ほうれん草の萎凋病対策!発生原因と有効な防除方法を紹介
「萎凋(いちょう)病」は典型的な土壌伝染性の病害で、特にほうれん草を連作しているほ場でよく見られます。発生すると葉が萎しぼんで枯死することもあり、土壌に菌が残って翌年以降も発生を繰り返してしまうので、予防を中心とした防除が重要です。
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ほうれん草栽培において「萎凋病」は、被害が大きく注意すべき病害の1つです。被害を防ぐためには、予防や早期の防除対策が欠かせません。そこで本記事では、ほうれん草の萎凋病について、特徴やほかの病害などとの見分け方、効果的な防除方法を解説します。
ほうれん草の病害「萎凋病」とは
014052 / PIXTA(ピクスタ)
萎凋病は、土の中に生存する病原菌が根から植物の内部に侵入して感染し、発生するとやがて枯死してしまうこともある病害です。
ほうれん草では、生育初期に発生すると子葉がしおれ、生育してから発生すると葉脈間が黄色くなるなどの症状が見られます。いずれの場合も最終的には枯死します。
萎凋病と症状が似たほうれん草の病害には「株腐病」「立枯病」があります。また、高温障害や過湿害、マンガン欠乏などによっても似たような症状を示すことがあるため、発生初期に原因を的確に判断することが重要です。
萎凋病の症状の特徴や、ほかの病害との見分け方を押さえて、万一発生した場合にも早期に適切な対応ができるよう備えてください。
萎凋病の主な症状
ほうれん草萎凋病は、本葉展開期の幼苗から収穫期間近の株まで発生します。幼苗期に発生した場合は、はじめに子葉がしおれ、その後枯死します。
本葉4~6枚以降、草丈10cm頃以降の株で発生した場合は、下葉から黄色く変色・萎凋(しぼんで衰えること)して、やがて枯死します。
地下では、主根と側根の先端、または側根の付け根が黒褐色や赤褐色に変色し、根の道管部も褐色になります。発病した株の根は白いカビに覆われることもあります。
萎凋病の発生原因
ほうれん草萎凋病は、フザリウム菌「学名:Fusarium oxysporum f.sp. spinaciae(フザリウム・オキシスポラム・分化型・スピナシアエ)」という糸状菌(かび)の一種を病原とする、土壌伝染性の病害です。
フザリウム菌には種特異性があり、Fusarium oxysporum f.sp. spinaciaeはホウレンソウに強い病原性を示します。そのため、このフザリウム菌は、トマトやネギ、大根、キャベツなどに感染するフザリウム菌とは異なり、互いに感染することはありません。
ほうれん草萎凋病の原因菌は、土壌の中で長期間生存し続けます。そのため、継続して連作すると、土壌中の菌密度が高くなり、発生リスクも高まります。また、もともと病原菌のないほ場にも、種子伝染によって萎凋病が持ち込まれることもあります。
発病適温は25~28℃と比較的高く、特に初夏から秋にかけて、雨除け栽培や施設栽培で多く発生します。
アカザやシロザ、シソ、サナエタデなどの雑草は、根の周辺にほうれん草萎凋病の病原菌を保菌している場合もあるので注意が必要です。
ほうれん草の萎凋病と株腐病や立枯病の違い
写らく / PIXTA(ピクスタ)
萎凋病は特に幼苗期に発生した場合、「株腐病」や「立枯病」と症状が似ており、判別が困難です。しかし、幼苗期に正しい対処をして早期に病害を防除しなければ、被害が甚大となります。以下では、それぞれの病徴と発生生態について、簡潔にまとめて比較します。
≪萎凋病≫
病徴:幼苗期に発生した場合、はじめに子葉がしおれ、やがて枯死します。生育後の発生では、下葉から次第に黄化・萎凋。根は黒っぽく変色し、根内部の道管部も褐変します。根には白いカビが見られることもあります。
発生:フザリウム菌を病原とし、主に土壌伝染によって発生しますが、種子伝染もします。発病適温は25~28℃です。
≪株腐病≫
病徴:幼苗期の発生が多く、本葉展開前に子葉がしおれ枯死します。生育期の発生では、下葉から黄化ししおれます。根は黒褐色になって腐敗し、地際の茎や主根が細くくびれて倒伏する点が特徴です。なお、高温障害による枯死の場合も、地際部の茎がくびれるので注意しましょう。
発生:リゾクトニア菌を病原とし、土壌伝染します。地温25~28℃の高温で、多湿条件で発生するが、立枯病に対してはやや乾燥条件下で発生が多い。
≪立枯病≫
病徴:幼苗期の発生では発芽後、葉柄や地際部の茎が濡れたように腐敗し倒伏します。生育後の発生では、葉柄の地際部が黄化または褐変してしおれ、枯死に至ります。根は全体が褐変し腐敗します。
発生:ピシウム菌を病原とする土壌伝染病で、夏季に雨が多いなど、高温・多湿の環境で発生しやすくなります。
▼これらの病害のほか、「ほうれん草の主な病害」について知りたい方は、こちらの記事もご参照ください
ほうれん草の萎凋病を防除する有効な方法
ほうれん草の萎凋病は、一度発生してしまうと防除が困難なため、予防が重要です。予防方法としては、主に以下のようなものがあります。
- 無病の健全種子を使用する
- 連作を避ける
- 腐植の多い土作り
- 土壌消毒をする
- 土壌pHを高める
以下、それぞれの方法について詳しく解説します。
病害に強い種子を選定する
トマト大好き / PIXTA(ピクスタ)
種子感染を防ぐために、種子は無病、または、消毒済の種子を入手してください。
発芽促進のために殻を取り除いて裸状にした「ネーキッド種子」も、病原菌を保有していないので予防になります。
連作を避ける
連作を続けると、その作物に寄生しやすい菌の密度が増加し、慢性的に感染しやすい環境になります。そのため、ほうれん草の連作を避けることが予防につながります。
連作が避けられない場合は、アブラナ科の植物を土壌にすき込むことで、その分解の過程で生じる抗菌性物質により病原菌を抑制する「バイオフューミゲーション」も効果があります。
蕎麦喰亭 / PIXTA(ピクスタ)
特に高い効果を期待できるのが、ハウス栽培の土壌へのカラシナのすき込みです。「アリルイソチオシアネート」という殺菌成分を生じるカラシナの茎葉を土壌にすき込むことで、ダゾメット粉粒剤による土壌処理に近い効果が得られるとされています。
出典:農研機構「東北農業研究センター|研究成果情報|平成18年度|ホウレンソウ萎凋病に対するカラシナすき込み効果」
また、農研機構 中央農業総合研究センターの試験研究によれば、夏期ほうれん草栽培で、カラシナをすき込んでフィルム被覆した場合、無処理の場合と比較して、高い発病抑制効果があると報告されています。
手順は、5月末~6月初旬にかけて、土壌消毒を行うハウスでカラシナを播種します。開花が揃うまで栽培し(約45日)、刈り払い機などで茎葉を裁断したあと、施肥と同時にトラクターなどですき込みます。その後、散水チューブを設置して、透明ビニールで被覆し、十分に灌水します。
ハウスを締め切って3週間放置したのち、被覆を取り除き、その後1週間ほど土壌を乾かしてから浅く整地し、ほうれん草を播種します。
出典:農研機構「中央中央農業総合研究センター|成果マニュアル|有機農業 実践の手引き所収「有機農業 実践の手引~第4章 2)カラシナの鋤き込みによるホウレンソウの萎凋病対策」(53~57ページ)
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腐植の多い土をつくる
有機質肥料を十分に施用し、肥沃な土を作ることも、萎凋病発生のリスク軽減につながります。腐植が多い土には微生物がバランスよく存在し、硝化菌も活性化しています。
そのため、連作による病原菌の過剰な発生を抑制し、萎凋病などの土壌伝染性病害の発生を軽減する効果があります。
土壌消毒をする
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やむを得ず連作を続け、萎凋病発生の可能性が高い場合は、予防のために土壌消毒を行うとよいでしょう。萎凋病が毎年多発するほ場の防除対策としても有効です。
土壌消毒には、一般的に「クロルピクリン錠剤」「ガスタード微粒剤」といった農薬を用います。
以下、各農薬について使い方を紹介します。
※ここで紹介する農薬は2023年7月25日現在、ほうれん草と萎凋病に対して登録のあるものです。実際に使用する際には、使用時点で作物に対する農薬登録情報を確認し、ラベルをよく読み、使用方法と使用量を守ってください。
また、地域によっては農薬使用の決まりが設けられている場合もあるため、事前に確認しておいてください。農薬の登録は、「農薬登録情報提供システム」で検索できます。
クロルピクリン錠剤
従来からある「埋め込み処理」のほか、新しい処理方法として、畝立前にも後にも処理できる「地表面ばら撒き散布」があります。「立枯病」にも効果があります。
畝立て前処理も畝立て後処理も、前作の残さを処理したあと、基肥をいれ、2回程度耕起します。畝立て前処理の場合は、土を軽く握って放すと崩れるのを目安に土壌を乾燥させたあと所定量をばらまき、管理機で畝立てしながら混和していきます。すぐに農ポリで被覆し、ハウスを密閉します。
畝立て後処理は、先に畝立てをしてから土壌を乾燥させ、畝面の面積にあわせて所定量をばらまきます。散布後の被覆・密閉は同様です。剤の使用量を抑えられるメリットがあります。
ガスタード微粒剤
ほ場全面に散布し土壌消毒します。まず、ロータリーをかけて土を細かくしたあと、灌水などにより土壌に適度な水分を含ませます。目安は土を軽く握って放すと崩れる程度です。
そのうえで、播種10日前までに、所定量を均一に散布し、ロータリーなどでよく土壌混和します。その後、灌水してビニールなどで被覆し10日ほど放置します。2~3日おきに2回以上、処理時の混和と同じ深さまで耕起してとガス抜きを行い、発芽テストで安全を確認してから播種します。
萎凋病のほか、「立枯病」、「株腐病」、「根腐病」にも効果があります。
土壌pHを高める
ほうれん草はもともと酸性土壌に弱く、また、フザリウム属菌による病害は、土壌pHを高めると抑制できることがわかっています。
ほうれん草の適正土壌pHは6.3から7.0までの微酸性~中性とされていますが、極端な酸性土壌の場合は、6.0~6.5を目標に苦土石灰などで矯正します。
▼土壌pHの測定や調整方法はこちらの記事をご参照ください
また、これまでは土壌pHを6.5以上に高めると作物に微量要素欠乏による障害が生じるとされてきました。前述したように、ほうれん草の好適pHの範囲は6.5を越えており、石灰などのアルカリ性資材で矯正すると、土壌中の塩基類のバランスが崩れ生理障害が現れることがあります。
この問題の解決策として、pH7以上に高めても微量要素欠乏にならず、生育を妨げない技術として、転炉スラグの施用技術が確立されました。農研機構のホームページ上では、その成果についてまとめた農家・研究者向けの冊子を無料配布しています。
この資料では、一般的な石灰を用いるのではなく、転炉スラグを用いた土壌pHの矯正で、ほうれん草の萎凋病についても被害が軽減した事例が紹介されています。詳しい方法については、以下のページから資料をダウンロードし参照してください。
農研機構「転炉スラグによる土壌pH矯正を核とした土壌伝染性フザリウム病の被害軽減技術 -研究成果集-」
※詳細版の11~15ページに、ほうれん草の萎凋病被害軽減の試験研究成果と施用方法が掲載されています。
出典:
農研機構「転炉スラグによる土壌pH矯正を核とした土壌伝染性フザリウム病の被害軽減技術 -研究成果集-」所収 本編及び詳細版
農林水産省「農作物病害虫防除フォーラム|第21回 農作物病害虫防除フォーラム」所収 講演資料「転炉スラグを用いた土壌pH矯正による土壌病害の被害軽減技術(農研機構東北農業研究センター生産環境研究領域 門田 育生)
akitaso / PIXTA(ピクスタ)
ほうれん草の萎凋病は、ほうれん草を連作することで慢性的に発生するようになり、生育に多大な被害をもたらす厄介な土壌伝染性病害です。発生してしまうと病原菌の密度が高くなり、防除に多大な時間と労力を要してしまうため、発生前の予防が重要です。
ほかの作物との輪作ができれば理想的ですが、やむを得ず連作をする場合は、土作りや農薬による防除などを予防的に行いましょう。
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大曾根三緒
ビジネス、ペット、美術関連など多分野の雑誌で編集者として携わる。 全国の農業協同組合の月刊誌で企画から取材執筆、校正まで携わり、農業経営にかかわるあらゆる記事を扱かった経験から、農業分野に詳しい。2019年からWebライターとして活動。経済、農業、教育分野からDIY、子育て情報など、さまざまなジャンルの記事を毎月10本以上執筆中。編集者として対象読者の異なるジャンルの記事を扱った経験を活かし、硬軟取り混ぜさまざまなタイプの記事を書き分けるのが得意。