スクミリンゴガイ(ジャンボタニシ)の生態と防除対策

スクミリンゴガイは、水稲農家に収量減をもたらす厄介な存在です。しかし、生命力や繁殖力はそれほど強くはなく、正しく対応することで被害を防ぐことは可能です。本記事では、スクミリンゴガイの防除のポイントやおすすめの農薬などを紹介します。
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目次
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スクミリンゴガイ(ジャンボタニシ)とは?

kamemusi / PIXTA(ピクスタ)
スクミリンゴガイは淡水生の大型の巻貝で、成貝の殻高は5~8cmにもなります。その大きさから、日本ではジャンボタニシとも呼ばれています。水田作物に深刻な被害をもたらすこともある特定外来生物(重点対策外来種に指定)とされており、適切な防除対策が必要です。
南米原産で、日本には1980年代の初めに食用を目的として台湾などから導入されました。全国に多くの養殖場ができましたが、野生化したスクミリンゴガイによる水稲の食害が発生するようになったため、1984年には有害動物に指定され、輸入も禁止されます。
その後、食用の養殖業は廃れていきました。一方で、廃業した養殖場から逃げたり、廃棄されたりした個体が野生化して繁殖し、各地で被害が拡大しています。
農林水産省によれば、2022年に関東以西の35府県でスクミリンゴガイ(ジャンボタニシ)の発生が確認されています。
スクミリンゴガイは耐寒性が低く、-3℃でもほとんどの個体が生きられないため、日本では茨城県より北の地域では越冬できません。そのため、国内の分布は西日本が中心です。とはいえ、温暖化が進む昨今、生息域の北上も懸念されています。
出典:
農林水産省「スクミリンゴガイ(ジャンボタニシ)の被害防止対策について」
小田原市「スクミリンゴガイ(ジャンボタニシ)について」
スクミリンゴガイ(ジャンボタニシ)の生態

よすん / PIXTA(ピクスタ)
スクミリンゴガイは、普段は水中で生活します。越冬ができれば日本での寿命は2年ほどです。
雑食性で、魚の死骸や仲間の稚貝など動物性の餌もよく食べますが、柔らかい草など植物性の餌をより好みます。そのため水稲やれんこん、い草などを食害し、深刻な被害をもたらします。
水稲への食害は柔らかい稚苗のほうが甚大です。株が生長してしまうと被害は少なくなります。また、水上には出ず、水稲の茎を食いちぎって葉鞘を水中に引き込んで食べるため、水深1cm以下の環境では食害が見られなくなる傾向があります。
産卵は4~10月頃の期間に夜間に水上で行い、特徴的なピンク色の数cmほどの卵塊を、水上の植物やコンクリートの壁面に産み付けます。雌は夏の間、条件がよければ3~4日に一度産卵を繰り返し、一生で数千個の卵塊を産みます。
卵は水に浸かると死んでしまうため、防除する場合は卵塊を水に落とすだけでも効果があります。温度によってふ化までの期間に差はありますが、産卵から10日~2週間ほどでふ化します。ふ化率はそれほど高くはなく、ふ化に至らない場合も少なくありません。
ふ化後は、水中にある柔らかい動植物を食べながら生長し、およそ2ヵ月で繁殖が可能になります。
スクミリンゴガイ(ジャンボタニシ)の環境耐性
スクミリンゴガイは耐寒性が低く、15~35℃で活動し、14℃以下になると活動を停止して休眠します。越冬は、ほ場や用排水路などの土中に潜って行います。-3℃を下回る環境では生きられません。
現在、多く生息している西日本でも、越冬率は10%未満とされています。ただし、暖冬の年は地域によっては越冬率が60%以上に上ることもあります。そのため、近年の温暖化により越冬率は上がっていることが懸念されています。
一方、暑い環境には強く、25℃の条件下ではよく食べ、活発に産卵もします。また、乾燥にも強く、夏場は水が少なくなると土に潜り蓋もしっかり閉めて、そのまま半年以上も生存できます。
出典:
農林水産省「ジャンボタニシ(スクミリンゴガイ)の被害防止について」
農林水産省「水稲の病害虫防除」所収「スクミリンゴガイ防除対策マニュアル(移植水稲)」
山口県「スクミリンゴガイの生態と防除対策」
農研機構「九州沖縄農業研究センター スクミリンゴガイ」
スクミリンゴガイ(ジャンボタニシ)による作物への影響・被害

トシ松 / PIXTA(ピクスタ)
スクミリンゴガイは水中にあるものしか食べず、水中に伸びる植物もよく食べます。
そのため水稲、れんこん、い草、水芋などの水田作物が食害を被ります。特に水稲では、田植え後1ヵ月も経たない柔らかい稚苗を好んで食べることで、欠株が発生してしまいます。被害がひどい場合、ほとんどの苗がなくなってしまうこともあります。
欠株が増えると、当然ながら収量が減ってしまうので、スクミリンゴガイの食害は水稲農家にとって非常に深刻な問題です。
生長して硬くなった葉はあまり食害を受けないので、苗が若い間の対策が重要です。
在来タニシとの違いは? 見た目の特徴と見分け方
日本の在来種にもマルタニシなど大型のタニシが存在しますが、スクミリンゴガイと間違いやすいので注意が必要です。
在来種との見分け方は、スクミリンゴガイのほうが、らせん状の下部に比べて上部の長さが短く、殻高の長さと殻径がほとんど同じなので、丸くてコロンとした見た目をしています。
また、長い触角があるのも特徴的です。とはいえ、成貝の見た目だけではほとんど見分けがつきません。
最も簡単にスクミリンゴガイの発生状況を知るには、特徴的なピンク色の卵塊が、水稲の株やコンクリートの壁面に付いていないかを確認するのが確実です。ほ場や周囲にピンクの卵塊を見つけたらスクミリンゴガイの卵と疑って、早めに水中に沈めて防除しましょう。
ほかには、モノアラガイやサカマキガイなどの巻貝も水田に生息しています。どちらも蓋がない点がスクミリンゴガイやマルタニシとの大きな違いです。持ち上げたときに蓋を閉じないことで見分けられます。
出典:山武市「スクミリンゴガイ(ジャンボタニシ)の見分け方と対策」
毒や寄生虫も! スクミリンゴガイを素手で触るのは絶対NG
スクミリンゴガイの成貝には、広東住血線虫という人間にも寄生し深刻な症状を引き起こす寄生虫が潜んでいる恐れがあります。また、卵には内部に神経毒があります。
そのため、確認や防除のために触る場合は必ずゴム手袋をつけて、万一素手で触ってしまったら、石鹸などを使って、いつもより念入りに手を洗いましょう。
【時期別】スクミリンゴガイ(ジャンボタニシ)の防除対策
スクミリンゴガイ(ジャンボタニシ)の防除においては、まず耕種的防除を徹底することが重要です。生育ステージごとに、次のような方法で防除を行ってください。
出典:
北栄町「ジャンボタニシ(貝と卵)は素手で触らないようにしましょう」
可児市「スクミリンゴガイ(ジャンボタニシ)について」
移植前:ほ場へ入れない・増やさない対策の徹底

スミレ / PIXTA(ピクスタ)
苗を移植するまでの水田には、スクミリンゴガイが侵入しないようにネットや金網を設置することが重要です。水路からの侵入を物理的に防止してください。
また、前述したように卵は水に弱いため、もしも水田の周辺に卵塊を見かけたら、水中へ削り落とすだけでも殺卵効果があります。
移植前だけでなく、日常的に水田の取水口に常に網を張ることで、スクミリンゴガイの水田への侵入を抑制できます。
移植~移植後:食害しにくい環境づくりを意識

田舎の写真屋/PIXTA(ピクスタ)
スクミリンゴガイは、苗がまだ小さい時期に食害を引き起こします。
苗の移植後3週間ほどの、苗が小さい期間に食害されるため、この時期の対策はとても重要です。ほ場で行うべき防除対策は、スクミリンゴガイの生態に基づき、快適な環境を作らない点がポイントになります。
柔らかい草を好むスクミリンゴガイにとって、水稲の若い苗はごちそうといってもよいものです。この時期の株が被害に遭わないように、中苗~成苗までに生長した苗を移植すると、食害を低減できます。
スクミリンゴガイが活動できない気温の低い時期に早植えする方法も有効です。
また、苗を移植したあとは、スクミリンゴガイが水田内を移動して苗に集まらないように、移植後2~3週間は水深を4cm以下、できれば1cm程度の浅水管理を維持します。
この際、ほ場表面に凹凸があると、水深の深いところができてしまうので、できるだけほ場は均平にならすことがポイントです。
収穫後:貝密度を下げる越冬対策を実施
稲刈りが終わったあとは、次の年の作付けのため、ほ場の貝密度をできる限り下げる対策をします。ただし、1つのほ場だけで対策をしても、周囲のほ場や水路にスクミリンゴガイが移動し繁殖しては意味がありません。
スクミリンゴガイの防除は、用排水路を含めて地域全体で協力して進めることが重要です。スクミリンゴガイが休眠している間に数を減らし密度を下げる具体的な対策には、以下のようなものがあります。

吉野秀宏 / PIXTA(ピクスタ)
石灰窒素の散布
殺貝効果のある石灰窒素をほ場へ散布すると効果的です。
石灰窒素の散布に当たっては、効果を十分に発揮するためのひと工夫が大切です。まずは石灰を散布する前に、水温17℃以上の水を3~4cmの深さに張り、1~4日の間、静かに放置します。そうすることで、貝が活動状態になります。
その後、10a当たり20~30kgの石灰を全面に散布し、3~4日間湛水します。これは、石灰窒素を水に浸けることで加水分解を促し、効果を発揮させるためです。これによって、ほとんどの貝を死滅させられます。
石灰窒素を散布した田面水は、高い魚毒性があるので水路に流さず、漏水対策をしたうえで自然落水させます。なお、この方法は活動していない貝には効かないため、水温15℃以下では行わないようにしてください。
耕うん
冬場の耕うんも、スクミリンゴガイの生息数を大きく減らす効果があります。耕うんによって物理的・直接的にスクミリンゴガイを粉砕するほか、土に潜っていた貝を掘り起こして寒風にさらすことで、耐寒性の低いスクミリンゴガイをさらに減らします。
耕うんする際のコツは、走行速度を遅くし、ロータリの回転速度を早くすることで、土壌をより細かく砕くことです。また、土壌の性質によってスクミリンゴガイがどの程度の深度に多くいるかは異なるので、地域で適切な深度を確認すると、より効果が上がります。
水路の泥上げ
水田周囲の水路では、貝や魚に影響のある農薬を使用できません。そのため、冬期に泥上げすることで数を減らす方法が有効です。1~2月頃に水路の泥を救って畦に上げ、薄く広げて寒風にさらしてください。
スクミリンゴガイ(ジャンボタニシ)対策になる天敵はいる?
日本にはスクミリンゴガイの天敵が多数生息しています。ゲンゴロウやヤゴ、ホタルの幼虫、カニ、エビなどは、まだ小さいスクミリンゴガイを捕食します。
ネズミ、アイガモ、サギ類、コイ、カメ、スッポンなどは、殻高が2cm以上の比較的大きく固い個体でも捕食する天敵で、高い効果が得られます。
これらの天敵を水田へ放すのも、対策の1つとして有効です。ただし、スクミリンゴガイ対策として導入したアイガモやスッポン、コイなどの天敵は、それ自体も食用に活用するなど、そのまま野生化しないように管理することが重要です。
特にコイの放流は、繁殖しすぎて周りの水棲生物を食い荒らす可能性もあります。多様性保全の観点から問題となる恐れもあるため、管理に注意が必要です。地域に生息する在来種が十分に生息していれば、それを活かすのもよい方法です。
出典:
農研機構「九州沖縄農業研究センター スクミリンゴガイ」
多久市「スクミリンゴガイ(ジャンボタニシ)の防除対策について」
スクミリンゴガイ(ジャンボタニシ)の防除に使える農薬の例
スクミリンゴガイの常発地帯では、育苗箱への施薬や、ほ場への農薬散布などで広範囲を一度に防除する方法が効果的です。
スクミリンゴガイの防除に有効な登録農薬には、「メタアルデヒド粒剤」や「燐酸第二鉄粒剤」などがあります。どちらも主に摂食で作用し、前者は急速な麻痺を、後者は消化器官への病変をもたらします。食害の防止に加えて、食毒による殺貝効果も期待できます。
それぞれの代表的な農薬には、以下のようなものがあります。
ほ場への散布後、確実に効果を出すため、少なくとも3~4日間は水深3~5cmの湛水状態を保ちます。また、魚類や甲殻類などへの影響を防ぐため、7日間は落水・かけ流しをしないようにしましょう。
※ここで紹介する農薬は、2025年1月31日現在、スクミリンゴガイに登録のあるものです。実際の使用に当たっては、使用時点での作物に対する農薬登録情報を確認し、ラベルをよく読み、使用方法や使用量を守ってください。
【メタアルデヒド粒剤の代表的な農薬】
【燐酸第二鉄粒剤の代表的な農薬】

田舎の写真屋/PIXTA(ピクスタ)
スクミリンゴガイは、水稲をはじめとする水田作物に多大な被害をもたらす恐れのある外来生物です。しかし、早期に発見して対策を行うことで、防除は十分に可能です。
地域全体で繁殖しやすい環境を作らず、耕種的防除や農薬の使用を併せて効率的に被害を防いでください。
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大曾根三緒
ビジネス、ペット、美術関連など多分野の雑誌で編集者として携わる。 全国の農業協同組合の月刊誌で企画から取材執筆、校正まで携わり、農業経営にかかわるあらゆる記事を扱かった経験から、農業分野に詳しい。2019年からWebライターとして活動。経済、農業、教育分野からDIY、子育て情報など、さまざまなジャンルの記事を毎月10本以上執筆中。編集者として対象読者の異なるジャンルの記事を扱った経験を活かし、硬軟取り混ぜさまざまなタイプの記事を書き分けるのが得意。