軽労化が重要なポイントとなります。
収穫したレタスをコンテナに詰める作業
karikari / PIXTA(ピクスタ)
レタスの収穫・調製を省力化する、3種類の農業機械
2023年8月現在、植物工場の栽培システムを除けば、レタスの収穫・調整作業を全て自動で行える農機はまだ開発されていないようです。レタスの切り取りや運搬など、作業の一部を自動化する技術は開発が進んでいるようですが、まだ普及には至っていません。
しかし、レタスの収穫・調整作業をサポートする農機なら既に販売されていますので、それらを活用して作業時間・労力を省力化するとよいでしょう。
以下では、レタスの収穫・調整作業に活用できる農機について、実際の製品を紹介しながら解説します。
収穫したレタスの運搬を軽労化 「野菜運搬車」
収穫したレタスをコンテナなどへ運搬する作業も、大きな負担となる工程の1つです。そこで役に立つのが「野菜運搬車(野菜作業車)」です。
野菜運搬車は、畝幅や作物の高さに合わせて、トレッド(左右それぞれのタイヤが地面と接している部分の中心間の距離)や荷台の高さ、荷台幅などを調整でき、コンテナなどの荷物を載せて畝をまたいで走行できる車です。
導入すれば、コンテナを積んで収穫するスピードに合わせて畝の上を進み、収穫しながら運搬できるようになるので、移動の手間が省けます。また、マルチを剥がす際に活用すれば、剥がしたマルチを積んで進めるので、作業を効率化できます。
ヤンマー 「野菜作業車 NC14,XHW」
画像提供:ヤンマーアグリ株式会社「野菜作業車 NC14,XHW」
ヤンマーホールディングス株式会社の「NC14,XHW」は、畝をまたいでラクに運搬作業ができる「野菜作業車」です。
300kg積みで、荷台の長さは1,350mmです。最低地上高は610~910mmの5段階で、トレッド幅は1,150~2,100mmで調整できるため、作物の高さや畝幅に合わせることができます。
また、車輪はロングクローラで、重い荷を載せても、作物の葉などで滑ることなく安定した走行を保てるため安心・安全です。
キャベツや大根などの重量野菜や、水稲を含む育苗箱の運搬にも使用する場合は、同機種の500kg積み「NC16A,XHW」がおすすめです。
製品ページ:ヤンマーホールディングス株式会社「野菜作業車 NC14,XHW」
アテックス 「高床作業車 楽畝 XGH600B」
株式会社アテックスの「楽畝」は、超低速走行ができる高床作業車です。最大作業能力600kgで、荷台の長さは2,050mmです。最低地上高は510~610mm、中心距離は900~1,700mmで調整できます。
重量のある野菜を積んでも安定した走行ができるクローラタイプです。また、地上300mmまでのクローラ部に突起がないので、走行中に畝上の野菜を傷付ける心配がありません。
製品ページ:株式会社アテックス「高床作業車 楽畝」
トンネル・マルチの剥ぎ取り・回収作業を省力化 「マルチ回収機」
マルチ栽培やトンネル栽培をしている場合、収穫後にマルチを剥ぎ取ったり、数km分にもなる資材を回収する作業も時間がかかり、かなりの重労働です。特に大規模経営の場合は機械化が不可欠です。
マルチの剥ぎ取りと回収作業は、マルチ(トンネルマルチ)回収機を使えば省力化できます。
岡山農栄社「MHS-140SK」
株式会社岡山農栄社のマルチサブソイラーセット「MHS-140SK」はトラクタ搭載仕様で、トラクタに取り付けて乗ったまま作業できます。
サブソイラー、ターンテーブル、マルチ巻取機を組み合わせて使用し、サブソイラーで土をほぐすことで、走行しながらのマルチ巻き取りを容易にします。
機体寸法は幅1,400mm、高さ1,640mm、適用畝幅は700~1,200mmです。機体の幅が1,800mmで、適用畝幅が700~1,500mmの「MHS-180SK」もあります。
製品ページ:株式会社岡山農栄社「野菜関連」
藤木農機製作所「フジキ トンネルマルチはぎとり機 MKF-75B」
株式会社藤木農機製作所の「トンネルマルチはぎとり機 MKF-75B」は、畝をまたいで走行しながらトンネルマルチの剥ぎ取りと巻き取りが同時にでき、さらに1人の作業で毎分50mという高能率を実現しています。
また、巻き取ったマルチはワンタッチで簡単にドラムから抜くことができます。
全長は1,700~2,100mm、全幅は1,100~2,200mmで、車輪幅を調整し、畝幅90~175cm、高さ75cmまで対応できます。トンネルマルチだけでなく、畝マルチの巻き取りにも活用できます。
製品ページ:株式会社藤木農機製作所「製品紹介」
レタス出荷前の調製作業を効率化 「製函機(せいかんき)」
収量が増えると、収穫後の調整作業にも多くの時間と労力が必要になります。調整作業には、出荷用にダンボール箱を組み立てる作業を省力化できる、「製函機」という機械が便利です。導入すると、意外に時間のかかる「箱を作り置きする手間」を減らせます。
共和「手動調整型封函機 S2T」
画像提供:株式会社共和「手動調整型封函機 S2T」
株式会社共和の「手動調整型封函機 S2T」は、1台で製函と封函どちらも行える機械です。1分間に最大10ケースを包装でき、箱詰めの作業を大幅に省力化できます。
実際の作業では、手動で箱の高さと幅を調整し、箱を組み立てて機械に挿入します。すると、素早く正確にテープが貼られます。ケースサイズは長さ150~1,000mm、幅150~430mm、高さ150~540mmで、テープ幅は36~50mmまで対応できます。
製品ページ:株式会社共和「手動調整型封函機 S2T」
自動収穫ロボットも!? 「レタス収穫機×スマート農業」の最新動向
先述したように、2023年8月時点でレタスの自動収穫機は実用化していませんが、自動化や収穫ロボットの開発は各地で進んでいます。その最新情報として、イギリスと長野県における開発事例を紹介します。
レタス自動収穫ロボットの開発を開始 (イギリス)
イギリスを含むヨーロッパでも、日本と同様に、レタスの収穫作業に携わる労働者不足が課題となっています。
そこで、農業工学と機械の専門家などによるイギリスの研究チームは、ドイツの産業用カメラメーカーIDS(Imaging Development Systems GmbH)社と共同で、レタスの自動収穫ロボットを開発しています。
自動収穫ロボットは、既存の収穫機械を改造して作られたもので、地面からレタスを持ち上げピンチベルトで挟み、外葉を取り除いてから茎を切断します。切断する位置は、カメラで画像を捉え、マシンビジョンとAIで判定します。
2021年にはプロトタイプをイギリスで現地試験しています。高性能なカメラと急速に進化を続けるAIの技術を駆使したレタス収穫ロボットで、実用化が待たれています。
出典:
アイ・ディー・エス株式会社「レタスの収穫を自動化するロボットソリューション」
株式会社国際農業社 運営「農村ニュース 2022年2月21日|レタス収穫を自動化 IDSが英・研究チームと共同開発」
レタスの自走式収穫機や、自動収穫ロボットを開発中 (長野県)
日本でもレタスの自動収穫の研究・開発が行われています。
長野県では、県内のレタス農家に全面マルチ栽培が普及しており、収穫から箱詰めまでをほ場内で行うという作業体系を取っていることから、その実情に沿った自動収穫機を2002年に開発しました。
これは全面マルチ栽培のレタスを前提にしており、自走しながら一斉収穫するしくみで、AIやセンサーなどは使用していません。クローラ式で、畝2本をまたいで走行し、畝の最も高い位置で鎌刃によって押し切ります。
調整作業と箱詰め作業は、作業者2人が機械の後方をゆっくり歩きながら手作業で行います。搬送ベルトで持ち上げられたレタスを調整作業者が切り直し、貯留、洗浄したあとに箱詰め作業者が選別して箱に詰めます。
この機械の能率は、2人による作業で1時間当たり早ければ27箱です。ただし、この収穫機は同じ位置で一斉に切り取るため、均一に栽培する必要があることや、変形球や深植球などに対応できない点が課題です。
出典:一般社団法人全国農業改良普及支援協会 ・株式会社クボタ「みんなの農業広場|長野県におけるレタスの機械化一貫体系」
また、長野県では、2016年から信州大学が中心となって、レタスの自動収穫ロボットシステムの開発を手掛けています。このロボットは、高精度のセンサーや画像処理技術によって地面の位置を検出し、刃の位置を調整して茎を切り取ります。
キャベツとレタスの収穫が可能で、ほ場実験での性能評価試験では、キャベツは100%(13/13)、レタスは85%(12/14)の収穫成功率を上げています。
さらに、レタスの収穫に欠かせない切断後の乳液処理については、従来の水洗いではなく、2~3秒という短時間の処理で乳液を停止させる技術も開発しています。
この技術が実用化すれば、より精度の高い収穫が短時間で可能になります。10a当たり6時間で自動収穫する効率の実現やコストダウンに向け、さらに研究が続けられており、実用化に期待がかかっています。
出典:農林水産省「農林水産業におけるロボット技術開発実証事業(研究開発)」所収 「結球葉菜類の⾃動収穫ロボットシステム研究開発」
kikisorasido / PIXTA(ピクスタ)
レタス栽培の現場では、収穫の人手不足が深刻で、機械化・省力化が強く望まれています。日本だけでなく、世界でも自動収穫機の研究・開発が進められており、AIなどの発達によって技術も飛躍的に向上しています。
当面は、費用対効果を踏まえて、運搬車やマルチ回収機など収穫をサポートする機器を活用しながら、自動収穫機・収穫ロボットの実用化を待ちましょう。
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大曾根三緒
ビジネス、ペット、美術関連など多分野の雑誌で編集者として携わる。 全国の農業協同組合の月刊誌で企画から取材執筆、校正まで携わり、農業経営にかかわるあらゆる記事を扱かった経験から、農業分野に詳しい。2019年からWebライターとして活動。経済、農業、教育分野からDIY、子育て情報など、さまざまなジャンルの記事を毎月10本以上執筆中。編集者として対象読者の異なるジャンルの記事を扱った経験を活かし、硬軟取り混ぜさまざまなタイプの記事を書き分けるのが得意。