BASF We create chemistry
ダイレクトマーケティングで年商1.4億円を実現した富良野のメロン農家【後編】飛躍の秘訣は経営者の成長
出典 : 寺坂農園Facebookページ2017年1月30日より
  • 農業経営

ダイレクトマーケティングで年商1.4億円を実現した富良野のメロン農家【後編】飛躍の秘訣は経営者の成長

「お客さまに直接メロンをお渡しする」という直販手法で右肩上がりの成長を遂げた寺坂農園。しかし、その道のりには数多くの試練がありました。「除草剤事件」などの致命的な障害をどう乗り越えてきたのか、後編ではその秘訣をご紹介します。

寺坂農園は、メロンだけでなく、グリーンアスパラガス、ホワイトアスパラガスの栽培を行う

メロンだけでなく、グリーンアスパラガス、ホワイトアスパラガスの栽培を行う
出典:感動野菜産直農家寺坂農園ブログ2020年6月3日より

寺坂祐一さんプロフィール

寺坂農園株式会社 代表取締役 寺坂祐一(てらさかゆういち)さん

1972年12月19日北海道空知郡中富良野町生まれ。富良野農業高校を卒業後、特別専攻科に2年通って家業の農家を継ぐ。

年商600万円、借金1400万円という貧乏生活からの脱却を目指してメロン栽培に進出。周囲の反対を押し切って直売所をオープン。

31歳のとき、コンビニで偶然手に取った本でダイレクトマーケティングを知り、事業改革を始めて急成長を遂げる。著書は『直販・通販で稼ぐ!年商1億円農家』『零細メロン農家・年商1億までの奮闘記 農家はつらいよ』(同文館出版)。

家族は妻(専務)と1男1女。

お客さまが喜ぶ商品を作ってお届けする

ホワイトアスパラガスの収穫期とメロンのツル取り作業が重なって大忙し

ホワイトアスパラガスの収穫期とメロンのツル取り作業が重なって大忙し
出典:寺坂農園Facebookページ2016年6月8日より

前編「直売と通販で年商23倍へ」では寺坂さんが家業の農家を継いでからメロン専業への道を選び、直売、通販を始めて右肩上がりの歩みに至るまでを伺いました。今回の後編では、経営者としてのご苦労を中心にお聞きしていきます。寺坂さんは事業に取り組みながら自身がどんどん成長してきたと言いますが、経営ポリシーもそれにつれて変わってきたそうです。

寺坂 以前は「自分で売ることのできない農作物は作らない」というポリシーでした。それに沿ってメロン専売を決断し、直販、通販を始めてきたわけです。しかし、多くのお客さまと直接触れ合う経験を積み重ねてきたことでそれが昇華して、「お客さまが喜ぶ商品を作ってお届けする」に変わってきました。今はこのことしか考えていません。

「お客さまが喜ぶ」ことのためには「人手のかかる商品」も作る

「お客さまが喜ぶ」ことを最優先にする。その姿勢は顧客満足度を重視するマーケティング戦略そのものです。そのためには、効率重視の考え方から大きく外れる選択をしたこともあり、仕事のほとんどを占める「人手による作業」が増えることも厭わなかったそうです。

寺坂 今、以前から作っていたグリーンアスパラガスに加えて、ホワイトアスパラガスも作っています。実は、これは経営的には悪手なんです。メロンは栽培にすごく手間がかかる作物ですが、アスパラガスはメロンと作業の時期が重なります。5月のメロンのツルを一生懸命取らなければならない時期がアスパラガスの収穫期。経営のことを考えたら、時期的に収穫期が重ならない作物にするべきなんです。

なぜ「経営的に悪手」であるホワイトアスパラガスの生産を決意したのかという質問に、寺坂さんは笑って答えてくれました。「自分たちが腰を抜かすくらいおいしいと思っているものを、お客さまに提供しないわけにはいかないでしょう?」と。

寺坂 札幌の居酒屋に行ったときに、ホワイトアスパラガスの炭火焼きを食べたんです。私は小学生のときからアスパラガスの栽培を手伝っていましたから、「アスパラガスなんか珍しくもなんともない」という感じだったのに、食べたら「何だこりゃ、アスパラガスってこんなにうまかったのか!」と仰天しました。こんなにおいしいものは、うちのお客さまにもお届けしなければならない。だけど近隣の農家で作っている人はいない。ならばうちがやらねば、ということで始めました。

寺坂さんはホワイトアスパラガスのおいしさに感動して作り始めた

ホワイトアスパラガスのおいしさに感動して作り始めた
出典:寺坂農園Facebookページ2019年5月28日より

安売りをしないでよい商品を

直販農家の目指す道は、自分たちのブランド化です。ブランド化してお客さまに覚えてもらい、選択してもらうようになれば、価格競争から逃れて適正価格でのビジネスができるからです。そして囲い込みに成功すれば、宣伝、販促にかかるコストも下げられます。すでに寺坂農園は「富良野のメロン産直農家」としてブランド化し、高い知名度を得ています。

寺坂 5年くらい前までは、「寺坂は富良野の名前を使って自分だけ儲けている」と陰口を叩かれていたんですが、今では「寺坂が富良野メロンの価値を上げてくれたので、自分たちも助かっている」と言われるようになりました。これからも、20年前の私のような仲間たちと一緒に、安売りをしないでいい商品をお届けしていきたいですね。

一番うれしかったのは、クラウドファンディングの成功

寺坂農園 除草剤事件。クラウドファンディングで目標を達成したときの画面

クラウドファンディングで目標を達成したときの画面
出典:寺坂農園Facebookページ2018年2月3日より

あるとき、順風満帆に見えた寺坂さんを悪夢が襲います。何者かがビニールハウスに忍び込み、収穫を待っていたメロンに除草剤をかけたのです。メロンは全滅し、寺坂さんは金銭的な被害とともに、大きな精神的ダメージを受けました。被害金額は1,600万円。その苦境を乗り切るために選んだのは、クラウドファンディングでした。

寺坂 被害金額は1,600万円ほどでした。銀行から融資を受けて倒産は回避できましたが、融資は一時しのぎでしかありません。知人からのアドバイスもあり、マクアケ※で「メロン除草剤事件を乗り越える! 挽回に向けて【寺坂農園】回復プロジェクト」というクラウドファンディングを立ち上げました。

※株式会社マクアケは、クラウドファンディングサービスを行う会社。

精神を病み、うつ病を発症していた寺坂さんにとって、初体験のクラウドファンディングは大ばくちでした。周囲からは悪口も聞こえてきて、もし失敗したらもう後がありません。しかし、断崖絶壁に立たされた寺坂さんに、運命の女神は微笑みました。

寺坂 本当にギャンブルでした。それまでに人間関係で不信感がつのり、うつになっていましたから。うつ状態で死にそうなのに、さらに清水の舞台から飛び降りるようなプロジェクトを立ち上げたわけです。でもスタートからわずか5日という記録的な速さで目標額1,600万円を達成。すぐにプロジェクトを停止したのですが、1,823人の支援者が1,860万円を支援してくれました。「私は応援されている。生きててよかった」と思った瞬間でした。

インタビュー中、寺坂さんに「これまでで一番嬉しかったことは何ですか?」という質問をしてみたところ、即座に返ってきた答えが「クラウドファンディングでみんなが支援してくれたこと」でした。なるほど、このエピソードを聞けばうなずけます。

寺坂 そのほかにも嬉しかったことはいろいろあるんです。直売所に来たお客さまが、いきなり20万円分のメロンを買ってくれたこととか、電話注文で「会社のお中元にしたいから」と40万円分買ってくれたこととかもありますが、やっぱり一番はクラウドファンディングでお客さまが助けてくれたことですね。

事業計画は一人で立てる

寺坂農園はトウモロコシやミニトマトの直販も行っている

トウモロコシやミニトマトの直販も行っている
出典:寺坂農園Facebookページ2017年9月14日より

そんな寺坂さんですが、農園の事業計画は一人で立てているそうです。以前は民主的な経営を目指していたそうですが、うまくいかず退職者を出してしまいました。それ以来、年間計画は誰にも相談せずに、一人で立てるようになりました。

寺坂 中小企業って、結局はワンマンでないと回らないと思うんです。2年前くらいに「みんなで経営しよう」という姿勢で毎週会議やりながら経営方針を決めていたんですが、学級会みたいに「あれもやろう、これもやろう」でまとまらず、揉めた結果、今のやり方になりました。

北海道は冬が農閑期なので、毎年1月に前年の決算を見て事業計画を立てます。まずお客さまの要望をかなえることを前提にして、「去年はこの時期のメロンが足りなかった」「ここでトウモロコシが不足した」といった反省を踏まえて生産計画を立てます。それにいくらで売るかを決めて掛け算すれば売上が出ます。そこから経費を引いて計算し、月ベースの資金繰り表を作り、資金の不足があれば資金繰り表を持って銀行に行きます。まあ、黒字決算でないと貸してくれませんが。

現在取引のある金融機関は、銀行2行と信用金庫1行、あとは政策金融公庫です。

大所帯になった寺坂農園のマネジメント

寺坂農園のスタッフは少しずつ増えていて、現在は総勢で40名。大所帯になりましたが、チームワークを維持するマネジメントを工夫しておられます。新型コロナウイルス感染症の緊急事態宣言解除を待って2020年6月に、寺坂さんの『農家はつらいよ』の発刊(同文舘出版 2020年5月13日発刊)を祝うバーベキュー大会がスタッフによって企画されました。そのときに出席したのは37名。どうしても都合で来られない3名が欠席したのみでした。出勤日が違い、シフトが異なる人たちがこれだけ顔を揃えるというのはすごいことです。

寺坂 現在の寺坂農園は、私と家内が役員で、そのほかに社員が3名。あとは通年パートと季節パートが合わせて35名なので、合計40名になります。まったく「働き方改革って何?」という感じの労働状況で、一つひとつの作業におびただしい手間と人手がかかっています。

大所帯になった寺坂農園の意思統一を図る場が、朝礼ならぬ「昼礼」です。内容が盛りだくさんで、一人一人の参加意識を高める工夫がある昼礼は、寺坂農園の名物といえるでしょう。

寺坂 うちの昼礼は、まず家内(専務)から作業の注意点などを話し、次に私が社長っぽい自己啓発的な話をします。私の話は3分と決めています。それからお客さまからのお手紙を読んで、みんなの仕事がどういう喜びにつながっているかを共通認識にします。

その次に、毎回1名を指名して「よかったこと、楽しかったこと」を発表してもらいます。これは各人が「幸せ見つけ上手」になるための訓練です。

そして「褒めワーク」。誰かを指名して褒めることをやってもらいます。たとえばAさんが発表する場合、「私はBさんを褒めたいと思います。Bさんはこの前、こういう状況でこんなことをしてくれました。すばらしいと思いました」のように話します。最後はみんなでスローガンの唱和をして解散です。

数々の「壁」をどう乗り越えるか

寺坂農園作業風景。スタッフをうまくまとめることも経営者の資質の一つ

スタッフをうまくまとめることも経営者の資質の一つ
出典:寺坂農園Facebookページ2017年5月17日より

寺坂さん曰く、経営者には成長の過程でいくつかの壁が試練として訪れるといいます。寺坂さんはそれらの「壁」にどのように向き合い、どうやって突破してきたのでしょうか。

寺坂 プライベートでの壁はあまりにも多すぎたので、今お話しすると時間が膨大にかかってしまいます。なのでそちらは著書を読んでもらうとして、経営者としては「1・3・5の壁」というものがあると思います。売上1,000万円、3,000万円、5,000万円のところに乗り越えないと成長できない障害があらわれるという考え方です。私もこれをまともに経験しました。

 まず「1,000万円の壁」とは、家族経営の限界です。家族だけでがんばれるのは年商1,000万円前後までなんです。そこを超えるには何か突出した才能とか能力がないとむずかしい。うちで言えばメロン専業に特化して直売所を出したことですね。それで3,000万円くらいまでは行きます。

 次が「3,000万円の壁」です。ここからは雇用問題が出てきますから、経営に仕組みづくりが必要となります。それをしないでやたらに人を雇うと、すぐ胃に穴が開きますよ。何もしていなくても「パワハラ」とか言われますから。

 そして「5,000万円の壁」です。今度は資金関係の問題ですね。広告を打つとか、融資とか、いろいろとお金が必要になってきますが、それをどう工面するか。

 それを超えると「1億円の壁」です。これは家業が企業になれるかどうかの分岐点です。さらに2億、3億の壁があるそうですが、これは私もまだ経験していないので、よくわかりません。

左が寺坂さんの著書1作目。右が今年5月に上梓された2冊目

左が寺坂さんの著書1作目。右が今年5月に上梓された2冊目

私たちはインタビューの最後に、「壁を乗り越えるための経営者の条件」を寺坂さんにお聞きしました。寺坂さんは目をつぶってしばらく考えた後で、次のように答えてくれました。

寺坂 それは経営者の人間的成長にかかっていると思います。それも、何か1つの方向で成長するのではダメで、あらゆる方向での成長が求められます。中小企業同友会などでよく言われる「社長の全人格的成長」というやつですね。

スタッフをうまくまとめ、事業計画を立て、情報発信力があり、変化への対応ができ、仕組みづくりがうまく、家族とも仲がいい。それらのすべてが売上につながるのだと考えています。


【前編はこちら】「直売と通販で年商23倍へ」

山崎 修

山崎 修

学習院大学理学部化学科卒、平凡社雑誌部勤務を経て独立し、現在は書籍・雑誌編集者、取材ライター。主戦場は書籍のゴーストライティングで常時5、6冊の仕事を抱えており、制作に関与した書籍・雑誌は合計で500冊を超える。ほかにもメルマガの書評連載から講演活動、1人出版社としての活動まで守備範囲は広い。

recommended