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ホウレンソウケナガコナダニの被害と防除策を解説

ホウレンソウケナガコナダニの被害と防除策を解説
出典 : Carbondale / PIXTA(ピクスタ)

施設栽培で深刻な被害をもたらすホウレンソウケナガコナダニは、ほうれん草の新芽を食害し、収量や品質に大きな影響を及ぼします。被害の特徴と発生条件を解説するとともに、効果的な農薬や予防対策、増殖を抑える施肥・水管理のポイントを具体例とともに紹介します。

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「ホウレンソウケナガコナダニ」は本来、土壌中に生息している有機物分解者であり、ほうれん草への被害を防ぐためには土壌中の生存数を低密度に保つ対策が重要です。効果的な防除策を講じるための前提として、まずはホウレンソウケナガコナダニの生態を解説します。

施設栽培で被害大! ホウレンソウケナガコナダニの被害と生態

ほうれん草 施設栽培

akitaso / PIXTA(ピクスタ)

ホウレンソウケナガコナダニは、ほうれん草の施設栽培や有機質資材を活用した栽培で被害が多く見られる害虫です。まずはホウレンソウケナガコナダニについて、その生態や被害の特徴、発生原因を解説します。

ほうれん草を加害する、コナダニ類の主要種

ほうれん草に発生するコナダニ類は複数種存在しますが、主要な種はホウレンソウケナガコナダニです。

ホウレンソウケナガコナダニは北海道から本州、九州まで広く分布します。ほうれん草以外にもピーマン、トマト、かぼちゃ、きゅうり、メロン、キャベツ、ニンジン、とうもろこしなど多くの作物に寄生しますが、大きな被害となるのはほうれん草だけです。

ホウレンソウケナガコナダニは、本来は表面から5cmくらいまでの浅い土壌中に生息し、有機物やそこに発生する糸状菌を食べる有機物分解者です。ほ場の土壌や堆肥などの中にいたホウレンソウケナガコナダニの一部が、ほうれん草の新芽に侵入し食害します。

土壌中や新芽の内部に潜んでいるため農薬がかかりにくいうえに、小さくて肉眼で見つけるのが困難な難防除害虫です。

卵は長径0.1mmほどで、幼虫、若虫を経て成虫になります。成虫になっても体長は0.3~0.7mm程度と非常に小さく、半透明の乳白色で、名前の通り後胴体部には長い毛が生えています。

卵から成虫までの生育期間は、20℃の条件下で約20日と短く、1シーズンに何度も発生します。

ホウレンソウケナガコナダニの卵

ホウレンソウケナガコナダニの卵
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集

ホウレンソウケナガコナダニの若虫

ホウレンソウケナガコナダニの若虫
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集

ホウレンソウケナガコナダニの成虫

ホウレンソウケナガコナダニの成虫
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集

なお、植物を食害するダニとしてはハダニ類がよく知られていますが、コナダニ類とハダニ類とは生態が大きく異なり、防除方法や有効な農薬も違うので注意が必要です。

ホウレンソウケナガコナダニ被害の特徴

ホウレンソウケナガコナダニは、ほうれん草の新芽部分に侵入し、食害します。食害された葉にはこぶ状の突起や小さな穴が見られ、周囲が褐変します。加害された葉は、展開すると縮れて光沢のある奇形となります。

多発した場合は、新芽が黒変して芯止まりとなって生育が抑制されたり、幼芽が食害されて発芽障害を起こしたりすることがあります。

葉が奇形となれば商品価値を大きく損ない、生育が抑制されれば収量が大きく低下するため、収益減につながる恐れがあります。

展開した葉に食害痕があるのを見つけたときにはすでに手遅れなので、発生状況を予察しながら、予防や早めの防除対策が重要です。

ケナガコナダニの被害を受けた葉

ケナガコナダニの被害を受けた葉
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集

ホウレンソウケナガコナダニが発生しやすい時期と条件

ホウレンソウケナガコナダニの発生適温は20℃で、低温に強く、7℃以上あれば成長できます。反対に高温には弱く、25℃を超えるとふ化率が低下します。

また、乾燥に弱く、湿度66%以下では生存できないとの報告もあります。土壌が乾燥しやすい露地では発生が少なく、主に施設栽培のほうれん草で被害が多い理由です。

低温多湿を好む性質上、夏季よりも3~6月の春季と9~11月の秋季に発生が増えます。また、発芽促進のため灌水をこまめにする子葉期までは、湿度の高い土壌中で増殖します。

2~4葉期になって灌水を打ち切り、土壌が乾燥してくると、湿度を求めてほうれん草の新芽に移動するため、食害が発生します。

気温・湿度以外の多発条件については、次項で詳しく解説します。

ホウレンソウケナガコナダニが多発する3つの要因

ほうれん草 雨除け栽培

KY / PIXTA(ピクスタ)

ホウレンソウケナガコナダニが大量発生する要因としては、主に以下の3つが挙げられます。

  • 油粕など、ホウレンソウケナガコナダニの増殖源となる有機質資材の施用
  • 土壌表面に発生した藻類の鋤き込み
  • 同系統の農薬の連続使用

ホウレンソウケナガコナダニを防除するためには、まずこれらの要因を取り除く必要があります。以下、それぞれの要因と対策について解説します。

油粕など、増殖源となる有機質資材の施用

ホウレンソウケナガコナダニを含むコナダニ類は、有機物の中でも未熟な堆肥や油粕、米ぬかを好み、増殖します。増殖を抑えるためには、これらの施用を控える必要があります。

有機質資材を施用する場合は、十分に腐熟させた堆肥を選定します。例えば、牛ふん堆肥・籾殻堆肥・バーク堆肥などがあります。ホウレンソウケナガコナダニの発生が多い場合はこれらの資材に切り替えるとよいでしょう。

土壌へ発生した藻類の鋤き込み

土壌表面に発生した藻類もホウレンソウケナガコナダニの増殖源となることがあります。

露地栽培ではあまり問題になりませんが、施設栽培の場合は土壌表面に緑色や赤色の藻類が発生することがあります。ほうれん草の収穫後、この藻類を土壌に鋤き込むと、コナダニ類の多発を促す要因となります。

収穫後は、すき込み前に藻類をできる限り取り除きましょう。また、冬期に雨除け施設の天井ビニールを剥いで雨風の通りをよくすると、土壌表面の藻類を減らし、冬期中の増殖を抑えられます。

農薬の連続使用

コナダニ類は前述の通り、卵から成虫までの成長が早く短期間に発生を繰り返すうえに、施設栽培の場合は外部との交雑が少ないので、農薬に対する抵抗性を獲得しやすいと考えられています。

そのため、同一系統の農薬を使い続けると、効果が弱まる可能性があります。農薬散布の際には、系統の異なる農薬を揃え、ローテーション散布することが重要です。

見極め方は? ホウレンソウケナガコナダニの防除時期

発芽後のほうれん草

kita / PIXTA(ピクスタ)

ホウレンソウケナガコナダニは発見するのが難しく、葉の光沢や奇形、食害痕など、目視できる被害によって気付いたときには、すでに手遅れとなっているケースが少なくありません。

被害を防ぐには、まず播種前に土壌中のホウレンソウケナガコナダニの密度を低減することと、薬効が見込める子葉期〜2葉期と2〜4葉期(土壌から株へ移動する前)に有効な農薬を散布することが大切です。

土壌中のコナダニ類が増殖していることを早期に知るには、栽培初期に「コナダニ見張番」のような簡易モニタリングトラップをほ場に設置しておくとよいでしょう。

ただし、トラップを放置するとそこで増殖してしまい、かえって発生源となる恐れがあるため、1週間以内に回収する必要があります。

出典:農研機構 西日本農業研究センター「ほ場で確認できるホウレンソウケナガコナダニのトラップ開発」( 近畿中国四国農業研究成果情報|2007年度(平成19年度))

【対策】 ホウレンソウケナガコナダニの防除方法と、使える農薬例

ほうれん草 施設 乾燥

gomasio / PIXTA(ピクスタ)

ホウレンソウケナガコナダニを効果的に防除するための対策は、次の3つです。

  • 播種前の土壌消毒
  • 本葉2~4葉期に農薬を散布
  • 増殖を抑える適切な施肥と水管理

以下では、これらの対策について詳しく解説します。

※なお、本記事で紹介する農薬は、すべて2023年8月15日時点でほうれん草とホウレンソウケナガコナダニに登録のあるものです。実際の使用に当たっては、必ず使用時点の農薬登録情報を確認のうえ、ラベルをよく読んで用法・用量を守って使いましょう。

播種前の土壌消毒

ホウレンソウケナガコナダニは高温に弱いという特徴があるため、熱による土壌消毒が有効です。卵・成虫ともに40℃では24時間、45℃では3時間、50℃であれば1時間の処理で死滅することがわかっています。

出典:農研機構「ホウレンソウケナガコナダニの増殖をもたらす餌種と死滅に要する高温条件(野菜茶業研究所 2005年の成果情報)」

そのため、播種前に熱水や蒸気による土壌消毒、夏場の太陽熱消毒などを行うと効果的です。気候や土壌条件にもよりますが、埼玉県で2016年に公示された対策では、湯温80℃以上の熱水を1平方メートル当たり150Lで熱水土壌消毒を行うと、4ヵ月程度発生を抑制できるとされています。

同様に、蒸気消毒や太陽熱消毒、または土壌還元消毒を行った場合、処理後1~1.5ヵ月程度発生を抑制できるとされています。

出典:埼玉県「 病害虫防除所| 病害虫診断のポイントと防除対策」所収「No33 ホウレンソウケナガコナダニ」

こうした土壌消毒のほか、播種前に土壌処理剤を土壌混和するのも有効な防除方法です。ホウレンソウケナガコナダニに有効な土壌処理剤は、テフルトリンを有効成分とする「フォース粒剤」やダゾメットを有効成分とする「バスアミド微粒剤」など複数ありますが、特にカーバムナトリウム塩液剤である「キルパー」は、施用すると藻類の処理とコナダニの密度低減を同時にできるとの報告があります。

出典:農林害虫防除研究会「岩手大会2017」所収「キルパー液剤の簡易処理法」

本葉2〜4葉期の農薬散布

ほうれん草への侵入を防ぐには、ホウレンソウケナガコナダニが土壌から株に移動する前の生育期に農薬を散布します。

ホウレンソウケナガコナダニに有効な農薬には、エマメクチン安息香酸塩を有効成分とする「アファーム乳剤」や、MEP乳剤の「スミチオン乳剤」、フルフェノクスロン乳剤の「カスケード乳剤」などがあります。

散布する際には、事前に灌水して土壌表面を十分に湿らせておくことがコツです。そうすると農薬が浸透しやすいうえに、湿気を求めてホウレンソウケナガコナダニが表面近くに集まるので効果が高くなるといわれます。

散布の際には、「アプローチBI」や「スカッシュ」などの展着剤を添加し、土壌表面や新芽付近に十分にかかるよう散布しましょう。

また、使用する農薬は異なる有効成分のものを数種類そろえ、ローテーション散布を心がけ、ホウレンソウケナガコナダニが成分への抵抗性を獲得することを防ぎましょう。

適切な施肥と水管理

ホウレンソウケナガコナダニのほうれん草への被害を防ぐためには、そもそも土壌中の密度を高めないことが重要です。

増殖を促す未熟な堆肥や油粕、米ぬかなどの施用を避け、コナダニ類が増殖しにくい有機質資材に切り替えます。多発期となる春・秋作前には、完熟堆肥であっても施用を控えたほうがよいでしょう。

また、2~4葉期になって灌水を打ち切り土壌が乾燥すると、コナダニがほうれん草の株へ上ってきてしまうため、本葉4葉期以降、収穫7日前までは土壌を極端に乾燥させないよう、少量の灌水を行います。

そのほか、いざ発生した場合、間引き株や収穫残さは丁寧に取り除き、ほ場から離れた場所で処分することも、次作での発生を抑えるために重要です。

ほうれん草 荷姿

たけちゃん / PIXTA(ピクスタ)

近年、大きな被害が増えているホウレンソウケナガコナダニは、目視で発見しづらく、さらに通常は土壌中に生息しているため農薬もかけづらい難防除害虫です。特に施設栽培では大きな被害を受けるので、生態を把握し、適切な予防や早期防除を心がけてください。

有効な農薬が複数あるので、成分の異なるものを揃え、効率的にローテーション散布をしましょう。

【本文中掲載以外の主な参考文献】
出典:埼玉県「 病害虫防除所| 病害虫診断のポイントと防除対策」所収「No33 ホウレンソウケナガコナダニ」
株式会社サカタのタネ「収穫作業性を極めた 圧倒的な収量性 ドンドンシリーズ~ホウレンソウ栽培でお困りの生産者の皆様へ」所収「ケナガコナダニ防除対策」
岐阜県「環境保全型農業 > 病害虫図鑑」所収「ホウレンソウ ホウレンソウケナガコナダニについて」
シンジェンタジャパン株式会社「みちくさオンライン |病害虫・雑草コラム |ホウレンソウケナガコナダニの特徴と防除のポイント」
農林水産省「平成 30 年度・令和元年度 新品種・新技術の確立支援事業」内「富山県周年安定生産に向けたほうれんそう栽培マニュアル(暫定版)」

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大曾根三緒

大曾根三緒

ビジネス、ペット、美術関連など多分野の雑誌で編集者として携わる。 全国の農業協同組合の月刊誌で企画から取材執筆、校正まで携わり、農業経営にかかわるあらゆる記事を扱かった経験から、農業分野に詳しい。2019年からWebライターとして活動。経済、農業、教育分野からDIY、子育て情報など、さまざまなジャンルの記事を毎月10本以上執筆中。編集者として対象読者の異なるジャンルの記事を扱った経験を活かし、硬軟取り混ぜさまざまなタイプの記事を書き分けるのが得意。

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