農薬取締法とは? 概要と違反事例、改正内容をわかりやすく解説

農薬を適切に使用するうえで重要なのが「農薬取締法」です。この記事では、農薬取締法の概要や違反した場合の罰則、これまでの改正における変更点などを解説します。
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農家が知っておくべき法律「農薬取締法」とは?

やえざくら / PIXTA(ピクスタ)
農薬取締法とは、農薬の製造から販売、使用、輸入について規制を設けた法律です。この法律によって、農薬の品質を一定水準に保ち、使用方法も定めることで、人や動植物、環境への安全性を確保します。
農薬取締法が制定されたのは、戦後の食糧難に苦しむ1948年です。それまでは農薬を取り締まる法律がなく、食糧の増産を急ぐあまり安全性に問題のある粗悪な農薬の被害があとを絶ちませんでした。
農薬取締法は、農業や食料をめぐる環境や国民の意識の変化に合わせて改訂を重ね、現在では主に次のような内容が盛り込まれています。
- 公定規格の設定による農薬の品質保持と向上
- 病害虫の防除用農薬の適正管理
- 農薬の登録制度による製造・販売者への規制と農薬使用者への規制
- 販売者への届け出義務と販売の規制
- 検査の実施
農薬は農林水産大臣による登録が必須です。未登録または法に従った表示のない農薬の製造・販売・加工・輸入は禁止されています。
登録されている農薬においても、使用者が使用濃度、使用液量、使用時期、または使用回数などの基準を守らない場合は法律違反になります。
農薬として登録されているのは、品質が保証され、薬効と安全性が確保されているものだけです。登録は銘柄別に行われるため、メーカーが別であったり、含まれる有効成分の量が違っていたりするときは、個別に登録申請し検査を受ける必要があります。
出典:デジタル庁 e-Gov 法令検索「農薬取締法 令和6年(2024年)4月1日 施行」
「農薬取締法」と「食品衛生法」との違い
日本で農薬を規制する法律は、主に「農薬取締法」と「食品衛生法」の2つです。
農薬取締法は、先ほど解説したように農薬の製造や販売、輸入から使用に至るまでを規制対象としています。農薬を製造・輸入する業者は、農林水産大臣からの登録を受けなければ、農薬を販売することはもちろん、取り扱うこともできません。
一方、食品衛生法は、食品の残留農薬の基準を定めている法律です。厚生労働省が主体となり自治体協力のもと、食品の残留農薬の検査を実施しています。残留農薬の基準を超える農薬が検出された食品に対して、販売の停止・禁止を命じます。
規制対象外の“特定農薬”もある
農薬の中でも農薬取締法に該当しないものが、「特定農薬」です。
特定農薬は、安全性が確かな農薬や天敵にまで、農薬登録を義務付けるという過剰規制を防ぐ目的で、2003年3月から施行されました。
現在、特定農薬に指定されている資材は以下の5種類です。
- エチレン
- 次亜塩素酸水(塩酸又は塩化カリウム水溶液を電気分解して得られるものに限る)
- 重曹
- 食酢
- 天敵(昆虫綱及びクモ綱に属する動物で、使用場所と同一の都道府県内で採取されたもの)
現段階では指定が保留になっている資材もあるため、特定農薬はこれからも増える可能性があります。保留になっている資材は、自己責任で使用することは可能ですが、販売はできません。
特定農薬についてより詳細な情報を知りたい場合は、以下をご参照ください。
出典:農林水産省「特定防除資材(特定農薬)について」
農薬取締法の罰則と、主な違反の例

ミン / PIXTA(ピクスタ)
農薬取締法の罰則は、「最大三年以下の懲役、若しくは最大100万円の罰金(製造・販売・輸入者が法人の場合は1億)」です。故意に登録外の農薬を扱ったり、農薬取締法に背いて人や環境に悪影響を与えたりした場合、このような罰則が科せられます。
次に具体的な違反例について紹介します。
違反例1. 農薬の使用方法を守らない
農薬登録時に定められた
- 使用回数
- 使用量、希釈倍数
- 使用時期
- 使用総回数
を厳守しない場合、農薬取締法違反となります。
例えば、製品ラベルに記載されているものより濃く希釈して散布するのは違反です。薄く希釈して使用するぶんには違反にはなりませんが、農薬としての効果の保証はなく、病害虫の薬剤抵抗性や耐性を助長してしまうこともあるので注意が必要です。
違反例2. 適用外の作物・病害虫・雑草へ使用する
農薬を容器ラベルに記載されていない作物・病害虫・雑草へ使用した場合、農薬取締法の違反となります。従って、使用前にラベルの記載内容を確認することが重要です。
農薬ごとの適用作物などは、農林水産省の「農薬登録情報提供システム」でも確認できます。
違反例3. 農耕地で農薬以外の薬品を使用する
農薬取締法が対象とする「農耕地」で、農薬以外の薬品などを、病害虫や雑草の防除目的で使うことも禁止されています。
農薬取締法が対象とする農耕地とは、「人が栽培・管理している植物がある場所」すべてを含みます。農地のほか、ゴルフ場・公園・競技場などの芝地、山林、花壇や街路樹がある場所なども該当します。
そのため、例えば、農薬の登録がないのにかかわらず除草剤と称した薬品をゴルフ場や庭園で使用することは農薬取締役法違反になります。
農薬取締法改正の歴史とその内容

cassis / PIXTA(ピクスタ)
農薬取締法は過去に何度も改正が行われていますが、特に、1963年・1971年・2002年に大きな改正が行われています。ここでは、過去の改正内容を振り返りながら、2018年以降に改正された内容もお伝えします。
1963年(昭和38年)の主な改正内容
1963年には水産動植物の被害防止という観点から、水産動植物に有害な農薬の取り扱いに関することなどが、新たに規定されました。
戦後に導入された化学合成農薬は効果が大きかったため、当時、農薬の使用は増加の一途をたどっていました。
しかし、集中豪雨などにより除草剤の成分が河川を経由し湖や湾岸に流出したことで、漁業に大きな被害が生じていました。
そのため、使用法に従って正しく使った場合でも、水産動植物に被害をもたらす可能性のある農薬は登録できなくなりました。
1971年(昭和46年)の主な改正内容
1971年は、人畜被害防止の観点から、残留農薬の整備強化、登録制度の強化などが行われました。
高度経済成長期の日本では、大気汚染や水質汚染などが社会問題になっていました。農薬でも、それまで防除剤として使用していた有機水銀が玄米に残留していたり、害虫の防除剤が飼料の稲わらを経由して牛乳を汚染したりと、残留農薬が大きな問題になりました。
そのため、作物・土壌への残留、水質汚濁の観点から、人畜に被害を及ぼす恐れのある農薬が登録できなくなりました。それと同時に、法律の目的として国民の健康保護も追加されています。
2002年(平成14年)の主な改正内容
2002年には、農薬使用者全てに無登録農薬の使用規制や使用基準の順守義務化、罰則強化などの内容が改正されました。
この改正の背景には、無登録農薬の販売や使用が明らかになったことで、食に対する信頼が失われ、国民の健康に不安を与えることが大きな社会問題となったことが挙げられます。
そのため、農薬の使用者には使用基準の順守や罰則を強化し、無登録農薬は販売・製造・輸入の全てが禁止されました。規制が厳しくなったことで、使える農薬が少ないマイナー作物のために、特定農薬の制度も同時に設けられています。
2018年(平成30年)以降の主な改正内容
2018年以降に改正された内容は、再評価制度の導入、ジェネリック農薬の登録申請の簡素化、登録審査における評価の見直しです。
改正法は二段階で施行され、第一段階が2018年12月1日から、第二段階が2020年4月1日から施行されています。
1. 再評価制度の導入(2018年施行)
再評価制度は、農薬の安全性を向上する目的で導入されました。すべての登録農薬は、有効成分ごとに登録されてから15年ごとをめどに、最新の科学技術で安全性や有効性が再評価されます。
これまで販売する農薬は、3年ごとに再登録の手続きが必要でした。しかし現実的には、3年ごとに十分な評価をするのは難しく、形式だけの手続きとなっていました。
このような背景から、登録有効期間が廃止され、確実に農薬の安全性を評価できる再評価制度に置き換えられています。
2.農薬原体が含有する成分に関する評価(2018年施行)
ジェネリック農薬を登録するときは、農薬原体の成分・安全性が同じであれば、一部の試験成績が一部免除されます。これは良質で安価な農薬を提供し、生産コストを引き下げることで、農産物の価格を引き下げて輸出量を増加するという目的で改正されています。
3. 登録審査における影響評価の見直し(2020年施行)
2020年4月、農薬の安全性をより一層高めるため、登録審査における影響評価が見直されました。具体的な変更点は以下の3つです。
農薬使用者への影響評価
これまでは、農薬そのものの危険性(刺激性など)を評価していました。
改正後は、人が農薬を使用するときに、農薬に暴露される「リスク」も評価するよう変更になりました。
蜜蜂への影響評価
従来は蜜蜂が農薬に接触したときの影響評価のみでしたが、改正後は、花粉や花蜜に残留する農薬を摂取した場合や、蜜蜂の幼虫への影響も考慮し、蜂群全体への影響を評価するように変更になりました。
生活環境動植物への影響評価
評価対象が水産動植物から「生活環境動植物」に拡大されました。これにより、人の生活環境の保全上、重要な動植物への影響も評価されます。具体的には、水草や陸域の生物(鳥類、野生ハナバチ)です。
また、農薬の使用期限に関する新たな規定として、容器などへの最終有効年月日の表示が義務付けられました。さらに、この最終有効年月日の根拠となる使用期限自体も登録事項に追加されています。
出典:農林水産省「病害虫情報」所収「植物防疫所病害虫情報 第123号 農薬取締法改正による変更点の解説」
農薬だけじゃない!“肥料を取り締まる法律”も要確認

dorry / PIXTA(ピクスタ)
農薬だけでなく、肥料に関しても取締法が制定されています。
1950年に制定された「肥料取締法」では、安全で効果的な肥料が使えるようにと、肥料の品質保全、公正取引、安全施用を規制しています。肥料の登録や検査を行い、農業生産力の維持や国民の健康を保護することが目的です。
肥料取締法は順次改正され、2019年には「肥料の品質の確保等に関する法律」と名称変更されて、規制の強化と緩和が同時に行われるようになりました。
規制強化としては、肥料メーカーの原料管理制度が徹底され、原料の偽装表示が罰則対象になりました。規制緩和では、指定配合肥料の柔軟化が行われています。
これにより堆肥と化学肥料の割合を自由に配合することができるようになりました。農家にとっては、今まで別々に散布していたものが1回の散布ですむため、作業負担軽減のメリットがあります。
出典:農林水産省「肥料制度の見直しについて」
▼肥料取締法の改正内容についてもっと知りたい方は、以下の記事も併せてご覧ください。
農薬は製品ラベルに従って正しく使用することで、作物を病害虫から守り、安定した収量と高品質な作物の生産が可能になります。
農薬取締法の遵守は、経営のリスク管理としても重要です。誤った農薬の使用は法律に反し、罰則の対象となります。使用量、回数、使用時期などの基準を順守し、適切な農薬管理が経営の安定につながります。
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勅使川原恵美
ブランドバッグのマーチャンダイジング業務や本格コーヒー店のフロア担当、編集アシスタントなどの実務経験を生かして、幅広い分野に対応可能なライターとして活躍中。夢はいつかコスタリカに行ってナマケモノの記事を書くこと。