【スリップス対策】アザミウマ類に効く農薬&防除法紹介
スリップスは和名をアザミウマといい、アブラムシと同様に初夏から初秋にかけ多種多様な植物に寄生する害虫です。寄生すると葉や花、果実から吸汁し変色・萎縮・奇形などがあらわれ、作物 に大きな被害をもたらします。発見も防除 も難しい微小害虫スリップス(アザミウマ類) について詳しく解説し、防除方法を紹介します。
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一見、虫は付いていないようなのに葉や花に白や褐色の斑点、黒っぽい汚れ、萎縮や奇形が見られたら、スリップス(アザミウマ類) が寄生しているかもしれません。
体長1~2mmの小さな吸汁性の虫で多種多様な植物に寄生します。見つけにくく防除も難しいうえに 、ウイルスを媒介したり植物が枯死したりする深刻な被害も報告されています。
そんな厄介な微小害虫スリップス(アザミウマ類) の生態や特徴、有効な防除の 方法を知り、大切な作物を被害から守りましょう。
スリップス(アザミウマ類)の種類と生態
英名スリップス(Thrips)、和名をアザミウマといい、アザミウマ類は日本全土で200種以上が確認されています。
中でもネギアザミウマ、チャノキイロアザミウマ、ヒラズハナアザミウマ、近年侵入した外来種であるミカンキイロアザミウマ、ミナミキイロアザミウマの54種 は作物 への被害が特に大きい重要害虫です。
梅雨~初秋にかけて見られ、夏の暑い時期に大繁殖します。休眠しないため園芸施設内では冬でも発生します。
体長1~2mmと小さいうえに花の中や葉の付け根、地面に近い場所など見えにくい場所に好んで生息し、葉や花の内部に侵入して吸汁するために発見も防除も困難です。成虫には翅(はね)があり5mほどの飛翔能力を持ちます。
スリップス(アザミウマ類)の発生原因と被害の特徴
ilixe48 / PIXTA(ピクスタ)
寄生対象となる作物が非常に多岐にわたり、名前の通りアザミやタンポポ類などの雑草にも多く生息し、複数の作物を同じ場所で育てたり、雑草が多かったりすると発生しやすくなります。購入した株や苗から持ち込まれるケースも多く見られます。スリップス(アザウウマ類)は種によって好む場所が異なります。
花に寄生した場合、茶色のシミや白斑が全体に広がり、被害が進むと変形により開花できなくなります。
葉に寄生した場合は色あせや白い斑点、萎縮や奇形葉などが見られ、果実ではがく近くの表皮がかさぶた状や凸凹状になり、ひどくなると正常に大きくならず、結実できないこともあります。
また、黒っぽい排泄物で寄生箇所が著しく汚れたり、ウイルス病を媒介したりする被害にも注意が必要です。
被害を受けやすい作物
多くの作物で注意が必要で、特にナスやピーマン、トマトなどのナス科植物、ネギやアスパラガスなどのユリ科植物、バラやイチゴなどのバラ科植物、きゅ うりやすいか、メロンなどのウリ科植物、ぶどうや柿などの果樹が被害を受けやすい作物 です。
スリップス(アザミウマ類)の防除対策
rogue / PIXTA(ピクスタ)
スリップス(アザミウマ類)は抵抗性発達がとても早く、個体群によっては効きにくくなった農薬 も存在することから、農薬以外の防除対策も重要です。
早期発見がカギ
繁殖するほど防除が難しくなるため、防除対策には早期発見が欠かせません。卵は比較的見つけやすいので、葉の裏をこまめにチェックしましょう。成虫が青・黄色に誘引される性質を利用して青や黄の粘着トラップを仕掛けておくと、発生の有無を発見しやすくなります。
連作を避ける
スリップス(アザミウマ類)は、夏場は短い期間で繁殖を繰り返し、1ヵ月で300倍にも増殖します。特に蛹は土中にいるので、寄生されたことに気付かず 連作をすると新しく植えられた作物で もすぐに繁殖してしまいます。
連作による繁殖拡大を防ぐために、同じ種類の作物の連作を避け、やむを得ない場合は次の作付けまで20日以上の期間を空けることで蛹から羽化した成虫を餓死させましょう。
雑草や枯れた蕾をこまめに取り除く
近隣の雑草から作物 に寄生するケースも多く、こまめな除草が必要です。成虫の飛翔能力は5mほどなので、ほ場の周囲5m以内に抜いた雑草や寄生されて切除した葉や蕾などを放置してはいけません。ほ場周辺の観賞用の花も発生源になりやすいため、5m以上の距離を置きましょう。
防虫ネットや紫外線除去フィルムで成虫の飛来を防ぐ
防虫ネットで成虫の侵入を防いだり、紫外線除去フィルムを張って行動を抑制したりすることで、成虫の寄生を防げます。
天敵となる生物農薬を利用する
「スワルスキーカブリダニ」や「タイリクヒメハナカメムシ」など、天敵となる生物農薬が有効です。天敵による捕食を利用した防除のため、慣行の化学農薬に加えて生物農薬を利用すれば、スリップス(アザミウマ類)の薬剤抵抗性の発達リスクを抑える ことができます。
長期間効く農薬(浸透移行性剤)を使用する
スリップス(アザミウマ類)は、卵→幼虫→蛹→成虫と完全変態をしながら繁殖を繰り返します。農薬を使用する場合は、ふ化や羽化をしたあとにも効果を発揮するように、即効性農薬とあわせて長期間効果が持続する農薬を使用するとより効果的です。
スリップス(アザミウマ類)防除に効く成分とおすすめ農薬
写真提供:BASFジャパン株式会社 アグソリューションファーム成東
どんなに気 を付けても、どこからともなく侵入し繁殖してしまったら、速やかな防除が大切です。スリップス(アザミウマ類)には農薬が有効で、使用にあたっては種類によって有効なものを選びます。
基本的に、有機リン系、フェニルピラゾール系の殺虫剤や、キチン合成阻害剤などが有効とされています。ただし、種類や成長段階によっても効きやすい成分が異なるため、発生状況に応じて選ぶことが大切です。
特におすすめの農薬を紹介 します。なお、ここで紹介する農薬は2020年6月現在登録のあるものです。実際に使用する場合は必ず製品のラベルを確認し、地域の防除暦などの指導に沿って使用しましょう。
ネオニコチノイド系薬剤
ネオニコチノイド系薬剤とは、昆虫の神経伝達を阻害することで殺虫効果を持つ殺虫剤の総称で、農業以外にも様々な用途で広く使われています。
殺虫剤 としては、昆虫に選択的に作用すること、効果が長く持続すること、水溶性で植物の葉や茎によく浸透することが特徴で大規模に使われています。植物体全体に薬効がゆきわたるので、スリップス(アザミウマ類)のようにごく小さい害虫にも有効です。
日本で現在農薬として登録されている有効成分は7種類で、これらを主成分とする代表的な殺虫剤 としては「ダントツ水溶剤」「モスピラン顆粒水溶剤 」「アドマイヤーフロアブル」などがあります。
カスケード乳剤
ふ化や脱皮の際に表皮を作るために必要なキチン質を合成できないようにする効果のあるキチン合成阻害剤です。
遅効性ですが効果が長く持続し、特に幼虫や新しく生まれた卵に効果を発揮するので繁殖が抑制できます。また、天敵や作物に有益な訪花昆虫への影響が少なく、生物農薬との併用も可能です。
前述の、被害の大きな54種 のスリップス (アザミウマ類)をはじめ、ほとんどの種に効果があり、また、葉菜 類、果菜類、根菜類、豆類、果樹、花きなどほとんどの作物に使用できます。
コテツフロアブル
有効成分のクロルフェナビルが害虫の体内で代謝活性化することで呼吸を阻害する、殺虫剤として唯一のピロール系呼吸系阻害剤です。
ユニークな作用性をもつため、既存の殺虫剤に感受性が低下した難防除害虫に対しても高い効果を示します。
殺虫スペクトラムが広く、チョウ目、アザミウマ目、ダニ目、カメムシ目、コウチュウ目、ハエ目などさまざまな害虫に有効です。
適用作物が多く、100以上の幅広い作物に使用できます。
スリップス(アザミウマ類)は発見しにくく防除も困難で、繁殖が進むと作物全体を枯死させるほどの被害をもたらす厄介な害虫です。適切な防除対策と有効な農薬を併用し、早期発見、早期防除に努めましょう。
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大曾根三緒
ビジネス、ペット、美術関連など多分野の雑誌で編集者として携わる。 全国の農業協同組合の月刊誌で企画から取材執筆、校正まで携わり、農業経営にかかわるあらゆる記事を扱かった経験から、農業分野に詳しい。2019年からWebライターとして活動。経済、農業、教育分野からDIY、子育て情報など、さまざまなジャンルの記事を毎月10本以上執筆中。編集者として対象読者の異なるジャンルの記事を扱った経験を活かし、硬軟取り混ぜさまざまなタイプの記事を書き分けるのが得意。