肥料取締法の改正内容とは?概要と農家への影響をわかりやすく解説
肥料取締法の改正法が2019年(令和元年)12月に公布・施行されました。配合規制の見直しや原料管理制度の導入、表示基準の設定や包材表示の見直しなど時代や農家のニーズに合わせて段階的に変更します。改正法の変更点や農家への影響について解説しています。
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目次
2019年(令和元年)12月に肥料取締法が改正され、2020年(令和2年)12月頃には法律名が「肥料の品質の確保などに関する法律」に改められます。今回、法改正に至った背景や具体的な変更点、さらには農家に与える影響について詳しく解説していきます。
肥料取締法とは?制定された目的と概要
きこり/ PIXTA(ピクスタ)
肥料取締法は1950年(昭和25年)に制定されました。
制定当時の主な目的は、肥料の品質や効果を保全し公正な取り引きと安全な施用を守り、「農業生産力の維持増進に寄与すること」とされていました。そのために、肥料の規格や施用に基準を設け、登録や検査を行うことが定められました。
2003年(平成15年)の法改正では、新たな目的として「国民の健康の保護に資すること」という内容が、第一条(目的)に加えられました。
この背景には、BSEの世界的な発生や輸入作物の残留農薬、無登録農薬の使用などの問題が起こり、消費者の農業と食の安全への関心が高まったことが挙げられます。
出典:肥料取締法(総務省行政管理局 e-Gov法令検索)
出典:農林水産省「肥料取締法(昭和25年法律第127号)の概要」
肥料取締法が指す「肥料」について
肥料取締法では、肥料とは植物の栄養になるもので、「土壌に施用するものおよび葉面散布など直接植物に施されるもの」と定義されています。
植物を構成する成分を含み、その成分が栄養となるもののみを肥料とするため、植物の生理的機能を高めて成長を促すようなものは肥料に含まれません。
肥料は大きく「特殊肥料」と「普通肥料」の2つに分けられます。
特殊肥料
「特殊肥料」には魚かす、米ぬかなどの食品残渣を原料とするものや堆肥が含まれます。特殊肥料の生産・輸入をするには、生産事業場のある都道府県知事への届出が必要です。
普通肥料
一方、特殊肥料以外の肥料を「普通肥料」と呼び、これには化学的方法で生産される肥料や汚泥肥料などが含まれます。
普通肥料は、さらに、生産・輸入について登録が必要な「指定配合肥料以外の普通肥料」と届け出のみで生産・輸入が可能な「指定配合肥料」に細分されます。
指定配合肥料以外の普通肥料
「指定配合肥料以外の普通肥料」は、公定規格(注)に適合していることを、農林水産大臣または都道府県知事に登録申請し、登録取得して初めて生産や輸入することが認められます。
(注)公定規格とは、肥料取締役法に基づいて、含有すべき肥料成分の最小量、有害成分の含有許容値、その他の制限事項(植物に害のないことを証明することなど)が、肥料の種類ごとに定めたもの。農林水産省の告示による。昭和61年2月の告示以降、随時改訂されている。 、
指定配合肥料
「指定配合肥料」とは、前述の登録された肥料(登録肥料)のみを原料とするものを指します。
届け出のみで生産・輸入できますが、その届け出先は、配合する登録肥料の登録申請が、農林水産大臣あてか、都道府県知事あてかによって異なります。
なお、肥料の販売には、種類を問わず都道府県知事への届出が必要です。
肥料取締法に違反するとどうなる?
登録や届出のない肥料の生産・輸入・販売は禁止されています。また、登録をしていても、有効期限を過ぎたり登録事項の内容が変わったりして失効した場合は、その肥料の生産や輸入、販売はできなくなります。
そのほか、事業場への登録証や帳簿の備え付け、販売する際の保証票の添付、保証票の記載事項の制限や不正使用の禁止、虚偽の宣伝の禁止、異物混入の禁止などの注意事項があり、これらに違反した場合はそれぞれに応じた罰則が科されます。最高で3年以下の懲役または100万円以下の罰金が科されることもあります。
また、有害成分を含む恐れが高いなど品質に関わる問題や不正取引が疑われ、知事が必要であると認めた場合は、生産業者は販売業者に対し報告の徴収や立入検査を行うことができます。これに応じなかった場合も罰則が科されます。
参考:石川県農林水産部農業政策課「普通肥料登録の手引き」
約15年ぶりの改正!令和施行の「肥料取締法の一部を改正する法律」とは?
bee / PIXTA(ピクスタ)
肥料取締法は制定から60年、最後の法改正から15年以上が経ち、その間に農業を取り巻く状況が大きく変わりました。そのため、農業の実態や農家のニーズに合わせて大幅な改正が行われることとなり、2019年(令和元年)12月4日に改正法が公布・施行されました。ここでは改正法のポイントについて解説します。
出典:農林水産省「肥料取締法改正の概要」
改正の背景および趣旨
改正に至った背景には、まず農地の地力低下が挙げられます。農家の高齢化により、重くて 負担の大きい堆肥の施用量は年々減少する一方です。その結果、地力が低下して、収量が減少する地域も出始めています。
また、世界的な肥料需要の高まりにより、リン鉱石など原料の価格が不安定になっていることも理由として挙げられます。輸入に頼らず、安価で国内調達が可能な堆肥や産業副産物などを原料として有効活用できるよう、肥料の品質確保につながる法整備が期待されているのです。
肥料の三要素である窒素(N)・リン酸(P)・カリウム(K)以外に作物の成長に必要なマンガンやホウ素などの微量要素は、現行法での規定がありません。それらが不足することによる生理障害も多く見られるようになっています。
そのほか、2015年に発覚した肥料の虚偽表示事件で多くの農家が損害を被ったことから、偽装表示の罰則を制定する必要性、農家のニーズに合わせた柔軟な肥料の生産ができる体制の構築が期待されていることも背景にあります。
これらのさまざまな課題に対し柔軟に対応するために、大幅な法改正が行われることになったのです。
何が変わる?新旧の違い
肥料取締法の改正で、法律名も変更され「肥料の品質の確保等に関する法律」となります。新旧で変わる点は、大きく分けて次の3つです。
1.肥料の原料管理制度が導入されます。
原料の範囲の規格設定や原料帳簿の義務付け、原料の虚偽表示を罰則対象とすることで、肥料の品質が確保されます。
2.肥料の配合についてのルールが見直されます。
これまで認められなかった化学肥料と堆肥の配合や肥料と土壌改良資材の配合が、届出をすれば可能になります。また、公定規格が見直され、規格の簡素化や微量要素などの表示が行われます。
3.肥料の表示基準に、新たに品質や効果に関する表示の基準を加えます。
全国一律の基準を定め、農林水産大臣が必要に応じて指示・公表・命令できる仕組みです。一方で、包材表示を簡素化し、必要最小限の情報以外はインターネット上での表示が可能になります。
法改正のスケジュール
法改正は、2019年(令和元年)12月4日に公布、一部施行されました。今回改正された内容のうち、法律の名前の変更と肥料の配合ルールの見直し、包材表示の見直しについては2020年(令和2年)12月に施行される予定です。
原料管理制度の導入と表示基準の設定、公定規格の見直しについては2020年(令和2年)12月頃に交付され、2021年(令和3年)年12月頃に施行される予定です。
注意点はある?肥料取締法の改正による農家への影響
田舎の写真屋/ PIXTA(ピクスタ)
今回の肥料取締法の改正により、農家には具体的にどのような影響があるのでしょうか。ここでは主な2つの影響について説明します。
堆肥と化学肥料の同時施用が可能に
これまでは、堆肥と化学肥料の施肥は分けて行われていたため、重くて作業負担の大きい堆肥を投入しない農家も多く見られました。
改定後は、堆肥と化学肥料を配合した肥料の生産が可能になり、同時施用ができるようになります。そのため作業負担が軽減し、地力回復のために堆肥を投入する農家が増えることが期待できます。
堆肥に窒素(N)・リン酸(P)・カリウム(K)以外の微量要素などの成分が不足している場合、化学肥料で補うことで成分を安定させることができます。その結果、土壌の栄養バランスが向上し、生理障害などが抑えられます。
肥料の販売価格が下がる可能性も
配合の規制が見直され、食料残さなどの産業副産物資源が有効活用できるようになれば、安価な原料が取り入れられ、その結果、肥料の販売価格が下がることが期待できます。
一方で、さまざまな原料を使うことで流通する肥料の種類がさらに増えることが予想されます。産業副産物資源は成分が一定でないことから、品質表示をよく確認して、ほ場に合った肥料を見極めることが、今後より重要になるでしょう。
tamu1500 / PIXTA(ピクスタ)
肥料取締法は、令和の改正によって法律名が「肥料の品質の確保等に関する法律」となります。改正内容に新たな肥料の原料管理体制、配合のルールの変更、包材表示の見直しなどが盛り込まれています。
これらは時代や農家のニーズに沿ったものになり、今後施用の作業負担軽減などが期待されます。何ができるようになり、何に注意するべきなのか法改正の内容を理解して、新たな法律を農業経営に有効活用しましょう。
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大曾根三緒
ビジネス、ペット、美術関連など多分野の雑誌で編集者として携わる。 全国の農業協同組合の月刊誌で企画から取材執筆、校正まで携わり、農業経営にかかわるあらゆる記事を扱かった経験から、農業分野に詳しい。2019年からWebライターとして活動。経済、農業、教育分野からDIY、子育て情報など、さまざまなジャンルの記事を毎月10本以上執筆中。編集者として対象読者の異なるジャンルの記事を扱った経験を活かし、硬軟取り混ぜさまざまなタイプの記事を書き分けるのが得意。