ほうれん草の最適な株間と条間とは?失敗を防ぐ栽培方法を播種から解説
ほうれん草は、狭いほ場でもある程度の収量が見込めるうえ、低温期や高温期に対応できる品種が豊富で、1ヵ月程度のサイクルで年間4~5回も収穫できる人気の作物です。ほうれん草の収量をさらに上げるために、株間や条間の調整や作付け計画の練り直し、温度の調整など、すぐに試すことのできるさまざまな工夫を紹介します。
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ほうれん草は、消費者にとって馴染み深く、栄養豊富で人気の高い作物です。品種も豊富で、通年栽培できるため、農家にとっても魅力的な作物です。この記事では栽培期間が短いことを活かした計画的な作付けや条間・株間の理想的な取り方、栽培時期別の注意点など、収穫アップにつながるコツを紹介します。
ほうれん草の収量を上げる2つのポイント
1年を通して栽培できるほうれん草は、計画的な作付けをすることで高い総収量が期待できます。また、安定した出荷量を確保するためには1株当たりの重量も大切です。ここではほうれん草の収量を効果的に上げる2つの栽培ポイントについて解説します。
作業可能な栽培量を見越した計画的な作付け
ほうれん草は、高温期には約30日で収穫できる大きさに成長します。そのため、季節に合わせて品種を選定して計画的に作付けすれば、春〜秋のシーズン中に4〜5回収穫できます。同じ面積のほ場でも、効率的に無駄なく作付けすることで年間収量アップが見込めるのです。
1つ目のポイントは、作付けの計画を立てる際には、それぞれの経営において1日当たりの収穫・調製作業にどのくらいの労働力や時間をかけられるかを考慮することです。
ほうれん草の収穫と調製作業には、全工程の約7割を要するといわれるほどの作業量で時間がかかります。それを考慮せず栽培量を増やし、1日に作業可能な上限を超えてしまうと、丁寧な作業を行うことができず、結果的に出荷する作物の質が落ち、収入減にもつながりかねません。
収穫作業にかかる時間から逆算して栽培可能量の上限を見極め、それを目標に作付け量を計算しましょう。
最も効率的な株間と条間を探る
亀利文 / PIXTA(ピクスタ)
2つ目のポイントは、ほうれん草1株当たりの重量を左右する株間と条間に注意することです。
ほうれん草の出荷規格として、加工用ほうれん草は草丈35cm程度以上、家庭用・生食用ほうれん草は25~28cm程度で収穫するのが一般的です。サイズごとに最適な株間や条間が異なるため、播種の際は収穫時のサイズを考えて株間と条間を調整する必要があります。
最適な株間や条間は、品種、ほ場の環境、気候などによって影響を受けるため一概にはいえませんが、株間と条間が1回の収穫量と1株当たりの重量に大きな影響を与えることは、数々の試験結果から明らかになっています。
詳しい試験結果については後述しますので、それらの結果を参考に、自分のほ場での最適な株間と条間を探ってみるといいでしょう。
また、ほうれん草は1〜3回程度の間引きを行います。それぞれの間引き時にも株間の調整が行われ、収穫時の1株の重さを左右することになります。結果的に1回の収量に繋がるため、間引き時にも適切な株間と条間を取ることが収量アップのポイントです。
株間と条間の違いがほうれん草の収量に与える影響
生食用・家庭用と加工用それぞれにおいて、株間・条間の違いと収穫量の関係について調べた試験結果を紹介します。
トマト大好き / PIXTA(ピクスタ)
生食用・家庭用ほうれん草の場合
岩手県農業研究センターでは、県内の生食用露地ほうれん草について、安定的に生産できる栽培法を確立する目的で2015年、2016年の2年間にわたって試験を行いました。
試験は①6月どりの品種選定、②10月どりの品種選定、③栽植距離、④施肥試験の4つを並行して行われましたが、そのうち③栽植距離の結果を抜粋します。
岩手県では、生食用露地ほうれん草の出荷規格は1袋200gで4本詰めとされ、袋詰めに適したサイズの株が求められます。品種サイクロン、収穫時草丈30cmを目安とし、株間6cm、8cm、10cmでそれぞれ試験を行いました。
注:2014年の6月播き栽培、品種サイクロン
出典:東北農業研究70巻、87(2017)収録の、岩手県農業研究センター県北農業研究所 長嶺達也「岩手県における生食用ホウレン草の栽培法」表3よりminorasu編集部が作成
結果として株間6cmで規格に適したサイズの株を得られ、1株当たりの重さは軽いものの栽植密度が高く面積当たりの株数は増えることから、総収量(調整重単収)は高くなりました。
加工用ほうれん草の場合
加工用ほうれん草については、長崎県農林技術開発センターが行った「諫早湾干拓地における加工用ほうれん草の最適株間についての研究成果報告」、熊本県農林水産部が行った「春播き栽培に適した条間を明らかにするための研究成果報告」の2つから、加工用ほうれん草に適した株間、条間を探ります。
株間
長崎県で行われた研究では、干拓地において加工用ほうれん草の1株を大きく作りつつ最大収量を確保する最適株間を検討することがテーマとなりました。冬季収穫に適した品種クロノスで、収穫時草丈40cm以上を目安として2014年、2015年に調査が行われました。
株間5cm、7cm、10cmの3パターンで調査した2014年の研究調査では、1株の調整重は10cmが最も重くなりますが、調整重単収は株間7cmが最も多いという結果となりました。
また、収入から分析した10aあたりの粗収益は、株間7cmで241,808円、10cmでは217,396円、5cmで199,376円と、調整重単収と同様、株間7cmで最も高くなりました。
出典:長崎県農林技術開発センター 成果情報「諫早湾干拓地における加工用ホウレンソウの最適株間」よりminorasu編集部が作成
条間
熊本県農林水産部の研究は、秋播きに比べて収量が少なく雑草や害虫の被害にあいやすい春播きの加工用ほうれん草について、収量の上がる条間を探るためのものでした。品種はスーパーアリーナ7を使い、収穫時草丈は全長45cm程度として、2009年と2010年に調査が行われました。
注:2010年の調査結果
出典:熊本県農林水産部 農業研究成果情報「冷凍加工用春播きホウレンソウの生産安定のための栽植様式」表1、表2、図1よりminorasu編集部が作成
条間が狭いほど1株の重量は軽くなりますが、単収は条間が狭いほど多くなります。慣行の条間30cmと比較すると、20cmで約1.4倍、10cmで約1.7倍の単収が得られています。
条間が広い方が作業性は高いため、慣行の条間30cm時間あたりの収穫量を比較すると、20cmで約8割、10cmで約7割という結果になりました。
雑草発生に及ぼす影響についても、慣行条間30cmと比べ条間20cmと条間10cmでは、半分程度に減少しました。
この結果から、作業性を低下させず収量を4割近く増加させ、雑草も半減できる条間は20cmと報告されています。
gomasio / PIXTA(ピクスタ)
失敗しないほうれん草の栽培方法
収量アップを目指すには、栽培手順の中で収量を減らすような原因を作らないことと、収量が上がるような工夫をすることが大切です。
栽培に適した土壌
ほうれん草は土壌をあまり選びませんが、梅雨などの雨が多い時期には腐敗や立枯病などが発生しやすくなります。土そのものの排水性を上げることはもちろん、ほ場周囲に水が溜まらないようしっかりと排水対策をするのがポイントです。
また、酸性土壌に極めて弱いため、土壌pHは6〜6.5を目安に苦土石灰を入れて土壌改良を行います。併せて、堆肥も十分に腐熟したものを、10a当たり4tを目安に施用します。
高温期のほうれん草では、播種から収穫まで1ヵ月半ほどで肥料の吸収もよいため、基肥として10a当たり窒素成分7~8kgを全層に施肥しましょう。ただし、春先や秋の低温期は肥料の分解が遅いため、倍量の施肥が必要です。
品種選び~播種・間引き
ほうれん草は年間を通して栽培が可能ですが、時期によって適した品種があります。春、秋の低温期はアグレッシブ、ブレード10など低温伸長性のよい品種、夏の高温期にはイーハセブンなど高温でも伸長性のよい品種を選びましょう。
播種は、播種機を利用して、一平方m当たり80~90株を目安にすじ播きします。播種後は土を鎮圧して十分に灌水し、発芽までは土が乾かないようにします。ただし、立枯れ病などを防ぐため、発芽以降は本葉4葉期まで潅水は避けてください。
ほうれん草は密植すると葉色は淡く、葉肉は薄く、根張りが悪くなります。前述の研究成果も参考にして、適切な条間を取り、播種後10日前後からの間引きで株間も十分に取ることが大切です。
また、品質を上げるためには、短期間で一斉に発芽させることがポイントです。春まき栽培で発芽時期に低温な場合には、保温資材を活用して発芽を促しましょう。
夏の高温期の播種では、前もって遮光率30~40%の遮光資材を使って地温を下げておきましょう。播種後2週間ほどで遮光資材を取り除き、生育を促すことで収量の減少を防ぎます。
病害虫防除
代表的な害虫はアブラムシ、シロオビノメイガ、ヨトウムシなどです。こまめに葉の裏や茎の付け根をチェックし、発見したらすぐに防除します。
病害では、高温多湿で発生しやすい「炭疽病」や低温期の「べと病」が代表的です。葉に灰褐色や淡褐色の病斑、奇形が見られたら病変した葉をすぐに取り除いてほ場から離れた場所で処分し、病気を確定したうえで、それぞれの病害についてほうれん草の作物適用がある農薬を散布しましょう。
病害虫は早期発見、早期対処が必須なので、とにかく葉の裏までしっかりチェックすることが大切です。
収穫
収穫は、できる限り朝夕の気温の低い時間に行います。夕方になっても気温が下がらない時期には、日中から遮光素材を使って作物の温度を下げておきます。
収穫後は速やかに予冷庫に入れるなど、温度を低く保つことが品質の低下を防ぎます。
つむぎ / PIXTA(ピクスタ)
ほうれん草は年間を通して栽培することができ、工夫次第で収量を大きく上げることができるので、意欲ある農家にとっては魅力的な作物です。収穫・調整作業量および効率的な条間・株間を見極め、収益の最大化を図っていきましょう。
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大曾根三緒
ビジネス、ペット、美術関連など多分野の雑誌で編集者として携わる。 全国の農業協同組合の月刊誌で企画から取材執筆、校正まで携わり、農業経営にかかわるあらゆる記事を扱かった経験から、農業分野に詳しい。2019年からWebライターとして活動。経済、農業、教育分野からDIY、子育て情報など、さまざまなジャンルの記事を毎月10本以上執筆中。編集者として対象読者の異なるジャンルの記事を扱った経験を活かし、硬軟取り混ぜさまざまなタイプの記事を書き分けるのが得意。